中小企業に共通する経営課題の型(人手不足・後継者不在・DXの遅れなど)は経営課題の見つけ方|中小企業10パターンで整理した通りです。この記事で扱うのは、児童福祉法に定める社会的養護の中核となる児童福祉施設、乳児院と児童養護施設です。保育所のように利用者が施設と契約する形とは異なる点が多いため、先に区別します。
乳児院・児童養護施設は「保育所」でも「母子生活支援施設」でもない
児童福祉法第37条は、乳児院を、乳児(特に必要のある場合は幼児を含む)を入院させて養育し、あわせて退院した者について相談その他の援助を行う施設と定めています。第41条は、児童養護施設を、保護者のない児童、虐待されている児童その他環境上養護を要する児童を入所させて養護し、あわせて退所した者に対する相談その他の自立のための援助を行う施設と定めています。日中に子どもを預かる保育園・幼稚園や児童館と違い、子どもが生活の場として暮らす施設です。母と子が一緒に入所する母子生活支援施設とも、児童だけが入所する点で異なります。
制度の入口も違います。児童福祉法第27条第1項第3号は、都道府県が、児童を乳児院、児童養護施設などに入所させる措置を採ると定めています。親権を行う者や未成年後見人があるときは、その意に反して措置を採ることはできません(同条第4項)。保護者が児童を虐待したり著しく監護を怠ったりして、措置が親権者の意に反する場合は、第28条により家庭裁判所の承認を得て措置を採ることができます。つまり入所の窓口は児童相談所を中心とする都道府県であり、施設が利用者を募集する仕組みではありません。営業や提案を考えるうえでも、意思決定の構造が一般の民間サービスと違う点を押さえておく必要があります。
業界の全体像を数字で見る
厚生労働省の「社会福祉施設等調査」(各年10月1日現在)の概況の総括表から、次の数字が分かります。従事者は常勤換算で、小数点以下第1位を四捨五入した数です。
- 乳児院の施設数: 令和2年144、令和3年145、令和4年145、令和5年145、令和6年147施設です。令和2年から3施設(約2.1%)増えました(当社計算)。
- 乳児院の定員・在所者: 定員は3,835人から3,700人へ約3.5%減、在所者は2,812人から2,545人へ約9.5%減りました(当社計算)。令和6年の在所者を定員で割ると約68.8%(令和2年は約73.3%)ですが、調査の集計範囲が異なる可能性があり、参考値です。
- 乳児院の従事者: 5,453人から5,527人へ約1.4%増えました。在所者が減る中で従事者が増えたため、在所者1人当たりの従事者は約1.9人から約2.2人になっています(当社計算の参考値)。
- 児童養護施設の施設数: 令和2年612、令和3年612、令和4年610、令和5年614、令和6年613施設で、ほぼ横ばいです。
- 児童養護施設の定員・在所者: 定員は30,900人、30,535人、29,960人、29,414人、29,093人と毎年減り、令和2年から1,807人(約5.8%)減りました。在所者は24,841人から22,452人へ2,389人(約9.6%)減りました(当社計算)。在所者を定員で割ると約80.4%から約77.2%への低下になりますが、これも参考値です。
- 児童養護施設の従事者: 20,001人、20,639人、21,139人、21,262人、21,751人と毎年増え、令和2年から1,750人(約8.7%)増えました(当社計算)。在所者1人当たりの従事者は約0.81人から約0.97人になっています(当社計算の参考値)。
数字の読み方には注意が必要です。令和6年の参考表1では、詳細票の回収率は乳児院が93.9%(調査客体147に対し回収138)、児童養護施設が93.8%(調査客体613に対し回収575)でした。定員・在所者・従事者は詳細票による調査の集計で、回収されなかった施設の分は含まれません。運営主体別の施設数(社会福祉法人か公営か)、措置費・運営費の水準、施設ごとの収支、小規模グループケアなど小規模化の実施状況は、今回確認した統計に含まれていません。
