結論から: 保育園・幼稚園業界では、こども家庭庁の調査によると待機児童数が2,254人(令和7年4月1日時点、前年比▲313人)まで8年連続で減少し、ピークだった2017年の26,081人から大幅に縮小しています。ところが帝国データバンクの調査では、2025年の保育園の倒産・休廃業解散は倒産14件+休廃業32件の合計46件で、前年の31件から48.4%増加し過去最多を記録しました。2026年1-8月だけでも倒産6件+休廃業30件の計36件で、同期間として過去最多を更新しています。待機児童問題がほぼ解消に向かう一方で施設同士の淘汰が進むという、一見矛盾する需給構造が今の保育業界の実態です。加えて保育士の有効求人倍率は全職種平均の2〜3倍台で推移し、2026年度から本格実施される「こども誰でも通園制度」への実務対応、認定こども園への移行という経営統合の選択肢、ICT化の進捗差と処遇改善加算の事務負担という運営効率化の課題も浮上しています。本記事では、この4つの軸を中心に経営課題を6パターンに整理して解説します。

保育園・幼稚園業界で何が起きているか、まず全体像をつかむ

中小企業に共通する経営課題の型(人手不足・後継者不在・DXの遅れなど)は経営課題の見つけ方|中小企業10パターンで整理した通りです。保育園・幼稚園業界には、児童福祉法(保育所)・学校教育法(幼稚園)・認定こども園法(認定こども園)という三元行政区分があり、それぞれ所管する制度・補助金・監督官庁の系統が異なります。介護福祉業の経営課題6選で扱った介護保険制度と同じく、保育料や運営費の多くが公的な基準に基づく点は共通していますが、保育園・幼稚園業界は施設種別ごとに適用される法令自体が異なる点で経営課題の構造が変わってきます。まずは待機児童数と倒産動向という2つの一次データから、業界全体で何が起きているかを数字で押さえます。就学後の小学生の放課後の生活の場である放課後児童クラブ(学童保育)は、放課後児童クラブの経営課題で別に整理しています。ひとり親家庭の母と子が入所する児童福祉施設は、入所の仕組みが保育所とは異なり、母子生活支援施設の経営課題で扱っています。

一次データで見る現状

こども家庭庁「保育所等関連状況取りまとめ」(令和7年4月1日時点、2025年8月28日公表)によると、待機児童数は2,254人で前年比▲313人、8年連続の減少となりました。ピークだった2017年の26,081人と比べると大幅な縮小です。一方で施設数は39,975か所(前年比+170)と増加を続けており、定員充足率は令和3年4月90.9%→令和4年89.7%→令和5年89.1%→令和6年88.8%→令和7年88.4%と低下傾向にあります(資料自体が、数値だけでは各保育所の状況を判断できないなど留意が必要と注記しています)。あわせて保育所等の利用定員は303万人(3,029,282人、前年比▲15,396人)、利用児童数は268万人(2,678,417人、前年比▲26,641人)です(出典)。施設が増える一方で定員に対する充足率が下がり続けているという事実は、地域によっては「園児の奪い合い」が起き始めていることを示唆しています。

この供給過多を裏付けるように、帝国データバンクが2026年2月15日に発表した調査では(倒産は負債1000万円以上の法的整理)、2025年の「保育園」運営事業者の倒産・休廃業解散は倒産14件(前年7件、倍増)+休廃業・解散32件(前年24件)=計46件で、前年の31件から48.4%増加し、年間で過去最多を記録しました(出典)。さらに同社が2026年9月4日に発表した2026年1-8月分の調査では、倒産6件+休廃業・解散30件=計36件と、同期間として過去最多を更新しています。地方が占める割合は7割超に達しており、10年前の2016年(47.1%)と比べて地方の淘汰が加速している傾向がうかがえます(出典)。決算書の粗利率・人件費率の推移を確認する視点は決算書の読み方|営業が5分で掴む3指標で解説しています。

保育園・幼稚園業の経営課題、主要な6パターン

ここからは、確認できる一次データと、定性的な傾向にとどまる部分を区別しながら、保育園・幼稚園業界に特有の経営課題を6パターンに整理します。

①待機児童ほぼ解消と定員充足率低下による「園児獲得競争」の激化

待機児童数が2,254人までピーク比で大幅に減少する一方、定員充足率は令和3年4月の90.9%から令和7年4月の88.4%へと、毎年低下しています。ただし施設数が増える一方で利用定員と利用児童数はいずれも前年より減っており、資料も数値だけでは各保育所の状況は判断できないと注記しているため、地域ごとの確認が必要です。施設数自体は増え続けているため、単純に計算すれば「空き定員」を抱える施設が増えていることになります。かつての「入りたくても入れない」時代から「選ばれないと定員が埋まらない」時代への転換点にあると考えられ、相手施設が定員をどの程度充足できているか、募集人数の推移はどうかは、経営体力を見立てる手がかりになります。

