中小企業に共通する経営課題の型(人手不足・後継者不在・DXの遅れなど)は経営課題の見つけ方|中小企業10パターンで整理した通りです。この記事で扱うのは、老人福祉法に定める老人福祉施設のうち、養護老人ホームと軽費老人ホーム(ケアハウスなど)です。同じ「高齢者が暮らす施設」でも、届出制で前払金などが論点になる有料老人ホームや、介護保険の指定を受けて運営する介護福祉事業とは入所の仕組みも基準も違うため、先に区別します。
養護老人ホーム・軽費老人ホームは何をする施設か
老人福祉法第20条の4は、養護老人ホームを、第11条第1項第1号の措置に係る者を入所させて養護するとともに、その者が自立した日常生活を営み、社会的活動に参加するために必要な指導及び訓練その他の援助を行う施設と定めています。第20条の6は、軽費老人ホームを、無料又は低額な料金で、老人を入所させ、食事の提供その他日常生活上必要な便宜を供与する施設と定めています。どちらも同法第5条の3が挙げる老人福祉施設です。
養護老人ホームへの入所は、施設との直接契約ではなく措置です。第11条第1項第1号は、市町村が、65歳以上で、環境上の理由及び経済的理由(政令で定めるもの)により居宅において養護を受けることが困難な者を、市町村の設置する養護老人ホームに入所させ、または市町村以外の者が設置する養護老人ホームへの入所を委託するとしています。政令(老人福祉法施行令第6条)の経済的理由は、世帯が生活保護を受けていること、本人と生計維持者に市町村民税の所得割がないこと、災害その他の事情で世帯の生活が困窮していると認められること、の3つです。費用は市町村が支弁し(第21条)、本人や扶養義務者から負担能力に応じて徴収することができます(第28条)。つまり入所の窓口は市町村で、施設が利用者を募集する一般の民間サービスとは意思決定の構造が違います。
軽費老人ホームの設備及び運営に関する基準(厚生労働省令。以下「基準」)は、対象者を、身体機能の低下等により自立した日常生活を営むことについて不安があると認められる者で家族による援助を受けることが困難な者とし、原則60歳以上としています(第13条)。入所の際は運営規程の概要などを記した文書を交付して説明し、文書により契約を締結します(第12条)。養護老人ホームが措置であるのに対し、軽費老人ホームは契約による入所という違いが条文から読み取れますが、実際の費用の徴収の仕組みは今回確認しておらず、要検証です。
業界の全体像を数字で見る
厚生労働省の「社会福祉施設等調査」(各年10月1日現在)の概況の総括表から、次の数字が分かります。従事者は常勤換算で、小数点以下第1位を四捨五入した数です。
- 養護老人ホームの施設数: 令和2年から令和6年まで948、941、932、922、918施設と毎年減り、30施設(約3.2%)減りました(当社計算)。内訳は一般が896から866、盲が52のままです。
- 養護老人ホームの定員・在所者: 定員は62,958人から59,812人へ3,146人(約5.0%)減り、在所者は55,696人から50,543人へ5,153人(約9.3%)減りました(当社計算)。在所者を定員で割ると、令和2年は約88.5%、令和6年は約84.5%で、定員の減少より在所者の減少が大きく、空きが広がっています(参考値)。
- 養護老人ホームの従事者: 17,179人から15,949人へ1,230人(約7.2%)減りました。在所者1人当たりの従事者は約0.31人から約0.32人で、ほぼ横ばいです(当社計算の参考値)。
- 軽費老人ホームの施設数: 2,321、2,330、2,330、2,337、2,331施設と、令和2年から10施設(約0.4%)増の横ばいです。内訳は、令和2年→令和6年でA型190→187、B型13→11、ケアハウス2,034→2,037、都市型軽費老人ホーム84→96です。
- 軽費老人ホームの定員・在所者: 定員は95,421人から94,963人へ約0.5%減、在所者は88,694人から86,325人へ2,369人(約2.7%)減りました(当社計算)。在所者を定員で割ると、令和2年は約93.0%、令和6年は約90.9%です(参考値)。
- 軽費老人ホームの従事者: 22,419人から21,740人へ679人(約3.0%)減りました。在所者1人当たりの従事者は約0.25人で変わりません(当社計算の参考値)。
