結論から: 飲食業の経営課題は「人手不足」の一言で片付けられがちですが、実態はもう少し複雑です。原材料費・光熱費高騰分の価格転嫁の遅れ、非正社員を中心とした深刻な人手不足、倒産件数900件で過去最多を更新した構造、人手不足倒産の増加、キャッシュレス・DX・省人化投資の遅れ、そして客単価の値上げに支えられた成長が万博・訪日需要という一時的な追い風にも依存している構造という、複数の課題が同時進行しています。本記事では、飲食業に特有の経営課題を6パターンに整理し、それぞれ商談前リサーチでどこに着目すればよいかを出典付きで解説します。

飲食業の経営課題を、なぜ他業種と分けて見る必要があるのか

中小企業に共通する経営課題の型(人手不足・後継者不在・DXの遅れなど)は経営課題の見つけ方|中小企業10パターンで整理した通りです。ただし飲食業は、原材料費・光熱費・人件費という3つのコスト上昇要因を同時に受けながら、来店客が離れることを恐れて値上げに踏み切りにくいという構造的なジレンマを抱える業種です。加えて、非正社員比率が高い労働集約型の業態であり、人手不足がそのまま営業時間の短縮や店舗閉鎖に直結しやすい点も他業種と異なります。倒産件数が過去最多を更新し続ける一方で、外食産業全体の売上高は物価高による客単価上昇や訪日外国人需要にも支えられて伸びているという、業績の見た目と現場の苦しさが必ずしも一致しない点も、飲食業の経営課題を読み解くうえで押さえておきたい出発点です。

飲食業の全体像を数字で見る

個別の課題に入る前に、業界全体の規模感を確認します。日本フードサービス協会「外食産業市場動向調査 令和7年(2025年)年間結果報告」(2026-01-26発表)によると、2025年の外食産業の全店売上高は前年比107.3%、客数は同102.9%、客単価は同104.3%となりました。業態別の売上を見ると、喫茶が109.8%で最も高く、ファーストフード107.5%、ファミリーレストラン107.2%、ディナーレストラン106.6%、パブレストラン・居酒屋104.0%と、いずれも前年を上回っています。ただし内訳を見ると、ファーストフードの持ち帰り米飯や回転寿司、ファミリーレストランの焼き肉といった業態では客数が前年割れとなっており、売上の伸びが客単価の上昇(値上げ)によって支えられている構図が読み取れます。同調査では、2025年4月から10月にかけての大阪・関西万博の開催や、訪日外客数が過去最高を更新したことも需要の押し上げ要因として挙げられています(出典)。数字だけを見ると好調に映る外食産業ですが、その中身は値上げと一時的なイベント・インバウンド需要に支えられた部分が大きく、後述するように倒産件数は同時に過去最多を更新しているという、二面性のある業界だといえます。なお、中小企業庁「2025年版中小企業白書」では、宿泊業・飲食サービス業は開業率・廃業率ともに全業種の中でも高い部類に位置づけられているとされていますが、業種別の具体的なパーセンテージは本記事執筆時点で一次資料が確認できず(アクセス時に403エラー)要検証としています(出典)。

飲食業の経営課題、主要な6パターン

ここからは、飲食業に特有の経営課題を6パターンに整理します。それぞれ、公開情報のどこにサインが出やすいかもあわせて紹介します。

①原材料費・光熱費高騰と価格転嫁のしにくさ

帝国データバンク「食品主要195社」価格改定動向調査によると、2025年通年の食品値上げは2万609品目に達し、前年の1万2,520品目から64.6%増加しました。平均値上げ率は15%で、カテゴリ別では調味料が6,221品目と最多(前年比262.7%増)、酒類・飲料が4,901品目で続いています(出典)。仕入コストがこれだけ上昇する一方で、飲食業はその上昇分を販売価格にどこまで転嫁できているのでしょうか。帝国データバンク「価格転嫁に関する実態調査(2025年7月)」(対象2万6,196社・有効回答1万626社、回答率40.6%)によると、全業種平均の価格転嫁率は39.4%であるのに対し、飲食店は32.3%、旅館・ホテルは24.9%と、消費者に近い川下の業種ほど転嫁が難しい傾向が示されています(出典)。なお、経済産業省・中小企業庁が別途実施している「価格交渉促進月間フォローアップ調査」でも業種別の転嫁率が公表されていますが、飲食業単独の数値は本記事執筆時点で確認できておらず要検証のため、本記事では飲食業を対象に含む前述のTDB調査の数値(32.3%)を採用しています。客離れを恐れて値上げに踏み切れない小規模・零細の飲食店ほど、コスト増を自社で吸収せざるを得ず、利益を圧迫されやすい構図がうかがえます。メニュー価格の改定頻度や、値上げに関する報道・SNS上の言及、看板メニューの価格帯は、価格転嫁力を推測する手がかりになります。

