クリーニング業の経営課題を、なぜ「需要が減っただけ」で片付けてはいけないのか
中小企業に共通する経営課題の型(人手不足・後継者不在・DXの遅れなど)は経営課題の見つけ方|中小企業10パターンで整理した通りです。ただしクリーニング業は、業態によって業績の明暗がはっきり分かれている点で他業種と異なります。従来型の店頭受付を中心とする事業者は縮小基調にある一方、コインランドリーはほぼ横ばいから微増で堅調に推移しており、宅配クリーニングも大きくは崩れていません。つまり「クリーニング業界全体が沈んでいる」のではなく、「店頭型の従来モデルにコストと需要の両面から圧力がかかり、業態転換できているかどうかで差がついている」という構図で捉える必要があります。
クリーニング業界の全体像を数字で見る
個別の課題に入る前に、業種全体の規模感を確認します。矢野経済研究所が2026年4月に発表した調査によると、2025年の国内クリーニング関連市場規模は前年比99.6%の2,799.7億円で、内訳は店頭型が1,540億円(前年比98.7%、縮小)、コインランドリーが1,155.4億円(同100.9%、堅調)、無店舗・宅配型が104.3億円(同99.6%)でした(出典)。店頭型のみが構造的に縮小しており、コインランドリーが相対的に安定していることが分かります。なお、FastGrowの2020年の記事ではクリーニング単体の市場規模を「3,500億円程度」と紹介していますが(出典)、調査時点・集計範囲が矢野経済研究所の2025年データと異なるため、単純に1本の経年推移として繋げることはできません。
事業所数の推移も見ておきます。M&Aキャピタルパートナーズが厚生労働省「令和4年度衛生行政報告例の概況」をもとに紹介しているデータによると、2022年度末時点のクリーニング業全体の施設数は76,362施設で、前年度比4.28%減(3,862施設減)、取次所を除く実際の処理拠点である「クリーニング所」に限ると21,299施設で、前年度比5.7%減とさらに減少幅が大きくなっています(出典)。同記事では2022年の市場規模を約2,713億円としており、コロナ禍で大きく縮小した2020〜2021年からの回復局面にあったと紹介されています。ゼンドラオンラインが厚生労働省「令和5年度衛生行政報告例」をもとに紹介しているデータでは、令和5年度末(無店舗取次店含む)の施設数は72,936施設で、前年度の76,300施設から4.4%減(3,364施設減)となっており(出典)、複数年にわたって施設数が減少し続けている傾向が確認できます。
クリーニング業の経営課題、主要な6パターン
①構造的な需要縮小
帝国データバンクの分析によると、テレワークの定着、オフィスカジュアル化、家庭用洗濯機の高機能化(自宅で洗える衣類の増加)が、クリーニングの利用機会そのものを減らす構造要因として指摘されています(出典)。この傾向は前述の矢野経済研究所の調査で店頭型市場が前年比98.7%と縮小基調にあることとも整合します。相手企業がワイシャツ・スーツ等の一般衣類中心の店頭型主体か、寝具・カーペット等の特殊クリーニングや事業所向け(ホテル・飲食店のリネン等)にシフトしているかは、需要縮小への耐性を見立てる視点になります。
②燃料費・資材費高騰による利益圧迫と、価格転嫁の遅れ
帝国データバンクの調査では、洗剤・ハンガー・包装資材・燃油といったコストの高騰に加え、工場作業員の賃上げも重なり、利益を圧迫していると分析されています。一方で「客離れ」を懸念して値上げに慎重な事業者が多く、実際に「ワイシャツ1枚が200円を超えたところ客足が鈍った」という現場の声も紹介されています(出典、同内容はPR TIMESでも確認)。価格転嫁の難しさは業種横断でも見られる傾向で、日本商工会議所Assist Bizが紹介する日本政策金融公庫の調査(生活衛生関係営業10業種、3,142社対象、2024年7〜9月期、回答率95.5%)では、仕入価格が「上昇した」と回答した割合が79.9%に上る一方、価格転嫁が「全く転嫁できていない」32.2%・「一部転嫁」46.8%・「おおむね転嫁」14.4%・「全て転嫁」3.4%となっています(出典)。この数値は理容・美容業や公衆浴場業などを含む生活衛生関係営業10業種全体の集計であり、クリーニング業だけの内訳ではない点に注意が必要ですが、同じ生活衛生関係の業種として似た構造の転嫁圧力を抱えている可能性はうかがえます。値上げの告知有無・プラン別の価格改定履歴は、この課題への対応状況を推測する手がかりになります。
