結論から: 仙台弁護士会の会長声明によると、日本の弁護士人口は2014年3月31日の35,045人から2024年3月31日には45,808人へと、わずか10年で1万人以上増加しています。ところが同会をはじめ複数の単位弁護士会は、2026年に入っても「司法試験合格者数を年間1,500人程度からさらに減員すべきだ」という会長声明を出し続けており、「弁護士は増え続けているのに、業界団体自身が供給過剰を訴えて合格者減員を求める」という逆説的な状況が続いています。しかも帝国データバンクの「全国企業『休廃業・解散』動向調査」では、税理士事務所(5.61%)・社会保険労務士事務所(5.56%)が業種別ランキングの上位に独立区分として登場する一方、「法律事務所」「弁護士事務所」という区分自体が同調査に見当たりません。本記事では、他の士業とは異なる政策構造・統計事情を持つ弁護士事務所の経営課題を6パターンに整理し、商談前リサーチで着目すべきポイントを出典付きで解説します。

弁護士事務所を、士業全般・税理士・社会保険労務士等の経営課題と分けて見る必要がある理由

中小企業に共通する経営課題の型(人手不足・後継者不在・DXの遅れなど)は経営課題の見つけ方|中小企業10パターンで整理した通りです。士業全体の高齢化・後継者不在という共通構造は士業の経営課題6パターン|税理士事務所の高齢化と後継者不在の実態で扱っていますが、同記事は税理士・社会保険労務士・弁護士を横断比較する構成のため、弁護士に固有の政策動向・統計事情までは踏み込んでいません。弁護士は、訴訟代理等の独占業務を持つ弁護士法の下にあり、司法試験合格者数という国の政策変数によって供給量が直接コントロールされているという点で、税理士・会計事務所や司法書士・行政書士・弁理士、社会保険労務士事務所とは異なる政策論争・統計環境の下にあります。特に「弁護士人口は10年で1万人以上増えたのに、業界団体自身が合格者のさらなる減員を求めている」という供給政策をめぐる緊張関係、そして帝国データバンクの休廃業・解散動向調査に業種区分として登場しないという統計上の空白は、他の士業記事では扱っていない切り口です。

弁護士人口の10年推移と、供給過剰をめぐる会長声明を数字で見る

個別の課題に入る前に、業種全体の構造を確認します。仙台弁護士会が令和8年3月12日(2026-03-12)に発表した会長声明によると、日本の弁護士人口は2014年3月31日時点の35,045人から、2023年時点で44,916人、2024年3月31日時点で45,808人へと、10年間で1万人以上(約1.31倍)に増加しています(出典)。同声明で仙台弁護士会は、司法試験の年間合格者数を現状の1,500人程度からさらに減員するよう国に求めています。日弁連自身も2025年11月12日の会長談話で、令和7年(2025年)司法試験の最終合格者数が1,581人(前年1,592人から漸減、合格率41.20%・受験者3,837人)だったと発表しつつ、「2012年に司法試験合格者数の1,500人程度への削減を提言し、ほぼ達成されたと言える状況」との認識を示し、2022年策定の「法曹人口政策に関する当面の対処方針」に基づく中長期的な検証を継続していると述べています(出典、法務省発表の合格者数・合格率は出典)。弁護士人口そのものは10年で1万人以上増え続ける一方、業界団体側は供給過剰を懸念して合格者のさらなる抑制を求めるという、需給をめぐる緊張関係が今も続いていることがうかがえます。

弁護士事務所の経営課題、主要な6パターン

ここからは、弁護士事務所に特有の経営課題を6パターンに整理します。それぞれ、公開情報のどこにサインが出やすいかもあわせて紹介します。

①弁護士人口10年で1万人増でも「合格者減員」を求める声明が相次ぐ逆説

前述の通り、弁護士人口は2014年3月31日の35,045人から2024年3月31日の45,808人へと10年間で1万人以上増加しています(出典)。それにもかかわらず、仙台弁護士会をはじめとする単位弁護士会が2026年に入っても司法試験合格者数のさらなる減員を求める会長声明を出しているという事実は、業界団体自身が現場の供給過剰感・経済的基盤の悪化を強く意識していることを示唆しています。日弁連は2012年の提言でほぼ目標を達成したとの認識を示しつつ、なお検証を継続しているとしており(出典)、業界全体として供給量そのものが今なお政策論争の対象になっている点は、他の士業には無い特徴です。新人・若手弁護士ほど案件獲得競争の影響を受けやすいと考えられるため、対象事務所の設立年・所属弁護士の経験年数構成は、経営体力を見立てる手がかりになります。