②深刻な人手不足、特に非正社員の確保難

帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2026年1月)」(対象2万3,859社・有効回答1万620社、回答率44.5%)によると、非正社員の人手不足を感じている企業の割合で、飲食店は58.6%(前年同月比-2.1ポイント)となり、全業種の中で2位という高水準でした。1位は人材派遣・紹介業の60.0%です(出典)。前年からは小幅に改善しているものの、非正社員(アルバイト・パート)への依存度が高い飲食業にとって、人手不足はそのまま営業時間の短縮・定休日の増加・店舗閉鎖に直結しやすい課題です。調理・接客といった外食関連職種の有効求人倍率の具体的な数値は本記事執筆時点で一次資料から確認できておらず要検証としていますが、前述の非正社員不足感の高さからも、現場が慢性的な人手不足に置かれていることがうかがえます。求人媒体での募集頻度・時給水準、営業時間や定休日の変化、口コミサイトでの「スタッフ不足」「対応が遅い」といった言及は、人手不足の深刻度を推測する手がかりになります。

③倒産件数が過去最多を更新する構造

帝国データバンク「『飲食店』の倒産動向(2025年)」(2026-01-13発表)によると、2025年の飲食店倒産は900件となり、前年の894件から6件増加して過去最多を更新しました。負債額別では5,000万円未満の小規模倒産が696件(77.3%)を占め、負債総額は約442億2,700万円です。業態別では、酒場・ビヤホールが204件で最多となったほか、中華・東洋料理店が179件、日本料理店が97件と、いずれも過去最多を更新しています(出典)。前述の通り外食産業全体の売上高は伸びているにもかかわらず、倒産件数が同時に過去最多を更新しているという事実は、業界の好調さの恩恵が一部の企業・業態に偏っていることを示唆しています。特に負債5,000万円未満の小規模倒産が全体の8割近くを占めている点からは、原材料費・光熱費の高騰と価格転嫁の難しさ、人手不足という複数の負担を同時に抱えきれなくなった小規模・零細店舗が中心であることがうかがえます。

④人手不足倒産の増加

帝国データバンク「人手不足倒産の動向調査(2025年度)」によると、2025年度の人手不足倒産は全体で441件発生し、前年度比で約1.3倍に増加、年度ベースで初めて400件を超え、3年連続で過去最多を更新しました。業種別では建設業が112件で最も多く、道路貨物運送業55件、老人福祉事業22件と続くなか、飲食店は21件で業種別過去最多を記録しています(出典)。件数そのものは建設業や運送業に比べて少ないものの、飲食店にとって「業種別過去最多」という更新は軽視できないシグナルです。前述の②で見た非正社員の確保難が、単なる採用難にとどまらず倒産という最終局面にまで至るケースが増えていることを示しています。人手不足を理由とした営業時間短縮や一部店舗の閉鎖が先行して起きていないか、複数店舗展開している場合は一部店舗の閉店・撤退の動きがないかも、あわせて確認しておきたい視点です(フランチャイズ・多店舗展開特有の閉店率・撤退率を示す横断的な統計は本記事執筆時点で確認できておらず要検証です)。

