税理士・会計事務所を、司法書士・行政書士・弁理士の経営課題と分けて見る必要がある理由
中小企業に共通する経営課題の型(人手不足・後継者不在・DXの遅れなど)は経営課題の見つけ方|中小企業10パターンで整理した通りです。ただし「税理士・会計事務所」は、根拠法が税理士法であり、監督は日本税理士会連合会が担う点で、司法書士・行政書士・弁理士(それぞれ司法書士法・行政書士法・弁理士法に基づき、日本司法書士会連合会・日本行政書士会連合会・日本弁理士会が監督)とは根拠法・監督団体・統計系統がいずれも別です。東京商工リサーチ・帝国データバンクの調査でも税理士・会計事務所は他の士業とは別区分で集計されており、2026年上半期の倒産4件(税理士法人2件・会計事務所2件)という数字自体が、本来「倒産と無縁」だった業界特有の異変として扱われている点が、この業種の経営課題を読み解く出発点になります。
税理士・会計事務所の全体像を数字で見る
個別の課題に入る前に、業種全体の構造を確認します。東京商工リサーチ「税理士・会計事務所の倒産、異例のペース」(2026年7月25日発表)によると、2026年上半期(1〜6月)の税理士・会計事務所の倒産は4件(税理士法人2件・会計事務所2件、いずれも破産)でした。これはバブル崩壊後の1993年以降、上半期の件数としては初めての水準で、年間で見ても過去最多は2009年・2015年の5件にとどまります。例年は半年でおおむね1〜2件にとどまり、過去34年間でゼロの年が15回(平均1件に満たない)という、他業種と比べても際立って倒産の少ない業界でした。倒産に加えて休廃業・解散でも異変が起きており、帝国データバンク「全国企業『休廃業・解散』動向調査」(2024年版)によれば、2024年の休廃業・解散率は「税理士事務所」が全業種中最も高い5.61%(僅差の次点は米穀類小売業5.56%)を記録しています。「税理士・会計事務所は安定業種」という一般的なイメージと、実際の倒産・休廃業データの動きにギャップが生まれている点に注意が必要です。
税理士・会計事務所の経営課題、主要な6パターン
ここからは、税理士・会計事務所に特有の経営課題を6パターンに整理します。それぞれ、公開情報のどこにサインが出やすいかもあわせて紹介します。
①後継者不在・事業承継難(休廃業・解散率が全業種中最高の5.61%)
帝国データバンク「全国企業『休廃業・解散』動向調査」(2024年版)によると、2024年の休廃業・解散率は「税理士事務所」が全業種中最も高い5.61%で、僅差の次点である米穀類小売業(5.56%)を上回っています。背景として、競争激化による顧問先減少・顧問料の下落・インボイス制度導入への対応負担が指摘されています。日本税理士会連合会「第6回税理士実態調査」(2014年基準、回答33,767件)では、年齢構成は60代以上が54.2%、20〜30代は約11%にとどまっており、代表者の高齢化が事業承継の緊急度を高めている構図がうかがえます。なお、より新しい「第7回税理士実態調査報告書」(令和6年4月実施・回答38,607件・2025年2月21日公表)も存在しますが、年齢構成の具体的な数値は今回確認できておらず、傾向の継続を断定的には扱いません。対象事務所の代表者の年齢・複数税理士の在籍有無は、事業承継の緊急度を見立てる手がかりになります。
②制度対応負担(インボイス制度・電子帳簿保存法で業務負担が平均約1.4倍に)
株式会社LayerX(バクラク)が税理士・公認会計士151名を対象に実施した調査(2024年2月16日〜23日)によると、インボイス制度開始後の業務負担は平均で約1.4倍に増加しています。負担が増えた作業の上位は「仕訳・記帳での適切な税区分の選択」(35.8%)、「受領請求書がインボイスかどうかの確認」(33.8%)、「取引が特例対象かどうかの判定」(33.8%)でした。顧問先ごとの制度対応を代行する税理士・会計事務所にとって、これらの業務は顧問料の増額に直結しにくい一方で作業量だけが積み上がりやすく、収益性を圧迫する要因になり得ます。対象事務所が制度対応に関する情報発信(自社サイト・セミナー等)をどの程度行っているかは、業務負担への対応状況を見立てる手がかりになります。