- 軽費老人ホームの内訳の動き: ケアハウスの施設数は軽費老人ホームの約87.4%(2,037÷2,331、当社計算)を占めます。A型は施設・定員・在所者とも減少し、B型は13施設から11施設へ、在所者は393人から328人へ減りました。一方、都市型軽費老人ホームは84施設から96施設、在所者は1,423人から1,626人へ増えています(当社計算で施設数は約14.3%増)。
数字の読み方には注意が必要です。令和6年の参考表1では、詳細票の回収率は養護老人ホームが92.7%(調査客体919に対し回収852)、軽費老人ホームが91.5%(調査客体2,333に対し回収2,134)でした。定員・在所者・従事者は詳細票による調査の集計で、回収されなかった施設の分は含まれず、施設数(基本票)とは集計の範囲が異なります。令和2年の施設数と令和6年の施設数の差も、集計範囲の違いを含む可能性があります。国・都道府県・市町村・社会福祉法人といった運営主体別の施設数、措置費・運営費の水準、措置による入所者の人数や年齢・要介護度は、今回確認した統計に含まれていません。
養護老人ホーム・軽費老人ホームの経営課題、主要な6パターン
ここからは、上の数字と法令の条文を踏まえ、経営課題を整理します。措置費の水準などは今回確認できていないため、確認できた範囲に絞り、断定を避けます。個々の施設の状況は個別に確認が必要です。
①養護老人ホームは在所者が定員より大きく減り、在所率は約84.5%
養護老人ホームは、定員が令和2年から約5.0%減ったのに対し、在所者は約9.3%減り、在所者を定員で割った値は約88.5%から約84.5%へ下がりました。従事者も約7.2%減っていますが、在所者の減少ほどではなく、在所者1人当たりの従事者は約0.31人から約0.32人と横ばいです。1施設当たりの定員は約66人です(当社計算)。入所は措置のため、空きを施設が自力で埋める余地は一般の民間サービスより限られると考えられますが、措置の判断や入所判定の運用は市町村ごとに異なり、今回確認しておらず、要検証です。減少の背景(措置を受ける対象者の変化、他の住まいの選択肢の増加など)は統計から分からず、要検証です。
②入所の窓口は市町村:措置と契約のどちらかで収入の構造が違う
養護老人ホームの入所は、老人福祉法第11条の措置で、費用は市町村が支弁します。施設の収入は、利用者との契約料金ではなく、措置に基づく費用に依存する構造と考えられますが、措置費の水準・算定方法・財源の扱いは今回確認しておらず、要検証です。経済的理由は施行令第6条で、生活保護世帯・所得割のない者・災害など困窮の事情の3類型に限られています。軽費老人ホームは文書による契約で入所し、料金は無料又は低額とされています(第20条の6)。同じ老人福祉施設でも、措置の施設と契約の施設で、営業先(市町村か入所者・家族か)と収入の安定性の考え方が異なります。軽費老人ホームの利用料や、A型・B型の利用料に関する基準は、附則に別途の定めがあります(附則第7条・第15条)。
③軽費老人ホームは施設数が横ばいでも、在所者は減り、類型ごとに動きが違う
軽費老人ホームは、施設数が令和2年の2,321から令和6年の2,331とほぼ横ばいで、定員も約0.5%減にとどまる一方、在所者は約2.7%減り、在所者を定員で割った値は約93.0%から約90.9%へ下がりました。類型別では、ケアハウスが施設数の約87.4%を占めて安定している反面、A型は施設・在所者とも減り、B型は在所者が393人から328人へ減っています(B型の在所率は約66.7%、当社計算)。都市型軽費老人ホームは入所定員が20人以下と定められ(基準第35条)、施設数が84から96へ増えました。A型・B型は基準の附則で「経過的軽費老人ホーム」として都道府県知事が指定するものとされ(附則第2条)、新設の基準とは別に扱われています。減少の背景は統計から分からず、要検証です。
④職員の基準は事業の形で違い、従事者は減っている
養護老人ホーム基準第12条は、施設長1、医師(必要な数)、生活相談員(常勤換算で入所者30人又はその端数ごとに1以上)、支援員(同じく一般入所者15人又はその端数ごとに1以上)、看護職員(同じく入所者100人又はその端数ごとに1以上)、栄養士又は管理栄養士1以上などを定めています。ここでの一般入所者は、特定施設入居者生活介護などの提供を受けていない入所者を指します。軽費老人ホーム基準第11条は、施設長1、生活相談員(入所者120人又はその端数ごとに1以上)、介護職員(一般入所者30人以下で常勤換算1以上、30人超80人以下で2以上、80人超は2に実情に応じた適当数を加えた数)、栄養士又は管理栄養士1以上、事務員1以上などを定めています。従事者は養護老人ホームで約7.2%、軽費老人ホームで約3.0%減っていますが、職種や常勤・非常勤の内訳は統計から分からず、要検証です。これらは国の省令の基準で、都道府県は老人福祉法第17条や社会福祉法第65条により、職員の員数と居室の床面積などは省令に従い条例で基準を定めるため、実際の員数は条例で確認が必要です。