⑤キャッシュレス・DX・省人化投資の遅れ

ホットペッパーグルメ外食総研「2025年度 飲食店経営者のDXに対する興味・関心と導入状況・効果の調査」(対象813人、2025年3月実施)によると、デジタルツール導入への興味・関心を持つ経営者は3割強にとどまっています。一方で、導入済み・検討中のツールとしては「店舗オペレーション管理」系が最も多いという結果でした(出典)。興味・関心自体はまだ限定的である一方、消費者側の行動は先行して変化しています。同研究所「外食店利用時の注文ツールの利用実態・意向調査」(2025年8月実施)では、セルフオーダーの利用経験率は67.5%に達し、テイクアウト時のモバイルオーダーは50.4%(2021年調査の26.0%から急増)となりました(出典)。決済面では、SBペイメントサービス「セルフレジに関する調査結果」(2025年1-2月実施)によると、セルフレジ導入率は55.5%(完全セルフ22.2%+セミセルフ20.8%+両方導入12.5%)で、コンビニ・スーパー等では90%を超えるとされています(この調査は決済代行会社による自社調査であり、飲食店単独の導入率ではない点に留意が必要です)(出典)。また経済産業省によると、2025年の全業種のキャッシュレス決済比率は58.0%(決済額162.7兆円)、内訳はクレジットカードが82.7%です(出典)。ただしこの数値も業種横断の集計であり、飲食店単独でのセルフレジ・キャッシュレス導入率を示す一次統計は本記事執筆時点で確認できておらず要検証です。消費者の利用意欲が経営者側の導入意欲を上回っている構図が透けて見え、人手不足に悩む店舗ほど省人化投資の判断が先送りされやすいのではないかとも考えられます。セルフオーダー端末・モバイルオーダー・キャッシュレス対応の有無、予約サイトでの注文システムの記載は、DX対応の進み具合を店頭・オンラインで確認できる分かりやすい手がかりです。

⑥客単価依存の成長構造と一時的な追い風への依存

前述の外食産業市場動向調査が示すように、2025年の外食産業の成長は客数102.9%に対し客単価104.3%と、値上げによる客単価上昇が売上を牽引する構造になっています。ファーストフードの持ち帰り米飯・回転寿司・ファミリーレストランの焼き肉のように、客数が前年割れとなっている業態も一部に存在します(出典)。加えて、2025年4月から10月の大阪・関西万博開催や訪日外客数の過去最高更新という一時的・外部要因の追い風も、需要の押し上げに寄与したとみられます(同出典)。万博のような大型イベントは一過性であり、訪日需要も為替や国際情勢によって変動しやすいため、これらの追い風が弱まった局面で客数の伸び悩みがどこまで顕在化するかは注視が必要です。客単価の値上げにどこまで依存した成長であるか、客数の増減がどう推移しているかは、決算資料や店舗運営会社の月次売上開示があれば確認できる視点です。

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業態・立地・店舗規模による差にも目を向ける

飲食業の経営課題は、業態・立地・店舗規模によっても濃淡があります。前述の通り、喫茶・ファーストフード・ファミリーレストランは売上が前年比107%前後で伸びる一方、パブレストラン・居酒屋は104.0%とやや伸びが緩やかであり(出典)、倒産動向でも酒場・ビヤホールが204件と最多を占めています(出典)。夜間営業中心の業態ほど、人手不足と客数減の影響を受けやすい構図がうかがえます。立地の面では、観光地・都心部の店舗は訪日需要の追い風を受けやすい一方、郊外・住宅地の店舗では価格転嫁の遅れと人手不足という基本課題がより直接的に業績を左右しやすいと考えられます。また、単店経営か複数店舗を展開するチェーンかによっても、価格改定のスピードやセルフオーダー・キャッシュレスといった省人化投資の余力に差が出やすい業界です。相手企業が単店か多店舗展開か、フランチャイズ加盟か直営かは、商談前に確認しておきたい基本情報です(フランチャイズ特有の閉店率・撤退率を示す横断的な統計は本記事執筆時点で確認できておらず要検証です)。

商談前に見ておきたい飲食業特有の公開情報

飲食業の企業をリサーチする際は、中小企業に共通する求人票・決算・ニュースリリースに加えて、次のような業種特有の情報源も確認しておくと、経営課題の当たりをつけやすくなります。

