結論から: 日本中小企業診断士協会連合会の統計では、令和8年度の第1次試験は申込25,512人・合格4,099人(合格率23.0%)で、申込者の勤務先区分では民間企業勤務が63.7%、自営業の3区分合計は6.9%です。診断士の登録は5年ごとの更新制で、更新には理論政策更新研修などの5回以上と、実務従事などの30点以上が必要です(規則第10条)。同会の会員アンケートでは、依頼のきっかけの1位が「中小企業支援機関・商工団体等からの紹介」(20.1%)でした。この記事では、中小企業診断士事務所(個人・小規模の診断士)を商談前に調べるときの経営課題を、公開情報から6パターンに整理します。

診断士事務所を「士業」と同じ型で見ない理由

中小企業に共通する経営課題の型(人手不足・後継者不在・DXの遅れなど)は経営課題の見つけ方|中小企業10パターンで整理した通りです。ただし中小企業診断士は、士業全般や税理士・会計事務所のように、申告や登記のような法定の独占業務が事業の柱にはなっていません。根拠法は中小企業支援法で、第11条は「中小企業の経営診断の業務に従事する者」を経済産業大臣が登録簿に登録すること、第12条は資質向上のための試験を行い、事務を指定試験機関に行わせることができることを定めています。登録の細目は経済産業省令(中小企業診断士の登録等及び試験に関する規則)に委ねられており、今回確認した範囲では、法律上の業務独占や名称使用制限の条文は確認できていません(要検証)。つまり診断士事務所の売上は、資格そのものよりも、公的機関・商工団体からの紹介、民間の顧問契約、人脈といった「案件の入り口」で決まる構造と読めます。商談前に、相手が独立した診断士か、企業・金融機関・支援機関に所属する診断士かを区別することが出発点になります。

業界の全体像を数字で見る

試験の事務は、経済産業大臣の指定を受けた一般社団法人 日本中小企業診断士協会連合会(以下、連合会)が行っています。連合会が公表している統計資料と会員アンケートから、次の数字が確認できます。

  • 第1次試験(令和8年度・結果発表2026-09-01): 申込25,512人、全科目受験(受験者②)17,829人、試験合格4,099人、合格率23.0%。令和7年度は申込26,211人・合格4,344人(23.7%)で、申込は2.7%減、合格者は5.6%減(当社計算)でした。
  • 第2次試験(令和7年度): 申込7,355人、筆記受験7,044人、筆記合格(口述試験の受験資格)1,241人(17.6%)、最終合格1,240人。
  • 申込者の勤務先区分(第1次・令和8年度): 民間企業勤務16,259人(63.7%)。自営業は「経営コンサルタント自営業」456人、「税理士・公認会計士等自営業」552人、「上記以外の自営業」750人で、3区分合計1,758人(6.9%)でした(当社計算)。
  • 会員アンケート(回答1,847名・調査時点は令和7年11月・令和8年5月公表): 独立している診断士が58.9%、独立したい人が23.7%、予定なしが15.8%。年齢は50代30.9%、60代26.3%、70歳以上8.7%、登録5年以内が41.1%でした。

なお、診断士の登録者総数は、経済産業省・中小企業庁の一次資料を今回自動取得できず確認できていないため、本稿では扱いません。また、アンケートは都道府県協会に所属する会員診断士の回答(回答者数1,847名)であり、登録者全体を代表するかどうかは確認できていません。試験の申込者区分(自営業が約7%)とアンケート(独立が約6割)の数値は、母数(試験の申込者全体と、協会会員の回答者)が異なるため、並べて「矛盾」と読まないよう注意が必要です。

診断士事務所の経営課題、主要な6パターン

ここからは、診断士事務所に特有の経営課題を6パターンに整理します。それぞれ、公開情報のどこにサインが出やすいかもあわせて紹介します。

①独立は少数派の入口、企業内診断士が中心という母数構造

第1次試験の申込者のうち、民間企業勤務が63.7%、金融機関勤務(政府系1.5%・政府系以外6.6%)を含めた勤務者が大半で、自営業は3区分合計で6.9%(令和7年度は1,897人・7.2%)です。第2次試験(令和7年度)の申込者でも自営業3区分合計は518人(7.0%)で、民間企業勤務は4,875人(66.3%・当社計算)でした。アンケートでも、本業の職種で「プロコン診断士」が58.9%、「企業内診断士」が37.4%です。連合会の報告では、現在独立していない診断士の約6割に独立の意向があります(独立したい23.7%、予定なし15.8%)。一方、独立に踏み切らない理由の設問では「現在に比べ収入が低下すると見込まれる」(18.8%)、「収入が安定しない」(18.5%)、「受注機会の確保が難しい」(17.9%)が挙がっています(複数回答。無回答が60.0%と多く、設問の対象範囲に不明瞭な点があるため傾向の参考にとどめます)。独立の診断士が個人で受注から実務、経理までを担う構造は、士業全般の記事で述べた「代表者への依存」と同じ型です。事務所のサイトでは、代表者の経歴、他の資格(行政書士・社会保険労務士・技術士など)の併用、法人化の有無がサインになります。

