中小企業に共通する経営課題の型(人手不足・後継者不在・DXの遅れなど)は経営課題の見つけ方|中小企業10パターンで整理した通りです。この記事で扱うのは、介護保険法に定める居宅サービスのうち、車いすや特殊寝台などを貸し出す福祉用具貸与の事業です。介護事業全般は介護・福祉事業の経営課題、ケアプランを作る側は居宅介護支援事業所の経営課題で扱っています。福祉用具貸与は、利用者の家を訪問して介護を行うのではなく、用具の選定・取付け・調整・点検・消毒・回収を通じて暮らしを支える事業で、人員や設備、報酬の考え方が他の居宅サービスと大きく異なるため、先に仕組みを整理します。
福祉用具貸与は何をする事業か
介護保険法第8条第12項は、福祉用具貸与を、居宅要介護者について、心身の機能が低下し日常生活を営むのに支障がある要介護者等の日常生活上の便宜を図るための用具、および機能訓練のための用具で、日常生活の自立を助けるもののうち、厚生労働大臣が定めるものを、政令で定めるところにより貸与することと定義しています。第13項は、同じ福祉用具のうち入浴または排せつの用に供するものなど厚生労働大臣が定めるもの(特定福祉用具)を販売することを特定福祉用具販売と定義しています。貸与は原則、販売は例外という考え方で、利用者の身体の状況や要介護度が変わっても用具を交換できるようにするためです(厚労省老健局の資料による)。
事業者は、都道府県知事の指定を受けて指定福祉用具貸与事業者になります(介護保険法第41条・第70条)。指定は事業所ごとに行われ、6年ごとに更新を受けなければ効力を失います(第70条の2)。制度の特徴として、福祉用具の貸与と購入は、市場の価格競争を通じて適切な価格による給付が行われるよう、保険給付上の公定価格を定めず、現に要した費用の額により保険給付(原則9割、所得に応じて8割・7割)を行う仕組みです。この点が、介護報酬の単位が全国で決まっている訪問介護や通所介護と最も違うところです。
業界の全体像を数字で見る
厚生労働省の「介護サービス施設・事業所調査」(各年10月1日現在)の概況から、福祉用具貸与の事業所数の推移と開設(経営)主体の構成が分かります。事業所数は「活動中の施設・事業所」の集計で、厚労省の資料には、調査方法の変更等による回収率の変動があり、数量を示す事業所数は前年以前と単純に年次比較できない旨の注記があります。
- 事業所数(基本票): 令和2年7,545、令和3年7,770、令和4年7,927、令和5年7,830、令和6年7,736か所です。令和4年から令和6年にかけて191か所(約2.4%)減り、令和2年との比較では191か所(約2.5%)増です(当社計算)。令和6年の特定福祉用具販売は7,605か所(前年比113か所減)、介護予防福祉用具貸与は7,612か所です。
- 開設(経営)主体: 令和6年は営利法人(会社)が94.9%で、令和2年の94.4%から大きく動いていません。社会福祉法人(社会福祉協議会を含む)は1.7%、医療法人は1.3%です。同じ調査で営利法人の割合は、訪問介護73.2%、通所介護55.0%、居宅介護支援50.3%で、福祉用具貸与は突出して高い水準です。
厚生労働省の「介護給付費等実態統計」(令和6年度、令和6年5月~令和7年4月審査分)では、福祉用具貸与(介護サービス)の動きが次のように分かります。なお福祉用具購入費や住宅改修費など、市区町村が直接支払う費用(償還払い)は集計対象外です。
- 年間累計受給者数: 令和4年度の24,279.5千人から令和6年度の25,362.3千人へ約4.5%増(当社計算)で、令和6年度は前年度比2.2%増です。年間実受給者数は2,950.8千人(同2.0%増)でした。
- 費用額累計: 令和4年度367,928百万円、令和5年度380,706百万円、令和6年度392,621百万円で、令和6年度は前年度比3.1%増です。介護サービス全体の費用額累計11,617,866百万円に占める割合は約3.4%(当社計算)です。
- 介護予防福祉用具貸与: 令和6年度は年間累計受給者数8,322.8千人(前年度比6.1%増)、費用額60,256百万円(同8.8%増)でした。介護サービスと介護予防を合わせた費用額は約4,529億円(当社計算)です。
つまり、事業所数は令和4年をピークに減っていますが、利用は伸びています。年間累計受給者1人(月)あたりの費用額は、令和6年度で約1.5万円(当社計算の参考値)です。厚労省の資料によれば、福祉用具貸与の事業所あたりの常勤従事者は4.6人(令和6年10月1日現在)で、小規模な事業所が中心の業態と読み取れますが、事業所の規模別の分布は今回確認しておらず、要検証です。
福祉用具貸与の経営課題、主要な6パターン
ここからは、上の数字と法令の条文を踏まえ、経営課題を整理します。商品ごとの上限価格の水準や、貸与用具の在庫規模などは今回確認できていないため、確認できた範囲に絞り、断定を避けます。個々の事業所の状況は個別に確認が必要です。
①事業所は令和4年をピークに減少、営利法人が94.9%の競争構造
