自動車教習所を「サービス業一般」の型で見ない理由
中小企業に共通する経営課題の型(人手不足・後継者不在・DXの遅れなど)は経営課題の見つけ方|中小企業10パターンで整理した通りです。そのうえで自動車教習所は、教育・学習支援業と並べて語られがちですが、制度の置かれ方が大きく異なります。道路交通法第98条は、免許を受けようとする人に自動車の運転に関する技能と知識を教える施設を「自動車教習所」と定義し、その水準の維持向上に努めるよう求めています。そのうえで第99条により、公安委員会が基準に適合する教習所を「指定自動車教習所」として指定できる仕組みです。指定を受けると、技能検定に合格した人に卒業証明書を発行でき、免許取得の主要なルートになります。つまり、需要の大きさと事業の存続の両方が、免許人口の動きと行政上の指定・資格者の確保に結びついています。
業界の全体像を数字で見る
指定教習所数・卒業者数・教習指導員等数は、警察庁の運転免許統計に年別の推移が載っています。確認できた一次情報から、次の数字が分かります。
- 指定教習所数(年末現在): 平成28年1,332所、令和2年1,306所、令和6年1,288所、令和7年1,277所。令和2年から7年で29所(約2.2%)減、平成28年から令和7年では55所(約4.1%)減です(当社計算)。
- 卒業者数: 令和3年に1,723,923人でピークとなり、令和4年1,634,633人、令和5年1,528,207人、令和6年1,508,109人、令和7年1,505,044人。令和3年から7年で約12.7%減、直近の令和6年から7年は約0.2%減です(当社計算)。
- 1所あたりの卒業者数: 卒業者数を所数で割ると、平成28年は約1,172人、令和7年は約1,179人でほぼ同水準です(当社計算の概算)。所数の減少と卒業者数の減少が並んで進んでいる姿が読み取れます。
- 免許試験合格者に占める卒業者の割合: 令和7年は運転免許試験合格者1,479,245人のうち指定校卒合格者が1,446,135人で97.8%でした(令和3年97.4%、令和6年97.6%。けん引二種・大特二種・小特・原付の合格者や外国免許切替者などは含まない集計です)。
- 教習指導員等数(総数): 平成28年32,245人、令和5年30,866人、令和6年29,613人、令和7年28,962人。平成28年から令和7年で約10.2%減、令和6年から7年で約2.2%減です(当社計算)。令和7年の総数を指定教習所数で割ると約22.7人ですが、数え方が同じ範囲かは要検証です。
- 免許保有者(令和7年末): 81,510,369人。16歳~19歳は762,731人(令和6年767,887人から約0.7%減)、65歳以上は20,302,339人で24.9%、75歳以上は8,350,427人で10.2%です。
数字の読み方には注意が必要です。卒業者数の減少の原因を、若年層の免許保有の動きだけで説明できるかは、この統計だけでは分かりません。取得する免許の種類や時期、通学型・合宿型といった形態の違いも影響し得るため、因果は断定できません(形態別の統計は今回の確認範囲では取得できていません)。
自動車教習所の経営課題、主要な6パターン
ここからは、上の数字と道路交通法の定めを踏まえ、経営課題を整理します。教習所ごとの実際の状況は個別に確認が必要です。
①卒業者数の減少と、所数の減少が同時に進んでいる
卒業者数は令和3年の1,723,923人から令和7年の1,505,044人へ約12.7%減っています。指定教習所数は同じ期間に1,300所から1,277所への23所減で、所数の減り方(約1.8%)より卒業者数の減り方(約12.7%)の方が大きい計算です(当社計算)。一方、令和7年に免許を持つ16~19歳は762,731人で、令和6年から約0.7%の減少にとどまります。商圏の人口や競合の教習所、合宿型・通学型の構成によって見え方は大きく変わるため、「全国平均」ではなく、対象の教習所の地域の統計(都道府県別の卒業者数も同じ資料に掲載)で確認するのが妥当です。
②事業の核が「公安委員会の指定」と「卒業証明書の発行」にある
第99条は、管理者・技能検定員・教習指導員の配置、教習と技能検定のための設備、運営の基準(政令で定める)を満たす教習所を、申請に基づき公安委員会が指定できると定めています。第100条では、教習の管理者が第99条の3第3項や第99条の4、第99条の5の規定に違反したとき、卒業証明書や修了証明書を不正に発行したときなどに、公安委員会が指定を取り消し、または6月を超えない範囲で証明書の発行を禁止できるとされています。取り消された場合、取消しの日から3年を経過しないと再び指定されません(第99条第2項)。運転免許試験の合格者の97.8%が指定校の卒業者である以上、指定の維持は事業の存続に直結します。
③技能検定員・教習指導員の「資格者証」と人材の確保
第99条の2は、技能検定員の資格者証を持たない人は技能検定員になれず、25歳未満の人には資格者証が交付されないと定めています。第99条の3は、教習指導員も資格者証が必要で、21歳未満の人には交付されないこと、そして教習(技能・知識)を教習指導員以外の人に行わせてはならないことを定めています。資格者証は公安委員会の審査の合格、自動車安全運転センターの指定研修の修了などで交付されます。教習指導員等の総数は平成28年の32,245人から令和7年の28,962人へ約10.2%減っており、採用や育成の負担が重くなっている可能性がありますが、採用難の度合いや年齢構成は今回確認した資料からは分からず、要検証です。
④免許の種類の構成が「普通免許」に集中している
