居宅介護支援事業所を「介護事業の一部」として見ない理由
中小企業に共通する経営課題の型(人手不足・後継者不在・DXの遅れなど)は経営課題の見つけ方|中小企業10パターンで整理した通りです。介護事業全般は介護・福祉事業の経営課題で扱っていますが、居宅介護支援事業所は、訪問介護や通所介護のように自らサービスを提供する事業所とは性格が異なります。要介護者の依頼を受けて、心身の状況や家族の希望を勘案し、居宅サービス計画(ケアプラン)を作成して、サービス事業者との連絡調整を行うのが仕事です(厚生労働省の用語の定義)。介護保険法は、これを独立の給付(第46条)として定め、指定は事業所ごとに市町村長が行うこと(第79条)、人員と運営の基準は市町村の条例で定めること(第81条)を規定しています。
この事業所で働く介護支援専門員(ケアマネジャー)は、都道府県知事の登録を受けた資格者で、証の有効期間は5年(第69条の7)、更新には更新研修が必要です(第69条の8)。事業の収入は介護保険の給付に依存し、人の配置と資格要件が事業の継続を左右する構造です。ここでは公開情報の数字と法令の定めから、経営課題の見立て方を整理します。
業界の全体像を数字で見る
厚生労働省の「令和6(2024)年介護サービス施設・事業所調査の概況」(令和7年12月19日公表)と、令和5年度介護事業経営実態調査、東京都の第28回介護支援専門員実務研修受講試験の結果から、次の数字が分かります。
- 事業所数: 令和2年39,284か所、令和3年39,047か所、令和4年38,538か所、令和5年37,784か所、令和6年37,258か所。令和5年から526か所(1.4%)減、令和2年からは2,026か所(約5.2%)減です(当社計算)。同じ調査で訪問介護(37,264事業所)は前年比1.0%増、訪問看護ステーション(18,042事業所)は9.9%増でした。居宅介護支援は、他の在宅系サービスと動きが異なります。
- 経営主体: 令和6年は営利法人が50.3%、社会福祉法人(社会福祉協議会を含む)が25.1%、医療法人が15.7%、社団・財団法人が3.0%、NPOが2.3%、協同組合が2.2%、地方公共団体が0.8%です。訪問介護の営利法人は73.2%、通所介護は55.0%で、居宅介護支援は社会福祉法人と医療法人の比率が相対的に高いことが分かります。なお、居宅介護支援の詳細票は抽出調査(調査客体7,321、集計5,028、回収率81.1%)に基づく割合です。
- 経営の実態(令和4年度決算): 厚生労働省の令和5年度介護事業経営実態調査では、居宅介護支援の1事業所当たり収入は月1,352千円、給与費は月1,039千円(収入の76.9%)、差引(収支差)は月66千円で収支差率は4.9%でした(有効回答数781、新型コロナ・物価関連の補助金を含めない差引。補助金を含めると月69千円・5.1%)。
- 人員の基準: 利用者の数が44人またはその端数を増すごとに常勤の介護支援専門員1人以上が必要です(基準省令第2条)。国民健康保険中央会が運用する情報処理システムを利用し、事務職員を配置している場合は49人です。
- ケアマネ試験(東京都の例): 第28回(令和7年10月12日実施)は受験者4,357人、合格者1,284人、合格率29.5%でした。合格者の職種別では介護福祉士798人、看護師188人、社会福祉士112人が多くなっています(複数の資格を持つ人は各資格に計上されるため、内訳の合計は合格者数と一致しません)。
数字の読み方には注意が必要です。事業所数は各年10月1日時点の調査結果で、休止や統廃合の理由までは分かりません。収支差率は令和4年度決算の平均値で、報酬改定を経た直近の水準ではありません(令和6年度・令和7年度の最新値は今回確認できておらず、要検証です)。ケアマネ試験は都道府県ごとの公表で、全国の最新の受験者数と合格率は、厚生労働省のページでは第18回(平成27年度)までしか確認できませんでした(要検証)。
居宅介護支援事業所の経営課題、主要な6パターン
ここからは、上の数字と法令の定めを踏まえ、経営課題を整理します。個々の事業所の状況は個別に確認が必要です。
①事業所数の緩やかな減少と、ケアマネ確保の難しさ