③倒産・休廃業の増加=市場退出局面
帝国データバンクの調査によると、2025年1〜9月のクリーニング店の倒産は18件で、前年同期の17件からわずかに増加しました。これに休廃業・解散34件を加えると、合計52件が市場から退出したことになります。同社の分析では、2024年度実績で3割超の事業者が減益、2割が赤字だったことも報告されています(出典)。この倒産・休廃業の増加は、前述の施設数が2021年度末から2022年度末で4.28%減、2022年度末から令和5年度末でさらに4.4%減という複数年連続の減少トレンド(出典、出典)とも符合します。決算・信用情報での減益・赤字の有無、直近の店舗数の増減は、この課題への切迫度を推測する材料になります。決算書の読み方は決算書の読み方|営業が5分で掴む3指標で解説しています。
④後継者不足・事業者の高齢化(定性面での指摘にとどまる)
M&Aキャピタルパートナーズの記事では、「後継者問題を抱える企業ではM&Aによる売却希望の動きが顕著」と紹介されています(出典)。また、FastGrowの記事では従来型の店頭クリーニングが「対面ビジネス」であり、受付スタッフの交代だけで売上が半減しうるほど属人性の高い業態であることが指摘されており(出典)、個人経営・家族経営が多いこの業種では、後継者の有無が事業継続に直結しやすい構造がうかがえます。ただし、クリーニング業単体の後継者不在率や経営者の年齢構成を具体的な数値で示す一次資料は本記事執筆時点で確認できておらず、要検証です。相手企業の代表者の年代、後継候補となるスタッフの在籍有無、複数店舗展開による経営体力は、この課題への当たりをつける際の手がかりになります。
⑤宅配クリーニング・業態変化とDXの遅れ
前述の通り、矢野経済研究所の調査では店頭型が縮小する一方、コインランドリーは堅調、無店舗・宅配型もほぼ横ばいで推移しています(出典)。FastGrowが2020年時点で紹介した宅配クリーニング事業者ホワイトプラスの事例では、バーコード管理等による自動化で誤配・紛失リスクと工数を削減し、会員数40万人・資金調達15億円まで成長したことが紹介されています(2020年時点の事例、出典)。同記事では、従来型の店頭クリーニングが夜間・休日の利用が難しいという営業時間の制約を抱えている点も、宅配クリーニングが伸びた背景として挙げられています。相手企業が予約アプリ・宅配受付システム・キャッシュレス決済等を導入しているか、店頭型のみに留まっているかは、業態転換への投資姿勢を見立てる視点になります。
⑥価格競争の存在(定性的な指摘にとどまる)
前述の通り、クリーニング業では店頭型を中心に事業所数の減少が続く一方、コインランドリーや宅配型との顧客の奪い合いも起きやすく、価格競争が経営を圧迫しているとの指摘があります。ただし、クリーニング業界の価格競争の激しさを具体的な数値(値下げ率・客単価の業態間格差の統計等)で示す信頼できる一次資料は本記事執筆時点で確認できておらず、この点は定性的な傾向として捉えるにとどめる必要があります。近隣の同業他社・コインランドリー・宅配クリーニングとの料金比較、キャンペーン・割引施策の頻度は、価格競争の激しさを推測する材料になります。
店頭型の個人店と、コインランドリー・宅配系との差にも目を向ける
クリーニング業の経営課題は、店頭型・コインランドリー・宅配型のどの業態を中心にしているかによって濃淡が大きく異なる点が特徴です。前述の矢野経済研究所の調査が示す通り、2025年の市場規模は店頭型1,540億円(前年比98.7%、縮小)・コインランドリー1,155.4億円(同100.9%、堅調)・無店舗宅配型104.3億円(同99.6%、横ばい)と、業態ごとに明暗が分かれています(出典)。店頭型の個人店・地域密着型の事業者は、前述の需要縮小・コスト高騰・価格転嫁の遅れの影響をより直接的に受けやすい一方、コインランドリーへの業態転換や宅配クリーニングとの併用に投資している事業者は、相対的に安定した経営基盤を持ちやすいと考えられます。相手企業が店頭のみか、コインランドリーを併設・展開しているか、宅配クリーニングのプラットフォームに加盟・提携しているかは、商談前に確認しておきたい基本情報です。仮説の立て方は仮説営業とは|仮説構築の4ステップと立て方で解説しています。
