結論から: ペット関連業(動物病院・ペットショップ)の経営課題は、「ペットブームで市場は伸びている」の一言では片付きません。矢野経済研究所の調査では2024年度のペット関連総市場規模は1兆9,108億円(前年度比+2.6%)と拡大が続いている一方、東京商工リサーチの分析では動物病院の倒産件数が2024年度5件→2025年度(4〜1月)8件と2年連続で過去最多を更新しています。市場全体の拡大と、個々の動物病院・ペットショップの経営難が同時に進行しているのが実態です。本記事ではペット関連業に特有の経営課題を6パターンに整理し、商談前リサーチでどこに着目すべきかを出典付きで解説します。

ペット関連業の経営課題を、なぜ「市場は伸びている」で片付けてはいけないのか

中小企業に共通する経営課題の型(人手不足・後継者不在・DXの遅れなど)は経営課題の見つけ方|中小企業10パターンで整理した通りです。ただしペット関連業は、業界団体・調査会社が発表する市場規模の数字だけを見ると拡大基調にあるため、「ペットブームだから個々の会社も安泰」という早合点をしやすい業種です。実際には、動物病院の倒産件数が2年連続で過去最多を更新し、獣医師や診療施設が都市部に偏る一方で改正動物愛護法への対応コストや飼育頭数の構造変化といった圧力が同時にかかっています。市場全体の成長と、個社が置かれている経営環境を切り分けて見る必要があります。

ペット関連業界の全体像を数字で見る

個別の課題に入る前に、業種全体の規模感を確認します。矢野経済研究所が2025年に発表した調査によると、2024年度の国内ペット関連総市場規模は前年度比2.6%増の1兆9,108億円でした(出典)。ペットフード・ペット用品だけでなく、動物病院での診療・ペットショップでの生体販売・トリミングやペットホテル等のサービスまでを含む市場全体の数字であり、拡大基調にあることが分かります。

飼育頭数の推移も見ておきます。一般社団法人ペットフード協会の「2025年全国犬猫飼育実態調査」によると、犬の飼育頭数は682万頭(前年679.6万頭)とほぼ横ばいで下げ止まりの兆しがある一方、猫は884.7万頭(前年915.5万頭)と減少しています。新規飼育頭数は犬45.1万頭・猫33.3万頭でした(出典)。市場全体の金額は拡大していても、飼育頭数そのものは犬猫で異なる動きをしている点に注意が必要です。

診療施設・獣医師の分布も確認します。農林水産省「都道府県別飼育動物診療施設の開設届出状況」(令和7年=2025年12月31日現在)によると、全国の飼育動物診療施設は17,200施設(産業動物4,154施設、小動物その他13,046施設)です(出典)。同資料の都道府県別内訳を独自に集計すると、東京1,933・神奈川1,168・大阪856・埼玉812・千葉740・愛知713・兵庫678・福岡460の上位8都府県だけで、小動物診療施設全体の56.4%(7,360/13,046)を占めています(原本表からの独自集計であり、資料そのものにこの構成比が明記されているわけではありません)。また農林水産省「獣医事をめぐる情勢」(令和6年2月)によると、獣医師総数は40,455人(令和4年時点)で、うち小動物診療に従事するのは16,541人(40.9%)、産業動物診療は4,460人(11.0%)にとどまり、新卒獣医師の45%程度が小動物診療を志望しています(出典)。

ペット関連業の経営課題、主要な6パターン

①動物病院の倒産急増(2年連続で過去最多を更新)

東京商工リサーチの分析によると、動物病院の倒産件数は2024年度の5件から2025年度(2026年1月までの4〜1月)は8件へ増加し、2年連続で過去最多を更新しました。1996〜2023年度の28年間で最多だったのは2012年度の3件で、直近2年間の水準がいかに突出しているかが分かります。同社は要因として、動物病院同士の競争激化、高度医療機器への投資負担、獣医師の高齢化と人手不足を挙げています(出典)。獣医師の高齢化が指摘される一方で、動物病院単体の後継者不在率を示す一次データは本記事執筆時点で確認できておらず(帝国データバンクの後継者不在率調査には「動物病院」「ペット」に該当する業種区分が存在しません)、後継者不足そのものは定性的な傾向として捉えるにとどめる必要があります。相手先の動物病院が単独診療か複数医師体制か、開業からの年数、設備投資の履歴は、この課題への切迫度を推測する手がかりになります。

