公認会計士事務所・監査法人を「税理士事務所」と同じ型で見ない理由
中小企業に共通する経営課題の型(人手不足・後継者不在・DXの遅れなど)は経営課題の見つけ方|中小企業10パターンで整理した通りです。ただし公認会計士は、公認会計士法に基づき「他人の求めに応じ報酬を得て、財務書類の監査又は証明をすることを業とする」(第2条第1項)独占的な業務を持ち、税理士・会計事務所の記帳代行・申告・顧問中心の収益構造とは、制度も収益の源泉も異なります。付随して財務書類の調製、財務に関する調査・立案・相談もできますが(同条第2項)、事務所によって監査中心か、非監査(アドバイザリー・上場支援など)中心か、個人で開業しているか、監査法人の社員・従業員かで、経営課題の出方がまるで違います。商談前に、相手が個人事務所か監査法人か、どの規模のクライアントを持つかを確認することが出発点になります。
業界の全体像を数字で見る
日本公認会計士協会は公認会計士・監査法人がすべて加入する団体で、毎月の会員数等調を公表しています(2026年9月30日現在)。
- 会員数(2026年9月30日): 公認会計士38,762人、外国公認会計士1人、監査法人302法人(会員計39,065)。準会員(試験合格者等)は7,234人で、会員と準会員の合計は46,299。
- 推移(各12月末): 会員は2000年13,375→2010年21,496→2020年32,744→2025年38,031(協会の推移資料)。2020年から5年で+5,287(+16.1%)、2010年から15年で+16,535(+76.9%)(当社計算)。準会員は2020年6,454→2025年6,914でほぼ横ばいです。
- 地域: 東京会所属の公認会計士は23,067人で、全体(38,762人)の59.5%(当社計算)。2025年12月末の県別・年齢構成別の資料(主たる事務所基準)では、千代田区だけで公認会計士8,457人(同月の公認会計士37,729人の22.4%)です。
- 年齢(2025年12月末・公認会計士37,729人): 40歳未満が11,098人(29.4%)、40代が12,563人(33.3%)、60歳以上が6,519人(17.3%)(当社計算)。
なお、会員数は協会に登録している人数であり、監査や業務の稼働量・売上を示すものではありません。増加の内訳(試験合格者の新規登録、転職・独立、退会の別)も、協会資料からは読み取れません。
公認会計士事務所・監査法人の経営課題、主要な6パターン
ここからは、公認会計士事務所・監査法人に特有の経営課題を6パターンに整理します。それぞれ、公開情報のどこにサインが出やすいかもあわせて紹介します。
①会員数の増加と、競争・人材獲得の構図
会員は5年で16.1%増え、2010年比では約1.8倍です。供給が増えるほど、同じ地域・同じクライアント層で競合する事務所が増えやすく、採用・転職市場でも人材の選択肢は広がります。一方で、準会員(試験合格者等)は2025年12月末で6,914人とほぼ横ばいで、試験に合格してから会員になるまでの工程(次の④で説明)が人材供給の入り口になっています。商談前には、相手の事務所が自所の採用・育成にどの程度力を入れているか(募集ページ、実務補習・業務補助の受入れ表明)が手がかりになります。ただし、増加の理由を統計から断定することはできません。
②東京への集中と、地方の担い手の薄さ
東京会所属が約6割、千代田区だけで22.4%という集中が見られます。一方、2025年12月末の資料では、地域会別の公認会計士は四国261人・南九州240人・沖縄104人など、地方は数百人規模です(主たる事務所基準、当社集計)。地方の事務所は、監査・非監査ともに案件の地理的な範囲が限られ、人材採用でも東京との競合にさらされやすい構造と読めます。事務所の所在地、複数拠点の有無、地方の中小企業クライアントとの関係は、公開情報から確認できる材料です。
③年齢構成と、中核層から次世代への引き継ぎ
2025年12月末時点で、公認会計士の40歳未満は29.4%、40代が33.3%、60歳以上が17.3%です。年齢構成の中心は40代以下ですが、個人事務所では代表者の年齢と承継の有無が事業の連続性を左右します。監査法人では、社員(パートナー)の世代交代と、筆頭業務執行社員などの引き継ぎが課題になりやすい領域です。ここでは、他資格との比較や将来予測は一次統計を確認できていないため、本稿では数値化していません。代表者・社員の年齢、事務所の沿革、承継・合併に関する発信がサインになります。
④資格取得に時間がかかる育成構造(試験と実務要件)
公認会計士・監査審査会の発表によると、令和7年公認会計士試験の出願者は22,056人、論文式試験の受験者は4,665人、最終合格者は1,636人(前年比33人増)で、最終合格率は7.4%でした。合格者の平均年齢は24.6歳で、学生等が999人(61.1%)を占めます。ただし、試験に合格しても直ちに公認会計士になれるわけではなく、公認会計士法第3条は、試験合格に加えて、業務補助等の期間が3年以上であること、実務補習を修了し内閣総理大臣の確認を受けることを求めています(第15条は業務補助等の内容を定めます)。その後、第17条により公認会計士名簿(日本公認会計士協会が備える。第18条)に登録して初めて公認会計士となります。事務所側は、合格者の受入れ・業務補助の体制を整えるコストと、育成した人材が定着するかという課題を同時に抱えます。
⑤監査法人の体制要件と、品質管理・上場会社監査の規制
