重度訪問介護を「居宅介護の一種」と同じに見ない理由
中小企業に共通する経営課題の型(人手不足・後継者不在・DXの遅れなど)は経営課題の見つけ方|中小企業10パターンで整理した通りです。なお、この記事で扱うのは障害者総合支援法の「重度訪問介護」で、介護保険の訪問介護とは根拠法・指定の枠組みが別の制度です(介護保険側の動向は介護・福祉事業や居宅介護支援の記事をご覧ください)。
障害者総合支援法第5条第3項は、重度訪問介護を、重度の肢体不自由者その他の障害者であって常時介護を要するものとして主務省令で定めるものにつき、居宅又は主務省令で定める場所における入浴、排せつ又は食事の介護その他の便宜と、外出時における移動中の介護を総合的に供与することと定めています。同条第2項の居宅介護は、居宅における入浴、排せつ又は食事の介護その他の便宜の供与で、移動中の介護や対象の限定は含まれていません。施行規則第1条の4は、重度訪問介護の対象を、重度の肢体不自由者又は重度の知的障害若しくは精神障害により行動上著しい困難を有する障害者であって、常時介護を要するものとしています。
経営の観点で押さえておきたい特徴は3つです。第1に、対象が「常時介護を要する」重度の人に限られ、居宅だけでなく外出時の移動中の介護まで一体で提供する点です。第2に、施行規則第1条の4の2が、病院・診療所・助産所・介護老人保健施設・介護医療院に入院・入所している間の重度訪問介護(場所の規定)を置いている点で、提供の場が自宅に限られません(実際の件数は統計から分かりません)。第3に、施行規則第34条の7第2項が、居宅介護の指定事業所で重度訪問介護の基準を満たすものは、事業者が別段の申出をしない限り重度訪問介護の指定を受けたものとすると定めており、居宅介護と一体で運営される前提がある点です。
業界の全体像を数字で見る
厚生労働省の「令和6(2024)年社会福祉施設等調査の概況」と、令和2年から令和5年の各概況から、次の数字が分かります。
- 事業所数(各年10月1日、基本票の全数): 令和元年20,789か所、令和2年21,327か所、令和3年21,802か所、令和4年22,460か所、令和5年22,910か所、令和6年22,849か所です。前年比は令和2年+538か所(2.6%増)、令和3年+475か所(2.2%増)、令和4年+658か所(3.0%増)、令和5年+450か所(2.0%増)で、令和6年は-61か所(0.3%減)です。令和2年からは+1,522か所(約7.1%増)です(当社計算)。同じ年の居宅介護事業は26,485か所(前年比2.0%増)、同行援護事業は8,187か所(2.1%減)、行動援護事業は3,117か所(4.7%増)で、重度訪問介護の事業所数は居宅介護の約86%の規模です(当社計算。重なりの実態は統計から分かりません)。
- 利用実人員(各年9月中、詳細票の推計): 令和2年23,263人、令和3年23,123人、令和4年22,936人、令和5年25,578人、令和6年26,979人です。令和3年・令和4年は小幅に減りましたが、令和5年に約11.5%増え、令和6年は+1,401人(約5.5%増)です。令和2年からは+3,716人(約16.0%増)です(当社計算)。
- 訪問回数(9月中): 利用者1人当たりは令和2年27.7回、令和3年29.3回、令和4年27.6回、令和5年27.3回、令和6年26.2回で、令和6年の訪問回数の合計は707,174回です。うち移動介護は、令和6年に利用実人員8,386人、訪問回数69,604回、1人当たり8.3回です(令和2年は7,295人・54,340回・7.4回)。令和6年の移動介護の利用実人員は、全体の約31.1%です(当社計算)。
- 常勤換算従事者数(各年10月1日、詳細票の推計。9月中に利用者がいた事業所の従事者数): 令和2年44,954人、令和3年45,905人、令和4年43,284人、令和5年52,562人、令和6年56,869人です。令和6年は前年比+4,307人(約8.2%増)、令和2年比+11,915人(約26.5%増)です(当社計算)。令和6年の内訳は、介護福祉士28,879人(約50.8%)、初任者研修修了者(旧ヘルパー2級研修課程修了者を含む)14,126人(約24.8%)、実務者研修修了者5,819人(約10.2%)、重度訪問介護従業者養成研修修了者3,730人(約6.6%)、旧ホームヘルパー1級945人、旧介護職員基礎研修600人、障害者居宅介護従業者基礎研修課程修了者(旧ヘルパー3級研修課程修了者を含む)345人、その他2,425人です。
