警備業の経営課題を、なぜ「人手不足」の一言で片付けてはいけないのか
中小企業に共通する経営課題の型(人手不足・後継者不在・DXの遅れなど)は経営課題の見つけ方|中小企業10パターンで整理した通りです。ただし警備業は、業者数・警備員数・売上高のいずれも過去最多を更新し続けている拡大局面にありながら、同時に倒産が前年から倍増するという一見矛盾した動きを見せている点で他業種と一線を画します。市場は伸びているのに現場を支える人材の高齢化が進み、公共工事設計労務単価の急上昇に価格転嫁が追いつかない事業者から先に淘汰されている、という構造こそが、この業種の経営課題を読み解く出発点です。
警備業の全体像を数字で見る
個別の課題に入る前に、業界全体の規模感を確認します。全国警備業協会「警備業実態調査」(令和6年末時点、回答5,020業者ベース、警察庁公表資料に集約)によると、業界売上高総額は3兆4,477億8,179万円(前年比+4.3%)です。警察庁「令和6年における警備業の概況」(2025年公表)によると、警備業認定業者数は10,811業者(前年比+137業者、+1.3%)で過去最多を更新しました(出典)。警備員数は58万7,848人(前年比+2,980人、+0.5%)で、内訳は常用53万6,220人・臨時5万1,628人(臨時比率8.8%)、女性警備員は4万3,077人(7.3%)です。業務区分別の業者数(重複計上あり)は、施設警備(1号)6,974業者(64.5%)、交通誘導・雑踏警備(2号)8,800業者(81.4%)、貴重品運搬(3号)662業者(6.1%)、身辺警備(4号)708業者(6.5%)となっており、2号業務の参入業者が最も多いのが特徴です。機械警備業者数は542業者、対象施設は342万3,470施設(前年比+5.9%)と拡大が続いています。市場・業者数・警備員数のいずれも成長を示す一方、後述する高齢化・倒産・賃金圧迫の3つの数字は、成長の裏側で経営体力が消耗している実態を映し出しています。
警備業の経営課題、主要な6パターン
ここからは、警備業に特有の経営課題を6パターンに整理します。それぞれ、公開情報のどこにサインが出やすいかもあわせて紹介します。
①深刻な高齢化と若手不足
警察庁「令和6年における警備業の概況」によると、警備員のうち60歳以上が47%、65歳以上が34.3%、70歳以上だけでも20.9%を占めています。警備員数自体は前年比+0.5%で微増していますが、その担い手の年齢構成を見ると若手への世代交代が十分に進んでいるとは言い難い状況です。臨時警備員比率が8.8%にとどまっている点も踏まえると、常用警備員の高齢化がそのまま現場の稼働継続力に直結しやすい業種だと言えます。求人票での年齢層・シフト条件の訴求内容は、この課題への切迫度を推測する手がかりになります。人手不足を主要因とする経営課題の構造は人材紹介・派遣業の経営課題6選とも共通する部分があります。
②人手不足を主因とする倒産の急増
帝国データバンク「『警備業』の倒産動向(2025年上半期)」(2025年8月1日発表)によると、2025年上半期の警備業倒産は16件で、前年同期(8件)から倍増し、上半期として過去最多を記録しました(出典)。東京商工リサーチも大手2社への寡占化の進行と人手不足を背景に、倒産・休廃業が過去最多ペースで進んでいると分析しています(出典)。なお、具体的な件数は集計主体(帝国データバンク・東京商工リサーチ)により異なりますが、いずれの集計でも前年から倍増・過去最多ペースという傾向は一致しています。人手不足(①)がそのまま受注できる案件量の頭打ちや現場運営コストの上昇を招き、経営体力の乏しい事業者から倒産・休廃業に至っている構図がうかがえます。
③賃金・処遇改善が待ったなしの経営圧迫要因
国土交通省「公共工事設計労務単価」によると、施設警備員・交通誘導警備員の単価は令和6年度以降、毎年5〜9%台で上昇しています。令和8年3月適用分では交通誘導警備員A+5.8%・B+6.7%、令和8年4月適用分では施設警備員A・B・Cがいずれも約+9%の引き上げとなっています(出典)。警備業は労働集約的で人件費が原価に占める比率が高いため、この単価上昇は賃上げの原資である一方、下請構造の中で価格転嫁が追いつかず、元請けから受注する側の事業者ほど利益を圧迫されやすいとの指摘があります。相手企業が労務単価の上昇分をどこまで契約価格に反映できているかは、決算書の利益率推移から間接的に読み取れる場合があります。決算書から利益率の傾向を掴む視点は決算書の読み方|営業が5分で掴む3指標で解説しています。
④機械警備・DXへのシフト圧力
警察庁「省力化投資促進プラン―警備業―」(令和7年12月)によると、機械警備業者数は542業者、対象施設は342万3,470施設(前年比+5.9%)と拡大が続いています(出典)。人手不足(①)を補う手段として機械警備・センサー・AIカメラ等への投資が進む一方、東京商工リサーチはDXに投資できる大手・中堅企業と、投資余力の乏しい中小企業との間で二極化・淘汰が進んでいると指摘しています。求人票や自社サイトでの機械警備・省力化投資の実績紹介の有無は、この課題への対応状況を推測する材料になります。警備業に限らずDXの遅れている業種全般の傾向はDXが遅れている業界の特徴と共通課題で解説していますので、あわせて参考にしてください。
⑤教育・法令遵守コストの上昇