居宅介護支援事業所は4年で約5.2%減りました。減少の理由が廃止・休止・統合・併設の見直しのどれかは、統計から分かりません。一方で、事業所を維持するには、常勤の介護支援専門員を1人以上置くことが指定の要件です(基準省令第2条、介護保険法第79条)。介護支援専門員の人数や年齢構成は、今回確認した資料に居宅介護支援の従事者表がなく、把握できていません(要検証)。ケアマネが退職・産休・病気で欠けると、事業所の指定要件そのものに影響が及ぶ点が、他の介護サービスと異なります。
②利用者44人(49人)の枠と、収入・給与費の構造
令和4年度決算では、居宅介護支援の収入は月1,352千円、給与費が収入の76.9%を占め、収支差率は4.9%でした。人件費の比率が高く、介護支援専門員1人当たりの担当利用者数が収入に直結する構造です。基準省令は、44人(情報処理システムの利用と事務職員の配置があれば49人)を超えるごとに1人の増員を求めており、介護予防支援を併せて行う場合は、予防支援の利用者数に3分の1を乗じて加えます。報酬の単価や、担当件数に応じた取扱い、加算の算定状況は、令和6年度改定後の最新の資料を確認する必要があります(要検証)。
③管理者は主任介護支援専門員:令和9年3月31日までの経過措置
基準省令第3条は、常勤で専ら職務に従事する管理者を置くことを求め、その管理者は主任介護支援専門員であることを原則としています(確保が著しく困難など、やむを得ない理由がある場合は主任でない介護支援専門員も可)。附則には経過措置があり、令和9年3月31日までの間は、令和3年3月31日までに指定を受け、同日の管理者が主任介護支援専門員でない事業所について、同日時点の管理者である介護支援専門員を引き続き管理者にできます。e-Govで取得した条文(2026年10月13日時点)では、この期限が令和9年3月31日です。主任の資格を持つ人材の育成・確保や、管理者の交代の予定は、この期限を踏まえて確認が必要な論点です(期限後の取扱いは要検証)。
④介護支援専門員証の有効期間5年と、更新研修
介護支援専門員の登録は、試験の合格と実務研修の修了が要件です(第69条の2)。証の有効期間は5年で(第69条の7)、更新には更新研修を受ける必要があります(第69条の8)。有効期限の把握が漏れると、期限切れの状態で業務を行うことになりかねません。都道府県知事は、証の交付を受けていない人が介護支援専門員として業務を行った場合などに、指示や研修受講命令を出せます(第69条の38)。事業所としては、所属するケアマネ全員の証の有効期限と研修の予定を一覧化して管理することが、基本の備えになります。
⑤公正中立の義務、モニタリングの月1回の面接、記録の2年間保存
第69条の34は、介護支援専門員が、提供されるサービスが特定の種類または特定の事業者・施設に不当に偏らないよう、公正かつ誠実に業務を行うことを求めています。基準省令第13条は、サービスの実施状況の把握(モニタリング)について、少なくとも1月に1回、利用者に面接することを定め、面接は居宅を訪問して行うのが原則です(利用者の文書による同意や関係者の合意など一定の要件を満たす場合は、少なくとも2月に1回の居宅訪問とし、訪問しない月はテレビ電話装置等を活用した面接も認められます)。記録は、居宅サービス計画・アセスメント・サービス担当者会議・モニタリングの記録などを、完結の日から2年間保存します(第29条。ただし市町村の条例で定めがある場合はその内容に従う必要があり、確認が必要です)。訪問の日程、記録、事業者との連絡調整は、日々の事務負担に直結します。なお、住宅型有料老人ホームの入居者のケアマネジメントの独立性は、令和8年の老人福祉法等の改正(登録制の創設と「登録施設介護支援」の新設)でも論点になっています。詳しくは有料老人ホームの経営課題を参照してください。
⑥併設する事業との関係、名義貸しの禁止と秘密保持
居宅介護支援事業所は、訪問介護やデイサービスなどを運営する法人に併設されることが多く、経営主体では営利法人が約半数、社会福祉法人が4分の1、医療法人が約16%を占めます。併設の場合も、ケアプランが自法人のサービスに偏っていないかは、第69条の34の公正中立の義務に関わる論点です。また、介護支援専門員は証の不正使用や名義貸しを禁じられ(第69条の35)、信用を傷つける行為(第69条の36)や、業務上知り得た秘密を漏らすこと(第69条の37)も禁じられています。違反の場合、登録の消除の対象になり得ます(第69条の39)。事業所の管理体制や教育の仕組みは、規模が小さいほど個人に依存しやすく、事業継続上の論点になります。
商談前に見ておきたい居宅介護支援事業所特有の公開情報