②保育士の高有効求人倍率と採用難

厚生労働省「一般職業紹介状況」に基づくこども家庭庁の資料によると、保育士の有効求人倍率は2025年7月時点で2.77倍(全職種平均1.18倍)、2026年1月時点で3.88倍(全職種平均1.27倍)と、いずれも全職種平均の2〜3倍台で推移しています。東京都は2025年7月時点で4.28倍とさらに高い水準です。この数値は2026-11-04時点の出典再照合で原本を直接確認できておらず、要検証です。ただしこの統計は月次変動が大きい点に留意が必要で、単月の数字だけで採用難易度を判断するのは避けるべきです。それでも継続的に全職種平均を大きく上回る水準にあること自体は、保育士確保が業界共通の課題であることを裏付けています。求人票での待遇・研修体制の発信度合いは、採用力の差を推測する手がかりになります。

③倒産・休廃業の過去最多更新という供給過多の淘汰

帝国データバンクの調査では、2025年の保育園の倒産・休廃業解散は計46件で前年から48.4%増加し過去最多、2026年1-8月だけでも36件と同期間として過去最多を更新しています。待機児童がほぼ解消に向かう中でこの増加が起きているという事実は、単純な「需要不足」ではなく、施設数の増加による供給過多と、地方における人口減少・園児獲得競争の激化が同時に進んでいる可能性を示しています。地方が占める割合が7割超に達している点も踏まえると、都市部と地方で経営環境の差が広がっていると考えられます。

④こども誰でも通園制度という新規給付への実務対応

こども家庭庁は2026年度(令和8年度)から「こども誰でも通園制度」を子ども・子育て支援法上の新たな給付として全国の自治体で実施しています。対象は保育所等を利用していない生後6か月〜満3歳未満の子どもで、月一定時間まで時間単位で利用できる制度です(出典)。こども家庭庁の基礎資料(令和8年6月1日掲載版)によると、対象は保育所・認定こども園・地域型保育施設・企業主導型保育施設に在籍していない生後6か月から満3歳未満のこどもで、利用可能時間は1人当たり月10時間が上限です。ただし令和8・9年度は経過措置として、自治体が条例で3時間以上10時間未満の範囲に設定できるとされています。公定価格の基本単価は1時間当たり0歳児1,700円・1・2歳児1,400円で、同じ資料に「利用料標準:300円」と記載があります。実際の利用料や利用可能時間は自治体ごとに異なる可能性があり、各自治体の案内で確認が必要です。既存の保育所にとっては、新規利用者層(未就園児)の受け入れ体制構築・時間単位での運営管理という新しい実務課題としての側面が強く、対応の有無・準備状況は公式サイトや自治体の案内から確認できる場合があります。

⑤認定こども園(特に幼保連携型)への移行という経営統合の選択肢

こども家庭庁「認定こども園に関する状況について」(令和7年4月1日現在、資料日付は令和7年10月28日)によると、認定こども園は計11,212園(前年10,483園から+729)で、うち幼保連携型が7,470園(公立1,061・国立1・私立6,408)と全体の約66.6%(当社計算)を占めています(出典)。同じ資料には「認定こども園となる前の施設形態」として、合計740園(括弧内の前年は670園)の内訳が載っており、認可保育所438園、幼稚園223園などです。ただしこの740園がどの期間の移行を指すか(定義)は資料から確認できておらず、年次推移の詳細も含めて要検証です。園児獲得競争が激化する中、幼稚園と保育所の機能を統合することで利用対象を広げる動きは、経営統合・事業再編の選択肢の一つとして注目されます。

⑥ICT化の進捗差と処遇改善加算の事務負担という運営効率化課題

こども家庭庁委託調査「保育ICTの導入状況に関する調査研究」(令和6年9-10月実施、16,709施設回答、部分検証扱い)によると、ICT補助金対象4機能(登降園管理・保育記録・保護者連絡・キャッシュレス)のいずれかを導入している施設は80.8%に達する一方、4機能すべてを導入している施設は11.7%にとどまります。機能別では保護者連絡71.5%、登降園管理71.3%、保育計画・記録55.4%と、機能によって導入率にばらつきがあります。加えて、こども家庭庁「処遇改善等加算Ⅰ〜Ⅲの一本化について」の公式資料では、加算制度は事務手続きが複雑で事業者・自治体双方の事務負担が重いと明記されており、令和6年度に計画書提出の原則廃止等の簡素化、令和7年度からⅠ・Ⅱ・Ⅲの一本化が行われています。なお、これらICT導入率と処遇改善加算の記述も、2026-11-04時点の出典再照合では原本を直接確認できておらず、要検証です。ICT導入の進み具合と処遇改善加算への対応状況は、いずれも運営効率化への取り組み姿勢を推測する手がかりになります。

商談前リサーチ、会社名だけで10分

会社名を入れるだけで、経営課題・提案システム・ROI・想定反論まで出典付きでAIが自動リサーチします。

1社無料でお試しする

商談前に見ておきたい保育園・幼稚園業界特有の公開情報

保育園・幼稚園業界の企業(法人・施設)をリサーチする際は、中小企業に共通する求人票・決算・ニュースリリースに加えて、次のような業種特有の情報源も確認しておくと、待機児童ほぼ解消と倒産最多更新が同時進行する業界構造の中で相手施設の立ち位置を見立てやすくなります。