②5年更新と「実務30点・研修5回」という維持コスト

診断士の登録の有効期間は登録の日から5年で(規則第8条)、更新には、前回の登録から更新申請までの間に、理論政策更新研修の修了や論文審査の合格などを合計5回以上行うこと、および、実務従事・実務補習の受講などで点数を合計30点以上(1日1点)とすることが必要です(第10条)。有効期間が満了して更新登録の申請をしなかった場合は、登録が消除されます(第15条第1項第2号)。休止の申請をすれば、休止から15年以内であれば再開でき、再開には直近3年以内に15日以上の実務等と5回以上の研修等が必要です(第11・12条)。アンケートでは、実務従事ポイントの取得に阻害要因があると答えた人が22.0%で、その理由は「実務従事の機会そのものがない」53.7%、「業務が忙しく時間が取れない」45.3%、「実務従事の要件認定が厳しい」31.8%(複数回答・回答406名)でした。一方、ポイントを「本業で取得可能」と答えた人は62.4%です。独立診断士にとって、更新に必要な実務・研修の日程確保は、本業の受注とは別に管理する必要のある固定的な負担になります。

③受託の入り口が公的機関・協会紹介に偏る

アンケートで、コンサルティング業務の依頼のきっかけの1位は「中小企業支援機関・商工団体等からの紹介」が20.1%、次いで「県協会からの紹介」15.9%、「相談窓口」9.5%でした。一方で「ユーザー企業からの直接依頼(ウェブサイト、SNS等)」は1位が8.5%、「金融機関からの紹介」は6.7%にとどまります(回答者数1,383名)。2位・3位では「他の中小企業診断士(または診断士を中心とした団体)からの紹介」の回答が増え、人的ネットワークの重要性がうかがえます。業界全体の課題の1位に「実行支援力・伴走支援力の強化」(32.7%)、2位に「資格の認知度・信頼性の向上」(25.3%)が挙がる一方、「経営者ニーズに即した顧客開拓力の強化」を1位に挙げた人は7.1%です。営業の入り口が紹介に偏りやすく、顧客開拓の発信(自社サイト・セミナー・執筆)が事務所ごとに差の出る領域だと読めます。事務所の公式サイトでは、支援実績の掲載、セミナー・執筆の有無、専門家登録(商工会議所・よろず支援拠点など)の記載がサインになります。

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④公的業務と民間業務で、顧問契約・報酬の構造が異なる

売上に占める割合で「公的業務が高い」(かなり高い+やや高い)が34.9%、「民間業務が高い」が31.1%と拮抗しています(無回答25.4%を含む)。ただし、顧問契約を結んでいる割合は、「公的業務がかなり高い」層で20.6%、「民間業務がかなり高い」層で53.5%と2.5倍以上の差があり、顧問料の月額平均も75.6千円(回答75件)と150.9千円(回答214件)で異なります。回答数の少ない層の平均であり、地域・業種・業務内容の違いを含むため、水準としては目安にとどめるべき数字です。公的な専門家派遣・相談窓口は、予算年度・公募・契約単価の影響を受けやすく、民間の顧問契約は事務所ごとの継続性と提案力に左右されます。商談では、どちらを軸にしている事務所かによって、課題(年度の波・単価の固定化か、継続契約の獲得・解約リスクか)が変わる点を押さえておくとよいでしょう。

⑤年齢構成と新規参入の二層構造

アンケートの回答者は、60歳以上が35.0%(60代26.3%+70歳以上8.7%・当社計算)で、50代が30.9%と最多です。一方で、登録後5年以内が41.1%(2年以内23.0%+3〜5年18.1%・当社計算)と、直近で登録した診断士も多く含まれます。第1次試験の申込者(令和8年度)は、20〜39歳が39.5%、合格者では43.6%(当社計算)です。一方、第2次試験(令和7年度)の申込者のうち、40歳以上が4,482人(60.9%・当社計算)です。経験豊富な年長層と新規登録層が混在し、事務所によっては世代交代や後継者・弟子の育成が課題になります。副業を認める企業は79.1%(前回2021年報告は47.0%)と大幅に増え、コンサルティング業務を行っている人は74.7%(前回65.7%)と、副業・兼業としての診断士も増えている点は競合環境を考える材料です。登録者数の推移そのものは一次資料を確認できていないため、増減の断定は避けます。