居宅介護支援事業所に営業やヒアリングを行う前に、次のような公開情報を確認しておくと、論点を絞りやすくなります。
- 指定の状況と所在地の市町村: 居宅介護支援の指定は事業所ごとに市町村長が行います。所在地の市町村の事業所一覧や、介護サービス情報公表システムで、事業所の規模や法人の運営状況を確認できます。
- 運営法人と併設サービス: 営利法人・社会福祉法人・医療法人のいずれか、訪問介護や通所介護などを併設しているか。併設している場合は、ケアプランの公正中立の説明が営業上の論点になることがあります。
- 求人の内容: 介護支援専門員や主任介護支援専門員の募集の有無、雇用形態。人手不足の深刻度を示すサインになる場合があります。
- 記録と請求の事務: 訪問・モニタリングの記録、サービス担当者会議、事業者との連絡調整、給付管理を、紙・表計算・専用システムのどれで行っているか。
- 隣接分野の経営状況: 介護・福祉事業、訪問看護ステーション、医療・診療所の記事もあわせて参考になります。
これらを一件ずつ手作業で調べるとかなりの時間がかかりますが、会社名を入力するだけで公開情報を横断し、経営課題・提案システム・ROI・想定反論まで出典付きで調べられるZEROSYSリサーチのようなツールを使えば、当たりをつける作業そのものを効率化できます。調査は1社あたり10〜15分程度で、そのまま提案書のたたき台にできる形で出力されます。
よくある質問
居宅介護支援事業所は全国にいくつありますか?
厚生労働省の令和6(2024)年介護サービス施設・事業所調査(令和6年10月1日現在)では、居宅介護支援事業所は37,258か所で、前年(37,784か所)から526か所(1.4%)減っています。令和2年の39,284か所からは約5.2%減です(増減率は当社計算)。
居宅介護支援事業所の運営主体は何が多いですか?
同調査の令和6年の経営主体別構成割合では、営利法人が50.3%、社会福祉法人(社会福祉協議会を含む)が25.1%、医療法人が15.7%です。居宅介護支援の詳細票は抽出調査に基づく割合です。
ケアマネは何人置く必要がありますか?
基準省令第2条により、事業所ごとに常勤の介護支援専門員を1人以上置き、利用者の数が44人またはその端数を増すごとに1人を基準とします。情報処理システムの利用と事務職員の配置などの要件を満たす場合は49人です。市町村の条例が基準になるため、具体的な運用は所在地の市町村の案内で確認してください。
管理者は主任ケアマネでなければなりませんか?
基準省令第3条により、管理者は主任介護支援専門員が原則です。経過措置として、令和9年3月31日までの間は、令和3年3月31日までに指定を受け同日の管理者が主任でない事業所について、同日時点の管理者を引き続き管理者にできます。期限後の取扱いは今後の改正で変わる可能性があるため、最新の通知で確認してください。
介護支援専門員証の更新はどうなっていますか?
介護保険法第69条の7により、介護支援専門員証の有効期間は5年です。更新には、原則として更新研修を受ける必要があります(第69条の8)。研修の日程や申込は都道府県ごとに異なるため、登録している都道府県の案内をご確認ください。
ケアマネ試験の合格率はどれくらいですか?
東京都が公表した第28回(令和7年10月12日実施)の結果は、受験者4,357人、合格者1,284人、合格率29.5%です。全国の最新の受験者数と合格率は、今回厚生労働省の資料で確認できていないため、お住まいの都道府県の発表をご確認ください。
まとめ
居宅介護支援事業所(ケアマネ事務所)の経営課題は、①事業所数の緩やかな減少とケアマネ確保の難しさ②利用者44人(49人)の枠と収入・給与費の構造③管理者は主任介護支援専門員:令和9年3月31日までの経過措置④介護支援専門員証の有効期間5年と更新研修⑤公正中立の義務・モニタリングの月1回の面接・記録の2年間保存⑥併設する事業との関係、名義貸しの禁止と秘密保持、の6パターンに整理すると、公開情報から当たりをつけやすくなります。厚生労働省の調査では、事業所は37,258か所、営利法人が50.3%、令和4年度決算の収支差率は4.9%でした。介護支援専門員の人数・年齢構成、最新の報酬と収支差率、全国のケアマネ試験の合格率、令和9年度以降の主任要件の取扱いは、今回確認した範囲では把握できず、要検証です。個別の事業所に提案する際は、所在地の市町村の情報、運営法人と併設サービス、求人の内容といった一次情報から仮説を立て、ヒアリングで確かめる進め方が現実的です。