結論から: 教育・学習支援業(学習塾を中心とした業種)は、15歳未満人口が1,366万人と44年連続で減少し続ける「市場そのものが縮小する」構造的な逆風の中にあります。学習塾の倒産は、帝国データバンク調べで2025年46件(前年40件)、東京商工リサーチ調べで55件(前年53件、3年連続過去最多)と、集計方法が異なるため単純比較はできないものの、いずれも高水準で推移しています。一方で売上高100億円以上の大手約20社が市場の66.2%を占有する寡占化も同時に進行しており、少子化で子どもの母数が減っても、値上げできる大手・難関校特化塾に需要が集まり、値上げできない中小塾が淘汰されるという二極化構造がこの業種の経営課題を読み解く出発点です。本記事では6パターンに整理し、商談前リサーチでどこに着目すべきかを出典付きで解説します。

教育・学習支援業の経営課題を、なぜ他業種と分けて見る必要があるのか

中小企業に共通する経営課題の型(人手不足・後継者不在・DXの遅れなど)は経営課題の見つけ方|中小企業10パターンで整理した通りです。ただし教育・学習支援業は、少子化という需要側の構造的な逆風を業種全体で受けている点、学習塾・家庭教師が契約期間2ヶ月超・対価5万円超で「特定継続的役務提供」に該当し、クーリングオフ・中途解約権が法定されている点(出典)、そして大手約20社が市場の66.2%を占有する寡占化が進む一方で個人塾・地域密着塾が多数残る二極構造である点で、他業種と大きく異なります(出典)。「少子化だから厳しい」という一言で片づけず、どの規模・どの立ち位置の事業者かを見極める必要があります。

教育・学習支援業の全体像を数字で見る

個別の課題に入る前に、教育・学習支援業を取り巻く市場全体の構造を確認します。総務省統計局によると、2025年4月1日現在の15歳未満人口は1,366万人で、44年連続の減少となり過去最少を更新しました。総人口に占める割合も11.1%と51年連続で低下しています(出典)。学習塾の主要な顧客層である子どもの数そのものが、構造的に減り続けているのがこの業種の前提です。なお矢野経済研究所の調査では、教育産業全体(学習塾以外も含む主要15分野の合計)の市場規模は2025年度予測で2兆8,720億6,000万円(前年度比0.6%増)とされていますが、これは学習塾単体の数値ではなく、教育産業全体としては横ばい〜微増という別の切り口の統計である点に注意が必要です(出典)。市場規模を語る際は、対象範囲(学習塾単体か教育産業全体か)を混同しないことが重要です。

教育・学習支援業の経営課題、主要な6パターン

ここからは、教育・学習支援業に特有の経営課題を6パターンに整理します。それぞれ、公開情報のどこにサインが出やすいかもあわせて紹介します。

①少子化による市場縮小と生徒獲得競争の激化

前述の通り、学習塾の顧客基盤である子どもの数は44年連続で減少しています。この逆風の中、学習塾の倒産は高水準で推移しており、帝国データバンクの集計では2025年に46件(前年40件)、東京商工リサーチの集計では55件(前年53件、3年連続で過去最多を更新)となっています(出典(TDB)出典(TSR))。両社の件数(46件と55件)は集計対象・調査基準が異なるため単純比較はできませんが、いずれも高水準であるという方向性は一致しています。東京商工リサーチによれば倒産理由の81.8%が「販売不振」で、生徒獲得競争の激化が経営を直撃していることがうかがえます。生徒数・教室数の推移は、事業の縮小・拡大を見立てる手がかりになります。

②人手不足・講師確保難

帝国データバンクの分析では、学習塾の倒産要因として少子化に加え、講師の確保難・最低賃金の上昇・光熱費や家賃の高騰が挙げられています(出典)。倒産した学習塾の約9割が資本金1,000万円未満の小規模事業者であり、賃上げ原資を確保しにくい中小塾ほど講師採用の負担が重くのしかかる構造です。経済産業省の「特定サービス産業動態統計調査」は学習塾業界の需給動向を継続的に把握できる一次統計源であり(出典)、商談前に業界動向を裏付ける際の参照先として有用です。求人票で正社員講師と非常勤講師の比率、採用の緊急度を確認すると、人手不足の深刻さを見立てやすくなります。