- 1事業所当たりの規模感(当社計算の参考値): 利用実人員を事業所数で割ると、令和2年約1.09人、令和4年約1.02人、令和6年約1.18人です。従事者総数を事業所数で割ると、令和2年約2.11人、令和4年約1.93人、令和6年約2.49人です。利用実人員1人当たりの従事者は、令和2年約1.93人、令和6年約2.11人です。
数字の読み方には注意が必要です。事業所数は基本票の全数ですが、利用実人員・訪問回数・従事者数は詳細票からの推計値で、標本調査に伴う誤差を含みます。利用実人員は9月中、事業所数と従事者数は10月1日現在で時点が異なり、従事者数は9月中に利用者がいた事業所だけの数字です(表8の注)。表5の利用実人員と訪問回数は、利用実人員不詳及び訪問回数不詳の事業所を除いています(表5の注)。このため上の「1事業所当たり」は統計の数字を単純に割った当社の参考値で、法令が定める配置の基準(後述)とは関係がなく、比較にも使えません。複数の事業を行う事業所はそれぞれの事業に計上されます(表4の注)。また、利用者1人当たりの利用時間数は概況に載っておらず、訪問1回の長さや総時間は、この統計からは分かりません。
重度訪問介護事業所の経営課題、主要な6パターン
ここからは、上の数字と法令の条文を踏まえ、経営課題を整理します。報酬や加算といった細かい条件は今回確認できていないため、確認できた範囲に絞り、断定を避けます。個々の事業所の状況は個別に確認が必要です。
①事業所数は令和6年に前年を下回った(令和2~5年は毎年増加)が、利用者と従事者は増えている:「数」ではなく「稼働と担い手」を見る
令和6年は22,849か所と前年から61か所減りましたが、利用実人員は約5.5%増、常勤換算従事者は約8.2%増でした(当社計算)。事業所数が減る一方で利用者・従事者の総数が増えているため、小規模な事業所の廃止・統合と、残る事業所の規模拡大が同時に起きている可能性があります。ただし、事業所数が減った理由(廃止・休止・他の事業への集約など)は概況に載っておらず、要検証です。1事業所当たりの利用実人員は約1.18人(参考値)にとどまるため、指定を持つことと、継続的に利用者に対応できることは別の話と読めます。
②居宅介護と一体の指定構造:別段の申出がなければ居宅介護の事業所に重度訪問介護の指定が及ぶ
施行規則第34条の7第2項は、指定居宅介護の事業を行う事業所であって重度訪問介護の基準を満たすものについて、事業者が別段の申出をしたときを除き、重度訪問介護の指定を受けたものとしています。基準省令も、第7条で重度訪問介護に第5条(従業者の員数・サービス提供責任者)と第6条(管理者)を、第8条第2項で設備を、第43条第1項で第9条から第42条までの運営基準を、それぞれ準用しています。居宅介護と重度訪問介護は、人員・設備・運営の枠組みの多くを共有する前提です。一方で、居宅介護の事業所数が26,485か所、重度訪問介護が22,849か所という数字は事業ごとの計上で、実際に両方を行っている事業所がどれだけあるかは分からず、要検証です。居宅介護(障害者)の1人当たり訪問回数が身体介護中心で19.3回、家事援助中心で8.8回なのに対し、重度訪問介護は26.2回と、利用の密度が異なります。同じ事業所が両方を運営する場合、スタッフの割り当てや収益構造の違いが経営判断の論点になります。
③対象は重度で常時介護を要する人、提供の場は自宅に限らない:利用者の状態と生活の場に合わせた体制が前提
施行規則第1条の4が定める対象(重度の肢体不自由者、または重度の知的障害若しくは精神障害により行動上著しい困難を有する障害者であって、常時介護を要するもの)に、居宅等を訪問して提供するサービスです。日中に事業所で行う生活介護とは提供の形が異なります。さらに第1条の4の2は、入院・入所中の病院・診療所・助産所・介護老人保健施設・介護医療院を場所として定めており、居宅だけでなく、入院先での支援を想定した規定を置いています。利用者の入院時に従業者がどこまで関わるか、医療機関とどう連携するかは、条文の範囲を超えた運用上の論点で、実際の件数も統計から分からず、要検証です。利用者が少数でも訪問回数が多く、移動介護(令和6年は利用実人員の約31.1%)まで含むため、1人の利用者の体調や生活の変化が事業所の稼働に直結しやすい構造と読めます(統計から直接は確認できず、推測です)。
④従事者は5万6千人超に増えたが、資格の構成と養成研修が運営の前提:資格要件の細目は告示で、要検証