事業所数は令和4年の7,927か所から令和6年の7,736か所へ減り、前年比でも令和5年が97か所減、令和6年が94か所減(いずれも約1.2%減)でした。営利法人が94.9%を占めるため、競争は主に民間企業同士の間で起きます。受給者数と費用額が伸びる中で事業所が減っている点は、統計の集計上の変動(回収率の影響など)の可能性もあり、廃止や統合の実数は今回確認しておらず、要検証です。事業所あたりの常勤従事者が4.6人という規模感を踏まえると、人員基準(常勤換算で2以上)を満たす体制づくり、複数拠点での人員の融通、本部機能の持ち方が経営の論点になりえます。
②公定価格がなく、商品ごとに上限がある:令和6年4月の見直しで6割超が収益減
福祉用具貸与は公定価格を定めず、現に要した費用で給付される仕組みですが、貸与件数が月平均100件以上の商品には、全国平均貸与価格に1標準偏差(1SD)を加えた額が上限として設定され、これを超えて貸与した場合は保険給付の対象になりません(厚労省資料。1SDは正規分布の場合の上位約16%に相当)。新商品の上限は3か月に1度公表され、既に設定された商品は3年に1度見直され、公表から適用までは概ね6か月の準備期間があります。上限が設定された商品は、令和8年7月1日現在で5,055商品です。
令和6年度の見直しでは、上限価格が引き下げられた商品が全体の88.7%、引き上げられた商品が11.3%でした。厚労省が実施した貸与価格の適正化に関する調査(事業所票、回答3,276件)では、令和6年4月からの上限見直しで福祉用具貸与の収益が「減少した」と答えた事業所が62.0%(令和3年度調査では49.9%)、「増加した」は7.2%でした。減少の理由は「上限見直しで貸与価格を下げた商品が多い」が82.8%で最多です。さらに、利用者や介護支援専門員への説明文書の作成、カタログの刷新、契約変更の手続きなど、価格の見直しに伴う事務作業が発生していることも同じ調査で示されています。次の見直しの水準や時期は今回確認しておらず、要検証です。
指定基準は、福祉用具専門相談員が、目録等の文書を示して、機能、使用方法、利用料、全国平均貸与価格等の情報を提供し、個別の福祉用具の貸与に係る同意を得ることを求めています(基準第199条第1号)。また、同一種目で機能または価格帯の異なる複数の福祉用具に関する情報を利用者に提供することも定めています(同条第9号)。価格が可視化されている以上、価格そのものよりも、選定の助言と調整の質で差をつけられるかが問われる構図です。
③収支差率は5.4%、給与費割合は31.5%:人手より「物と運用」にかかる費用の構造
厚労省の令和7年度介護事業経営概況調査(令和6年度決算)では、福祉用具貸与の収支差率(税引前、物価高騰対策関連補助金を含まない)は5.4%で、令和5年度決算の5.7%から0.3ポイント下がりました。全サービス平均は4.7%で変わらず、赤字の事業所は37.0%、黒字は63.0%です。税引後(補助金を含む)の収支差率は3.1%から2.6%に下がっています。ただしこの数字は、福祉用具貸与の有効回答138件(調査客体413、回答率33.4%)に基づく参考値で、事業所間のばらつきが大きい可能性があります。
注目したいのは費用の構造です。令和6年度決算で収入に対する給与費の割合は31.5%にとどまり、同じ調査で居宅介護支援は76.2%、通所介護は60.9%です。福祉用具貸与は、人件費の比重が低い一方、減価償却費が2.1%、委託費が8.8%、その他の費用が55.7%を占めます。その他の費用に何が含まれるか(用具の仕入・修理、配送、保管、消毒、車両など)は、今回確認した資料から内訳を読み取れておらず、要検証です。人件費の比重が低い分、貸与用具の保守、回収後の消毒、保管、配送といった運用の効率が収益に響きやすい構造と考えられますが、これは費用構成からの推測です。
④福祉用具専門相談員の確保:常勤換算2以上と、新しい指定講習
指定基準は、指定福祉用具貸与事業所ごとに福祉用具専門相談員を常勤換算方法で2以上置くことを求め(基準第194条第1項)、専らその職務に従事する常勤の管理者を置くことも定めています(第195条)。福祉用具専門相談員になれるのは、介護保険法施行令第4条第1項に列挙された、保健師、看護師、准看護師、理学療法士、作業療法士、社会福祉士、介護福祉士、義肢装具士、または都道府県知事が指定する福祉用具専門相談員指定講習事業者の講習を修了して証明書の交付を受けた者です。
厚労省の資料では、専門相談員のうち8割強が指定講習会修了者、2割弱が有資格専門職です。指定講習のカリキュラムは、講習時間が50時間から53時間に増え、安全利用・リスクマネジメントの科目が追加される見直しが行われ、令和7年4月1日に施行されました(経過措置は令和8年3月31日まで)。事業者には、専門相談員の資質向上のための研修機会の確保も求められています(基準第201条)。専門相談員の総数、離職率、年齢構成は今回確認しておらず、要検証です。
⑤令和6年4月に始まった貸与と販売の選択制:モニタリングと計画が義務に
