結論から: フィットネスクラブ・スポーツジム業の経営課題は、「健康志向の高まりで市場は伸びている」の一言では片付きません。帝国データバンクの調査では2024年度の市場規模は約7,100億円で過去最高を更新した一方、フィットネスクラブの倒産件数は2026年1〜7月で23件と前年同期比121%、年間40件到達ペースで推移しています。東京商工リサーチ調べでも2023年度の倒産28件は統計開始(1998年)以降で最多でした。市場が拡大しながら倒産も増えるという同時進行が、この業種の経営課題を読み解く出発点です。本記事ではフィットネスクラブ・スポーツジム業に特有の経営課題を6パターンに整理し、商談前リサーチでどこに着目すべきかを出典付きで解説します。

フィットネスクラブ・スポーツジム業の経営課題を、なぜ「市場拡大中だから安泰」で片付けてはいけないのか

中小企業に共通する経営課題の型(人手不足・後継者不在・DXの遅れなど)は経営課題の見つけ方|中小企業10パターンで整理した通りです。ただしフィットネスクラブ・スポーツジム業は、健康志向の高まりや24時間型ジムの急拡大で市場規模そのものは過去最高を更新し続けている一方、その裏で倒産件数も過去最多ペースで増え続けているという、一見矛盾した構造を持つ点で他業種と一線を画します。市場が伸びているからといって個々の事業者が安泰とは限らず、むしろオーバーストアによる価格競争が個社の収益を圧迫している――この「市場拡大と倒産増加の同時進行」こそが、この業種の経営課題を読み解く出発点です。

フィットネス業界の全体像を数字で見る

個別の課題に入る前に、業種全体の構造を確認します。帝国データバンクの業界動向調査によると、2024年度のフィットネスクラブ市場規模は約7,100億円で過去最高を更新しました。これはコロナ禍で落ち込んだ2021年度の約5,248億円から回復しただけでなく、コロナ前の2019年度(約7,085億円)も上回る水準です(出典)。同調査で大手15社の店舗数を見ると、2024年度末で約6,500店に達し、10年前と比べて2.3倍に拡大しています。市場規模・店舗数のいずれも拡大基調にあることが分かります。

一方で、同じ帝国データバンクの調査対象となった約80社の業績を見ると、黒字は48.8%にとどまり、業績悪化(減益+赤字)の合計は47.6%、赤字単体でも31.7%に上ります。市場全体が伸びていても、個社の業績で見ると約半数が苦戦しているという二極化が既に表れています。この二極化の背景を理解するために、次章以降で経営課題を6パターンに整理します。

フィットネスクラブ・スポーツジム業の経営課題、主要な6パターン

①単価下落・値引き常態化による定着率低下

帝国データバンクが2026年8月13日に発表した「フィットネスクラブ」倒産動向(2026年1〜7月)によると、入会金無料・特別割引キャンペーンといった値引き施策が業界内で常態化しており、キャンペーン期間終了後に正規価格へ移行するタイミングで会員が離脱し、それが倒産の直接的な要因の一つになっていると指摘されています(出典)。新規会員獲得のための値引きが常態化するほど、正規料金での継続率を維持することが難しくなるという構造的なジレンマです。相手企業のサイトや広告で、入会金無料・月額割引等のキャンペーンがどの程度前面に出ているか、正規価格への移行条件が明示されているかは、この課題への当たりをつける材料になります。

②オーバーストア・異業種参入による価格競争激化

矢野経済研究所が2024年に発表した調査によると、2023年9月から2024年8月にかけて新規開業したフィットネス施設1,152件のうち71.7%が、chocoZAPに代表される「コンビニジム」型(24時間セルフ型・低価格帯)でした(出典)。前述の通り大手15社の店舗数は10年前比2.3倍に拡大しており、店舗網の急拡大が既存の総合型フィットネスクラブや地域密着型ジムとの価格競争を激化させています。相手企業が低価格帯のコンビニジム型と競合するエリアに立地しているか、差別化された高単価サービス(パーソナル指導・専門プログラム等)で棲み分けているかは、価格競争への耐性を見立てる視点になります。

③倒産・淘汰の急増(成長しながらの淘汰)

