結論から: 倉庫業の経営課題は「人手不足」だけでは説明できません。日本倉庫協会が国土交通省に提出した資料によると、倉庫業は事業者数6,582(貨物運送関連8業種中2位)・従業員数13万2千人・中小企業割合98.9%という中小事業者中心の業界構造でありながら、保管料の価格転嫁を担保する法令上の「標準的な運賃制度」が存在せず、業界自身が「実態としての利益率が高くない業界」と総括しています。人手不足も、現在の不足率7.5%が今後5年以内の離職予想を加味すると15.9%まで悪化すると試算されており、物流不動産市場は空室率が全体として改善傾向にある一方、調査主体・時点によって数値が異なり、一部立地では供給過剰の懸念も指摘されています。本記事では、こうした薄利構造と人手不足・不動産需給の変化が同時進行する構造を6パターンに整理し、商談前リサーチでどこに着目すべきかを出典付きで解説します。

倉庫業の経営課題を、なぜ「保管料の価格転嫁のしにくさ」から見る必要があるのか

中小企業に共通する経営課題の型(人手不足・後継者不在・DXの遅れなど)は経営課題の見つけ方|中小企業10パターンで整理した通りです。ただし倉庫業は、運送業(トラック輸送)と同じ「物流」の枠組みで語られがちですが、収受する対価が「運賃」ではなく「保管料」である点が構造的に異なります。日本倉庫協会が2024年12月10日に国土交通省へ提出した資料によると、倉庫業の保管料指数は2000年から2023年にかけてほぼ横ばいで推移した一方、建設物価調査会の建築費指数は右肩上がりで上昇を続け、両者の乖離は拡大しています(出典)。倉庫を建てる・改修するコストは上がり続けているのに、その対価である保管料はほぼ上がっていない、というこの乖離こそが、倉庫業の経営課題を読み解く出発点です。

倉庫業の全体像を数字で見る

個別の課題に入る前に、業界の規模感を確認します。日本倉庫協会が整理した「数字で見る物流2023」によると、倉庫業の営業収入は2兆6,000億円で、貨物運送関連8業種の中では3位の規模です。事業者数は6,582で同8業種中2位、従業員数は13万2千人、そして中小企業の割合は98.9%に達します(出典、2024年12月10日提出資料)。同資料の中で日本倉庫協会自身が「中小事業者が98%を占めるとともに、実態としての利益率が高くない業界」と総括している点は、業界団体による自己認識として重く受け止める必要があります。運送業(トラック輸送)の経営課題は運送業の経営課題|2024年問題・ドライバー不足を出典付きで整理で扱っていますが、同じ「物流」でも保管料を収受する倉庫業は、運賃を収受する運送業とは異なる価格構造の課題を抱えている点に注意が必要です。

倉庫業の経営課題、主要な6パターン

ここからは、倉庫業に特有の経営課題を6パターンに整理します。それぞれ、公開情報のどこにサインが出やすいかもあわせて紹介します。

①価格転嫁の枠組みがない構造的な薄利体質

トラック運送業には、国土交通省が告示する「標準的な運賃」制度や、荷主・元請けとの取引適正化を監視する「トラックGメン」制度が存在します。一方で倉庫業(保管料)には、こうした法令に基づく標準的な運賃制度もトラックGメン制度も存在しません。日本倉庫協会「令和6年度事業報告」(令和6年4月〜7年3月)によると、同協会は2024年11月1日、相談窓口の名称を「トラック・物流Gメンよろず相談室」に改称し、価格転嫁に関する情報収集の強化を図っています(出典)。窓口の名称を変えてでも情報を集める必要があるということ自体が、保管料の価格転嫁が制度的に担保されていない現状を映し出しています。前述の通り保管料指数が2000年から2023年までほぼ横ばいで推移する一方、建築費指数は上昇を続けているため(出典)、倉庫の新設・改修コストの上昇分を保管料に反映できているかどうかは、企業ごとに大きな差が出やすい論点です。契約更新のタイミングや、保管料改定に関する荷主への打診履歴の有無は、この課題への対応状況を推測する手がかりになります。

②人手不足と高齢化の加速(5年以内離職予想を加味すると2倍以上に)

株式会社NX総合研究所が日本倉庫協会の会員事業者(3,484事業者のうち988事業者から回答)を対象に実施した「倉庫事業における労働力実態に関するアンケート調査」によると、職種計の現在の人員不足率は7.5%ですが、今後5年以内の離職予想を加味すると15.9%まで悪化すると試算されています。職種別に見ると、フォークマンは現在7.8%から将来14.7%、現場作業員は現在8.8%から将来17.7%、事務職は現在5.6%から将来12.6%と、いずれの職種でも不足率がおおむね2倍前後に拡大する見込みです(出典、日本倉庫協会が2024年12月の資料で引用)。なお、倉庫業単体の全国有効求人倍率や倒産件数といった統計は、本記事執筆時点で一次情報での確認ができていません(要検証)。求人票での職種構成・年齢層の記載、フォークリフト免許保有者向けの採用条件の訴求内容は、この課題への切迫度を推測する材料になります。