②獣医師・診療施設の都市部偏在と、産業動物獣医師不足という裏返し

前述の通り、小動物診療施設は東京・神奈川・大阪など上位8都府県に56.4%が集中しており(農林水産省の原本データからの独自集計)、獣医師も新卒の45%程度が小動物診療を志望する一方、産業動物診療に従事する獣医師は全体の11.0%(4,460人)にとどまっています(出典)。都市部の小動物診療施設同士の競争が激しくなる一方、地方の産業動物診療(畜産関連)では獣医師不足が課題になるという、同じ「獣医師偏在」でも表と裏の両面がある構造です。相手先の所在地が都市部か地方か、診療対象が小動物中心か産業動物も扱うかは、直面している競争環境の見立てに直結します。

③改正動物愛護法への対応コスト

環境省の動物愛護管理法関連の基準省令により、第一種動物取扱業者(繁殖業者・販売業者等)に対する飼育頭数の数値規制は、新規事業者は令和3年6月から、既存事業者は令和4年6月から適用されています(出典)。複数の報道では、繁殖業者は犬15頭・猫25頭、販売業者は犬20頭・猫30頭が上限の目安とされていますが、この具体的な頭数は環境省の基準省令別表そのものからは確認できておらず、参考情報として紹介するにとどめます。帝国データバンクの分析では、この数値規制への対応として飼育環境の改善や施設拡張といった設備投資の負担が増していることに加え、従業員数を実態より多く見せる等の不正への監視が強化されている課題も指摘されています(出典)。相手先のペットショップ・繁殖業者が動物取扱業の登録更新や施設拡張をどう進めているかは、この課題への対応状況を推測する材料になります。

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④生体販売価格の高騰による販売の低調

帝国データバンクの分析では、犬猫等の生体価格の高騰が消費者の購入意欲を抑制し、ペットショップでの生体販売が伸び悩んでいることが指摘されています(出典)。この傾向は前述のペットフード協会調査で新規飼育頭数(犬45.1万頭・猫33.3万頭)が飼育頭数全体に比べて限定的な水準にとどまっていることとも整合します。生体販売中心のペットショップか、フード・用品・トリミング等のサービス収益の比率が高いペットショップかによって、この課題への耐性は異なると考えられます。

⑤高度医療機器投資と収益ギャップ

前述の通り、東京商工リサーチは動物病院の倒産要因の一つとして高度医療機器への投資負担を挙げています(出典)。CTやMRI等の高額医療機器を導入して専門性・診療単価を高める戦略は、競争が激しい都市部では差別化につながる一方、投資額に見合う症例数・収益が確保できなければ経営を圧迫する要因にもなります。決算・信用情報での投資余力の有無は、この課題への当たりをつける材料になります。決算書の読み方は決算書の読み方|営業が5分で掴む3指標で解説しています。

⑥飼育頭数の構造変化(犬は下げ止まり、猫は新規飼育が減少)

前述のペットフード協会調査が示す通り、犬の飼育頭数は682万頭(前年679.6万頭)とほぼ横ばいで下げ止まりの兆しがある一方、猫は884.7万頭(前年915.5万頭)と減少しています(出典)。市場規模自体は矢野経済研究所の調査で拡大基調にあるため、頭数の伸び悩みは単価上昇(医療の高度化・フード価格の上昇等)で補われている構造がうかがえます。相手先が犬猫どちらを主な診療・取扱対象としているかで、今後の需要動向への見立ては変わってきます。

動物病院・ペットショップ・ペット関連サービスで異なる経営環境

ペット関連業の経営課題は、動物病院・ペットショップ・トリミングやペットホテル等の関連サービスのどれを主業とするかによって濃淡が異なります。動物病院は前述の通り都市部での競争激化と高度医療機器投資が主な論点になりやすく、ペットショップは改正動物愛護法への対応コストと生体販売価格の高騰、関連サービス業はペット飼育頭数の構造変化(犬猫比率の変化)の影響を受けやすいと考えられます。相手先が単一業態か、動物病院とペットショップ・トリミングを併設する複合業態かによっても、経営体力の見立ては変わってきます。仮説の立て方は仮説営業とは|仮説構築の4ステップと立て方で解説しています。