東京商工リサーチ調べ(Web担当者Forum、2024年4月2日転載記事経由)によると、2023年度(2023年4月〜2024年2月)のフィットネスクラブ倒産件数は28件で、統計を開始した1998年以降で最多となり、前年(2022年)の16件から大きく増加しました(出典)。さらに帝国データバンクの2026年8月13日発表によると、2026年1〜7月の倒産件数は23件で前年同期(19件)比121%となり、このペースが続けば年間40件に達する見通しです。同調査では設立10年未満の事業者が全体の6割を超えるとされ、うちパーソナルジム業態が6件を占めています(出典)。市場規模が過去最高を更新する一方で倒産も過去最多ペースという「成長しながらの淘汰」が、この業種の実態です。相手企業の設立年数・開業からの経過年数は、淘汰リスクの高い層に該当するかを見立てる手がかりになります。

④業績二極化・薄利化

前述の通り、帝国データバンクの調査対象約80社のうち、黒字は48.8%にとどまり、業績悪化(減益+赤字)の合計は47.6%、赤字単体でも31.7%に上ります(出典)。市場規模自体は2024年度に約7,100億円と過去最高を更新していますが、その成長の恩恵が事業者間で均等に行き渡っているわけではなく、拡大局面にある大手・新興チェーンと、価格競争に晒される中小事業者との間で業績が分かれている可能性があります。決算書の読み方は決算書の読み方|営業が5分で掴む3指標で解説しています。

⑤契約トラブル・法規制の穴によるレピュテーションリスク

消費者庁「特定商取引法ガイド」によると、特定商取引法上の「特定継続的役務提供」として政令で指定されているのはエステティック・美容医療・語学教室・家庭教師・学習塾・パソコン教室・結婚相手紹介サービスの7業種で、パーソナルジムを含むスポーツジムはこの指定業種に含まれていません(出典)。つまりクーリングオフ等、特定継続的役務提供に適用される法定の消費者保護の対象外です。東京都は2022年11月・2023年9月・2026年8月と複数年にわたり、スポーツジムに関する紛争解決のあっせん等を消費者被害救済委員会に付託しており(出典)、無料体験からの高額・長期契約への勧誘に関する相談は増加傾向にあるとみられます(具体的な相談件数は一次資料で確認できていないため、ここでは傾向としてのみ記載します)。相手企業が体験時の説明・書面交付・解約条件をどの程度明確にしているかは、コンプライアンス意識とレピュテーションリスクを見立てる材料になります。

⑥DXの構造的複雑さによる標準SaaSの限界

会員管理・予約・入退館・決済については、hacomono・CLUBNET・DIGYM等の特化型SaaSの導入がデファクト化しつつあります。ただし、月謝制サブスクリプション・口座振替・都度払い・回数券・物販販売が組み合わさる複雑な課金体系、プール・スタジオ・マシンエリア等の複数コンテンツにまたがる利用権の管理、顔認証等の生体情報を扱う場合の個人情報保護法対応といった要素が標準機能だけではカバーしきれず、個別のシステム開発ニーズが残るケースがあります(この項目は受託開発会社のコラム等の二次情報に基づく傾向であり、一次統計による裏付けがあるわけではありません)。相手企業がどのSaaSを導入しているか、独自の会員管理システムを別途構築しているかは、求人票のシステム関連職種や、公式サイトの会員向け機能案内から推測できることがあります。

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大手チェーン・コンビニジム・パーソナルジムで経営環境が異なる点

フィットネスクラブ・スポーツジム業の経営課題は、総合型の大手チェーンか、24時間セルフ型のコンビニジムか、あるいは個人指導中心のパーソナルジムかによっても濃淡が異なります。大手チェーンは店舗網拡大に伴う投資回収と既存店の稼働率維持が主な論点になりやすく、コンビニジムは低価格帯での会員獲得競争と省人化オペレーションの精度、パーソナルジムは特定商取引法の保護対象外という制度的な位置づけに起因する契約トラブルのリスクと、設立10年未満の事業者が多いことによる経営基盤の脆さが課題になりやすい傾向があります。相手企業がどの業態に属するか、複数業態を併営しているかによって、経営体力や直面するリスクの見立ては変わってきます。仮説の立て方は仮説営業とは|仮説構築の4ステップと立て方で解説しています。