  • 施設種別と法令区分: 保育所(児童福祉法)・幼稚園(学校教育法)・認定こども園(認定こども園法、特に幼保連携型)のどれに該当するかで、適用制度・補助金の系統が異なる。
  • 定員充足率・募集人数の推移: 求人票や自治体の入園案内から、定員に対してどの程度埋まっているかの手がかりになる。
  • こども誰でも通園制度への対応状況: 2026年度本格実施の新規給付に対し、受け入れ体制の準備が進んでいるかどうか。
  • ICT化・処遇改善加算への対応度: 登降園管理・保育記録・保護者連絡等のICT導入状況、求人票での「ICT化推進中」等の記載。
  • 代表者・理事長の年齢構成、法人登記の動き: 事業承継や認定こども園への移行が近い時期に来ているかどうかの手がかりになる(全業種平均の後継者不在率は50.1%)。
  • 直近の決算・信用情報: 施設数増加による供給過多が指摘される中、個社の粗利率・資金繰りの実態を確認する視点が欠かせない。

待機児童問題がほぼ解消に向かう一方で倒産・休廃業が過去最多を更新しているという、一見矛盾する構造を持つ保育園・幼稚園業界だからこそ、業界全体のイメージだけで相手施設の経営状態を判断するのは危険です。会社名を入力するだけで公開情報を横断し、経営課題・提案システム・ROI・想定反論まで出典付きで自動リサーチできるZEROSYSリサーチのようなツールを使えば、こうした業種特有の当たりをつける作業を効率化できます。具体的な質問への落とし込み方は初回商談の質問リスト30選【業種別】で解説していますので、あわせて活用してください。仮説の立て方は仮説営業とは|仮説構築の4ステップと立て方もご参照ください。

よくある質問

保育園業界の待機児童問題は解消されたのか?

こども家庭庁の調査(令和7年4月1日時点)によると、待機児童数は2,254人で前年比▲313人、8年連続の減少となり、ピークだった2017年の26,081人と比べて大幅に縮小しています。ただし完全にゼロになったわけではなく、地域差も残っているため「ほぼ解消に向かっている」段階と捉えるのが適切です。

待機児童が減っているのに保育園の倒産が増えているのはなぜか?

帝国データバンクの調査によると、2025年の保育園の倒産・休廃業解散は計46件で前年から48.4%増加し過去最多、2026年1-8月だけでも36件と同期間として過去最多を更新しています。施設数が増加を続ける一方で定員充足率が低下していることから、供給過多による淘汰が進んでいる可能性が考えられます。地方が占める割合が7割超に達している点も特徴です。

こども誰でも通園制度とは何か?

こども家庭庁が2026年度から子ども・子育て支援法上の新たな給付として全国実施する制度で、保育所等を利用していない生後6か月から満3歳未満の子どもを対象に、1人当たり月10時間を上限として時間単位で利用できます(令和8・9年度は自治体が条例で3時間以上10時間未満に設定できる経過措置があります)。公定価格の資料には「利用料標準:300円」(1時間当たり)の記載がありますが、実際の利用料は自治体ごとに異なる可能性があるため、各自治体の案内で確認が必要です。

保育園のICT化はどこまで進んでいるか?

こども家庭庁委託調査(令和6年9-10月実施、部分検証扱い)によると、登降園管理・保育記録・保護者連絡・キャッシュレスの4機能のいずれかを導入している施設は80.8%に達する一方、4機能すべてを導入している施設は11.7%にとどまります。機能によって導入率にばらつきがあり、全体としてはまだ発展途上と言えます。

まとめ

保育園・幼稚園業の経営課題を整理すると、①待機児童ほぼ解消と定員充足率低下による「園児獲得競争」の激化②保育士の高有効求人倍率と採用難③倒産・休廃業の過去最多更新という供給過多の淘汰④こども誰でも通園制度という新規給付への実務対応⑤認定こども園(特に幼保連携型)への移行という経営統合の選択肢⑥ICT化の進捗差と処遇改善加算の事務負担という運営効率化課題という6パターンが浮かび上がります。他業種と大きく異なるのは、待機児童数が8年連続で減少しほぼ解消に近づいているにもかかわらず、倒産・休廃業が2025年に過去最多を更新し、2026年も同期間として過去最多を更新し続けているという一見矛盾する需給構造です。施設が増えているのに需要側の伸びが追いつかず、地方を中心に淘汰が進んでいる可能性がある一方、こども誰でも通園制度という新しい需要創出策も始まろうとしています。法令区分・定員充足率・ICT化の状況・こども誰でも通園制度への対応・決算書・登記情報といった一次情報を一件ずつ確認しながら仮説を立てることが、保育園・幼稚園業のような需給の転換点にある業種においては、決裁者に届く提案への一番の近道になります。