結論から: 日本チェーンドラッグストア協会(JACDS)の実態調査(2026年9月1日発表)によると、2025年度の全国売上高は10兆6,427億円で、うち調剤売上は1兆6,586億円(前年度比+9.1%、調剤医療費シェアは暫定19.7%)まで拡大しています。市場は右肩上がりに見える一方、店舗数の増加による飽和(オーバーストア)、ツルハ・ウエルシアの経営統合(2025年12月1日効力発生、統合後売上高2兆3,124億円)に代表される大手再編、調剤併設をめぐる薬剤師・登録販売者の確保競争、2026年5月までに施行予定の改正薬機法「指定濫用防止医薬品」制度への現場対応など、店舗網の拡大だけでは片づかない経営課題が同時進行しています。本記事ではドラッグストア業界に特有の経営課題を6パターンに整理し、商談前リサーチで着目すべきポイントを出典付きで解説します。

ドラッグストアを、小売業一般・医薬品卸売業・調剤薬局の経営課題と分けて見る必要がある理由

中小企業に共通する経営課題の型(人手不足・後継者不在・DXの遅れなど)は経営課題の見つけ方|中小企業10パターンで整理した通りです。ただし「ドラッグストア」は、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)に基づく店舗販売業の許可を得て一般用医薬品を扱いながら、日用品・化粧品・食品まで幅広く販売する複合業態である点で小売業一般とは扱う商材・規制の枠組みが異なります。また、医薬品を都道府県知事の許可のもとで小売する業態である点で、同じ薬機法の枠組みでも卸売販売業の許可で営業する医薬品卸売業とは許可類型が異なり、業界団体も日本チェーンドラッグストア協会(JACDS)という独自の組織です。さらに、医療用医薬品の調剤を主軸とする調剤薬局とは異なり、ドラッグストアは一般用医薬品・日用品・化粧品の物販を軸としながら調剤機能を「併設」するかどうかが経営判断の分かれ目になる点も特徴です。この違いが、後述するオーバーストアや調剤併設戦略の課題にも直結しています。

ドラッグストア業界の全体像を数字で見る

個別の課題に入る前に、業種全体の構造を確認します。日本チェーンドラッグストア協会(JACDS)の実態調査(2026年9月1日発表)によると、2025年度の全国売上高は10兆6,427億円に達し、うち調剤売上は1兆6,586億円(前年度比+9.1%)、調剤医療費に占めるシェアは暫定で19.7%まで拡大しています。前年度にあたる2024年度は、JACDS「第25回ドラッグストア実態調査」(2025年3月発表)によると全国総売上高10兆307億円(前年度比+9.0%)、店舗総数23,723店(380社)、調剤売上1兆5,205億円(+8.4%)でした。売上高・調剤売上ともに2桁近い伸びが続く一方、店舗数の拡大が先行してきたことで後述するオーバーストアの懸念も指摘されています。もう一つの構造変化が業界再編で、ツルハホールディングスとウエルシアホールディングスの経営統合(2025年4月11日最終契約発表、2025年12月1日株式交換効力発生)により、統合後の売上高は2兆3,124億円・店舗数5,659店という国内最大級のドラッグストアグループが誕生しました。上場ドラッグストア大手12社の売上高合計は2011年度2兆8,542億円から2021年度6兆1,271億円へ約2.1倍、店舗数は6,878店から13,073店へ約2倍に拡大しており(やや古いデータのため2010年代の拡大トレンドを示す傾向値として参考にしてください)、業界全体が「出店による成長」から「再編・効率化による成長」へ軸足を移しつつある局面にあると読み取れます。

ドラッグストア業界の経営課題、主要な6パターン

ここからは、ドラッグストア業界に特有の経営課題を6パターンに整理します。それぞれ、公開情報のどこにサインが出やすいかもあわせて紹介します。

①オーバーストア(店舗過多・飽和)による1店舗あたり収益力の低下懸念

JACDSの実態調査によれば、2024年度時点の店舗総数は23,723店(380社)で、上場大手12社だけを見ても2011年度の6,878店から2021年度には13,073店へと約2倍に増加してきました(2010年代の傾向値)。売上高自体は堅調に伸びている一方、出店競争が長く続いてきたことで、同一商圏内での店舗同士の競合(オーバーストア)が指摘されています。1店舗あたりの売上高を示す個社の集計値も一部で紹介されていますが、二次情報での紹介にとどまるため本記事では具体的な金額としては扱いません。対象企業が直近で新規出店を積極化させているか、それとも既存店の改装・大型化やスクラップ&ビルドに軸足を移しているかは、オーバーストアへの向き合い方を見立てる手がかりになります。

②大手再編・寡占化の加速(ツルハ・ウエルシア統合、マツキヨココカラ発足)