2024年4月1日施行の警備業法改正により、都道府県公安委員会発行の紙の認定証掲示が廃止され、事業者自身が作成する「標識」の営業所掲示と、自社Webサイトでの同一情報(認定番号・認定年月日・代表者名等)の公開が義務化されました。これにより、事業者は標識の作成・更新に加え、自社サイトでの継続的な情報公開という新たな運用負担を負うことになりました。教育・研修体制の整備負担については業界メディアでの報道はあるものの、本記事執筆時点で一次情報での確認ができていないため詳細な言及は控えます(要検証)。対象企業の自社サイトで標識情報が適切に公開されているかどうかは、コンプライアンス意識やWeb対応力を推測する手がかりの一つになります。
⑥多重下請構造と価格競争
業務区分別に見ると、交通誘導・雑踏警備(2号)は8,800業者(81.4%)と参入業者が最も多く、価格競争が激しい傾向が業界内で指摘されています。一方、施設警備(1号)は6,974業者(64.5%)で、大手への集中傾向があるとされています。交通誘導警備は建設現場に付随する案件が多く、元請けゼネコンとの関係性や、前述の公共工事設計労務単価の適用有無が価格交渉力に直結しやすい構造です。この多重下請構造を裏付ける定量データ(下請次数や価格転嫁率)は確認できていませんが、業界内で指摘されている定性的な傾向として押さえておく価値があります。交通誘導警備と建設現場の関係性という観点では建設業の経営課題6選もあわせて参考になります。
業務区分・元請けか下請けかによる差にも目を向ける
警備業の経営課題は、どの業務区分(施設警備・交通誘導・貴重品運搬・身辺警備)を主力としているか、また元請けか下請けかによっても濃淡が異なります。施設警備は大手集中傾向、交通誘導警備は参入業者が多く価格競争が激しいという業界内の指摘がある一方、いずれも公共工事設計労務単価の上昇分をどこまで契約価格に反映できているかが経営の分かれ目になります。相手企業がどの業務区分を主力とし、元請け・下請けのどちらの立場にあるかは、商談前に確認しておきたい基本情報です。
商談前に見ておきたい警備業特有の公開情報
警備業の企業をリサーチする際は、中小企業に共通する求人票・決算・ニュースリリースに加えて、次のような業種特有の情報源も確認しておくと、経営課題の当たりをつけやすくなります。
- 自社サイトの標識情報: 2024年4月1日施行の警備業法改正により、事業者自身が作成する標識(認定番号・認定年月日・代表者名等)を営業所掲示に加え自社Webサイトでも公開することが義務化された。対象企業のサイトで標識情報が適切に公開されているかは、Web対応力・コンプライアンス意識の指標になる。
- 都道府県公安委員会による行政処分の公表: 各都道府県警察のサイトでは、警備業法に基づく行政処分(指示=過去3年以内、営業停止命令等=過去5年以内)が公表されている。商談前に対象企業名で確認すると、コンプライアンスリスクを事前に把握できる。
- 建設業許可・元請/下請関係: 交通誘導警備(2号)は建設現場に付随する案件が多く、公共工事設計労務単価の適用有無や元請けゼネコンとの関係性が価格交渉力に直結する。
- 機械警備の届出状況: 機械警備業を営む場合は基地局ごとに都道府県公安委員会への届出が必要。自社サイトでの機械警備・省力化投資の実績紹介の有無は、DX対応状況を推測する材料になる。
これらを一件ずつ手作業で調べるとかなりの時間がかかりますが、会社名を入力するだけで公開情報を横断し、経営課題・提案システム・ROI・想定反論まで出典付きで自動リサーチできるZEROSYSリサーチのようなツールを使えば、当たりをつける作業そのものを効率化できます。具体的な質問への落とし込み方は初回商談の質問リスト30選【業種別】で、仮説の立て方は仮説営業とは|仮説構築の4ステップと立て方で解説していますので、あわせて活用してください。
よくある質問
警備業界はどのくらいの規模の市場ですか
全国警備業協会の集計(令和6年末時点、警察庁公表資料に集約)ベースで、業界売上高総額は約3兆4,478億円(前年比+4.3%)です。警察庁の認定業者数は10,811業者、警備員数は58万7,848人で、いずれも過去最多を更新しています。
警備業界は今どんな経営課題を抱えていますか
高齢化(60歳以上47%)と人手不足を背景に倒産が急増しており、2025年上半期の倒産件数は集計主体により16〜20件と幅がありますが、いずれの集計でも前年から倍増・過去最多ペースです。また公共工事設計労務単価が年5〜9%台で上昇しており、賃上げ圧力と価格転嫁の両立が課題になっています。
機械警備やAI警備は普及していますか
機械警備業者は542業者・対象施設342万3,470施設(前年比+5.9%)で拡大が続いています。人手不足を補う手段としてDX投資が進む一方、大手・中堅企業と投資余力の乏しい中小企業との間で格差が指摘されています。
商談前に確認すべき警備会社特有の公開情報はありますか
自社サイトの標識情報(認定番号等、2024年4月施行の警備業法改正で義務化)と、都道府県公安委員会の行政処分公表ページ(過去3〜5年分)の2つが、商談前リサーチで確認しておきたい基本情報です。
まとめ
警備業の経営課題は、①深刻な高齢化と若手不足②人手不足を主因とする倒産の急増③賃金・処遇改善が待ったなしの経営圧迫要因④機械警備・DXへのシフト圧力⑤教育・法令遵守コストの上昇⑥多重下請構造と価格競争、という6パターンに整理できます。業者数・警備員数・売上高がいずれも過去最多を更新する拡大局面にありながら、倒産も同時に過去最多ペースで進んでいるという一見矛盾した動きの背景には、高齢化と公共工事設計労務単価の急上昇に価格転嫁が追いつかない構造があります。個社の状況を決めつけず、業務区分・元請けか下請けか・機械警備投資の有無・標識情報の公開状況といった一次情報で仮説を検証しながら商談準備を進めることが、決裁者に届く提案につながります。