入所する子どもの姿:こども家庭庁の全数調査から
こども家庭庁の「児童養護施設入所児童等調査」(令和5年2月1日現在)は、乳児院や児童養護施設などの入所児童を全数調査し、実数値で公表しています。社会福祉施設等調査とは調査主体も時点も異なるため、数値は別々の資料として読みます。
- 入所児童数: 児童養護施設は23,043人で、前回調査(平成30年)の27,026人から3,983人(約14.7%)減りました。乳児院は2,404人で、前回の3,023人から619人(約20.5%)減りました(増減は当社計算)。平均年齢は児童養護施設11.8歳、乳児院1.6歳です。
- 在所期間: 平均で児童養護施設5.2年、乳児院1.4年です。
- 入所経路: 「家庭から」が最も多く、児童養護施設は62.4%(前回62.1%)、乳児院は43.8%(前回62.2%)でした。乳児院の「家庭から」の割合は前回より大きく下がっていますが、他の経路の内訳は今回確認しておらず、要検証です。
- 養護問題発生理由(最多): 児童養護施設は「母の放任・怠だ」が16.4%(前回15.0%)、乳児院は「母の精神疾患等」が24.6%(前回23.2%)でした。
- 被虐待経験: 「虐待経験あり」は児童養護施設で71.7%(前回65.6%)、乳児院で50.5%(前回40.9%)です。種類ではネグレクトが最も多く、児童養護施設で61.2%、乳児院で67.4%でした。
- 心身の状況: 「該当あり」は児童養護施設で42.8%(前回36.7%)、乳児院で27.0%(前回30.2%)でした。
- 家族との交流: 「交流なし」は児童養護施設で24.9%(前回19.9%)、乳児院で26.0%(前回21.5%)でした。
- 今後の見通し(最多): 児童養護施設は「自立まで現在の児童養護施設で養育」が59.9%(前回58.3%)、乳児院は「現在の乳児院で養育」が36.2%(前回35.5%)でした。
この調査は令和5年2月時点のもので、その後の割合は今回確認しておらず、要検証です。
乳児院・児童養護施設の経営課題、主要な6パターン
ここからは、上の数字と法令の条文を踏まえ、経営課題を整理します。措置費の水準などは今回確認できていないため、確認できた範囲に絞り、断定を避けます。個々の施設の状況は個別に確認が必要です。
①在所者は定員より速く減る:定員と実際の入所のずれを見る
児童養護施設の定員は令和2年から約5.8%減ったのに対し、在所者は約9.6%減りました。乳児院も定員約3.5%減に対し在所者約9.5%減です。こども家庭庁の調査でも入所児童は児童養護施設で約14.7%、乳児院で約20.5%減っています。減少の背景(出生数の変化、里親やファミリーホームへの委託、家庭での支援の拡充など)は統計から分からず、要検証です。運営側にとっては、定員を維持したまま入所が減る状況で、施設の規模や機能をどう見直すかが課題になりえます。措置費の算定方法との関係は今回確認しておらず、要検証です。
②入所の窓口は都道府県:措置・承認・延長の流れに合わせた運営
入所は児童福祉法第27条第1項第3号の措置で、児童相談所を持つ都道府県が決定します。第31条は、児童養護施設に入所した児童について、都道府県が満20歳に達するまで引き続き措置を継続できると定めています。また第48条の3は、乳児院や児童養護施設の長に、市町村、児童相談所、児童家庭支援センター、里親支援センター、教育機関、医療機関などと緊密に連携し、親子の再統合のための支援その他、児童が家庭で養育されるために必要な措置を採ることを求めています。児童相談所とのやり取り、児童ごとの自立支援計画、家族との交流の記録といった業務が中心になりやすい構図ですが、実際の様式や運用は自治体ごとに異なり、要検証です。
