農業の経営課題を、なぜ他業種と分けて見る必要があるのか
中小企業に共通する経営課題の型(人手不足・後継者不在・DXの遅れなど)は経営課題の見つけ方|中小企業10パターンで整理した通りです。ただし農業は、天候・作物の生育サイクルに左右される生産構造、公定価格ではないものの流通段階で価格が決まりやすい取引構造、個人経営体が依然として大半を占める経営形態など、他業種とは異なる力学が働く業種です。農林水産省は5年に一度「農林業センサス」という全数調査を実施しており、直近の2025年農林業センサス(概数値)は2025年11月28日に公表されました(出典)。この全数調査の存在自体が、農業の構造変化がどれだけ政策的に注視されているかを物語っています。
農業の全体像を数字で見る
個別の課題に入る前に、農業の担い手構造がどう変化してきたかを確認します。2025年農林業センサス(概数値)によると、個人経営体の基幹的農業従事者数は103.6万人で、令和2年(2020年)の136.3万人から24.0%減少しました。平均年齢は67.7歳、65歳以上が72.1万人と全体の69.6%を占めています(出典)。なお、農林水産省が毎年実施している標本調査「農業構造動態調査」では令和8年推計で98.7万人という別の値も公表されていますが、農林水産省自身が全数調査(センサス)と標本調査(構造動態調査)の数値は調査設計が異なるため単純比較に注意するよう注記しています(出典)。本記事では全数調査である2025年農林業センサスの数値を主に用います。担い手が減り高齢化が進む一方で、農業経営体数そのものも急減しており、農業は「量」と「担い手の質」の両面で構造転換の渦中にあります。
農業の経営課題、主要な6パターン
ここからは、農業に特有の経営課題を6パターンに整理します。それぞれ、公開情報のどこにサインが出やすいかもあわせて紹介します。
①担い手不足・高齢化
前述の通り、個人経営体の基幹的農業従事者数は2020年の136.3万人から2025年の103.6万人へ、5年間で24.0%減少しました。平均年齢は67.7歳に達し、65歳以上が全体の69.6%を占めます(出典)。単なる高齢化ではなく、担い手の絶対数そのものが急速に縮小している点が、他業種の人手不足とは異なる深刻さです。求人票やホームページで農業法人としての雇用募集を行っているか、地域の担い手として名前が挙がっているかは、この課題への対応状況を推測する手がかりになります。
②新規就農者の減少と経営体数の急減(後継者不足)
新規就農者数は平成28年(2016年)の60.2千人から令和6年(2024年)の43.5千人へ、8年で約28%減少しました。内訳は新規自営農業就農者29.6千人・新規雇用就農者10.2千人・新規参入者3.8千人です(出典)。2025年農林業センサスでは、農業経営体数は82万8千経営体となり、2020年比24万7千経営体(23.0%)の減少、2015年の137.7万経営体からは10年で約4割の減少となりました。一方で法人経営体は3万3千経営体で2020年比2千経営体(7.9%)の増加となっており、個人経営体が急減する一方で法人経営体は微増するという二極化が進んでいます(出典)。相手が個人経営か法人経営かによって、後継者不足への向き合い方や意思決定プロセスが大きく変わる点は、商談前リサーチでも意識しておきたいポイントです。
③スマート農業・DX導入の遅れ
日本政策金融公庫が令和7年1月調査の特別調査として2025年3月27日に公表した「農業景況調査」によると、スマート農業の導入率は44.9%でした。作目別では畑作68.7%、稲作(北海道)55.4%、稲作(都府県)49.2%が比較的高い一方、果樹53.2%・茶44.3%は「導入していないが導入意向あり」の割合が高く、実際の導入までは至っていない層が目立ちます。導入にあたっての課題としては「初期投資費用が高い」との回答が約8割に上りました(出典、日本農業新聞)。導入率だけを見ると半数近くまで進んでいるようにも見えますが、「意向はあるが投資できない」層が一定数存在する点は、提案の切り口を考えるうえで重要な視点です。
④資材価格高騰と価格転嫁の遅れ
農業物価統計調査によると、肥料価格指数は令和8年(2026年)6月時点で146.3(令和2年=100)となっています(出典)。肥料・飼料・燃料といった生産資材の多くを輸入に依存している構造に加え、資材価格の上昇が農産物の販売価格に十分反映されていないとの指摘もあります。こうした状況を受け、2024年6月には改正食料・農業・農村基本法が成立し、2025年の通常国会には食品等流通法・卸売市場法の改正案が提出されました(出典)。決算書がある経営体であれば、粗利率の推移から価格転嫁の実態を読み取れる場合があります。決算書の読み方は決算書の読み方|営業が5分で掴む3指標で解説しています。
⑤農地集約・大規模化の遅れ
令和6年度食料・農業・農村白書によると、荒廃農地面積は令和6年3月末時点で25.7万ha(うち再生利用可能なもの9.4万ha、再生利用が困難なもの16.3万ha)に上ります。担い手への農地集積率は令和5年度末時点で60.4%となり、前年度比0.9ポイントの上昇にとどまりました(出典)。政府はかつて農地集積率の目標として8割を掲げていましたが、現状はそこに届いておらず、農地の集約・大規模化は道半ばの状態が続いています。地域の担い手が農地をどれだけ引き受けられているか、遊休農地の解消が進んでいるかは、地域単位で農業の構造転換がどこまで進んでいるかを見立てる材料になります。