  • 業態の細分類: 喫茶・ファーストフード・ファミリーレストラン・ディナーレストラン・パブレストラン/居酒屋など、細分類によって客数・客単価の伸び方や倒産リスクの水準が異なる。
  • メニュー価格の改定履歴: 値上げの頻度・時期、看板メニューの価格帯の推移。
  • 求人・シフト体制: アルバイト・パート募集の頻度、時給水準、営業時間や定休日の変化。
  • DX・省人化への対応状況: セルフオーダー・モバイルオーダー・セルフレジ・キャッシュレス決済の導入有無。
  • 店舗展開の形態: 単店経営か多店舗展開か、直営かフランチャイズ加盟か。
  • 代表者・役員の年齢構成、登記の動き: 事業承継が近い時期に来ているかどうかの手がかりになる(飲食業単独の後継者不在率は本記事執筆時点で全国値が確認できておらず要検証だが、帝国データバンクの全国平均は50.1%とされている)。

これらを一件ずつ手作業で調べるとかなりの時間がかかりますが、会社名を入力するだけで公開情報を横断し、経営課題・提案システム・ROI・想定反論まで出典付きで自動リサーチできるZEROSYSリサーチのようなツールを使えば、当たりをつける作業そのものを効率化できます。飲食業の経営課題は小売業の経営課題6選|価格転嫁・EC化の遅れ・後継者不在を数字で読み解くで扱った小売業の課題とも、価格転嫁の難しさという点で通じる部分があります。具体的な質問への落とし込み方は初回商談の質問リスト30選【業種別】で、仮説の立て方は仮説営業とは|仮説構築の4ステップと立て方で解説していますので、あわせて活用してください。決算書から利益率の傾向を掴む視点は決算書の読み方|営業が5分で掴む3指標を参照してください。

よくある質問

飲食業は原材料費・光熱費の値上がり分を、販売価格にどこまで転嫁できていますか

帝国データバンク「価格転嫁に関する実態調査(2025年7月)」によると、全業種平均の価格転嫁率は39.4%であるのに対し、飲食店は32.3%、旅館・ホテルは24.9%と、消費者に近い川下の業種ほど転嫁が難しい傾向が示されています。客離れを恐れて値上げに踏み切れない小規模・零細の飲食店ほど、コスト増を自社で吸収せざるを得ない構図がうかがえます。

飲食業の人手不足は、他業種と比べてどの程度深刻ですか

帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2026年1月)」によると、非正社員の人手不足を感じている企業の割合で、飲食店は58.6%となり、全業種の中で2位という高水準でした(1位は人材派遣・紹介業の60.0%)。非正社員(アルバイト・パート)への依存度が高い飲食業にとって、人手不足はそのまま営業時間の短縮や店舗閉鎖に直結しやすい課題です。

飲食店の倒産は増えていますか、それとも落ち着いていますか

帝国データバンク「『飲食店』の倒産動向(2025年)」によると、2025年の飲食店倒産は900件となり、前年の894件から6件増加して過去最多を更新しました。負債5,000万円未満の小規模倒産が696件(77.3%)を占めており、原材料費・光熱費の高騰と価格転嫁の難しさ、人手不足という複数の負担を同時に抱えきれなくなった小規模・零細店舗が中心とみられます。

外食産業全体の売上が伸びているのに、なぜ倒産件数も過去最多を更新しているのですか

日本フードサービス協会の調査では2025年の外食産業全店売上高は前年比107.3%と伸びていますが、これは客数102.9%に対し客単価104.3%という、値上げによる客単価上昇に支えられた成長です。加えて2025年4月から10月の大阪・関西万博開催や訪日外客数の過去最高更新という一時的な追い風も需要を押し上げたとみられ、業界全体の好調さの恩恵が一部の企業・業態に偏っている可能性がうかがえます。

まとめ

飲食業の経営課題は、①原材料費・光熱費高騰と価格転嫁のしにくさ②深刻な人手不足、特に非正社員の確保難③倒産件数が過去最多を更新する構造④人手不足倒産の増加⑤キャッシュレス・DX・省人化投資の遅れ⑥客単価依存の成長構造と一時的な追い風への依存、という6パターンに整理すると、公開情報から当たりをつけやすくなります。外食産業全体の売上高が前年比107.3%と伸びている一方で、飲食店の倒産件数は900件で過去最多を更新し、人手不足倒産も飲食店で業種別過去最多を記録していることからも、業界全体の好調さと個々の店舗が抱える苦しさは必ずしも一致しないことがうかがえます。個社の状況を決めつけず、業態の細分類・価格改定履歴・DX対応状況・店舗展開の形態・決算書といった一次情報で仮説を検証しながら商談準備を進めることが、決裁者に届く提案につながります。