結論から: 訪問看護ステーションは全国訪問看護事業協会の調査によると2025年4月1日時点で全国18,754ヶ所に達し、2012年以降ほぼ毎年前年比7〜10%増のペースで拡大を続け、15年で約3倍に急増した数少ない成長カテゴリです。ところが厚生労働省「介護事業経営概況調査」(令和7年度調査、令和6年度決算ベース)によると、事業所全体の38.2%が赤字で、収支差率も10.3%と前年度の11.9%から1.6ポイント低下しています。「増えているのに儲からない」という一見矛盾する構造が、いま経営現場を悩ませています。加えて看護師の採用難、2024年度診療報酬改定による大規模化・機能強化型シフトへの対応負荷、記録・レセプト業務のアナログ運用によるDX遅れ、後継者不在による事業承継の停滞という課題も重なっています。本記事ではこれらを6パターンに整理して解説します。

訪問看護ステーション業界で何が起きているか、まず全体像をつかむ

中小企業に共通する経営課題の型(人手不足・後継者不在・DXの遅れなど)は経営課題の見つけ方|中小企業10パターンで整理した通りです。訪問看護ステーションには、医療保険(訪問看護療養費)と介護保険(訪問看護費)の両制度にまたがって運営されるという独自の構造があり、利用者の状態や年齢によって適用される保険制度が切り替わります。介護福祉業の経営課題6選で扱った介護保険サービス全般、診療所・クリニックの経営課題6選で扱った医科診療所とは、それぞれ統計系統(全国訪問看護事業協会の「訪問看護ステーション数調査」という訪問看護独自の集計)や許認可区分が異なる点で経営課題の構造が変わってきます。まずは事業所数の伸び率と収支データという2つの一次データから、業界全体で何が起きているかを数字で押さえます。

一次データで見る現状

全国訪問看護事業協会「令和7年度 訪問看護ステーション数調査結果」によると、事業所数は2025年4月1日時点で全国18,754ヶ所に達しました。同協会の調査では2012年以降ほぼ毎年前年比7〜10%増のペースで拡大を続けており、介護保険サービスの中でも数少ない成長カテゴリと言えます(出典)。市場自体が伸びているという点は、他の多くの介護保険サービスが微増・横ばいで推移する中で際立った特徴です。

ところがこの成長を裏付けにくくするように、厚生労働省「介護事業経営概況調査」(令和7年度調査、令和6年度決算ベース)では、訪問看護ステーションの収支差率は10.3%で、前年度の11.9%から1.6ポイント低下したと報じられています。同調査では赤字事業所の割合が38.2%に達しており、事業所数が伸び続ける一方で、実際の経営は決して楽ではない実態が浮かび上がります(出典)。この背景には、看護師の人件費・訪問用車両の維持費・事務所家賃といった固定費が先行しやすい一方、小規模な事業所ほど訪問件数を十分に確保できず採算が悪化しやすいという構造があると考えられます。決算書の粗利率・固定費比率を確認する視点は決算書の読み方|営業が5分で掴む3指標で解説しています。

訪問看護ステーションの経営課題、主要な6パターン

ここからは、確認できる一次データと、複数の情報源で数値に差がある部分・一次統計が未確認の部分を区別しながら、訪問看護ステーションに特有の経営課題を6パターンに整理します。

①深刻な看護師不足と採用難

訪問看護は利用者宅を看護師一人で訪問し、その場で医療的な判断を下す場面が多い働き方です。看護師の有効求人倍率について、複数の報道は訪問看護分野が一般病院(1.80倍程度)等の水準を上回ると伝えていますが、具体的な倍率は出典によって3.22倍・4.54倍等の差があり「諸説あり」の状態です(出典)。いずれの数値を採っても、即戦力人材の獲得競争が業界共通の課題であることは変わりません。求人票での研修体制・同行訪問期間・オンコール体制の記載は、採用力の差を見立てる手がかりになります。

