技術士事務所を「士業」と同じ型で見ない理由
中小企業に共通する経営課題の型(人手不足・後継者不在・DXの遅れなど)は経営課題の見つけ方|中小企業10パターンで整理した通りです。ただし技術士は、士業全般や公認会計士のように「この業務は有資格者しかできない」という業務独占がありません。技術士法第2条は、技術士を「科学技術に関する高等の専門的応用能力を必要とする事項についての計画、研究、設計、分析、試験、評価又はこれらに関する指導の業務」を行う者と定め、他の法律でその業務が制限されているもの(建築の設計や医療など)は除かれます。守られているのは名称で、技術士でない者が「技術士」またはこれに類似する名称を使うことは第57条第1項で禁止されています。つまり技術士事務所の売上は、資格そのものより、受託できる専門領域・発注者との関係・案件の入り口で決まる構造です。商談前に、相手が個人の技術士事務所か、技術士を抱えるコンサルタント会社かを区別することが出発点になります。
業界の全体像を数字で見る
技術士試験の事務は、文部科学大臣から指定を受けた公益社団法人日本技術士会が行っています(試験・登録の指定機関)。同会の技術士制度についての資料(令和8年度)と、文部科学省の試験結果から次の数字が確認できます。
- 登録者(令和7年12月末): 技術士は約10万4千名、技術士補は約4万9千名。技術士のうち約45%が建設部門で、次いで上下水道・機械・電気電子・総合技術監理の各部門が比較的多いとされています。
- 業態別: 一般企業等(コンサルタント会社含む)が約80%、官公庁・法人等が約12%、自営が約8%。約10万4千名の約8%は約8,300人にあたります(概数同士の掛け算の目安・当社計算)。
- 第二次試験(技術士になるための試験): 令和7年度は申込30,700人、筆記受験者24,135人、最終合格者2,752人で、対受験者の合格率は11.4%でした。令和5〜7年度の最終合格者は2,690人・2,395人・2,752人です。
- 第一次試験(技術士補になる資格): 令和7年度(文部科学省)は申込22,756人、受験者17,013人、合格者5,754人(合格率33.8%)で、前年度の合格者6,233人から7.7%減(当社計算)でした。
なお、登録者数は資格を登録している人数であり、技術士としての稼働量・独立の有無・売上を示すものではありません。また、登録者数(約10万4千名)と第二次試験の累計合格者数(昭和33年度〜令和7年度で141,180人)には差がありますが、複数部門の合格・未登録・物故などが混在し、日本技術士会の資料からは内訳が読み取れないため、本稿では差の理由を断定しません。
技術士事務所の経営課題、主要な6パターン
ここからは、技術士事務所に特有の経営課題を6パターンに整理します。それぞれ、公開情報のどこにサインが出やすいかもあわせて紹介します。
①名称独占で業務独占がない、という収益構造
技術士には業務特権(法律上技術士でなければできない業務)がありません。その一方で、日本技術士会の資料によれば、技術士は建設業法の営業所の専任技術者、建設コンサルタントや地質調査業者の登録に必要な専任技術管理者、公共下水道の設計・工事監督管理を行う者など、複数の公的制度で有資格者として認められ、一部の資格試験は一部または全部が免除されます。需要は資格そのものよりも、これらの制度や発注の仕組みの中での「求められる場面」に左右されやすい構造と読めます。事務所の公式サイトでは、得意分野の表現、対応する公共案件・民間案件の別、技術士以外の資格(測量士、RCCM、一級施工管理技士など)の組み合わせがサインになります。
②建設部門への集中と、公共事業・発注動向への依存
登録者の約45%が建設部門です。令和7年度の第二次試験でも、筆記受験者21,560人(総合技術監理を除く)のうち建設部門は14,094人で65.4%、第一次試験でも受験者17,013人のうち建設部門が8,905人で52.3%を占めます(いずれも当社計算・各試験の受験者を母数とした割合)。同じ部門の技術士が多いほど、特定の発注者・工種に営業が偏りやすく、競合も同じ領域に集まりやすくなります。個人事務所の場合は、国や自治体の発注動向・入札参加資格・下請関係の変化が経営に直結する可能性があります。ここでは、部門別の事務所数や売上は一次統計を確認できていないため数値化していません。事務所の得意部門、元請・下請の別、受託元の種類が手がかりになります。
③企業所属が約8割、独立事務所は少数という在籍構造
業態別で自営は約8%にとどまり、約80%は一般企業等(コンサルタント会社含む)に所属しています。独立した技術士事務所は少数派で、代表者個人の経験・人脈・体力に事業が乗りやすい構造です。個人事務所では、代表者が受注・設計や調査・報告書作成・経理まで担う体制になりがちで、代表者の年齢や承継の有無が事業の連続性に直結します。なお、技術士の年齢構成や承継に関する統計は今回確認できていないため数値化していません。事務所の沿革、代表者の経歴、協業先(他の技術士・測量会社など)に関する発信がサインになります。
④資格取得に時間がかかる育成構造(試験と実務経験)
技術士になるには、第二次試験に合格し、登録を受ける必要があります(技術士法第4条・第32条)。日本技術士会の資料では、第二次試験の受験にあたり、指導技術士の下での4年を超える実務経験、職務上の監督者の下での4年を超える実務経験、または7年を超える実務経験のいずれかの経路が示されています。令和8年度の第二次試験の受験手数料は20,500円(非課税)、登録には登録免許税30,000円と登録手数料8,100円(計38,100円・当社計算)が必要です。令和7年度の最終合格率は11.4%で、筆記試験の合格者2,957人から口頭試験を経て最終合格者は2,752人です(当社比較)。部門別の筆記合格率も、建設9.8%、電気電子11.4%、情報工学4.4%と開きがあります。受験者が増えて(第二次の申込は令和5年度の29,508人から令和7年度の30,700人へ4.0%増・当社計算)も、最終合格者は令和5年度の2,690人から令和7年度の2,752人へ2.3%増にとどまり(当社計算)、事務所側は育成と受験支援に時間を要する構造です。