令和6年の従事者(常勤換算)56,869人のうち、介護福祉士が約50.8%、初任者研修修了者(旧ヘルパー2級を含む)が約24.8%、実務者研修修了者が約10.2%で、重度訪問介護従業者養成研修修了者は3,730人(約6.6%)です(当社計算)。基準省令第5条は、事業所ごとに置くべき従業者の員数を常勤換算で2.5以上とし、従業者は「厚生労働大臣が定めるもの」としています(第7条の読替で重度訪問介護では「こども家庭庁長官及び」が外れます)。誰が従業者に当たるか、という具体的な資格要件は告示で定められており、今回は取得していないため要検証です。従事者は令和4年に前年比約5.7%減ったあと、令和5年に約21.4%増、令和6年に約8.2%増と回復していますが、採用難や離職の実態は統計から分かりません。従業者の質を確保する研修の機会については、第33条第3項が、従業者の資質向上のために研修の機会を確保するよう定めています。
⑤運営基準の核は計画・記録・緊急時対応・総合的な提供:同居家族の扱いにも注意が必要
基準省令第43条第1項は、第9条から第42条までの規定を重度訪問介護に準用しています。第26条はサービス提供責任者が居宅介護計画を作成し、利用者と同居の家族に説明し、計画を利用者や指定特定相談支援事業者等(計画相談支援を行う者など)へ交付することを求めています。第27条は、従業者に、その同居の家族である利用者へのサービス提供をさせてはならないと定めています。第28条は利用者の病状の急変時などに速やかに医療機関への連絡を行う等の措置を、第32条は入浴・排せつ・食事等の介護(重度訪問介護では外出時の移動中の介護を含む)や家事を総合的に提供し、特定の援助に偏ってはならないことを、第31条は運営規程に定める事項(従業者の職種・員数・職務の内容、営業日・営業時間、通常の事業の実施地域、緊急時の対応方法、虐待の防止の措置など)を、それぞれ定めています。緊急時の連絡と計画の更新が日常的に求められるため、計画・記録・勤務の管理は、紙や表計算のままでは負担になりやすい業務です(事業所ごとの実態は要検証)。
⑥指定は都道府県知事・6年ごとの更新、共生型の参入もある:競争環境と更新管理が経営の論点
法第36条第1項は、指定障害福祉サービス事業者の指定を、サービスの種類と事業所ごとに申請により行うと定め、第3項は、従業者の知識・技能・人員が都道府県の条例の基準を満たさない場合などは指定をしてはならないとしています。施行規則第34条の7は、指定の申請を事業所の所在地を管轄する都道府県知事へ行うと定めています。指定は6年ごとに更新を受けなければ効力を失います(法第41条第1項)。「量を定めて」指定する特定障害福祉サービスは、施行規則第34条の20により生活介護・就労継続支援A型・B型で、重度訪問介護は含まれません。一方、法第41条の2は共生型の特例を置き、施行規則第34条の26の2は共生型の対象に重度訪問介護を含め、基準省令第43条の3は、介護保険の指定訪問介護事業者が共生型重度訪問介護を行う場合の基準(従業者の員数の確保、指定重度訪問介護事業所などからの技術的支援)を定めています。介護保険の訪問介護事業者が参入できる経路があるため、地域によっては競争環境が変わりうる点も、確認しておきたい論点です(参入の実数は統計から分からず、要検証)。
商談前に見ておきたい重度訪問介護特有の公開情報
重度訪問介護の事業所に営業やヒアリングを行う前に、次のような公開情報を確認しておくと、論点を絞りやすくなります。
- 運営法人と併設事業: 居宅介護・同行援護・行動援護を併せて運営しているか、計画相談支援や共同生活援助、介護保険の訪問介護などを同じ法人が運営しているか。都道府県などが公表している指定事業所の一覧と、事業所の紹介ページで確認します。
- 対象とする利用者: 肢体不自由、知的障害、精神障害のどれを主に受け入れているか。医療的ケアや入院中の支援への対応が紹介ページや運営規程にどう書かれているか。
- 営業時間と通常の事業の実施地域: 運営規程の記載(基準省令第31条)で、夜間・休日の対応と、訪問できる範囲を確認します。
- 職員の資格と人数、求人: 介護福祉士・初任者研修・重度訪問介護従業者養成研修の修了者の人数と、募集の有無・条件。
- サービス提供責任者の体制: 計画の作成と更新、従業者への指導を担う人の人数と兼務の状況。
- 記録と請求の事務: 居宅介護計画、訪問の記録、勤務シフト、給付費の請求を、紙・表計算・専用システムのどれで行っているか。
これらを一件ずつ手作業で調べるとかなりの時間がかかりますが、会社名を入力するだけで公開情報を横断し、経営課題・提案システム・ROI・想定反論まで出典付きで調べられるZEROSYSリサーチのようなツールを使えば、当たりをつける作業そのものを効率化できます。調査は1社あたり10〜15分程度で、そのまま提案書のたたき台にできる形で出力されます。
よくある質問
重度訪問介護の事業所は全国にいくつありますか?
