接骨院・整骨院を「医療系」の一括りにしない理由
中小企業に共通する経営課題の型(人手不足・後継者不在・DXの遅れなど)は経営課題の見つけ方|中小企業10パターンで整理した通りです。医療機関の経営課題は診療所・クリニックや歯科医院の記事で扱っていますが、接骨院・整骨院(柔道整復の施術所)は医療機関ではなく、柔道整復師法に基づく施術所です。統計上も厚生労働省の衛生行政報告例で「柔道整復の施術所」「就業柔道整復師」が独立した区分になっており、保険が使える範囲(骨折・脱臼・打撲・捻挫・挫傷)や、療養費を受領委任払いで請求する仕組み、算定基準を定める厚生労働省の通知など、診療報酬とは別の制度で動いています。制度の改定が経営に直結する業種であることが、他の業種と分けて見るべき最大の理由です。
業界の全体像を数字で見る
厚生労働省「令和6(2024)年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」(2025年7月29日公表)によると、令和6年末現在の就業柔道整復師は78,666人で、前回(令和4年末)に比べ1,034人(1.3%)増加し、調査開始以降最多となっています(出典)。同じ概況の年次推移表では、就業柔道整復師は平成26年(2014年)の63,873人から令和6年の78,666人へ約23%増えています。一方、「柔道整復の施術所」は平成26年の45,572か所から令和6年の50,924か所へ約12%の増加で、令和4年(50,916か所)からは8か所の増加にとどまります。なお、柔道整復師数は施術所で従事している者のみの集計であり、施術所数ははり・きゅう等との併設区分を含まない「柔道整復の施術所」の数です。当社が両表から単純計算した施術所あたりの柔道整復師数は、2014年の約1.40人から2024年の約1.54人となります(併設施術所を含まないため参考値)。
接骨院・整骨院の経営課題、主要な6パターン
ここからは、接骨院・整骨院に特有の経営課題を6パターンに整理します。それぞれ、公開情報のどこにサインが出やすいかもあわせて紹介します。
①柔道整復師は増え、施術所は横ばいという競争環境
前述の通り、就業柔道整復師は10年で約23%増えた一方、施術所は約12%増にとどまり、直近2年では施術所数がほぼ横ばい(+8か所)です。施術者が増え、拠点数が伸びない環境では、1拠点あたりの人員が厚くなるか、独立開業を目指す層との競争が強まるかのいずれかの圧力がかかりやすいと考えられます。個社の採用・待遇・独立支援の方針は、求人票や院のホームページの採用ページから見立てることができます。
②毎年およそ3,000人規模で新規有資格者が生まれる
厚生労働省が公表した第34回柔道整復師国家試験(令和8年3月1日実施)は、受験者4,434人・合格者3,170人・合格率71.5%でした(出典)。新卒の合格率は約9割、既卒は約3割と報じられており、毎年新たに供給される有資格者の大半は新卒者であることがうかがえます。院にとっては採用の選択肢が広がる面がある一方、新人の育成負担や、院内で育てた人材が独立するリスクも同時に抱えることになります。
③令和8年7月の料金改定と、2部位目逓減という算定ルールの変化
厚生労働省の柔道整復療養費検討専門委員会(第35回、2026年4月30日)の資料によると、令和8年度の柔整療養費の改定率は+0.60%(令和8年7月1日施行)です。初検料は1,550円から1,560円へ、後療料(打撲・捻挫)は505円から550円へと引き上げられました(出典)。ただし同時に、従来の3部位目60%逓減に加えて、2部位目の施術を80%で算定する逓減が新設されました。算定基準の通知(保発0601第4号、令和8年6月1日)にも、後療料・温罨法料・冷罨法料・電療料について2部位目は所定料金の100分の80と明記されています(出典)。単価の引き上げと逓減の新設が同時に行われたため、2部位以上を請求する割合の高い院ほど影響の見え方が変わると考えられます。自院の請求内訳(部位数の分布)を把握しているかが、対応の分かれ目になります。
④「部位転がし」対策と、患者ごとの償還払い変更の拡大
同じ専門委員会の資料では、令和7年12月〜令和8年1月に保険者等へ実施した調査で、いわゆる「部位転がし」(負傷と治癒を繰り返し初検料等を算定し続ける請求)の疑いとして、30の国保連合会が抽出した件数が計3,231件(令和7年9月審査分が原則)と報告されています(出典)。この動きを受け、令和8年度改定では、初検料を「施術継続中または施術終了・中止後3か月(暦月)が経過していない場合は算定できない」とする算定ルールの見直しと、直近1年間に通算8か月以上かつ通算9部位以上の施術を受けている患者を、患者ごとの償還払いへの変更対象に追加する見直しが盛り込まれ、当該項目は柔整審査委員会の重点審査項目にも位置づけられます。償還払い新基準の適用開始時期は、業界団体の解説では令和9年1月以降とされていますが、通知原文の個別確認は今回できていないため要検証としています。長期・頻回の施術が多い院は、審査・照会への備えが経営リスクになりやすい局面です。