⑤居室の面積と定員が決まっており、古い建物の改修が論点になりうる
養護老人ホーム基準第11条は、居室を入所者1人当たり10.65平方メートル以上、地階に設けず、一の居室の定員は1人(入所者への処遇上必要な場合は2人)とします(第13条)。軽費老人ホーム基準第10条は、居室の床面積を21.6平方メートル以上(洗面所・便所・収納設備・簡易な調理設備を除いた有効面積は14.85平方メートル)、居室の定員は原則1人とし、10程度の居室と共同生活室で構成する区画では居室の床面積を15.63平方メートル以上とする特例を定めています。居室が2階以上にある場合はエレベーターの設置も求められます。建物は原則として耐火建築物または準耐火建築物で、一定の要件を満たす木造平屋建ては例外です(いずれも第11条・第10条)。こうした基準に対し、既存施設の築年数や改修・建替えの状況、費用負担は統計から分からず、要検証です。なお経過的軽費老人ホームの基準は附則に別に定められています。
⑥設置は社会福祉法人の認可が中心で、第一種社会福祉事業として参入は限られる
老人福祉法第15条は、養護老人ホームについて、都道府県は設置できるほか、市町村と地方独立行政法人は都道府県知事への届出により、社会福祉法人は都道府県知事の認可を受けて設置できるとしています(第3項・第4項)。知事は、区域の入所定員の総数が都道府県老人福祉計画の必要入所定員総数に既に達しているか、設置によりこれを超えると認めるときなど、計画の達成に支障を生ずるおそれがあるときは、認可をしないことができます(第6項)。軽費老人ホームは、国及び都道府県以外の者が社会福祉法の定めるところにより設置できます(第5項)。さらに、社会福祉法第2条第2項第3号は、養護老人ホーム・特別養護老人ホーム・軽費老人ホームを経営する事業を第一種社会福祉事業とし、第60条は第一種社会福祉事業を国、地方公共団体または社会福祉法人が経営することを原則と定めています。国、都道府県、市町村及び社会福祉法人以外の者が社会福祉施設を設置するには、都道府県知事の許可が必要です(第62条第2項)。届出で開設できる有料老人ホームとは、参入の経路が異なります。国・自治体・社会福祉法人・その他の設置主体別の施設数は今回確認しておらず、要検証です。
商談前に見ておきたい養護老人ホーム・軽費老人ホーム特有の公開情報
これらの施設を運営する法人や自治体に営業やヒアリングを行う前に、次のような公開情報を確認しておくと、論点を絞りやすくなります。入所者個人が特定される情報は、公開情報であっても取り扱いに十分注意が必要です。
- 設置・運営主体: 市町村立か、社会福祉法人か、公設民営か。法人の公表資料(事業報告・財務諸表)や自治体の資料で確認します。
- 養護か軽費か、軽費の類型: 養護老人ホーム(一般・盲)か、軽費老人ホームのA型・B型・ケアハウス・都市型か。類型で基準と収入の構造が違います。
- 定員と在所の状況: 定員、在所者数(在所率)、待機の状況。公表の有無は施設や自治体で異なります。
- 職員体制: 生活相談員・支援員(養護)・介護職員(軽費)・看護職員・栄養士の配置、求人の状況。
- 介護サービスとの関係: 入所者が特定施設入居者生活介護などの提供を受けているか、外部の介護サービスを利用しているか(施設の指定の有無は今回確認しておらず、要検証)。
- 処遇計画・記録・身体拘束の管理: 養護老人ホームの処遇計画(基準第15条・第16条)、軽費老人ホームのサービス提供の記録(基準第15条・第17条)、身体的拘束等の記録と適正化の措置の運用。紙かデジタルかなど内部の運用は公開されないことが多く、ヒアリングで確認する項目です。
これらを一件ずつ手作業で調べるとかなりの時間がかかりますが、会社名を入力するだけで公開情報を横断し、経営課題・提案システム・ROI・想定反論まで出典付きで調べられるZEROSYSリサーチのようなツールを使えば、当たりをつける作業そのものを効率化できます。調査は1社あたり10〜15分程度で、そのまま提案書のたたき台にできる形で出力されます。
よくある質問
養護老人ホームは全国にいくつありますか?