厚生労働省の令和6(2024)年社会福祉施設等調査(令和6年10月1日現在)では、重度訪問介護事業が22,849か所です。前年(22,910か所)から61か所(0.3%)減り、令和2年(21,327か所)からは約7.1%(当社計算)増えています。複数の事業を行う事業所はそれぞれの事業に計上されるため、居宅介護事業(26,485か所)などと事業所が重なっている可能性があります。
重度訪問介護とは何ですか?
障害者総合支援法第5条第3項は、重度の肢体不自由者その他の障害者であって常時介護を要するものとして主務省令で定めるものにつき、居宅又は主務省令で定める場所における入浴、排せつ又は食事の介護その他の便宜と、外出時における移動中の介護を総合的に供与することと定めています。施行規則第1条の3は、便宜として、入浴・排せつ及び食事等の介護、調理・洗濯及び掃除等の家事、生活等に関する相談及び助言その他の生活全般にわたる援助を挙げています。
重度訪問介護の対象者は誰ですか?
施行規則第1条の4は、重度の肢体不自由者、又は重度の知的障害若しくは精神障害により行動上著しい困難を有する障害者であって、常時介護を要するものと定めています。具体的な支給決定の要件(障害支援区分など)は告示・通知にあるため、今回の確認範囲には含まれず、要検証です。
入院中にも重度訪問介護は使えますか?
施行規則第1条の4の2は、法第5条第3項の「主務省令で定める場所」を、重度訪問介護を受ける障害者が入院又は入所をしている病院、診療所、助産所、介護老人保健施設、介護医療院と定めています。利用できる範囲や条件、報酬の扱いは、告示・通知を含めて確認が必要で、要検証です。
重度訪問介護と居宅介護の違いは何ですか?
法第5条は、居宅介護を居宅における入浴・排せつ・食事の介護その他の便宜、重度訪問介護を常時介護を要する重度の障害者への居宅等での介護と外出時の移動中の介護の総合的な供与として、それぞれ別に定義しています。統計上も別の行で集計され、令和6年の9月中の1人当たり訪問回数は、重度訪問介護が26.2回、居宅介護(障害者・身体介護中心)が19.3回、家事援助中心が8.8回です。ただし、施行規則第34条の7第2項により、居宅介護の指定事業所は、重度訪問介護の基準を満たす場合、別段の申出がなければ重度訪問介護の指定も受けたものとされます。
重度訪問介護の人員基準はどうなっていますか?
基準省令(平成18年厚生労働省令第171号)第5条は、事業所ごとに置くべき従業者の員数を常勤換算で2.5以上とし、常勤の従業者のうち事業の規模に応じて1人以上をサービス提供責任者とすると定めています。第6条の管理者は、専らその職務に従事する常勤の者を原則とし、管理上支障がない場合は兼務を認めています。重度訪問介護には第7条でこれらが準用されます。従業者に当たる者の範囲は告示で定められており、員数やサービス提供責任者の具体的な基準も含め、最新の条文・告示はe-Gov法令検索で現行のものをご確認ください。
重度訪問介護の従事者はどのくらいいますか?
令和6年10月1日現在の常勤換算従事者数は56,869人で、前年(52,562人)から約8.2%増えています(詳細票の推計。9月中に利用者がいた事業所の従事者数)。内訳は、介護福祉士28,879人、初任者研修修了者14,126人、実務者研修修了者5,819人、重度訪問介護従業者養成研修修了者3,730人などです。9月中の利用実人員は26,979人です。
まとめ
重度訪問介護事業所の経営課題は、①事業所数は令和6年に前年を下回った一方で利用者と従事者は増えており、数ではなく稼働と担い手を見る必要があること②居宅介護と一体の指定構造(別段の申出がなければ居宅介護の指定事業所に重度訪問介護の指定が及ぶ)で、人員・設備・運営の枠組みを共有すること③対象は重度で常時介護を要する人で、提供の場が入院先などにも及び、利用者の状態に合わせた体制が前提になること④従事者は増えているが、資格の構成と養成研修、細目の要件が告示にあり、人材確保が運営の前提になること⑤運営基準の核が計画・記録・緊急時対応・総合的な提供で、同居家族の扱いにも注意が必要なこと⑥指定は都道府県知事が行い6年ごとの更新があり、共生型で介護保険の訪問介護事業者も参入できること、の6つです。営業やヒアリングの前に、事業所の併設事業、対象とする利用者、職員の資格と人数、運営規程を公開情報で整理しておくと、論点を絞りやすくなります。