③顧問料下落と価格競争激化
帝国データバンクの調査で休廃業・解散率の高さの背景として挙げられている「競争激化による顧問先減少・顧問料下落」は、クラウド会計ソフトの普及やオンライン完結型の低価格サービスの登場による価格競争の側面が指摘されています。決算書の読み方は決算書の読み方|営業が5分で掴む3指標で解説しています。対象事務所が記帳代行・顧問契約以外にコンサルティングや相続・事業承継支援など付加価値の高いサービスへ展開しているかどうかは、価格競争への耐性を見立てる材料になります。
④若手人材の不足
日本税理士会連合会「第6回税理士実態調査」(2014年基準)では20〜30代の税理士が約11%にとどまっており、資格取得までに複数年の受験期間を要する税理士試験の性質上、若手の参入自体が他の士業と比べても緩やかになりやすい構造があります。代表者の高齢化(60代以上54.2%)と若手人材の少なさが重なることで、事務所内の技能承継や事業承継の担い手不足につながっている可能性がうかがえます。対象事務所の採用ページや求人票での若手税理士・科目合格者向け採用の有無は、人材確保への取り組みを見立てる視点になります。
⑤第三者承継(M&A)による事業承継の広がり
日本M&Aセンターは、個人事務所の後継者不在やDX投資負担を背景に、税理士法人等による第三者承継(M&A)が事業承継の選択肢として広がっていると解説しています。具体的な成約件数や市場規模の一次統計は今回確認できていないため件数としては扱いませんが、休廃業・解散率が全業種中最高という帝国データバンクのデータと合わせて見ると、廃業ではなく第三者への承継という選択肢自体への関心が高まりやすい環境にあると考えられます。対象事務所がM&A仲介会社への掲載実績を持つか、複数税理士法人による統合・グループ化の動きがあるかは、事業承継の方向性を見立てる手がかりになります。
⑥異例のペースでの倒産増加(コンプライアンス・代表者の健康リスク)
東京商工リサーチの調査では、2026年上半期の倒産4件の原因として、給付金不正受給に関連した逮捕、競合激化による赤字、代表者の健康問題(死去・体調悪化)が挙げられています。これまで税理士・会計事務所は代表者個人の専門性・信用に業務が集中しやすく、代表者に不測の事態が起きた場合に事業継続が難しくなりやすい構造があり、今回の異例のペースはその構造的なリスクが表面化した事例と見ることができます。対象事務所が複数税理士体制か、BCP(事業継続計画)や後継体制について自社サイト等で言及しているかは、こうしたリスクへの備えを見立てる視点になります。
商談前に見ておきたい税理士・会計事務所特有の公開情報
税理士・会計事務所の企業(事業所)をリサーチする際は、中小企業に共通する求人票・決算・ニュースリリースに加えて、次のような業種特有の情報源も確認しておくと、経営課題の当たりをつけやすくなります。
- 在籍税理士数・年齢構成: 代表者1名体制か複数税理士体制かは、事業承継の緊急度や代表者依存リスクを見立てる出発点になる。
- 顧問先の業種・規模の偏り: 特定業種・特定規模の顧問先に依存している場合、その業種の景気動向が事務所の収益にも影響しやすい。
- 付随サービスの展開状況: 記帳代行・税務申告に加えて、相続税・事業承継・M&A支援・コンサルティング等の高付加価値サービスを展開しているかは、価格競争への耐性を見る材料になる。
- クラウド会計・DXツールの導入状況: 自社サイトでの対応ソフト(クラウド会計等)の明示は、インボイス制度・電子帳簿保存法への対応力を推測する手がかりになる。