商談前に見ておきたいクリーニング業特有の公開情報
クリーニング業の企業をリサーチする際は、中小企業に共通する求人票・決算・ニュースリリースに加えて、次のような業種特有の情報源も確認しておくと、経営課題の当たりをつけやすくなります。
- 業態構成: 店頭型中心か、コインランドリーを併設・展開しているか、宅配クリーニングと併用しているかで、収益構造・投資余力が異なる。
- 店舗数・多店舗展開の有無: 単独店舗か、複数店舗・フランチャイズ展開かによって経営体力に差が出やすい。
- 価格改定・値上げ告知の有無: 自社サイトやチラシでの価格改定告知、プラン別の料金体系は、コスト転嫁への対応状況を推測する手がかりになる。
- IT投資の状況: 予約アプリ・宅配受付システム・キャッシュレス決済等の導入有無は、業態転換・DXへの投資姿勢を示す。
- 求人票の採用条件: 工場スタッフ・店頭受付の採用条件・待遇から、人手不足や賃上げ対応の状況を推測できる。
- 代表者の経歴・後継者の在籍有無: 家族経営か、後継候補となるスタッフが在籍しているかは、事業承継リスクを見立てる材料になる。
これらを一件ずつ手作業で調べるとかなりの時間がかかりますが、会社名を入力するだけで公開情報を横断し、経営課題・提案システム・ROI・想定反論まで出典付きで自動リサーチできるZEROSYSリサーチのようなツールを使えば、当たりをつける作業そのものを効率化できます。具体的な質問への落とし込み方は初回商談の質問リスト30選【業種別】で解説していますので、あわせて活用してください。
よくある質問
クリーニング業は市場が縮小していますか。
一律には言えません。矢野経済研究所の調査では、2025年の国内クリーニング関連市場全体は前年比99.6%とほぼ横ばいですが、内訳を見ると店頭型は同98.7%で縮小が続く一方、コインランドリーは同100.9%で堅調に推移しています。業態によって明暗が分かれているのが実態です。
クリーニング業の倒産・休廃業は増えていますか。
増加傾向にあります。帝国データバンクの調査によると、2025年1〜9月の倒産は18件(前年同期17件)、休廃業・解散は34件で、合計52件が市場から退出しました。2024年度実績では3割超の事業者が減益、2割が赤字だったことも報告されています。
クリーニング業界特有の値上げの難しさはありますか。
帝国データバンクの分析では、洗剤・ハンガー・包装資材・燃油の価格高騰と工場作業員の賃上げでコストが圧迫される一方、客離れを懸念して値上げに慎重な事業者が多いと指摘されています。「ワイシャツ1枚が200円を超えたところ客足が鈍った」という現場の声も紹介されており、価格転嫁が容易ではない業種であることがうかがえます。
商談前に確認すべきクリーニング業特有の公開情報はありますか。
業態構成(店頭型・コインランドリー・宅配型のいずれが中心か)、価格改定・値上げ告知の有無、予約アプリ・宅配受付システム等のIT投資状況の3つが、商談前リサーチで特に確認しておきたい業種特有の情報です。
まとめ
クリーニング業の経営課題は、①構造的な需要縮小②燃料費・資材費高騰による利益圧迫と価格転嫁の遅れ③倒産・休廃業の増加=市場退出局面④後継者不足・事業者の高齢化⑤宅配クリーニング・業態変化とDXの遅れ⑥価格競争の存在、という6パターンに整理できます。矢野経済研究所の調査が示すように、この業種は「市場全体は横ばいだが、店頭型は縮小し、コインランドリーは堅調」という業態間の明暗がはっきり分かれた構造を抱えています。個社の状況を決めつけず、業態構成・価格改定の状況・IT投資の姿勢といった一次情報で仮説を検証しながら商談準備を進めることが、決裁者に届く提案につながります。