③被虐待経験と心身の課題:個別対応と情報管理が前提になる
児童養護施設の71.7%、乳児院の50.5%が虐待経験ありという結果は、運営の前提を示しています。基準省令第42条は、児童養護施設に個別対応職員と家庭支援専門相談員を置くこと、心理療法を行う必要があると認められる児童が10人以上で心理療法を行う場合は心理療法担当職員を置くことを定めています(乳児院は第21条)。心身の状況に該当がある児童の割合も児童養護施設で42.8%と、前回の36.7%から上がっています。児童の個人情報の取扱いと、家族との面会・連絡の管理には特別な配慮が必要になることが考えられますが、具体的な運用は施設・自治体ごとに異なり、今回確認できていません(要検証)。情報システムを検討する場合も、情報の取扱いと権限の設計が最優先の論点になりえます。
④職員の員数は児童の年齢で決まる:従事者は増え、1人当たりの手厚さは上がった
基準省令第42条第6項は、児童養護施設の児童指導員及び保育士の総数を、通じて、満2歳未満の幼児おおむね1.6人につき1人以上、満2歳以上3歳未満の幼児おおむね2人につき1人以上、満3歳以上の幼児おおむね4人につき1人以上、少年おおむね5.5人につき1人以上とし、児童45人以下の施設ではさらに1人以上を加えると定めています。乳児院の看護師の数は第21条第5項で、乳児及び満2歳未満の幼児おおむね1.6人につき1人以上などと定められています。従事者は児童養護施設で約8.7%増え、在所者1人当たりの人数も上がりましたが、増加の内訳(職種、常勤・非常勤、加配の有無)は統計から分からず、要検証です。児童指導員の資格は基準省令第43条に列挙があり、家庭支援専門相談員は児童の指導に5年以上従事した者などとされています。実際の員数は都道府県の条例(児童福祉法第45条)で確認する必要があります。
⑤設備は「生活の場」:居室の定員と面積、乳児院は寝室と観察室
基準省令第41条は、児童養護施設の居室について、一室の定員を4人以下、面積を1人につき4.95平方メートル以上とし、乳幼児のみの居室は一室6人以下、1人につき3.3平方メートル以上と定めています。児童30人以上を入所させる施設には医務室と静養室が必要です。乳児院(乳幼児10人未満の乳児院を除く)は第19条で、寝室、観察室、診察室、病室、ほふく室、相談室、調理室、浴室、便所を設けることとされ、寝室の面積は乳幼児1人につき2.47平方メートル以上です。建物の老朽化の状況や改修費の見通し、小規模化に伴う設備の見直しは今回確認しておらず、要検証です。
⑥開設は届出ではなく認可、さらに第一種社会福祉事業:民間の参入は限られる
児童福祉法第35条第4項は、国・都道府県・市町村以外の者が児童福祉施設を設置するには、都道府県知事の認可を得ることを定めています(市町村は事前の届出、第3項)。加えて、社会福祉法第2条第2項第2号は、乳児院や児童養護施設を経営する事業を第一種社会福祉事業とし、第60条は、第一種社会福祉事業は国、地方公共団体又は社会福祉法人が経営することを原則と定めています。国、都道府県、市町村及び社会福祉法人以外の者が設置するには、都道府県知事の許可が必要です(第62条第2項)。児童福祉法の認可と社会福祉法の届出・許可がどのように並んで運用されているかの実際は今回確認しておらず、要検証です。都道府県知事は報告の求めや立入検査を行い、基準に達しないときは改善の勧告・命令、事業の停止を命じることができます(児童福祉法第46条)。
商談前に見ておきたい乳児院・児童養護施設特有の公開情報
乳児院や児童養護施設を運営する法人に営業やヒアリングを行う前に、次のような公開情報を確認しておくと、論点を絞りやすくなります。児童や保護者が特定される情報は、公開情報であっても取り扱いに十分注意が必要です。
- 運営法人の種類と規模: 社会福祉法人か自治体か。複数の施設や、保育所・母子生活支援施設・障害福祉サービスを併せて運営しているか。法人の公表資料(事業報告・財務諸表)で確認します。
