結論から: 自動車整備業の経営課題は「クルマが複雑になっているから大変」だけでは片付きません。JASPA(全国自動車整備振興会連合会)「令和6年度自動車特定整備業実態調査」によると、事業場数92,384(前年比+535、3年連続増)・総整備売上高6兆2,561億円(前年比+3,489億円、+5.9%、3年連続増)といずれも拡大が続いている一方、帝国データバンクの集計では2024年度の休廃業382件・倒産63件の合計445件で過去最多を更新しました。増収基調の大手・フランチャイズ・ディーラー系と、価格競争や深刻な人手不足で淘汰される零細独立系との「二極化」が進行している構造です。本記事では自動車整備業に特有の経営課題を5パターンに整理し、商談前リサーチでどこに着目すべきかを出典付きで解説します。

自動車整備業の経営課題を、なぜ「業界全体が伸びている」で片付けてはいけないのか

中小企業に共通する経営課題の型(人手不足・後継者不在・DXの遅れなど)は経営課題の見つけ方|中小企業10パターンで整理した通りです。ただし自動車整備業は、業界全体の事業場数・売上高が3年連続で増加しているにもかかわらず、倒産・休廃業件数も同時に過去最多を更新するという、一見矛盾した構造を持つ点が特徴です。「業界が伸びているなら個々の会社も安泰」とは限らず、増収基調の大手・フランチャイズ・ディーラー系企業と、価格競争や人手不足への対応力を欠く零細独立系企業との間で明暗が分かれる「二極化」こそが、この業種の経営課題を読み解く出発点です。

自動車整備業の全体像を数字で見る

個別の課題に入る前に、業種全体の構造を確認します。JASPA「令和6年度自動車特定整備業実態調査」(e-Stat集計)によると、事業場数は92,384(前年比+535、+0.6%、3年連続増)、総整備売上高は6兆2,561億円(前年比+3,489億円、+5.9%、3年連続増)です(出典)。このうち車検を自社完結できる指定整備事業場数は約30,090(2023年時点)で、認証工場全体のおよそ3分の1にとどまります(出典)。指定工場か認証工場かは、車検を自社で完結できるかどうかの経営体力の目安になります。一方で帝国データバンクの調査では、2024年度の自動車整備業は休廃業・解散382件、倒産63件の合計445件で過去最多を更新(前年比+15%)し、赤字企業の割合は26.2%、業績悪化(減収・赤字転落等)と回答した企業は52.9%と半数を超えています(出典)。業界全体の数字が伸びているからといって、相手企業が同じように伸びているとは限らない点に注意が必要です。

自動車整備業の経営課題、主要な5パターン

①整備士の深刻な人手不足・高齢化・後継者難

NRI(日整連+自動車検査登録情報協会の集計に基づく)によると、2023年度の整備士有効求人倍率は5.28倍で、人手不足が深刻とされる介護業界(3.9倍)よりもさらに高い水準です(出典)。整備士資格の保有者は全国に88万人いますが、実際に整備業務に就いているのは27万人程度にとどまり、実働率はおよそ31%です。担い手の入口も細っており、整備士養成の専門学校入学者数は2014年の9,193人から2023年は6,840人へ、9年間で25.6%減少しました。若手の新規参入が細る一方で有資格者の多くが現場を離れているという、入口と現場の両面での人手不足が同時進行しています。相手企業の求人票で給与水準・EV/HV対応研修の有無・人員体制がどう訴求されているかは、この課題への切迫度を推測する手がかりになります。

②倒産・休廃業の急増(過去最多を更新)

前述の通り、帝国データバンクの集計では2024年度の休廃業・解散382件・倒産63件の合計445件で過去最多を更新し、前年比+15%のペースで増加しています。赤字企業は26.2%、業績悪化と回答した企業は52.9%と半数を超えており、業界全体の売上高が伸びる一方で、個々の企業、特に価格競争力や後継者に乏しい零細事業者から淘汰が進んでいる構図がうかがえます。決算書の読み方は決算書の読み方|営業が5分で掴む3指標で解説しています。人手不足という共通の経営課題を抱える業種としては運送業の経営課題|2024年問題・ドライバー不足とも構造が近く、担い手不足が事業継続そのものを揺るがしている点は共通しています。

③EV/HV/ADAS等の電動化・先進安全装備への対応遅れ

2025年のBEV(電気自動車)新車販売比率は年間を通じて2%台で推移しており、10月時点では2.7%です(出典)。急激な普及ペースではありませんが、電気装置の整備には二級整備士資格に加え、メーカーが実施する講習や高電圧安全教育など追加の投資が必要になります(出典)。さらに2027年3月には整備士試験制度そのものが再編され、従来の「ガソリン/ジーゼル」区分が廃止されて電子制御装置を組み込んだ「総合」資格へ一本化される予定です。これにより業界全体で追加の再教育コストが発生する見込みで、対応を先行して進めている企業とそうでない企業とで技術力の差が広がる可能性があります。技術継承・技能習得という観点では製造業の経営課題6選|人手不足・技術承継・DX遅れで解説した技能継承の課題とも重なる部分があります。