②小規模事業所の高い赤字率と二極化経営

厚生労働省「介護事業経営概況調査」(令和7年度調査、令和6年度決算ベース)では、訪問看護ステーションの赤字事業所割合は38.2%、収支差率は10.3%で前年度の11.9%から1.6ポイント低下しました。看護師の人件費・移動用車両の維持費・事務所家賃といった固定費が先行しやすく、訪問件数を十分に確保できない小規模事業所ほど赤字化しやすい構造があると考えられます。相手先の事業所規模(看護師数・拠点数)や開設からの年数は、採算構造を見立てる際の手がかりになります。

③24時間対応・機能強化型シフトへの対応負荷

2024年度の診療報酬・介護報酬同時改定では、24時間対応や重症度の高い利用者の受け入れなどの要件を満たす「機能強化型訪問看護管理療養費」の単価が引き上げられ、大規模化・高機能化を促す政策誘導が強まっています(出典)。人員配置基準を満たせる大規模ステーションと、看護師数が限られ加算要件を満たしにくい小規模ステーションとの間で、対応できる範囲の差が拡大していると考えられます。機能強化型の届出有無は、経営体力を見立てる手がかりの一つです。

④記録・レセプト業務のアナログ運用によるDX遅れ

紙の記録や電話連絡を中心とした運用が残る事業所は少なくないと見られます。全国訪問看護事業協会は「訪問看護ステーションのDX・ICT推進のためのサポートブック」を発行しており(出典)、2024年度には訪問看護医療DX情報活用加算が新設されるなど、政策的にICT化を後押しする動きが進んでいます。ただし業界全体のICT導入率を示す一次統計は確認できておらず、この点は「要検証」として扱います。記録ソフト・レセコンの利用状況や求人票での「ICT化推進中」等の記載は、DX対応度を推測する手がかりになります。

⑤訪問系サービス全体の淘汰圧力

東京商工リサーチの調査によると、2025年の介護事業者の倒産は176件で2年連続過去最多、休廃業・解散は653件で4年連続過去最多に達しました(出典、出典)。ただしこの集計は主に訪問介護(ホームヘルパー)区分が中心とみられ、訪問看護単体の倒産件数を示す明確な一次データは確認できていません。訪問看護と訪問介護は制度上別のサービスであり単純に同一視すべきではありませんが、介護報酬改定や物価高という構造要因は訪問看護にも共通して及んでいると考えられます。

⑥後継者不在による事業承継の停滞

帝国データバンクの調査によると、医療業の後継者不在率は61.8%で、全業種平均の50.1%より高い水準にあります(出典)。この数値は訪問看護単体ではなく「医療業」区分の集計である点に留意が必要ですが、小規模・個人経営に近い形態のステーションが多い業界特性を踏まえると、休廃業リスクの一因として参考になる数字です。代表者の年齢構成や法人登記の動きは、事業承継の緊急度を見立てる手がかりになります。

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商談前に見ておきたい訪問看護ステーション業界特有の公開情報

訪問看護ステーション業界の企業(法人・事業所)をリサーチする際は、中小企業に共通する求人票・決算・ニュースリリースに加えて、次のような業種特有の情報源も確認しておくと、事業所数急増と赤字4割弱が同時進行する業界構造の中で相手事業所の立ち位置を見立てやすくなります。

  • 全国訪問看護事業協会「訪問看護ステーション数調査結果」: 全国・地域単位の事業所数推移を確認できる。
  • 厚生労働省「介護事業経営概況調査」: 収支差率・赤字事業所割合など経営実態の一次データ。
  • 厚生労働省「訪問看護療養費実態調査」: 医療保険側の給付実態を確認できる。
  • 東京商工リサーチの介護事業者倒産・休廃業レポート: 訪問介護区分が中心のため訪問看護と混同せず参考情報として確認する。
  • 対象法人の運営規模: 単独拠点か、機能強化型の届出があるか、複数拠点の大規模化法人か。
  • 看護師求人の状況: 求人票での待遇・研修体制・オンコール体制の記載から採用力を見立てる。
  • 直近の診療報酬・介護報酬改定への対応状況: 機能強化型加算・訪問看護医療DX情報活用加算の取得有無。
  • 記録ソフト・レセコンの利用状況: ICT化への取り組み度合いを確認する手がかり。