商談前に見ておきたいペット関連業特有の公開情報

ペット関連業の企業をリサーチする際は、中小企業に共通する求人票・決算・ニュースリリースに加えて、次のような業種特有の情報源も確認しておくと、経営課題の当たりをつけやすくなります。

  • 所在地(都市部か地方か): 都市部は競争激化、地方は獣医師・診療施設そのものの不足が課題になりやすい。
  • 診療体制: 単独診療か複数医師体制か、産業動物も扱うか小動物専門かで、経営リスクの分散度が異なる。
  • 動物取扱業の登録状況: 第一種動物取扱業(繁殖・販売等)の登録の有無、更新時期は改正動物愛護法対応の状況を推測する手がかりになる。
  • 設備投資の履歴: CT・MRI等の高度医療機器導入の有無、施設の新設・改装時期は投資余力を見立てる材料になる。
  • 業態構成: 動物病院・ペットショップ・トリミング・ペットホテル等を単独で営むか、複合的に展開しているか。
  • IT投資の状況: 予約システム・電子カルテ・オンライン診療相談等の導入有無は、DX投資への姿勢を示す。

これらを一件ずつ手作業で調べるとかなりの時間がかかりますが、会社名を入力するだけで公開情報を横断し、経営課題・提案システム・ROI・想定反論まで出典付きで自動リサーチできるZEROSYSリサーチのようなツールを使えば、当たりをつける作業そのものを効率化できます。具体的な質問への落とし込み方は初回商談の質問リスト30選【業種別】で解説していますので、あわせて活用してください。

よくある質問

ペット関連業の市場は本当に伸びていますか。

矢野経済研究所の調査によると、2024年度の国内ペット関連総市場規模は前年度比2.6%増の1兆9,108億円で、市場全体としては拡大基調にあります。ただし飼育頭数(犬猫)の伸びは限定的で、動物病院の倒産件数は2年連続で過去最多を更新しており、市場拡大と個々の事業者の経営難が同時に進行しています。

動物病院はなぜ倒産が増えているのですか。

東京商工リサーチの分析によると、動物病院の倒産件数は2024年度5件から2025年度(4〜1月)8件へ増加し、2年連続で過去最多を更新しました。要因として、動物病院同士の競争激化、高度医療機器への投資負担、獣医師の高齢化と人手不足が挙げられています。

獣医師は足りているのですか。

一律には言えません。農林水産省の調査によると、獣医師総数40,455人のうち小動物診療は16,541人(40.9%)で新卒の45%程度が小動物診療を志望する一方、産業動物診療は4,460人(11.0%)にとどまります。小動物診療施設は都市部の上位8都府県に56.4%が集中しており、都市部では競争が激しい一方、地方の産業動物分野では獣医師不足が課題になるという、地域・分野による偏在が実態です。

改正動物愛護法はペットショップにどう影響していますか。

環境省の基準省令により、繁殖業者・販売業者等の第一種動物取扱業者には飼育頭数の数値規制が設けられており(新規事業者は令和3年6月、既存事業者は令和4年6月から適用)、複数の報道ではおおよその上限頭数も報じられています。帝国データバンクの分析では、この規制への対応で飼育環境の改善や施設拡張といった設備投資の負担が増していることに加え、従業員数の水増しなど不正への監視強化も課題として指摘されています。

まとめ

ペット関連業(動物病院・ペットショップ)の経営課題は、①動物病院の倒産急増(2年連続で過去最多を更新)②獣医師・診療施設の都市部偏在と産業動物獣医師不足という裏返し③改正動物愛護法への対応コスト④生体販売価格の高騰による販売の低調⑤高度医療機器投資と収益ギャップ⑥飼育頭数の構造変化(犬は下げ止まり、猫は新規飼育が減少)、という6パターンに整理できます。矢野経済研究所の調査が示すように市場全体は拡大基調にありますが、東京商工リサーチが示す倒産件数の増加が示す通り、その恩恵が個々の動物病院・ペットショップに等しく行き渡っているわけではありません。個社の状況を市場全体の伸びから決めつけず、所在地・診療体制・動物取扱業の登録状況・設備投資の履歴といった一次情報で仮説を検証しながら商談準備を進めることが、決裁者に届く提案につながります。