- 施設の定員と職員体制: 定員、児童指導員・保育士・個別対応職員・家庭支援専門相談員・心理療法担当職員の配置、求人の状況。
- 小規模化・地域分散化の取組: 本園以外に地域の小規模な生活単位を運営しているか(法人の事業報告や自治体の資料で確認します。実施状況の全国統計は今回確認しておらず、要検証です)。
- 併設・受託事業: 入所以外に、里親支援、児童家庭支援センター、自立援助などの受託や併設があるか。
- 情報の管理と記録: 児童ごとの自立支援計画、児相との連絡、出納管理の方法(紙かデジタルか)。内部の運用は公開されないことが多く、ヒアリングで確認する項目です。
- 施設の評価・点検の公表: 第三者評価や自己評価の公表、監査の指摘事項(自治体のウェブサイトで確認します)。
これらを一件ずつ手作業で調べるとかなりの時間がかかりますが、会社名を入力するだけで公開情報を横断し、経営課題・提案システム・ROI・想定反論まで出典付きで調べられるZEROSYSリサーチのようなツールを使えば、当たりをつける作業そのものを効率化できます。調査は1社あたり10〜15分程度で、そのまま提案書のたたき台にできる形で出力されます。
よくある質問
児童養護施設は全国にいくつありますか?
厚生労働省の令和6年社会福祉施設等調査(令和6年10月1日現在)では613施設です。令和2年(612施設)からほぼ横ばいですが、定員は29,093人で約5.8%減、在所者は22,452人で約9.6%減っています。乳児院は147施設です。
乳児院とは何ですか?
児童福祉法第37条の児童福祉施設の一つで、乳児(特に必要のある場合は幼児を含む)を入院させて養育し、退院した者への相談その他の援助も行う施設です。令和5年2月時点の入所児童の平均年齢は1.6歳、平均在所期間は1.4年でした。
児童養護施設に入所する子どもの多くは虐待を受けているのですか?
こども家庭庁の全数調査(令和5年2月1日現在)では、児童養護施設で「虐待経験あり」が71.7%、乳児院で50.5%でした。虐待の種類ではネグレクトが最も多い結果です。最新年の割合は今回確認しておらず、要検証です。
入所は施設に直接申し込むのですか?
いいえ。児童福祉法第27条第1項第3号により、都道府県が措置として入所を決定します。保護者の意に反する場合は、第28条により家庭裁判所の承認が必要です。具体的な手続は児童相談所などの窓口で確認してください。
民間事業者が児童養護施設や乳児院を設置できますか?
児童福祉法第35条第4項により、国・都道府県・市町村以外の者の設置には都道府県知事の認可が必要です。さらに社会福祉法上は第一種社会福祉事業で、国、地方公共団体又は社会福祉法人が経営することが原則とされ(第60条)、それ以外の者が設置するには都道府県知事の許可が必要です(第62条第2項)。実際の審査や運用は都道府県ごとに異なる可能性があり、要検証です。
まとめ
乳児院・児童養護施設の経営課題は、①児童養護施設の定員が令和2年から約5.8%減る中で在所者は約9.6%減り、乳児院も在所者が約9.5%減っていること②入所は児童福祉法第27条に基づく都道府県の措置で、児童相談所などとの連携が運営の中心になること③児童養護施設の71.7%、乳児院の50.5%が虐待経験ありで、個別対応と情報の管理が前提になること④従事者は児童養護施設で約8.7%増え、員数は児童の年齢で決まり、実際の数は都道府県の条例で確認すること⑤居室の定員と面積など生活の場としての設備の維持管理が必要なこと⑥開設は都道府県知事の認可に加えて第一種社会福祉事業で、民間の参入は限られること、の6つです。営業やヒアリングの前に、運営法人の種類、定員、職員体制、自治体の公表情報を公開情報で確認しておくと、論点を絞って話ができます。措置費や小規模化の実施状況など今回確認できなかった項目は、公的な一次情報で必ずご確認ください。