令和7年の卒業者1,505,044人のうち、普通免許は1,033,525人で約68.7%を占めます(当社計算)。準中型は34,194人で、令和6年の33,212人から増えています。普通免許の卒業者数は令和6年の1,021,108人から1,033,525人へ増えたものの、令和3年の1,175,400人と比べると低い水準です。二輪や大型、二種などの種類は、料金・教習時間・必要な設備(コース・車両)が異なるため、種類の構成が収益や設備投資に影響する可能性がありますが、種類別の売上や採算は公開されておらず、要検証です。運送業やタクシー業の人材確保の動きと、準中型や二種の教習の需要がどう結びつくかも、教習所ごとの地域で確認が必要です。
⑤高齢者講習・認知機能検査など、周辺の需要の拡大とその担い手
免許保有者の24.9%が65歳以上、10.2%が75歳以上です。令和7年の認知機能検査の受検者は2,809,442人、高齢者講習の受講者は4,025,601人(うち75歳以上2,787,103人)で、令和6年の3,873,772人から約3.9%増えました(令和4年から「同等の効果がある方法・課程」の受検・受講者を含みます)。更新時講習の受講者は令和7年に14,670,556人です。ただし、これらの講習を指定教習所がどれだけ担っているかは、運転免許統計に実施主体別の内訳がなく、今回の確認範囲では分かりません(要検証)。教習所によって、周辺業務の位置づけはまったく異なります。
⑥報告・立入検査、公務員みなし、研修など守るべき規律
第99条の6により、公安委員会は必要な範囲で教習所の管理者に報告や資料の提出を求めることができ、警察職員が立入検査をすることもできます。第99条の2第3項では、技能検定員は刑法その他の罰則の適用について、法令により公務に従事する職員とみなされます。第99条の4では、公安委員会から職員の講習を行う旨の通知を受けたときは、管理者は職員にその講習を受けさせなければなりません。技能検定員資格者証は不正な行為があると返納を命じられることがあり(第99条の2第5項)、証明書の発行にかかわる業務の正確さと記録管理の体制が、事業の信頼性の土台になります。
商談前に見ておきたい自動車教習所特有の公開情報
自動車教習所に営業やヒアリングを行う前に、次のような公開情報を確認しておくと、論点を絞りやすくなります。
- 地域の卒業者数: 警察庁の運転免許統計には都道府県別の卒業者数が載っています。対象の所の都道府県での位置づけを把握できます。
- 募集している免許の種類と形態: 通学型か合宿型か、普通以外(二輪・準中型・大型・二種など)をどこまで扱うか。公式サイトの料金表や教習コース紹介から確認できます。
- 求人の内容: 教習指導員・技能検定員の募集の有無、応募資格の記載、資格取得支援の有無。
- 予約・入金・教習原簿のデジタル化: 予約システムの有無、キャンセル対応、入校手続きのオンライン化の状況。
- 高齢者講習・各種講習の取扱い: 公式サイトでの案内の有無(担当範囲は個別に要検証)。
これらを一件ずつ手作業で調べるとかなりの時間がかかりますが、会社名を入力するだけで公開情報を横断し、経営課題・提案システム・ROI・想定反論まで出典付きで調べられるZEROSYSリサーチのようなツールを使えば、当たりをつける作業そのものを効率化できます。隣接する分野の教育・学習支援業、自動車販売業、自動車整備業の記事もあわせてご覧ください。
よくある質問
指定自動車教習所は全国にいくつありますか?
警察庁の運転免許統計(令和7年版)によると、令和7年末現在の指定教習所数は1,277所です。令和6年末は1,288所、令和2年末は1,306所でした。全国組織などが公表する会員数は、警察庁の指定教習所数と一致しない可能性があり、今回は公式文書を直読できなかったため使用していません。
教習所の卒業者は年間どれくらいですか?
同統計では、令和7年の卒業者数は1,505,044人で、令和6年の1,508,109人とほぼ同水準、ピークの令和3年(1,723,923人)から約12.7%少ない数字です。運転免許試験の合格者のうち、指定校卒の合格者は97.8%(1,446,135人)でした。両者の数字の差(卒業者数と指定校卒合格者数)は集計の範囲が異なるためで、内訳は確認できていません。
教習指導員や技能検定員になるには何が必要ですか?
道路交通法第99条の2・第99条の3により、公安委員会が交付する資格者証が必要です。技能検定員は25歳未満、教習指導員は21歳未満には交付されません。公安委員会の審査に合格した人、自動車安全運転センターの指定研修を修了した人などが対象です。具体的な審査の内容や手続は、各都道府県警察の案内をご確認ください。
指定自動車教習所の指定が取り消されることはありますか?
第100条は、管理者が教習指導員以外に教習を行わせたとき、卒業証明書や修了証明書を不正に発行したときなど、一定の違反があった場合に、公安委員会が指定を取り消し、または6月を超えない範囲で証明書の発行を禁止できると定めています。取り消された場合、取消しの日から3年を経過しないと再び指定されません。実際の処分の件数は、今回の確認範囲では取得できていません。
まとめ
自動車教習所の経営課題は、①卒業者数の減少と所数の減少が同時に進んでいる②事業の核が公安委員会の指定と卒業証明書の発行にある③技能検定員・教習指導員の資格者証と人材の確保④免許の種類の構成が普通免許に集中している⑤高齢者講習・認知機能検査など周辺の需要の拡大とその担い手⑥報告・立入検査・公務員みなし・研修など守るべき規律、の6パターンに整理すると、公開情報から当たりをつけやすくなります。警察庁の運転免許統計(令和7年版)では、指定教習所は令和7年末で1,277所、卒業者は1,505,044人、教習指導員等は28,962人でした。教習所の収支・料金・指導員の年齢構成・周辺講習の実施件数は、今回確認した範囲では公開情報から把握できず、要検証です。個別の教習所に提案する際は、対象の都道府県の統計、取り扱う免許の種類、求人の内容といった一次情報から仮説を立て、ヒアリングで確かめる進め方が現実的です。