②司法試験合格者数という国の政策に供給量が直接左右される構造

税理士・社会保険労務士等の資格者数は、受験者数の動向や実務家自身の登録・廃業判断によって緩やかに変動しますが、弁護士は司法試験合格者数という国の政策変数によって新規供給量が直接コントロールされています。法務省・日弁連の発表によると、令和7年(2025年)司法試験の合格者数は1,581人で、2016年度以降おおむね1,500人程度の水準で推移しています(出典)。この「1,500人程度」という水準自体が今後見直される可能性があるかどうかは、業界の将来的な競争環境を左右する変数であり、日弁連が「法曹人口政策に関する当面の対処方針」に基づき継続的に検証している論点でもあります(出典)。商談の相手が若手中心の事務所か、ベテラン中心の事務所かによって、この政策論争への関心度・危機感の温度差が出やすい点は意識しておきたいところです。

③大都市部への集中と弁護士偏在(ゼロワン地域問題)

日弁連は、地方裁判所支部の管轄区域を1地域とし、弁護士登録者数が0人の地域を「弁護士ゼロ地域」、1人の地域を「弁護士ワン地域」と呼び、両者を合わせて「弁護士ゼロワン地域」と定義しています。1993年に初めて実態調査を行った時点でゼロワン地域は74か所ありましたが、2008年に弁護士ゼロ地域はすべて解消され、2011年12月18日には弁護士ワン地域も初めて解消されました(出典)。もっとも日弁連自身が同ページで、弁護士が2人以上いてゼロワン地域には該当しない場合でも、人口や事件数に比して弁護士が不足している地域が残っていると述べており、大都市部への新規登録の集中傾向は今も課題として認識されています。商談対象の事務所がどの地域を拠点にしているか、複数拠点を展開しているかは、地域内での競合状況や引き受けられる案件の幅を推測する材料になります。

④帝国データバンクの休廃業・解散動向調査に「法律事務所」という区分が無い統計の空白

帝国データバンク「全国企業『休廃業・解散』動向調査(2024年)」では、税理士事務所が全業種中最高の5.61%、社会保険労務士事務所が米穀類小売業と並ぶ5.56%で全業種2位という結果が報告されています(出典、既存記事社会保険労務士事務所の経営課題6選で詳述)。一方で同調査の業種別ランキングを確認した限り、「法律事務所」「弁護士事務所」という区分は登場しません。税理士・社会保険労務士という他の主要な士業が独立区分として統計に載っているのに対し、弁護士業だけがこの種の全国横断的な休廃業・倒産動向データの空白地帯になっているという事実自体が、弁護士事務所の経営実態(廃業なのか、統合・承継なのか、休業扱いなのか)が外部から把握しにくい業種であることを示しています。商談前リサーチでは、この種の統計に頼らず、事務所のホームページ更新頻度・所属弁護士の増減・求人状況といった一次的なシグナルを個別に確認する必要性が、他の士業以上に高いといえます。

⑤法人化・複数拠点展開による大規模事務所と個人事務所の競争環境の違い

企業法務・M&A・国際案件等を扱う大規模な弁護士法人が複数拠点を展開する一方、個人事務所(いわゆる一人弁護士事務所)も引き続き数多く存在しており、両者では受任できる案件の規模・専門分野の幅・DXやマーケティングへの投資余力が大きく異なります。前述の通り弁護士人口自体は増加基調にあるため、個人事務所は価格競争・案件獲得競争にさらされやすい環境にあると考えられます。具体的な法人・個人の内訳を示す定量統計は今回確認できていませんが、対象事務所が弁護士法人か個人事務所か、所属弁護士数・取扱分野の幅・複数拠点の有無は、経営体力や商材ニーズを見立てるうえで欠かせない基本情報です。

⑥リーガルテック・DXをめぐるギャップ(要検証)

契約書レビュー支援・クラウド型の案件管理・オンライン相談窓口といったリーガルテックの活用状況について、業界全体の導入率を示す定量調査は今回確認できていません。ただし、司法試験合格者数の政策論争や休廃業動向が統計に表れにくい業種特性を踏まえると、個々の事務所がどこまでITツールを活用して業務効率化・新規顧客接点の確保に取り組んでいるかは、事務所ごとの経営姿勢の差が大きく出やすい領域と考えられます。断定的な導入率を示す一次データが無い以上、事務所のホームページでの「オンライン相談」「電子契約対応」等の言及、求人票でのIT人材募集の有無を個別に確認する視点が欠かせません。

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商談前に見ておきたい弁護士事務所特有の公開情報

弁護士事務所をリサーチする際は、中小企業に共通する求人票・ニュースリリースに加えて、次のような業種特有の情報源も確認しておくと、経営課題の当たりをつけやすくなります。