⑥令和8年度の制度変更(口述試験廃止・手数料の配分変更)と、試験側の事務負担

令和7年6月25日付の規則改正(令和8年4月1日施行)により、令和8年度から第2次試験の口述試験が廃止されました。同時に、受験手数料は第1次試験が14,500円から17,200円に、第2次試験が17,800円から15,100円に改定され、総額は32,300円で同額です。連合会は、試験の安定的な実施、受験者の負担軽減、経費削減や試験プロセスの効率化を理由に挙げています。令和7年度の第2次試験では、筆記試験に合格して口述試験に進んだ1,241人のうち最終合格は1,240人でしたが、令和8年度以降は、規則上、第2次試験は筆記の方法のみで行う形になります(第42条)。令和8年度の第2次試験の結果は、今回の確認時点では未公表のため、合格率の変化などは扱いません。第1次試験は、科目ごとの合格を3年間免除する仕組み(規則第41条第2項)があり、第2次試験は当該年度または前年度の第1次試験の合格者に限って受験できます(第43条)。診断士を目指す人への教育・研修を扱う事務所は、制度変更への対応(試験対策の内容や価格設定)が経営判断になります。

商談前に見ておきたい診断士事務所特有の公開情報

診断士事務所をリサーチする際は、中小企業に共通する求人票・ニュースリリースに加えて、次のような業種特有の情報源も確認しておくと、経営課題の当たりをつけやすくなります。

  • 形態と所属: 個人事務所か、診断士が複数所属する法人か、企業内診断士か。所属する都道府県協会や研究会、診断士グループの有無。
  • 得意領域と支援の形: 経営企画・戦略立案、財務、販売・マーケティング、情報化など(アンケートで専門分野の上位)。長期の伴走支援か、単発のスポット支援か。
  • 受託の入り口: 商工会・商工会議所、よろず支援拠点、中小企業基盤整備機構、都道府県・市区町村などの専門家登録の記載。
  • 公的か民間か: 公式サイトの実績が公的事業中心か、民間の顧問契約中心か。顧問料の目安や契約形態の記載。
  • 更新・研修: 登録の更新要件を満たすための実務従事・研修の公開状況、診断士登録の経過年数。

これらを一件ずつ手作業で調べるとかなりの時間がかかりますが、会社名を入力するだけで公開情報を横断し、経営課題・提案システム・ROI・想定反論まで出典付きで調べられるZEROSYSリサーチのようなツールを使えば、当たりをつける作業そのものを効率化できます。隣接する分野の技術士事務所、公認会計士事務所・監査法人、専門サービス業の記事もあわせて確認すると整理しやすくなります。具体的な質問への落とし込み方は初回商談の質問リスト30選【業種別】で解説していますので、あわせて活用してください。決算書から利益率の傾向を掴む視点は決算書の読み方|営業が5分で掴む3指標を参照してください。

よくある質問

中小企業診断士の第1次試験の合格率はどれくらいですか?

連合会の統計資料によると、令和8年度は申込25,512人、試験合格4,099人で合格率23.0%、令和7年度は申込26,211人、合格4,344人で23.7%でした。合格率は、全科目を受験した人(受験者②)に対する割合として公表されています。

令和8年度から中小企業診断士の試験は何が変わりましたか?

連合会の発表(令和8年2月5日)では、第2次試験の口述試験が廃止され、受験手数料が第1次試験17,200円・第2次試験15,100円に改定されました。総額は従来どおり32,300円です。規則の改正は令和7年6月25日付で、令和8年4月1日に施行されています。

中小企業診断士の登録に更新はありますか?

あります。登録の有効期間は登録の日から5年で、更新には、理論政策更新研修などの5回以上と、実務従事などの30点以上(1日1点)が必要です(規則第8条・第10条)。登録後に業務を休止する場合の手続(休止・再開)も規則で定められています。

独立した診断士はどれくらいいますか?

連合会が令和7年11月に会員診断士1,847名を対象に行ったアンケートでは、独立している人が58.9%でした。ただし協会会員の回答であり、登録者全体の割合を示すものではありません。第1次試験の申込者(令和8年度)で自営業の区分は6.9%(3区分合計)と、母数が異なります。

まとめ

診断士事務所の経営課題は、①独立が少数派の入口で企業内診断士が中心という母数構造②5年更新と「実務30点・研修5回」という維持コスト③受託の入り口が公的機関・協会紹介に偏る構造④公的業務と民間業務で異なる顧問契約・報酬の構造⑤年齢構成と新規参入の二層構造⑥令和8年度の制度変更(口述試験廃止・手数料配分の変更)、という6パターンに整理すると、公開情報から当たりをつけやすくなります。第1次試験の令和8年度の申込は25,512人、合格率は23.0%、会員アンケートでは独立が58.9%、依頼のきっかけの1位は支援機関・商工団体等からの紹介(20.1%)です。登録者総数や令和8年度の第2次試験結果など確認できていない部分は決めつけず、形態・得意領域・受託の入り口・公的か民間かといった一次情報を確認しながら商談準備を進めることが、決裁者に届く提案につながります。