④車検の価格競争と、フランチャイズ台頭による競争構造の変化

コバックのように全国500店舗超(うちフランチャイズ加盟が約470店)を展開する車検専門フランチャイズは、車検工程の標準化・低価格化を進め、車検を入口に板金・保険・車両販売・整備へと事業を広げています(出典)。フランチャイズ加盟店の業界全体シェアの推移を示す統計は確認できませんが、こうした車検専門フランチャイズの拡大により、価格競争力や工程効率で対抗しにくい独立系工場が競争上不利になりやすいという構造的な傾向は指摘できます。相手企業が車検専門フランチャイズに加盟しているか(価格競争型)、独自ブランドで運営しているか(差別化型)は、価格戦略や収益構造を見立てる視点になります。人手不足下での2024年問題対応という観点は建設業の経営課題6選|2024年問題・重層下請け・DX遅れとも共通する部分があります。

⑤DX・デジタル化の遅れ

複数の業界メディアの記事では、予約受付が電話中心で、顧客情報が紙の台帳や担当者個人のPCに分散して管理されている自動車整備工場の実例が指摘されています(出典出典)。業界全体でどの程度の工場が紙運用に依存しているかを示す統計は確認できていませんが、前述の人手不足が深刻な業種特性上、予約・顧客管理・整備記録のデジタル化が遅れているほど、限られた人員の業務負荷がさらに高まりやすい構造にあります。求人票や自社サイトでの予約システム・顧客管理システムの言及有無は、DX投資への姿勢を推測する手がかりになります。

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商談前に見ておきたい自動車整備業特有の公開情報

自動車整備業の企業をリサーチする際は、中小企業に共通する求人票・決算・ニュースリリースに加えて、次のような業種特有の情報源も確認しておくと、経営課題の当たりをつけやすくなります。

  • 指定整備工場か認証工場か: 指定整備工場は車検を自社完結できるため、経営体力・投資余力の目安になる(全国の認証工場のうち指定整備工場は約3分の1)。
  • 日整連(日本自動車整備振興会連合会)加盟の有無: 業界団体への加盟状況は、情報収集力・業界内でのつながりを見立てる材料になる。
  • 車検専門フランチャイズ加盟の有無: コバック等のFCブランドに加盟していれば価格競争型、独自ブランドで運営していれば差別化型と、収益構造の見立てが変わる。
  • 保険会社指定工場(協定工場)認定の有無: 板金・保険修理案件の受注ルートに直結し、収益構造の安定性を左右する。
  • EV/HV対応の訴求: 求人票や自社サイトでメーカー講習・高電圧安全教育の実施状況を訴求しているかは、電動化対応への投資姿勢を推測する手がかりになる。
  • 予約・顧客管理のデジタル化状況: 自社サイトでのWeb予約対応の有無は、DX投資への姿勢を見立てる視点になる。

これらを一件ずつ手作業で調べるとかなりの時間がかかりますが、会社名を入力するだけで公開情報を横断し、経営課題・提案システム・ROI・想定反論まで出典付きで自動リサーチできるZEROSYSリサーチのようなツールを使えば、当たりをつける作業そのものを効率化できます。具体的な質問への落とし込み方は初回商談の質問リスト30選【業種別】で解説していますので、あわせて活用してください。仮説の立て方は仮説営業とは|仮説構築の4ステップと立て方でも解説しています。

よくある質問

自動車整備業は事業場数も売上高も増えているのに、なぜ倒産が過去最多なのですか。

JASPAの実態調査によると事業場数92,384・総整備売上高6兆2,561億円はいずれも3年連続で増加している一方、帝国データバンクの集計では2024年度の休廃業382件・倒産63件の合計445件で過去最多を更新しました。増収基調の大手・フランチャイズ・ディーラー系と、価格競争や人手不足への対応力を欠く零細独立系との二極化が進んでいるためです。

整備士の人手不足はどの程度深刻ですか。

NRI(日整連・自動車検査登録情報協会集計)によると2023年度の整備士有効求人倍率は5.28倍で、介護業界(3.9倍)より深刻な水準です。資格保有者は88万人いますが実働しているのは27万人程度(実働率約31%)にとどまり、専門学校入学者数も2014年の9,193人から2023年は6,840人へ9年で25.6%減少しています。

EV(電気自動車)シフトは整備業にどう影響しますか。

2025年のBEV新車販売比率は年間を通じて2%台(10月時点2.7%)にとどまっており急激な変化ではありませんが、電気装置の整備には二級整備士資格に加えメーカー講習や高電圧安全教育などの追加投資が必要です。さらに2027年3月には整備士試験制度自体が「ガソリン/ジーゼル」区分を廃止し電子制御装置を組み込んだ「総合」資格へ再編される予定で、業界全体で再教育コストが発生する見込みです。

商談前に確認すべき自動車整備工場特有の公開情報はありますか。

指定整備工場か認証工場か(車検の自社完結可否、経営体力の目安)、日整連への加盟有無、車検専門フランチャイズへの加盟有無(価格競争型か独自ブランドかの見立て)、保険会社指定工場(協定工場)認定の有無(板金・保険修理の収益構造に直結)の4点が特に確認しておきたいポイントです。

まとめ

自動車整備業の経営課題は、①整備士の深刻な人手不足・高齢化・後継者難②倒産・休廃業の急増(過去最多を更新)③EV/HV/ADAS等の電動化・先進安全装備への対応遅れ④車検の価格競争とフランチャイズ台頭による競争構造の変化⑤DX・デジタル化の遅れ、という5パターンに整理できます。JASPAの統計が示すように、この業種は「事業場数・売上高は増えているが、倒産・休廃業も同時に過去最多を更新する」という二極化した構造を抱えています。個社の状況を業界全体の伸びから決めつけず、指定整備工場か認証工場か・フランチャイズ加盟の有無・EV対応への投資姿勢・DX投資の状況といった一次情報で仮説を検証しながら商談準備を進めることが、決裁者に届く提案につながります。