③教育DXの遅れ

公教育側では、2025〜2026年度予算でGIGAスクール構想第2期が進行しており、児童生徒1人1台端末の更新に1台あたり5.5万円の補助が用意され、2026年度から4年かけてパブリッククラウド前提の次世代校務DXへの移行が計画されています(出典出典)。一方、学習塾側のICT活用は事業者ごとの差が大きく、タブレット学習・オンライン授業を早期に導入した大手・準大手塾がある一方、個人塾・小規模塾では紙教材中心の運営が根強く残っているとみられます(業界全体を横断した独立した普及率の統計は確認できておらず要検証)。自治体・学校のGIGAスクール関連予算の使い道や進捗は地域差が大きいとされ、公教育側のDX投資と学習塾側の対応状況を併せて見ることが、商談前リサーチの精度を高めます。

④値上げの難しさと大手・中小の二極化

日本経済新聞の報道によると、学習塾の授業料は2024年まで13年連続で上昇しており、値上げできる大手・難関校特化塾へ高所得層の需要が集まる一方、値上げができず淘汰される中小塾との二極化が進んでいます(出典)。帝国データバンクも、家計における「教育費の選別」が進んでいることを倒産動向の背景として挙げています(出典)。東京商工リサーチの分析では、学習塾全体の約3割が赤字である一方、売上高100億円以上の大手約20社が市場の66.2%を占有しており、規模による収益力の差が鮮明です(出典)。値上げできる価格決定力があるかどうかは、その学習塾の立ち位置(難関校特化か地域密着か)によって大きく異なります。

⑤後継者不在・事業承継とM&A

前述の通り、倒産した学習塾の約9割が資本金1,000万円未満の小規模事業者であり、個人経営・家族経営の塾が多いという零細構造がうかがえます。日本M&Aセンターは、学習塾業界でM&Aによる事業承継の動きが広がっていると紹介しています(出典)。なお学習塾業界に固有の後継者不在率を示す一次統計は確認できておらず、帝国データバンクの「全国後継者不在率動向調査」(中小企業全体で約50.1%、2024年)はあくまで業種横断の統計であり、学習塾固有の数値ではない点に注意が必要です(参考値としての利用にとどめています)。経営者の年齢層・後継者の有無は、決算書や代表者交代の有無からある程度推測できます(決算数値の読み方は決算書の読み方|営業が5分で掴む3指標で解説しています)。

⑥規制対応と保護者ニーズの多様化

学習塾・家庭教師は、契約期間が2ヶ月を超え対価が5万円を超える場合、特定商取引法上の「特定継続的役務提供」に該当し、クーリングオフ・中途解約権が法定されています(出典)。契約書面の整備や中途解約対応は、業種特有の運営負担です。また、文部科学省の調査によると小・中学校の不登校児童生徒数は353,970人で12年連続の増加となり過去最多を更新しました(増加率自体は前年の15.9%から2.2%へ鈍化、出典)。一方で首都圏模試センターの集計では、2025年の首都圏中学入試受験者数は52,300名、受験率は18.10%と過去2番目の高さを維持しており、小学6年生全体の数が減る中でも中学受験へのニーズは高水準です(出典)。不登校対応の個別指導ニーズと、中学受験対応の高度化ニーズが同時に存在しており、保護者ニーズの多様化への対応力が問われています。

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大手(全国展開の上場塾チェーン)と中小(個人塾・地域密着塾)の違い

売上高100億円以上の大手約20社は、市場の66.2%を占有する規模の経済を背景に、値上げ・DX投資・M&Aによる事業拡大の受け皿になりやすい立場です。一方、資本金1,000万円未満が倒産事例の約9割を占めるように、中小・個人塾は価格決定力が弱く、講師確保や光熱費・家賃の上昇といったコスト増を価格転嫁しにくい構造にあります(出典)。相手が全国展開する上場塾チェーンか、地域に根ざした個人塾・小規模塾かによって、意思決定のスピードやシステム投資の余力、M&Aによる事業承継の可能性の高さが大きく異なります。仮説の立て方は仮説営業とは|仮説構築の4ステップと立て方で解説しています。