令和6年度の介護報酬改定で、利用者負担の軽減と制度の持続可能性の確保、福祉用具の適時・適切な利用と安全確保の観点から、固定用スロープ、歩行器(歩行車を除く)、単点杖(松葉づえを除く)、多点杖の4種目・種類について、貸与か販売かを利用者が選べる選択制が導入されました。基準は、これらの福祉用具を貸与する際に、利用者が貸与と販売のいずれかを選択できることについて十分な説明を行い、必要な情報を提供し、医師や理学療法士、居宅サービス計画の原案に位置づけたサービスの担当者などの意見や利用者の身体の状況を踏まえて提案を行うことを定めています(基準第199条第2号)。
運用面では、福祉用具貸与計画にモニタリングを行う時期を記載すること、モニタリングの結果を記録して居宅サービス計画を作成した居宅介護支援事業者に報告すること、選択制の対象用具では貸与開始から6月以内に少なくとも1回モニタリングを行い貸与継続の必要性を検討することが求められています(基準第199条の2)。厚労省が行ったアンケートでは、購入を選択した利用者の割合は固定用スロープで令和6年度15.2%、令和7年4~6月7.5%、歩行器で令和6年度1.6%、令和7年4~6月1.2%でした。選択制対象種目の貸与費・販売費・居宅介護支援費の合計は、令和6年6月をピークに減り、販売を含めると概ね横ばいとなっていますが、事業所ごとの売上への影響は今回確認しておらず、要検証です。販売は原則年間10万円が支給限度基準額で、販売した側にも、対象福祉用具では特定福祉用具販売計画の目標の達成状況の確認(基準第214条の2第5項)と、利用者等の要請に応じた使用状況の確認や修理等(同第214条第5号、努力義務)が定められています。
⑥指定と運営ルール:保管・消毒、重要事項のウェブサイト掲載、記録の保存
福祉用具貸与は用具を使い回す事業であるため、衛生面の基準が具体的です。基準第196条は、福祉用具の保管と消毒に必要な設備・器材を求め、第203条は、回収した福祉用具を適切な消毒効果を持つ方法で速やかに消毒し、消毒済みとそうでないものを区分して保管することを求めています。保管や消毒は委託等により他の事業者に行わせることもできますが、その場合は委託先の業務の実施状況を定期的に確認し、結果を記録しなければなりません。感染症の予防とまん延防止のため、委員会をおおむね6か月に1回以上開催することも定められています(第203条第6項)。
情報公開の面では、第204条が、事業所の見やすい場所への重要事項の掲示(書面の備え付けで代えることも可能)に加えて、原則として重要事項をウェブサイトに掲載することを求め、取り扱う福祉用具の品名と品名ごとの利用料などを記載した目録等を備え付けることも定めています。記録は福祉用具貸与計画などを完結の日から2年間保存します(第204条の2)。また令和6年度から、福祉用具の事故とヒヤリ・ハット情報が集約され、公益財団法人テクノエイド協会を通じて公表されています(厚労省資料)。指定申請者の要件(法人であるかなど)は、介護保険法第70条第2項第1号により都道府県の条例で定められており、内容は都道府県ごとに確認が必要で、今回は確認しておらず、要検証です。
商談前に見ておきたい福祉用具貸与事業特有の公開情報
福祉用具貸与の事業者に営業やヒアリングを行う前に、次のような公開情報を確認しておくと、論点を絞りやすくなります。利用者や個別の事故の情報は、公開されていても取り扱いに十分な注意が必要です。
- 運営法人と事業所の規模: 営利法人か、他の介護サービスや医療機器・介護用品の販売を併営しているか、拠点数、福祉用具専門相談員の人数。法人の公表資料や求人票で確認します。
- 取り扱い種目・品目と価格の公開: 重要事項のウェブサイト掲載(基準第204条第3項)、目録や利用料の公開状況、全国平均貸与価格や上限の対象商品の取り扱い。
- 貸与計画とモニタリングの運用: 福祉用具貸与計画の作成、モニタリング時期の記載、結果の記録とケアマネジャーへの報告をどの様式(紙・システム)で行っているか。内部の運用は公開されないことが多く、ヒアリングで確認する項目です。
- 保管・消毒・配送の体制: 自社で行うか委託か、倉庫や消毒設備、車両の保有状況。委託の場合の確認記録(基準第203条第3項・第4項)。
- 居宅介護支援事業所・医療機関との関係: 紹介元(ケアマネジャー、病院、地域包括支援センター)との接点や、選択制の対象用具の提案体制。
- 指定の状況と行政の公表情報: 都道府県の介護サービス情報公表、指定の更新時期(6年ごと)、行政処分の有無。
これらを一件ずつ手作業で調べるとかなりの時間がかかりますが、会社名を入力するだけで公開情報を横断し、経営課題・提案システム・ROI・想定反論まで出典付きで調べられるZEROSYSリサーチのようなツールを使えば、当たりをつける作業そのものを効率化できます。調査は1社あたり10〜15分程度で、そのまま提案書のたたき台にできる形で出力されます。隣接分野の経営状況は、居宅介護支援事業所、訪問看護ステーション、有料老人ホームの記事もあわせて参考になります。
よくある質問
福祉用具貸与の事業所は全国にいくつありますか?