監査法人は、社員になろうとする者のうちに5人以上の公認会計士を含めて設立する必要があり(法第34条の7)、有限責任監査法人と無限責任監査法人の別があります(第1条の3)。監査法人は特定の証明ごとに指定社員(有限責任の場合は指定有限責任社員)を指定します(第34条の10の4・10の5)。また、業務の公正かつ的確な遂行のための業務管理体制の整備(第34条の13)が求められ、品質管理の方針の策定・実施が含まれます。さらに、上場会社等の財務書類の監査を行うには、日本公認会計士協会の上場会社等監査人名簿への登録が必要です(第34条の34の2)。大規模監査法人については、上場有価証券発行者等の筆頭業務執行社員等に連続関与の制限がかかる規定もあります(第34条の11の4。連続期間などは政令・内閣府令の定めで、本稿では扱いません)。体制要件が多いぶん、品質管理・審査・人員配置の維持が経営課題になりやすい領域です。
⑥処分・課徴金のリスクと、継続的な研修義務
公認会計士は、内閣府令で定めるところにより日本公認会計士協会の研修を受けるものとされています(第28条)。また、監査法人が法令や命令に違反したときなどには、内閣総理大臣による指示、戒告、業務管理体制の改善命令、業務の停止などの処分があり(第34条の21)、虚偽の証明等があった場合の課徴金納付命令の制度もあります(第34条の21の2。額の算定は同条の定め)。個人事務所にも同法に基づく懲戒(第30条)があり、継続研修への対応が必要です。対応負担の大きさは事務所の規模や体制で異なるため、一概には言えません。ただし、処分件数や課徴金の実績は本稿では確認していないため扱いません。公開情報では、協会・審査会の公表資料、法人のガバナンス・品質管理に関する開示がサインになります。
商談前に見ておきたい公認会計士事務所・監査法人特有の公開情報
公認会計士事務所・監査法人をリサーチする際は、中小企業に共通する求人票・ニュースリリースに加えて、次のような業種特有の情報源も確認しておくと、経営課題の当たりをつけやすくなります。
- 形態と規模: 個人事務所か共同事務所か監査法人か。監査法人の場合は社員数・従業員数・拠点、有限責任か無限責任かの別(法人の公式サイトや有価証券報告書の監査報告書で確認)。
- 上場会社等監査人名簿の登録: 上場会社の監査を担う場合、日本公認会計士協会の名簿に登録されているかどうか(法第34条の34の5により名簿は公衆の縦覧に供されます)。
- 業務範囲: 法定監査・任意監査・内部統制・IPO支援・デューデリジェンス・アドバイザリーなど、監査と非監査の比率。公式サイトの業務紹介ページ。
- 採用・育成: 試験合格者・実務補習生の受入れ表明、募集要項、研修体制、在宅・リモートの活用。
- 承継・拠点: 代表者・社員の年齢、事務所の沿革、合併や拠点追加に関する発信。
これらを一件ずつ手作業で調べるとかなりの時間がかかりますが、会社名を入力するだけで公開情報を横断し、経営課題・提案システム・ROI・想定反論まで出典付きで自動リサーチできるZEROSYSリサーチのようなツールを使えば、当たりをつける作業そのものを効率化できます。隣接する分野の税理士・会計事務所、士業全般、弁護士事務所の記事もあわせて確認すると整理しやすくなります。具体的な質問への落とし込み方は初回商談の質問リスト30選【業種別】で解説していますので、あわせて活用してください。決算書から利益率の傾向を掴む視点は決算書の読み方|営業が5分で掴む3指標を参照してください。
よくある質問
公認会計士は全国に何人いますか?
日本公認会計士協会の会員数等調(2026年9月30日現在)では、公認会計士は38,762人、監査法人は302法人です。外国公認会計士1人を含む会員の合計は39,065で、準会員(試験合格者等)7,234人を加えると46,299です。
公認会計士の数は増えていますか?
会員(公認会計士・外国公認会計士・監査法人)は、2020年12月末の32,744から2025年12月末の38,031へ、5年で5,287(16.1%)増えました。増加の内訳は協会の資料からは分かりません。
公認会計士になるにはどのような要件がありますか?
公認会計士法第3条により、公認会計士試験に合格し、業務補助等の期間が3年以上であり、実務補習を修了して内閣総理大臣の確認を受けた者が公認会計士となる資格を有します。そのうえで第17条の公認会計士名簿への登録が必要です。令和7年試験の最終合格率は7.4%でした。
監査法人を設立するには何人の公認会計士が必要ですか?
公認会計士法第34条の7により、社員になろうとする者のうちに5人以上の公認会計士を含めて、共同して定款を定める必要があります。設立後は登記も必要です(第34条の6)。
まとめ
公認会計士事務所・監査法人の経営課題は、①会員数の増加と競争・人材獲得の構図②東京への集中と地方の担い手の薄さ③年齢構成と次世代への引き継ぎ④試験から登録までの育成構造⑤監査法人の体制要件と品質管理・上場会社監査の規制⑥処分・課徴金のリスクと継続研修、という6パターンに整理すると、公開情報から当たりをつけやすくなります。会員は5年で16.1%増える一方、東京会所属が約6割、令和7年試験の最終合格率は7.4%と、人材の入口と立地には偏りがあります。増加の理由や報酬水準、監査法人の規模別の分布など統計で確認できない部分は決めつけず、形態・規模・業務範囲・採用育成・承継の状況といった一次情報を確認しながら商談準備を進めることが、決裁者に届く提案につながります。