ツルハホールディングスとウエルシアホールディングスは2025年4月11日に経営統合の最終契約を発表し、同年12月1日に株式交換の効力が発生、統合後の売上高2兆3,124億円・店舗数5,659店という国内最大級グループが誕生しました(ryutsuu.biz、ツルハHD IR資料)。両社はシナジー効果として3年で500億円を見込み、中期目標(2032年2月期)として売上高3兆円・営業利益2,100億円・営業利益率7%を掲げています。なお親会社イオンのツルハ株式保有比率は26.83%です。これに先立ち、マツモトキヨシホールディングスとココカラファインも経営統合し、2021年10月1日付で「マツキヨココカラ&カンパニー」が発足しています(diamond-rm.net、wwdjapan.com)。大手グループへの統合が相次ぐ中、中堅・独立系のドラッグストアにとっては、仕入交渉力・PB開発力・物流網の規模で先行する大手グループとの競争環境が年々厳しくなりやすい構造です。対象企業が大手グループの傘下にあるか、独立系として事業を継続しているかは商談前に確認しておきたい視点です。

③調剤併設化をめぐる戦略の違いと薬剤師・登録販売者の確保競争

JACDSの調査では2025年度の調剤売上が1兆6,586億円(前年度比+9.1%)、調剤医療費シェアが暫定19.7%まで拡大しており、調剤機能の強化は業界共通の成長ドライバーになっています。ただし調剤併設への力の入れ方は企業によって差があり、業界横断の併設率統計は一次未確認であるものの、二次集計ではクスリのアオキが約63.5%、サンドラッグが約17.3%という併設率が紹介されており、同じ業界内でも戦略に幅があることがうかがえます(いずれも一次未確認のため参考値として扱います)。調剤機能の拡大には薬剤師の確保が欠かせない一方、一般用医薬品の販売に必要な登録販売者についても、資格試験の累計合格者数は2008〜2024年度で437,928人に達していますが、これは資格保有者の累計人数であり、実際に各店舗へ配置されている登録販売者数を示す統計ではありません。対象企業が調剤併設比率をどの程度公表しているか、薬剤師・登録販売者向けの採用条件をどう打ち出しているかは、この課題への対応状況を見立てる材料になります。なお、大手ドラッグストアの調剤参入が拡大することで、医療用医薬品の調剤を主軸とする調剤薬局(特に門前薬局)の経営環境にも影響が及びうる点は、業種をまたいだ構造変化として押さえておく価値があります。

④改正薬機法「指定濫用防止医薬品」制度への現場対応コスト

2025年5月14日に成立・公布された改正薬機法により、「指定濫用防止医薬品」制度が導入されました。市販薬の販売規制に関わる部分は公布から1年以内、つまり2026年5月までに施行される予定です(yakuji.co.jp)。対象はエフェドリン・コデイン・ジヒドロコデイン・ブロモバレリル尿素・プソイドエフェドリン・メチルエフェドリンの6成分で、施行後は原則1人1包装での販売、若年者に対する身分証による年齢確認、他店での購入履歴の確認、購入目的の確認が義務付けられます。これらはレジ業務・接客オペレーションの見直しやシステム対応(購入履歴の確認手段の整備等)を伴うため、現場の店舗運営コストに直結する制度変更です。対象企業が施行に向けた対応方針(店舗オペレーションの見直し、システム投資等)を公表しているかは、制度対応力を見立てる手がかりになります。

⑤EC・異業種との競合激化とPB(プライベートブランド)戦略

コンビニエンスストア・スーパー・ECの医薬品類似品・日用品領域への参入により、ドラッグストアの主戦場であった日用品・化粧品カテゴリーは競合が広がっています。EC/通販業との価格競争も避けられない中、大手グループは統合によるスケールメリットを生かしたPB(プライベートブランド)商品の開発・拡充で差別化を図る動きを強めています。中堅・独立系にとっては、大手グループのようなPB開発力・仕入規模を持たない中でどう差別化を図るかが課題になりやすい構造です。対象企業のPB商品ラインナップの充実度や、独自の品揃え・専門性(化粧品専門、健康食品特化等)を打ち出しているかは、異業種競合への対応力を見立てる視点になります。

⑥インバウンド需要の取り込みと国内の節約志向の両立

Payke社(商品情報アプリを提供する民間企業)による自社調査では、訪日客のドラッグストア利用率が97.4%に達したと紹介されています(民間企業による自社調査である点に留意が必要です)。免税対応や多言語対応、インバウンド需要の高い化粧品・医薬部外品の品揃え強化は、都市部・観光地の店舗にとって重要な収益機会になっています。一方で、国内消費者側では物価高を背景にした節約志向も根強く、インバウンド向けの高付加価値戦略と、国内客向けの価格訴求・PB活用という異なる客層への対応を同時に成立させる必要がある点が、この業種特有の難しさです。対象企業の店舗立地(観光地・都市部か郊外・住宅地か)や、免税カウンター・多言語対応の有無は、インバウンド需要への向き合い方を見立てる手がかりになります。

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商談前に見ておきたいドラッグストア業界特有の公開情報

ドラッグストア企業をリサーチする際は、中小企業に共通する求人票・決算・ニュースリリースに加えて、次のような業種特有の情報源も確認しておくと、経営課題の当たりをつけやすくなります。