⑤登録部門の明示義務と、営業・受託範囲の制約
技術士は、業務に関して技術士の名称を表示するときは、登録を受けた技術部門を明示するものとし、登録を受けていない技術部門を表示してはなりません(第46条)。技術部門は機械、電気電子、建設、上下水道、情報工学など20の部門と総合技術監理部門に分かれており、事務所の対外的な表示は登録部門に縛られます。複数部門を扱いたい場合は、別部門の試験に合格して登録を追加するか、他の技術士と協業する形になります。商談前には、相手の登録部門と選択科目、複数部門の登録の有無、協業先の技術士の存在を確認しておくと、対応できる案件の範囲を推測しやすくなります。
⑥守秘・信用・報酬の規律と、継続的な資質向上
技術士法は、信用失墜行為の禁止(第44条)、業務上知り得た秘密の漏洩・盗用の禁止(第45条。違反は1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金、第59条。なお告訴がなければ公訴提起されない親告罪)、公共の安全・環境の保全その他の公益を害しないよう努める責務(第45条の2)、知識・技能の水準向上など資質向上に努める責務(第47条の2)を定めています。報酬については、第56条が「公正かつ妥当なものでなければならない」としています。これらに違反した場合は、文部科学大臣が登録を取り消し、または2年以内の名称使用停止を命じることができます(第36条第2項)。秘密情報を扱う案件が多い事務所ほど、情報管理の運用と、資質向上(継続研修)の記録・管理が経営上の負担になりえますが、負担の大きさは事務所によって異なり、一概には言えません。報酬水準や処分の実績は一次統計を確認していないため扱いません。
商談前に見ておきたい技術士事務所特有の公開情報
技術士事務所をリサーチする際は、中小企業に共通する求人票・ニュースリリースに加えて、次のような業種特有の情報源も確認しておくと、経営課題の当たりをつけやすくなります。
- 登録部門と選択科目: 公式サイトの代表者プロフィール、名刺・事務所案内に記載された技術部門の表示(第46条の表示義務に沿っているか)。
- 形態と規模: 個人事務所か、複数の技術士による共同事務所か、法人化しているか。協業先や外部の技術士・測量士・設計者との連携。
- 得意領域と発注者: 公共(国・自治体・インフラ事業者)か民間か、元請か下請か、調査・設計・施工管理・技術指導などの業務の別。
- 入札・登録: 国や自治体の入札参加資格、建設コンサルタント登録・測量業登録などの有無(別制度のため、各公式の登録簿で確認)。
- 承継・拠点: 代表者の経歴・年齢、事務所の沿革、拠点追加や後継者に関する発信。
これらを一件ずつ手作業で調べるとかなりの時間がかかりますが、会社名を入力するだけで公開情報を横断し、経営課題・提案システム・ROI・想定反論まで出典付きで自動リサーチできるZEROSYSリサーチのようなツールを使えば、当たりをつける作業そのものを効率化できます。隣接する分野の測量業・建設コンサルタント、建築設計事務所、公認会計士事務所・監査法人の記事もあわせて確認すると整理しやすくなります。具体的な質問への落とし込み方は初回商談の質問リスト30選【業種別】で解説していますので、あわせて活用してください。決算書から利益率の傾向を掴む視点は決算書の読み方|営業が5分で掴む3指標を参照してください。
よくある質問
技術士は全国に何人いますか?
日本技術士会の資料(令和8年度版)によると、令和7年12月末現在の技術士登録者数は約10万4千名、技術士補の登録者数は約4万9千名です。約45%が建設部門です。
技術士の第二次試験の合格率はどれくらいですか?
令和7年度は受験申込者30,700人、受験者24,135人に対して最終合格者は2,752人で、対受験者の合格率は11.4%でした。総合技術監理部門とそれ以外の部門(総合技術監理を除く)で合格率は異なります(令和7年度の最終合格は総合技術監理が584人・22.7%、それ以外が2,168人・10.1%)。
技術士でなければできない業務はありますか?
技術士法では、技術士でなければできない業務(業務独占)は定められておらず、「技術士」の名称の使用だけが法律で制限されています(第57条第1項)。一方で、建設業法の専任技術者などの公的制度では、技術士が有資格者として認められています。
技術士事務所を独立して開くのに必要な登録はありますか?
技術士になるには、第二次試験に合格したうえで、技術士登録簿への登録(第32条)が必要です。事務所の名称・所在地も登録事項になります。なお、建設コンサルタントや測量業などの別制度の登録が必要かどうかは、行う業務により異なるため、各制度の公式情報で確認が必要です。
まとめ
技術士事務所の経営課題は、①名称独占で業務独占がない収益構造②建設部門への集中と発注動向への依存③企業所属が約8割・独立が少数という在籍構造④試験と実務経験に時間がかかる育成構造⑤登録部門の明示義務と受託範囲の制約⑥守秘・信用・報酬の規律と継続的な資質向上、という6パターンに整理すると、公開情報から当たりをつけやすくなります。登録者は約10万4千名、うち建設部門が約45%、自営は約8%、令和7年度の第二次試験の最終合格率は11.4%です。独立事務所の数や報酬水準、承継の状況など統計で確認できない部分は決めつけず、登録部門・形態・得意領域・発注者・承継といった一次情報を確認しながら商談準備を進めることが、決裁者に届く提案につながります。