- 採用・求人情報: 若手税理士・科目合格者・試験合格者向けの採用活動の有無は、将来の人材確保・技能承継への取り組み姿勢を見る視点になる。
これらを一件ずつ手作業で調べるとかなりの時間がかかりますが、会社名を入力するだけで公開情報を横断し、経営課題・提案システム・ROI・想定反論まで出典付きで自動リサーチできるZEROSYSリサーチのようなツールを使えば、当たりをつける作業そのものを効率化できます。税理士・会計事務所の課題は司法書士・行政書士・弁理士の経営課題6パターンや専門サービス業(コンサル・調査業)の経営課題5選で扱った業種とも、専門性の高い属人的なサービスであることや制度変更への対応負担という点で通じる部分がありますが、税理士法に基づく独占業務(税務代理・税務書類の作成・税務相談)という点は税理士・会計事務所特有の特徴です。具体的な質問への落とし込み方は初回商談の質問リスト30選【業種別】で解説していますので、あわせて活用してください。
よくある質問
税理士事務所と司法書士・行政書士・弁理士の経営課題は同じですか
いいえ、根拠法・監督団体が異なります。税理士・会計事務所は税理士法に基づき日本税理士会連合会が監督する一方、司法書士・行政書士・弁理士はそれぞれ司法書士法・行政書士法・弁理士法に基づき、日本司法書士会連合会・日本行政書士会連合会・日本弁理士会が監督しています。東京商工リサーチ・帝国データバンクの調査でも税理士・会計事務所は他の士業とは別区分で集計されています。
税理士事務所の倒産はどのくらい増えていますか
東京商工リサーチ「税理士・会計事務所の倒産、異例のペース」(2026年7月25日発表)によると、2026年上半期(1〜6月)の倒産は4件(税理士法人2件・会計事務所2件、いずれも破産)で、バブル崩壊後の1993年以降、上半期としては初めての件数でした。例年は半年で1〜2件にとどまり、過去34年間でゼロの年が15回という業界だっただけに、異例のペースといえます。
税理士事務所の休廃業・解散率はどのくらいですか
帝国データバンク「全国企業『休廃業・解散』動向調査」(2024年版)によると、2024年の休廃業・解散率は「税理士事務所」が全業種中最も高い5.61%で、僅差の次点は米穀類小売業(5.56%)です。競争激化による顧問先減少・顧問料下落・インボイス制度導入への対応負担が背景として指摘されています。
インボイス制度は税理士の業務負担にどのくらい影響していますか
株式会社LayerX(バクラク)が税理士・公認会計士151名を対象に実施した調査(2024年2月)によると、インボイス制度開始後の業務負担は平均で約1.4倍に増加しています。負担が増えた作業の上位は仕訳・記帳での税区分選択、インボイスかどうかの確認、取引の特例対象判定でした。
まとめ
税理士・会計事務所の経営課題は、①後継者不在・事業承継難(休廃業・解散率が全業種中最高の5.61%)②制度対応負担(インボイス制度・電子帳簿保存法で業務負担が平均約1.4倍)③顧問料下落と価格競争激化④若手人材の不足⑤第三者承継(M&A)による事業承継の広がり⑥異例のペースでの倒産増加(コンプライアンス・代表者の健康リスク)、という6パターンが相互に絡み合う構造にあります。特に2026年上半期の倒産4件が「バブル崩壊後の1993年以降、上半期として初めて」という水準である点と、休廃業・解散率が全業種中最高という点が、この業種の切迫感を生んでいます。税理士・会計事務所は税理士法に基づく独占業務・日本税理士会連合会の監督という点で司法書士・行政書士・弁理士とは別の統計系統にあるため、商談前リサーチでは両者を混同せず、代表者の年齢構成・在籍税理士数・付随サービスの展開状況といった一次情報で仮説を検証しながら商談準備を進めることが、決裁者に届く提案につながります。