結論から: 電気工事業の経営課題は、「インフラ需要があるから安泰」の一言では片付きません。帝国データバンクの調査では、2024年の建設業倒産1,890件は過去10年で最多となり、電気工事業を含む「設備工事」区分だけでも411件と、この区分単独でも過去10年最多を更新しました。建設業の価格転嫁率は43.7%で全業種平均(44.9%)を下回っており、資材・燃料高騰分を価格へ十分転嫁できていない構造がうかがえます。従業員10人未満の小規模事業者が倒産全体の92.2%を占める一方、休廃業・解散も増加基調にあります。本記事では、電気工事業に特有の経営課題を6パターンに整理し、それぞれ商談前リサーチでどこに着目すればよいかを出典付きで解説します。

電気工事業の経営課題を、なぜ「インフラ需要があるから安泰」と楽観できないのか

中小企業に共通する経営課題の型(人手不足・後継者不在・DXの遅れなど)は経営課題の見つけ方|中小企業10パターンで整理した通りです。ただし電気工事業は、再生可能エネルギー・データセンター・EV充電インフラなど新規需要が語られる一方で、実際の現場は資材・燃料価格の高騰分を請負価格へ転嫁しきれず、体力の乏しい小規模事業者から先に行き詰まる構造が進んでいる業種でもあります。帝国データバンクの調査では、電気工事業を含む「設備工事」区分の倒産件数が2024年に過去10年で最多を更新しており(出典)、「インフラを支える業種だから需要は安泰」という見立てだけで相手企業の経営状態を判断するのは危険です。

電気工事業の全体像を数字で見る

個別の課題に入る前に、業界全体の構造を確認します。帝国データバンク「『建設業』倒産動向調査(2024年)」によると、2024年の建設業倒産(負債1,000万円以上)は1,890件で、過去10年で最多となりました。このうち「電気工事など設備工事」区分(注: TDB統計では電気工事業単独ではなく、電気工事・管工事等を含む「設備工事」という上位カテゴリでの集計)は411件で前年から増加し、この区分単独でも過去10年で最多を更新しています(出典ITmedia解説記事)。また同調査では、建設業の価格転嫁率は43.7%で、全業種平均44.9%をわずかに下回っており、資材高騰分を価格へ転嫁しきれていない構造がうかがえます。倒産企業の従業員規模別では「10人未満」が1,742件(構成比92.2%)を占めており、小規模事業者が多い電気工事業にとっても他人事ではない水準です。

電気工事業の経営課題、主要な6パターン

ここからは、電気工事業に特有の経営課題を6パターンに整理します。それぞれ、公開情報のどこにサインが出やすいかもあわせて紹介します。

①資材高騰下での価格転嫁の限界

電線・配管材・分電盤などの資材価格や燃料費の高騰が続く一方、帝国データバンクの調査では建設業全体の価格転嫁率は43.7%にとどまり、全業種平均(44.9%)を下回っています(出典)。電気工事業は元請けからの請負契約が中心となる業種が多く、コスト増加分を見積りへ反映する交渉力が弱い企業ほど、利益率の圧迫を受けやすい構造にあります。決算書の粗利率・工事原価率の推移を確認する視点は決算書の読み方|営業が5分で掴む3指標で解説しています。

②倒産件数の増加(設備工事区分で過去10年最多411件)

前述の通り、2024年の建設業倒産1,890件(過去10年最多)のうち、電気工事業を含む「設備工事」区分は411件で前年から増加し、この区分単独でも過去10年で最多を更新しました(出典)。同調査では「物価高倒産」が250件(構成比13.2%)、人手不足を直接の要因とする「人手不足倒産」が99件と報告されており、コスト増と人材確保難の両方が倒産の引き金になっていることがうかがえます。ただしこの411件という数値はあくまで「設備工事」という上位区分の集計であり、電気工事業単独の数値ではない点には注意が必要です。相手企業が単独の電気工事専業か、管工事・空調設備等も手掛ける総合設備工事業かによっても、経営環境の受け止め方は変わってきます。