事業所数が15年で約3倍に急増する一方、事業所の38.2%が赤字という一見矛盾する構造を持つ訪問看護ステーション業界だからこそ、「成長市場だから経営も安定している」という業界全体のイメージだけで相手事業所の経営状態を判断するのは危険です。会社名を入力するだけで公開情報を横断し、経営課題・提案システム・ROI・想定反論まで出典付きで自動リサーチできるZEROSYSリサーチのようなツールを使えば、こうした業種特有の当たりをつける作業を効率化できます。具体的な質問への落とし込み方は初回商談の質問リスト30選【業種別】で解説していますので、あわせて活用してください。仮説の立て方は仮説営業とは|仮説構築の4ステップと立て方もご参照ください。

よくある質問

訪問看護ステーションの数は今も増えていますか?

はい、全国訪問看護事業協会の調査によると2025年4月1日時点で全国18,754ヶ所に達し、2012年以降ほぼ毎年前年比7〜10%増のペースで拡大を続けています。15年間で見ると事業所数は約3倍に急増しています。

訪問看護ステーションの経営は儲かっているのですか?

収支差率は他の介護サービス平均より高いとされる一方、厚生労働省「介護事業経営概況調査」(令和6年度決算ベース)によると赤字事業所は38.2%に達しており、事業所間の格差(二極化)が大きいのが実態です。収支差率自体も前年度の11.9%から10.3%へ低下しています。

訪問看護の人手不足はどれくらい深刻ですか?

看護職員の有効求人倍率は一般病院より高い水準にあると複数の調査・報道が伝えていますが、具体的な倍率は調査により3.22倍・4.54倍等の差があり「諸説あり」の状態です。最新の一次データでの確認が必要です。

訪問看護ステーションはどんな法改正の影響を受けていますか?

2024年度の診療報酬・介護報酬同時改定で、機能強化型訪問看護管理療養費の単価引き上げ、訪問看護医療DX情報活用加算の新設等が行われました。いずれも大規模化・ICT化を促す方向の改定です。

まとめ

訪問看護ステーション業の経営課題を整理すると、①深刻な看護師不足と採用難②小規模事業所の高い赤字率と二極化経営③24時間対応・機能強化型シフトへの対応負荷④記録・レセプト業務のアナログ運用によるDX遅れ⑤訪問系サービス全体の淘汰圧力⑥後継者不在による事業承継の停滞という6パターンが浮かび上がります。他業種と大きく異なるのは、事業所数が15年で約3倍に急増し数少ない成長カテゴリとされる一方で、事業所の38.2%が赤字という一見矛盾する需給構造です。看護師の採用難と固定費の重さが小規模事業所の採算を圧迫する一方、2024年度改定は大規模化・機能強化型への対応力がある事業所をさらに後押ししており、事業所間の格差は今後も広がる可能性があります。運営規模・機能強化型加算の取得有無・ICT化の状況・後継者の有無・決算書といった一次情報を一件ずつ確認しながら仮説を立てることが、成長と赤字が同居する訪問看護ステーションのような業種においては、決裁者に届く提案への一番の近道になります。

参考情報: 全国訪問看護事業協会「令和7年度 訪問看護ステーション数調査結果」 / 厚生労働省「介護事業経営概況調査」(報道経由) / 訪問看護求人倍率報道(日本看護協会調査引用) / メディヴァ「2024年度診療報酬改定(訪問看護編)のポイント」 / 全国訪問看護事業協会「訪問看護ステーションのDX・ICT推進のためのサポートブック」 / 東京商工リサーチ「2025年『介護事業者』倒産 過去最多の176件」 / 東京商工リサーチ「2025年『介護事業者』の休廃業・解散653件」 / 帝国データバンク「1分でわかる!後継者不在の現状」