⑥気候変動・自然災害リスクへの対応
2023年産米の全国一等米比率は、9月30日現在で59.6%となり、現行の検査制度が始まった2004年以降で過去最低を記録しました。記録的な猛暑や渇水による高温障害(白未熟粒・胴割れ粒の増加)が主な原因とされています(出典)。こうした状況を踏まえ、2026年5月29日に公表された令和7年度食料・農業・農村白書では、特集テーマの一つに「米の安定供給に向けた対応」が掲げられています(出典)。気候変動への適応は一過性の話題ではなく、品種選定や作付け時期の見直し、栽培技術の変更といった経営判断に継続的に影響する経営課題として捉える必要があります。
個人経営から法人経営へ―経営形態による差にも目を向ける
農業の経営課題は、個人経営か法人経営かによっても濃淡が異なります。前述の通り、2025年農林業センサスでは個人経営体が急減する一方、法人経営体は2020年比7.9%増加しており、担い手・後継者の確保、資材価格上昇への耐性、スマート農業への投資余力のいずれにおいても、法人経営体の方が対応の選択肢を持ちやすい傾向がうかがえます(出典)。相手が個人経営体か農業法人かは、経営課題への向き合い方や意思決定のスピード、投資判断の主体を見立てるうえで欠かせない視点です。仮説の立て方は仮説営業とは|仮説構築の4ステップと立て方で解説しています。
商談前に見ておきたい農業特有の公開情報
農業の経営体をリサーチする際は、中小企業に共通する求人票・決算・ニュースリリースに加えて、次のような業種特有の情報源も確認しておくと、経営課題の当たりをつけやすくなります。
- 経営形態: 個人経営体か農業法人かによって、意思決定のスピードや投資余力が異なる。
- 作目・栽培品目: 畑作・稲作・果樹・茶など作目によってスマート農業の導入率や課題の濃淡が異なる。
- 農地の集積状況: 地域の担い手として農地を引き受けているか、規模拡大に前向きな発信があるか。
- スマート農業・設備投資に関する発信: 新設備導入や補助金活用のプレスリリースの有無から、DXへの投資姿勢を推測する。
- 販路・取引構造: JA経由の出荷が中心か、直販・6次産業化など独自の販路を持つかによって、価格転嫁への向き合い方が変わる。
これらを一件ずつ手作業で調べるとかなりの時間がかかりますが、会社名を入力するだけで公開情報を横断し、経営課題・提案システム・ROI・想定反論まで出典付きで自動リサーチできるZEROSYSリサーチのようなツールを使えば、当たりをつける作業そのものを効率化できます。具体的な質問への落とし込み方は初回商談の質問リスト30選【業種別】で解説していますので、あわせて活用してください。
よくある質問
農業の経営課題は「高齢化」だけで説明できますか
単純な高齢化だけでなく、担い手の絶対数そのものが急速に縮小している点が他業種の人手不足とは異なる深刻さです。2025年農林業センサス(概数値)によると、個人経営体の基幹的農業従事者数は2020年の136.3万人から2025年は103.6万人へ、5年間で24.0%減少しました。平均年齢は67.7歳、65歳以上が全体の69.6%を占めています。
農業経営体は個人経営と法人経営でどう違いますか
2025年農林業センサスによると、農業経営体数は82万8千経営体で2020年比23.0%減となった一方、法人経営体は3万3千経営体で2020年比7.9%増と対照的な動きを見せています。個人経営体が急減する一方、法人経営体は微増しており、担い手・後継者の確保やDX投資への向き合い方が経営形態によって大きく異なる二極化が進んでいます。
スマート農業の導入は進んでいますか
日本政策金融公庫の調査によると、スマート農業の導入率は44.9%でした。作目別では畑作68.7%など比較的高い分野もありますが、果樹や茶では「導入していないが導入意向あり」の割合が高く、導入にあたっての課題として「初期投資費用が高い」との回答が約8割に上っています。導入率の数字だけでは、投資余力までは判断できない点に注意が必要です。
農地の集約・大規模化はどの程度進んでいますか
令和6年度食料・農業・農村白書によると、担い手への農地集積率は令和5年度末時点で60.4%となり、前年度比0.9ポイントの上昇にとどまりました。政府はかつて農地集積率の目標として8割を掲げていましたが、現状はそこに届いておらず、荒廃農地面積も令和6年3月末時点で25.7万haに上るなど、農地の集約・大規模化は道半ばの状態が続いています。
まとめ
農業の経営課題は、①担い手不足・高齢化②新規就農者の減少と経営体数の急減(後継者不足)③スマート農業・DX導入の遅れ④資材価格高騰と価格転嫁の遅れ⑤農地集約・大規模化の遅れ⑥気候変動・自然災害リスクへの対応という6パターンに整理すると、公開情報から当たりをつけやすくなります。2025年農林業センサスが示すように、農業では個人経営体の急減と法人経営体の微増という二極化が進んでおり、担い手・後継者・DX投資のいずれも、経営形態によって向き合い方が大きく異なります。個社の状況を決めつけず、経営形態や作目、決算情報といった一次情報で仮説を検証しながら商談準備を進めることが、決裁者に届く提案につながります。