  • 大手グループへの統合・資本参加の有無: ツルハ・ウエルシア連合、マツキヨココカラ&カンパニー等の大手グループ傘下か、独立系かは、仕入交渉力・PB開発力・投資余力を見立てる出発点になる。
  • 調剤併設の状況: 自社サイトでの調剤併設店舗数・比率の開示状況は、成長ドライバーである調剤事業への投資姿勢を見る材料になる。
  • 薬剤師・登録販売者の採用状況: 求人票での薬剤師・登録販売者の募集条件・待遇は、人材確保競争への対応力を推測する手がかりになる。
  • PB(プライベートブランド)展開: 自社サイトでのPB商品ラインナップの充実度は、大手との差別化戦略を見立てる視点になる。
  • インバウンド対応: 免税カウンターの設置、多言語対応の有無、店舗立地(観光地・都市部か郊外か)は、インバウンド需要の取り込み状況を推測する材料になる。

これらを一件ずつ手作業で調べるとかなりの時間がかかりますが、会社名を入力するだけで公開情報を横断し、経営課題・提案システム・ROI・想定反論まで出典付きで自動リサーチできるZEROSYSリサーチのようなツールを使えば、当たりをつける作業そのものを効率化できます。ドラッグストアと隣接する小売業一般の経営課題6選、仕入先である医薬品卸売業の経営課題6選、調剤機能で接点を持つ調剤薬局の経営課題6選もあわせて確認しておくと、サプライチェーン全体を見渡した商談準備の解像度が上がります。具体的な質問への落とし込み方は初回商談の質問リスト30選【業種別】で解説していますので、あわせて活用してください。

よくある質問

ドラッグストア業界は成長していますか

売上高で見れば成長が続いています。日本チェーンドラッグストア協会(JACDS)の実態調査(2026年9月1日発表)によると、2025年度の全国売上高は10兆6,427億円で、うち調剤売上は1兆6,586億円(前年度比+9.1%)まで拡大しています。ただし店舗数の増加が先行してきたことによるオーバーストア(店舗過多)の懸念も同時に指摘されており、売上の伸びと個々の店舗の収益力の伸びは必ずしもイコールではない点に注意が必要です。

なぜドラッグストア業界で大手再編が相次いでいるのですか

ツルハホールディングスとウエルシアホールディングスは2025年12月1日に経営統合を完了し、統合後売上高2兆3,124億円・店舗数5,659店という国内最大級グループになりました(中期目標は2032年2月期で売上高3兆円)。これに先立ち、マツモトキヨシホールディングスとココカラファインも2021年10月1日に統合しています。出店による成長が一巡しつつある中、仕入交渉力・PB開発力・物流網でのスケールメリットを追求する動きが、大手再編の背景にあると考えられます。

ドラッグストアの調剤参入は調剤薬局業界にどう影響しますか

ドラッグストアの調剤売上はJACDSの調査で前年度比+9.1%(2025年度)と伸びており、調剤医療費シェアも暫定19.7%まで拡大しています。医療用医薬品の調剤を主軸とする調剤薬局、特に病院・診療所の近くに立地する門前薬局にとっては、ドラッグストアの調剤参入拡大が競合要因の一つになりうると考えられます。ただし調剤薬局の倒産・経営動向の詳細は調剤薬局側の記事で個別に扱っており、本記事ではドラッグストア側の視点にとどめています。

2026年の薬機法改正はドラッグストアにどう影響しますか

2025年5月14日に成立・公布された改正薬機法により、「指定濫用防止医薬品」制度が導入され、市販薬販売規制に関わる部分は公布から1年以内(2026年5月まで)に施行される予定です(yakuji.co.jp)。対象6成分について、原則1人1包装での販売、若年者への身分証による年齢確認、他店での購入履歴確認、購入目的の確認が義務付けられるため、レジ業務・接客オペレーションの見直しやシステム対応が必要になります。

まとめ

ドラッグストア業界の経営課題は、①オーバーストア(店舗過多)による1店舗あたり収益力の低下懸念②大手再編・寡占化の加速(ツルハ・ウエルシア統合、マツキヨココカラ発足)③調剤併設化をめぐる戦略の違いと薬剤師・登録販売者の確保競争④改正薬機法「指定濫用防止医薬品」制度への現場対応コスト⑤EC・異業種との競合激化とPB戦略⑥インバウンド需要の取り込みと国内の節約志向の両立、という6パターンが相互に絡み合う構造にあります。特に、売上高10兆円超という市場規模の大きさと、店舗数増加によるオーバーストアの懸念、大手再編による寡占化が同時進行している点が、この業種の経営課題の根底にあります。ドラッグストアは薬機法上の店舗販売業許可・日本チェーンドラッグストア協会(JACDS)の存在という点で医薬品卸売業や調剤薬局とは異なる統計系統にあるため、商談前リサーチでは各業種を混同せず、大手グループへの統合状況・調剤併設の状況・PB展開といった一次情報で仮説を検証しながら商談準備を進めることが、決裁者に届く提案につながります。