商談前に見ておきたい教育・学習支援業特有の公開情報

教育・学習支援業の経営体をリサーチする際は、中小企業に共通する求人票・決算・ニュースリリースに加えて、次のような業種特有の情報源も確認しておくと、経営課題の当たりをつけやすくなります。

  • 教室数・生徒数の推移: 公式サイトや採用ページの記載から、事業が拡大局面か縮小局面かを推測できる。
  • 講師の募集状況: 正社員講師と非常勤講師の比率、採用の緊急度から人手不足の深刻さを見立てられる。
  • 特定継続的役務提供への該当性: 契約書面・クーリングオフ対応が整備されているか(特商法上の義務)。
  • ICT・DX関連の導入状況: タブレット学習やオンライン授業の有無、公教育側のGIGAスクール関連予算の動向。
  • 決算公告・信用調査データ: 帝国データバンク(TDB)・東京商工リサーチ(TSR)による財務状況の確認。
  • 経産省「特定サービス産業動態統計調査」: 学習塾業界の需給動向を継続的に把握できる一次統計源(出典)。

これらを一件ずつ手作業で調べるとかなりの時間がかかりますが、会社名を入力するだけで公開情報を横断し、経営課題・提案システム・ROI・想定反論まで出典付きで自動リサーチできるZEROSYSリサーチのようなツールを使えば、当たりをつける作業そのものを効率化できます。具体的な質問への落とし込み方は初回商談の質問リスト30選【業種別】で解説していますので、あわせて活用してください。

よくある質問

学習塾の倒産件数は結局何件が正しいのですか

帝国データバンクの集計では2025年に46件(前年40件)、東京商工リサーチの集計では55件(前年53件、3年連続で過去最多)です。両社は集計対象・調査基準が異なるため単純比較はできませんが、いずれも高水準で推移しているという方向性は一致しています。

少子化なのに教育産業の市場規模は伸びているのですか

学習塾単体の市場規模を示す独立した統計は本記事執筆時点で確認できていません。矢野経済研究所の教育産業全体(学習塾以外も含む主要15分野の合計)の市場規模は2025年度予測で2兆8,720億6,000万円(前年度比0.6%増)ですが、これは学習塾単体の数値ではなく別の切り口の統計である点に注意が必要です。

学習塾は少子化なら一律に厳しいのですか

一律ではありません。授業料は2024年まで13年連続で上昇しており、値上げできる大手・難関校特化塾へ高所得層の需要が集まる一方、値上げできない中小塾は淘汰される二極化が進んでいます。売上高100億円以上の大手約20社が市場の66.2%を占有する一方、学習塾全体の約3割が赤字という構造です。

学習塾の後継者不在率は他業種と比べて高いのですか

学習塾業界に固有の後継者不在率を示す一次統計は確認できていません。帝国データバンクの「全国後継者不在率動向調査」(中小企業全体で約50.1%、2024年)は業種横断の統計であり学習塾固有の数値ではないため、参考値としての利用にとどめる必要があります。ただし倒産した学習塾の約9割が資本金1,000万円未満の小規模事業者であるという零細構造から、家族経営・個人経営が多いことがうかがえます。

まとめ

教育・学習支援業の経営課題は、①少子化による市場縮小と生徒獲得競争の激化②人手不足・講師確保難③教育DXの遅れ④値上げの難しさと大手・中小の二極化⑤後継者不在・事業承継とM&A⑥規制対応と保護者ニーズの多様化、という6パターンに整理できます。学習塾の倒産件数は帝国データバンク・東京商工リサーチの集計方法の違いによって数値は異なりますが(46件と55件、単純比較不可)、いずれも高水準にあり、同時に大手約20社が市場の66.2%を占有する寡占化も進んでいます。少子化という業種全体の逆風を一律に語るのではなく、値上げできる立ち位置(難関校特化・大手)か、値上げが難しい立ち位置(地域密着・個人塾)かを、教室数・講師募集状況・決算情報といった一次情報で見極めながら商談準備を進めることが、決裁者に届く提案につながります。