  • 法人形態・拠点数: 個人事務所か弁護士法人か、複数拠点を展開しているかによって、経営体力や受任できる案件の規模が異なる。
  • 所属弁護士の経験年数構成: ホームページの「弁護士紹介」から、若手中心か、ベテラン中心か、後継候補となる中堅層の在籍有無を推測できる。
  • 拠点の所在地: 大都市部か、弁護士偏在の課題が指摘される地方かによって、地域内の競合状況や案件の幅が異なる。
  • 取扱分野の幅: 一般民事・刑事中心か、企業法務・M&A・国際案件等への展開があるか。
  • IT活用の姿勢: オンライン相談・電子契約対応・案件管理システムの活用など、ホームページや発信からDXへの取り組み姿勢を確認できるか。

これらを一件ずつ手作業で調べるとかなりの時間がかかりますが、会社名を入力するだけで公開情報を横断し、経営課題・提案システム・ROI・想定反論まで出典付きで自動リサーチできるZEROSYSリサーチのようなツールを使えば、当たりをつける作業そのものを効率化できます。弁護士事務所の経営課題は士業の経営課題6パターン|税理士事務所の高齢化と後継者不在の実態で扱った、士業共通の高齢化・後継者不在の構図とも重なる部分がありますが、供給量そのものが国の政策で直接コントロールされているという点は弁護士固有です。具体的な質問への落とし込み方は初回商談の質問リスト30選【業種別】で解説していますので、あわせて活用してください。決算書から利益率の傾向を掴む視点は決算書の読み方|営業が5分で掴む3指標を参照してください。なお、36協定・労務管理をめぐる制度変更への対応は、弁護士事務所と同じく士業に分類される社会保険労務士事務所にとっても関心の高いテーマです。

よくある質問

弁護士は人数が増えているのに、なぜ供給過剰が問題視されているのですか

仙台弁護士会の会長声明によると、弁護士人口は2014年3月31日の35,045人から2024年3月31日の45,808人へと、10年間で1万人以上増加しています。これは司法試験合格者数が2016年度以降おおむね年間1,500人程度の水準で推移してきた結果ですが、複数の単位弁護士会は案件獲得競争の激化や新人弁護士の経済的基盤の悪化を懸念し、司法試験合格者数のさらなる減員を国に求める会長声明を出しています。日弁連自身も2012年の提言をほぼ達成したとしつつ、中長期的な検証を継続していると述べています。

弁護士事務所の倒産・休廃業の統計はどこで確認できますか

帝国データバンク「全国企業『休廃業・解散』動向調査(2024年)」は税理士事務所(5.61%)・社会保険労務士事務所(5.56%)を業種別ランキングに独立区分として掲載していますが、「法律事務所」「弁護士事務所」という区分は同調査に見当たりません。他の主要な士業と異なり、弁護士業の休廃業・倒産動向を横断的に把握できる公開統計は限られているため、個別の事務所ごとにホームページの更新状況や求人状況を確認する必要があります。

弁護士の地域偏在(弁護士ゼロワン地域)は解消されたのですか

日弁連によると、弁護士登録者が0人または1人の「弁護士ゼロワン地域」は、2008年にゼロ地域が、2011年12月18日にはワン地域も解消され、形式的な意味では解消済みです。ただし日弁連自身が、弁護士が2人以上いても人口・事件数に比して不足している地域が残っていると述べており、大都市部への新規登録の集中傾向は今も課題として認識されています。

弁護士事務所に強い商材はどのようなものですか

案件管理システム、契約書レビュー支援等のリーガルテック、オンライン相談・電子契約対応ツール、複数拠点の情報共有基盤などが考えられます。ただし対象事務所が個人事務所か法人か、大都市部か地方か、取扱分野が一般民事中心か企業法務中心かによってニーズは異なるため、商談前に法人形態・拠点・取扱分野を確認しておくことが重要です。

まとめ

弁護士事務所の経営課題は、①弁護士人口10年で1万人増でも「合格者減員」を求める声明が相次ぐ逆説②司法試験合格者数という国の政策に供給量が直接左右される構造③大都市部への集中と弁護士偏在(ゼロワン地域問題)④帝国データバンクの休廃業・解散動向調査に「法律事務所」という区分が無い統計の空白⑤法人化・複数拠点展開による大規模事務所と個人事務所の競争環境の違い⑥リーガルテック・DXをめぐるギャップ(要検証)、という6パターンに整理すると、公開情報から当たりをつけやすくなります。弁護士人口が10年で1万人以上増加する一方、業界団体自身が合格者のさらなる減員を求め、かつ休廃業動向を示す全国統計にも区分として登場しないという二重の逆説は、他の士業には無い弁護士事務所固有の特徴です。決めつけずに法人形態・拠点・所属弁護士の経験年数構成といった一次情報を確認しながら商談準備を進めることが、決裁者に届く提案につながります。