厚生労働省の令和6年介護サービス施設・事業所調査(令和6年10月1日現在)では7,736か所です。令和4年の7,927か所をピークに、令和5年は7,830か所、令和6年は7,736か所と減りました。開設(経営)主体は営利法人が94.9%です。事業所数は調査方法の変更等による回収率の変動があり、年次比較には注意が必要とされています。
福祉用具の貸与価格は事業者が自由に決められるのですか?
公定価格は定められておらず、現に要した費用の額で保険給付が行われます。ただし、貸与件数が月平均100件以上の商品には、全国平均貸与価格に1標準偏差を加えた上限があり、上限を超えて貸与した場合は保険給付の対象外です。令和8年7月1日現在、上限が設定された商品は5,055商品で、新商品は3か月に1度公表され、既設定の商品は3年に1度見直されます。個別商品の上限額は、厚労省やテクノエイド協会の公表資料でご確認ください。
福祉用具専門相談員になるには、どんな資格が必要ですか?
介護保険法施行令第4条第1項により、保健師、看護師、准看護師、理学療法士、作業療法士、社会福祉士、介護福祉士、義肢装具士のいずれか、または都道府県知事が指定する事業者が行う福祉用具専門相談員指定講習を修了した者です。指定講習は令和7年4月1日から新カリキュラム(53時間)に変わり、経過措置は令和8年3月31日まで設けられていました。詳細は都道府県や講習事業者の案内でご確認ください。
貸与と購入を選べる福祉用具は何ですか?
令和6年4月から、固定用スロープ、歩行器(歩行車を除く)、単点杖(松葉づえを除く)、多点杖の4種目・種類で、貸与か特定福祉用具販売かを利用者が選べます。選択にあたっては、福祉用具専門相談員または介護支援専門員が両方の選択肢を十分に説明し、医師や専門職の意見、身体の状況を踏まえて提案することが求められています。制度の詳細や対象の細目は、厚労省の通知や市区町村の案内でご確認ください。
福祉用具貸与の事業を始めるには何が必要ですか?
都道府県知事の居宅サービス事業者としての指定が必要で、事業所ごとに申請します(介護保険法第70条)。福祉用具専門相談員を常勤換算で2以上、専らその職務に従事する常勤の管理者、福祉用具の保管・消毒に必要な設備を備える必要があります(指定居宅サービス等基準第194~196条)。指定申請者の要件は都道府県の条例で定められており、内容は都道府県ごとに異なるため、事前に都道府県の窓口でご確認ください。
まとめ
福祉用具貸与事業の経営課題は、①事業所数が令和4年の7,927か所から令和6年の7,736か所へ減る中、営利法人が94.9%を占める競争構造②公定価格がなく、商品ごとに全国平均貸与価格に1標準偏差を加えた上限があり、令和6年4月の見直しで事業所の62.0%が収益減と答えたこと③収支差率5.4%、給与費割合31.5%という、人件費より用具の運用にかかる費用の比重が高い構造④福祉用具専門相談員を常勤換算2以上置く人員基準と、令和7年4月に53時間へ見直された指定講習⑤令和6年4月に始まった貸与と販売の選択制と、福祉用具貸与計画・モニタリングの義務⑥保管・消毒、重要事項のウェブサイト掲載、記録の保存といった運営ルール、の6つです。営業やヒアリングの前に、運営法人、取り扱い種目、貸与計画とモニタリングの運用、保管・消毒の体制を公開情報で確認しておくと、論点を絞って話ができます。個別商品の上限額、運営主体別の売上、都道府県条例の要件など今回確認できなかった項目は、公的な一次情報で必ずご確認ください。