③休廃業・解散の増加(黒字でも継続を断念するケース)

倒産に至らずとも、事業を畳む企業は増えています。帝国データバンク「全国企業『休廃業・解散』動向調査(2025年1-8月)」によると、建設業全体(電気工事業を含む上位区分)の休廃業・解散は2025年1-8月で5,938件、前年比6.5%増となりました(出典)。休廃業・解散は倒産と異なり、必ずしも赤字や債務超過が直接の理由とは限らず、黒字であっても後継者難や先行きへの不安から事業継続を断念するケースが一定数含まれるとされています。相手企業の代表者年齢や、直近の増減資・本店移転といった登記情報の動きは、この種の兆候を推測する材料になります。

④人手不足・高齢化

建設業全体では、就業者の約3割以上が55歳以上である一方、29歳以下は約1割にとどまるとされています(国土交通省統計)。電気工事士は現場作業に一定の資格・経験を要するため、ベテラン技能者の引退時期が近づく中で、若手の入職・育成が追いついていない状況が構造的な課題として指摘されています。なお、電気工事士の有効求人倍率については「3.8倍」という数値が業界メディア等で言及されることがありますが、一次統計での裏取りができていないため、本記事では参考情報の域を出ないものとして扱います(要検証)。求人票で若年層向けの採用条件(未経験可・資格取得支援など)を強く打ち出しているか、逆に中途・シニア採用への依存度が高いかは、担い手確保への危機感を読み取る手がかりになります。

⑤後継者不在・M&A

帝国データバンクの「全国・後継者不在企業動向調査」(2019年)によると、電気工事業の後継者不在率は71.7%でした(出典)。ただしこの数値は2019年時点のやや古いデータである点に注意が必要です。より直近の帝国データバンク「全国『後継者不在率』動向調査(2025年)」では、建設業全体の後継者不在率は改善傾向にあり、全国平均は2025年時点で50.1%と報告されています(出典)。電気工事業単独の直近の後継者不在率を示す一次データは確認できていませんが、建設業界全体では後継者不在を背景としたM&A・事業承継の動きが活発化しているとされる傾向があります。代表者・役員の年齢構成、直近のM&A・資本異動に関する登記情報の動きは、事業承継の緊急度を測る材料になります。

⑥法改正対応(2025年12月施行改正建設業法)とアナログ業務の負担増

2025年12月には改正建設業法が全面施行されました。資材価格高騰分の労務費へのしわ寄せを防止する規定、価格転嫁協議を円滑にする仕組み、著しく低い労務費での見積り依頼を禁止する「おそれ情報」の通知義務などが新設されています(出典)。こうした制度対応には、見積り・契約・原価管理の記録をこれまで以上に整備する必要がありますが、電気工事業は小規模事業者が多く、施工管理や見積り業務が紙・Excel・電話中心のままという現場も少なくないとみられます。制度対応の負担が増す一方でシステム化が追いついていない企業ほど、事務作業が経営者や少人数の事務担当に集中しやすく、DX・業務システム化のニーズにつながりやすいと考えられます。

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専業・総合設備工事業・元請/下請の違いにも目を向ける

電気工事業の経営課題は、電気工事を専業とする企業か、管工事・空調設備等も手掛ける総合設備工事業かによっても濃淡が異なります。また、ゼネコンや工務店から仕事を受ける下請中心の企業か、官公庁・大手施設からの元請が中心の企業かによっても、価格交渉力や2025年12月施行の改正建設業法への対応スピードは変わってきます。下請の階層が深い企業ほど、労務費基準の実務への浸透度に交渉力の差が出やすいと考えられる点は、建設業全体に共通する傾向でもあります(建設業の経営課題6選もあわせてご参照ください)。相手企業が元請けか下請けか、公共工事と民間工事のどちらが主体かは、商談前に確認しておきたい基本情報です。