厚生労働省の令和6年社会福祉施設等調査(令和6年10月1日現在)では918施設で、令和2年の948施設から約3.2%減っています。定員は59,812人、在所者は50,543人で、在所者を定員で割ると約84.5%です。軽費老人ホームは2,331施設で、うちケアハウスが2,037施設です。
養護老人ホームと軽費老人ホームの違いは何ですか?
養護老人ホームは、老人福祉法第11条第1項第1号の措置に係る者(65歳以上で、環境上の理由と経済的理由により居宅で養護を受けることが困難な者)を入所させる施設です(第20条の4)。軽費老人ホームは、無料又は低額な料金で老人を入所させ、食事の提供その他日常生活上必要な便宜を供与する施設で(第20条の6)、基準では、身体機能の低下等により自立した生活に不安があり、家族による援助が困難な者が対象です(基準第2条・第13条)。
養護老人ホームには、誰でも入所を申し込めますか?
いいえ。入所は市町村の措置で、対象は65歳以上で、環境上の理由と、政令で定める経済的理由のある方です。経済的理由は、世帯が生活保護を受けている、本人と生計維持者に市町村民税の所得割がない、災害などで生活が困窮している、のいずれかです(施行令第6条)。具体的な手続は市町村の窓口でご確認ください。
軽費老人ホームとケアハウスは同じですか?
厚生労働省の統計の区分では、軽費老人ホームはA型・B型・ケアハウス・都市型軽費老人ホームに分かれ、ケアハウスは軽費老人ホームの内訳のひとつです。基準省令の本則は軽費老人ホームの基準で、A型・B型は附則で経過的軽費老人ホームとして別に定められています。統計の「ケアハウス」と条文の区分の対応は条文に明記がなく、要検証です。
民間企業は養護老人ホームや軽費老人ホームを運営できますか?
養護老人ホームは、社会福祉法人が都道府県知事の認可を受けて設置するなどの規定があります(老人福祉法第15条)。社会福祉法上はどちらも第一種社会福祉事業で、国、地方公共団体または社会福祉法人が経営することが原則とされ(第60条)、それ以外の者が設置するには都道府県知事の許可が必要です(第62条第2項)。実際の審査や運用は都道府県ごとに異なる可能性があり、要検証です。
まとめ
養護老人ホーム・軽費老人ホームの経営課題は、①養護老人ホームは定員が約5.0%減る中で在所者が約9.3%減り、在所者を定員で割ると約84.5%になっていること②養護老人ホームの入所は老人福祉法第11条の市町村の措置で、軽費老人ホームの契約による入所とは収入と営業先の構造が異なること③軽費老人ホームは施設数が横ばいでも在所者が約2.7%減り、ケアハウスが約87.4%を占める一方でA型・B型は減り、都市型は増えていること④職員の基準は事業の形で違い、従事者は養護老人ホームで約7.2%減、軽費老人ホームで約3.0%減っており、実際の員数は都道府県の条例で確認すること⑤居室の面積と定員、建物の構造などの基準があり、既存施設の改修の状況は統計から分からないこと⑥設置は社会福祉法人の認可などが中心で、第一種社会福祉事業として民間の参入は限られること、の6つです。営業やヒアリングの前に、設置・運営主体、類型、定員と在所の状況、職員体制、自治体の公表情報を公開情報で確認しておくと、論点を絞って話ができます。措置費や運営主体別の内訳など今回確認できなかった項目は、公的な一次情報で必ずご確認ください。