⑤明細書発行の推進と、事務・レセプト対応の負担増
令和8年度改定では、明細書発行体制加算を「明細書発行加算」に見直し、無償で明細書を発行した場合に1回あたり10円を算定できる取扱いになりました。あわせて、明細書に負傷名または施術部位を記載する欄を設けるなど様式も整備されます(出典)。施術の透明化という点では前進ですが、院側には、毎回の明細書発行・様式変更に対応できるレセプトコンピュータの更新、保険者の患者照会への対応など、事務負担が増えます。施術の合間に手作業で対応している院ほど、事務工数の増加が経営に響きやすいと考えられます。
⑥保険収益への依存と、施術管理者の人材要件
専門委員会の資料は「引き続きの検討事項」として、施術管理者の要件となる実務経験(現在3年)の短縮を、研修の充実とあわせて検討することや、費用逓減・償還払い変更の対象となる「長期かつ頻回な施術」の基準の在り方の検討を挙げています。今後も料金・算定ルールの見直しが続く可能性がある一方、保険の対象範囲は骨折・脱臼・打撲・捻挫等の外傷に限られ、初検料のみを算定して自費施術を行うことは認めないなど、保険と自費の線引きも明確化されています。制度改定の影響を受けやすい保険請求への依存度と、自費メニュー・予防・運動指導など保険外の収益源のバランスは、院ごとに差が出る部分です。ホームページの施術メニュー・料金表の構成から、依存度の当たりをつけることもできます。
商談前に見ておきたい接骨院・整骨院特有の公開情報
接骨院・整骨院をリサーチする際は、中小企業に共通する求人票・ニュースリリースに加えて、次のような業種特有の情報源も確認しておくと、経営課題の当たりをつけやすくなります。
- 院数・柔道整復師数の規模: 単独院か、複数院を展開しているグループか。施術者あたりの患者数の見立て。
- 施術メニューの構成: 保険施術中心か、自費メニュー(骨盤矯正・スポーツ・産後ケア等)をどれだけ前面に出しているか。
- 採用ページ・求人票: 新卒採用の有無、育成体制、独立支援の記載、施術管理者要件を満たす人材の確保状況。
- 予約・会計・レセプトの運用: 予約システム、明細書発行、レセコンの導入状況(公式サイトの表記やレビューから推測)。
- 令和8年7月改定への対応状況: お知らせ欄での料金・明細書に関する案内の有無。
これらを一件ずつ手作業で調べるとかなりの時間がかかりますが、会社名を入力するだけで公開情報を横断し、経営課題・提案システム・ROI・想定反論まで出典付きで自動リサーチできるZEROSYSリサーチのようなツールを使えば、当たりをつける作業そのものを効率化できます。医療系でも施設・報酬体系が異なるため、隣接業種の視点は診療所・クリニック、フィットネスジム(自費・会員制の視点)の記事とあわせて確認すると整理しやすくなります。具体的な質問への落とし込み方は初回商談の質問リスト30選【業種別】で解説していますので、あわせて活用してください。決算書から利益率の傾向を掴む視点は決算書の読み方|営業が5分で掴む3指標を参照してください。
よくある質問
接骨院・整骨院は今、何か所くらいありますか?
厚生労働省の令和6年衛生行政報告例(令和6年末現在)では、柔道整復の施術所は50,924か所で、前回(令和4年末)から8か所の増加でした。はり・きゅう等との併設施術所は別の区分のため、この数には含まれません。
柔道整復師の数は増えていますか?
就業柔道整復師は令和6年末で78,666人と調査開始以降で最多で、前回比1,034人(1.3%)増加しています。2014年の63,873人からは約23%増えています。ただし、この数は施術所に従事している者のみの集計です。
令和8年の柔道整復療養費改定で何が変わりましたか?
令和8年7月1日施行で、全体の改定率は+0.60%、初検料は1,560円、後療料(打撲・捻挫)は550円に引き上げられました。一方で、2部位目を80%で算定する逓減が新設され、明細書発行加算(1回10円)への見直しや、直近1年で通算8か月以上かつ9部位以上の患者を償還払い変更の対象に追加する見直しも行われています。詳細は厚生労働省の通知原文で確認してください。
柔道整復師国家試験の合格率はどのくらいですか?
第34回(令和8年3月1日実施)は受験者4,434人・合格者3,170人で、合格率は71.5%でした。
まとめ
接骨院・整骨院の経営課題は、①柔道整復師は増え施術所は横ばいという競争環境②毎年およそ3,000人規模で新規有資格者が生まれること③令和8年7月の料金改定と2部位目逓減という算定ルールの変化④部位転がし対策と患者ごとの償還払い変更の拡大⑤明細書発行の推進と事務・レセプト対応の負担増⑥保険収益への依存と施術管理者の人材要件、という6パターンに整理すると、公開情報から当たりをつけやすくなります。就業柔道整復師が調査開始以降で最多となる一方、施術所数はほぼ横ばいという構図と、制度改定が直接経営に響く受領委任払いの仕組みが、この業種を特徴づけています。決めつけずに院の規模・施術メニューの構成・採用体制・令和8年7月改定への対応状況といった一次情報を確認しながら商談準備を進めることが、決裁者に届く提案につながります。