商談前に見ておきたい電気工事業特有の公開情報

電気工事業の企業をリサーチする際は、中小企業に共通する求人票・決算・ニュースリリースに加えて、次のような業種特有の情報源も確認しておくと、経営課題の当たりをつけやすくなります。

  • 建設業許可の情報: 電気工事業の許可区分、一般建設業か特定建設業か、許可の更新回数(創業からの年数の目安になる)。
  • 電気工事業登録の状況: 電気工事業法に基づく登録・みなし通知の有無や更新状況。
  • 元請・下請の別と主要取引先: 特定のゼネコン・ハウスメーカー1社への依存度が高いか、複数の発注元を持つかによって、価格転嫁力や資材高騰への対応余力が変わる。
  • 求人票の職種構成: 第一種・第二種電気工事士や施工管理技士の募集か、未経験者中心の募集か。資格取得支援や若年層向け条件の記載有無。
  • 代表者・役員の年齢構成、登記の動き: 事業承継が近い時期に来ているかどうかの手がかりになる。
  • 再エネ・データセンター・EV充電等の新規領域への取組発信: 公式サイトや施工事例で新規需要領域への対応をどこまで打ち出しているか。

これらを一件ずつ手作業で調べるとかなりの時間がかかりますが、会社名を入力するだけで公開情報を横断し、経営課題・提案システム・ROI・想定反論まで出典付きで自動リサーチできるZEROSYSリサーチのようなツールを使えば、当たりをつける作業そのものを効率化できます。具体的な質問への落とし込み方は初回商談の質問リスト30選【業種別】で、仮説の立て方は仮説営業とは|仮説構築の4ステップと立て方で解説していますので、あわせて活用してください。

よくある質問

電気工事業の倒産件数が過去10年で最多というのは本当ですか。

帝国データバンクの調査によると、2024年の建設業倒産1,890件(過去10年最多)のうち、電気工事業を含む「設備工事」区分は411件で前年から増加し、この区分単独でも過去10年で最多を更新しました。ただしこの数値は電気工事業単独の集計ではなく、管工事等を含む「設備工事」という上位区分での集計である点に注意が必要です。

電気工事業の価格転嫁はどの程度進んでいますか。

帝国データバンクの調査では、建設業全体の価格転嫁率は43.7%で、全業種平均(44.9%)をわずかに下回っています。資材・燃料価格の高騰分を請負価格へ十分反映できていない企業が一定数存在すると考えられますが、電気工事業単独の価格転嫁率を示す一次データは確認できていません。

電気工事業の後継者不在率はどのくらいですか。

帝国データバンクの2019年調査では電気工事業の後継者不在率は71.7%でした。ただしこれはやや古いデータで、より直近の2025年調査では建設業全体の後継者不在率は改善傾向にあり、全国平均は50.1%と報告されています。電気工事業単独の直近の数値は確認できていません。

2025年12月の改正建設業法全面施行で電気工事業に何が変わりましたか。

資材価格高騰分の労務費へのしわ寄せを防止する規定、価格転嫁協議を円滑にする仕組み、著しく低い労務費での見積り依頼を禁止する「おそれ情報」の通知義務などが新設されました。制度対応には見積り・契約・原価管理の記録整備が必要になるため、業務がアナログなままの事業者ほど事務負担が増しやすいと考えられます。

まとめ

電気工事業の経営課題は、①資材高騰下での価格転嫁の限界②倒産件数の増加(設備工事区分で過去10年最多411件)③休廃業・解散の増加④人手不足・高齢化⑤後継者不在・M&A⑥法改正対応(2025年12月施行改正建設業法)とアナログ業務の負担増、という6パターンに整理すると、公開情報から当たりをつけやすくなります。インフラを支える業種として新規需要が語られる一方、価格転嫁の遅れや小規模事業者の多さといった構造課題は根強く残っています。個社の状況を決めつけず、建設業許可・電気工事業登録・求人票・決算書といった一次情報で仮説を検証しながら商談準備を進めることが、決裁者に届く提案につながります。