商談前に見ておきたいフィットネスクラブ・スポーツジム業特有の公開情報

フィットネスクラブ・スポーツジム業の企業をリサーチする際は、中小企業に共通する求人票・決算・ニュースリリースに加えて、次のような業種特有の情報源も確認しておくと、経営課題の当たりをつけやすくなります。

  • 業態(総合型/コンビニジム型/パーソナルジム型): どの業態に属するかで、直面する価格競争・法規制上のリスクが異なる。
  • キャンペーン・料金体系の訴求内容: 入会金無料・月額割引等の値引き施策の頻度と、正規価格への移行条件の明示状況。
  • 設立年数・開業からの経過年数: 帝国データバンクの分析では倒産事業者の6割超が設立10年未満とされており、経営基盤の成熟度を見立てる目安になる。
  • 体験時の説明・契約書面の運用: 無料体験から契約への勧誘プロセスが明確か、解約条件が事前に開示されているか。
  • 会員管理システムの導入状況: 特化型SaaS(hacomono等)を導入しているか、独自システムを構築しているかは、DX投資への姿勢を示す。
  • 店舗展開の状況: 単店舗か多店舗展開か、直近の出店・閉店の動きは、投資余力や業績の勢いを推測する材料になる。

これらを一件ずつ手作業で調べるとかなりの時間がかかりますが、会社名を入力するだけで公開情報を横断し、経営課題・提案システム・ROI・想定反論まで出典付きで自動リサーチできるZEROSYSリサーチのようなツールを使えば、当たりをつける作業そのものを効率化できます。具体的な質問への落とし込み方は初回商談の質問リスト30選【業種別】で解説していますので、あわせて活用してください。

よくある質問

フィットネスクラブ業界は市場が伸びているのに、なぜ倒産が増えているのですか。

帝国データバンクの調査によると、2024年度の市場規模は約7,100億円で過去最高を更新した一方、2026年1〜7月の倒産件数は23件で前年同期比121%、年間40件到達ペースで推移しています。市場全体は拡大していますが、24時間型ジムの急拡大によるオーバーストア・価格競争が個々の事業者の収益を圧迫しており、市場拡大と倒産増加が同時に進行する構造になっています。

パーソナルジムの経営が厳しいと言われるのはなぜですか。

帝国データバンクの2026年1〜7月の倒産動向では、倒産事業者の設立10年未満が6割を超え、うちパーソナルジム業態が6件を占めています。また消費者庁の特定商取引法ガイドによると、パーソナルジムを含むスポーツジムは特定継続的役務提供の政令指定7業種に含まれず、クーリングオフ等の法定保護の対象外です。この制度上の位置づけが契約トラブルのリスクを高め、レピュテーションに影響しうる点も、経営の難しさの一因と考えられます。

フィットネス業界の市場規模はどのくらいですか。

帝国データバンクの業界動向調査によると、2024年度の国内フィットネスクラブ市場規模は約7,100億円で、コロナ前の2019年度(約7,085億円)を上回り過去最高を更新しました。コロナ禍で落ち込んだ2021年度(約5,248億円)からは着実に回復しています。

ジム経営で差別化して生き残るために、商談前に何を確認すればよいですか。

業態(総合型/コンビニジム型/パーソナルジム型)、キャンペーン・料金体系の訴求内容、設立年数、会員管理システムの導入状況の4つが、商談前リサーチで特に確認しておきたい業種特有の情報です。特にコンビニジム型との価格競争にどう向き合っているか、独自の会員管理・DX投資をどこまで進めているかは、提案の切り口を考える上で参考になります。

まとめ

フィットネスクラブ・スポーツジム業の経営課題は、①単価下落・値引き常態化による定着率低下②オーバーストア・異業種参入による価格競争激化③倒産・淘汰の急増(成長しながらの淘汰)④業績二極化・薄利化⑤契約トラブル・法規制の穴によるレピュテーションリスク⑥DXの構造的複雑さによる標準SaaSの限界、という6パターンに整理できます。帝国データバンクの調査が示すように、この業種は「市場規模は過去最高を更新するが、倒産件数も過去最多ペースで増える」という一見矛盾した構造を抱えています。個社の状況を市場全体の伸びから決めつけず、業態・キャンペーンの訴求内容・設立年数・会員管理システムの導入状況といった一次情報で仮説を検証しながら商談準備を進めることが、決裁者に届く提案につながります。