③2024年問題への対応と荷主待ちの構造

物流の2024年問題に対し、日本倉庫協会は荷主に対して①前日までのオーダーカットの徹底②事前の貨物情報提供③荷動きの平準化、の3点を要望しています。あわせて、トラック予約受付システムの導入や、自動化・機械化による入出庫作業の効率化を業界として推進しています(出典)。これらの要望は、倉庫単独では解決できず、荷主側の協力が前提になる点が特徴です。改正物流効率化法に関する報道によれば、国土交通省のアンケートで約7割の事業者が下請けトラック事業者を利用していると回答しており、元請事業者には「実運送体制管理簿」の作成・1年間保存が義務付けられました(出典)。倉庫業がトラック輸送を自社でも手がけている場合、この管理簿対応の有無も確認しておきたい観点です。相手企業がトラック予約受付システムを導入しているか、荷主との情報連携の仕組みを持っているかは、2024年問題への対応度を見立てる手がかりになります。

④DX・自動化投資のジレンマ

日本倉庫協会は、倉庫業のDX・自動化投資が進みにくい構造的な障壁として①多種多様な貨物を扱うため画一的な機器導入が困難②機器が高額で投資対効果が出ない場合がある③荷主との契約期間が短期だと採算性が課題になる、の3点を挙げています(出典)。一方で自動化の効果自体は確認されており、同資料で紹介されている仕分けAGV「t-Sort」の導入事例(プラスオートメーション)では、人手による仕分け作業と比較して約30%の時間削減効果が示されています。効果が見えていても、③の契約期間の短さがネックとなり投資判断に踏み切れない事業者は少なくないとみられます。自社サイトや求人票でのマテハン機器・AGV・WMS(倉庫管理システム)導入実績の有無、荷主との契約期間の傾向は、この課題への対応状況を推測する材料になります。倉庫業に限らずDXの遅れている業種全般の傾向はDXが遅れている業界の特徴と共通課題で解説していますので、あわせて参考にしてください。

⑤物流不動産の需給変化と老朽化倉庫の建て替え問題

物流不動産の需給は、調査主体・時点によって見え方が異なります。CBRE「ジャパンロジスティクスマーケットビュー2025年第4四半期」によると、大型マルチテナント型物流施設の空室率は首都圏9.8%(前期比▲0.6pt)・近畿圏4.2%(▲0.8pt)・中部圏15.5%(▲1.1pt)・福岡圏5.6%(▲2.7pt)で、いずれも改善傾向にあり実質賃料も微増〜横ばいで推移しています(出典)。日本経済新聞がJLLのデータをもとに2026年7月に報じた記事では、首都圏の空室率は前年同期比2.6pt低下し7.7%で、4四半期連続の低下となったとされています(出典)。CBREの9.8%(2025年第4四半期時点)とJLLの7.7%(2026年第2四半期時点)は数値が異なりますが、これは調査を行う主体(CBREとJLL)と調査時点が異なるためであり、いずれの調査でも首都圏の空室率が低下(改善)傾向にあるという方向性自体は一致しています。一方で、圏央道エリアの空室率が2025年第2四半期時点で18.7%(前期比+1.7pt)と相対的に高水準にあるとの業界報道もあり(CBREデータを引用した報道、参考値)、立地によって需給の温度差が大きい点には注意が必要です。日本倉庫協会「令和6年度事業報告」でも、国土交通省「21社倉庫統計」を引用し、令和6年度は入出庫数量が年末に例年をやや上回る一方、保管残高はコロナ禍の急増後に漸減し前年実績を下回って推移していると分析されており、「2023年度に続き大幅な供給が続いたが、資材費高騰で建設計画の変更・縮小の動きも見られる」と報告しています(出典)。自社倉庫か賃借倉庫か、立地(圏央道エリアか都心近郊か)、倉庫の築年数は、この課題への影響度を見立てる基本情報になります。

⑥労働安全衛生(荷役作業の労災リスク)

厚生労働省「令和6年 労働災害発生状況」によると、令和6年(2024年)の陸上貨物運送事業における死傷者数は16,292人で、このうち荷役作業時の災害が約65%を占めています。事故の型別では「墜落・転落」が4,294人で最多となっており、前年比では202人・4.5%の減少です。同省は荷役作業の5大災害として、墜落・転落、荷崩れ、フォークリフト事故、無人暴走、トラック後退時の事故を挙げています(出典)。この統計は陸上貨物運送事業全体の数値であり、倉庫業単体の内訳は公開データからは確認できていませんが、倉庫の入出庫作業もフォークリフトや荷役を伴う点で同様のリスクを抱えています。フォークリフト運転の資格保有者数、安全教育の実施体制、労災保険の適用状況は、この課題への対応度を推測する手がかりになります。

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規模・立地・元請けか下請けかによる差にも目を向ける

倉庫業の経営課題は、自社倉庫を保有しているか賃借倉庫を使っているか、立地が都心近郊か圏央道エリアなどの郊外幹線沿いか、荷主から直接受託しているか元請け物流企業の下請けかによっても濃淡が異なります。前述の通り、倉庫業は中小企業の割合が98.9%に達する業界であり(出典)、DX・自動化投資も契約期間の短さが採算性のネックになりやすいと指摘されているように、投資余力を要する課題への対応度は企業体力によって差が出やすいと考えられます。また、日本倉庫協会が業際問題として指摘しているように、倉庫業登録を行わずに賃貸借契約と業務委託契約を組み合わせて営業倉庫類似のサービスを提供するプラットフォーマーの事例も発生しており(出典)、相手企業が倉庫業登録を行っている正規の事業者かどうかも、商談前に確認しておきたい基本情報です。

商談前に見ておきたい倉庫業特有の公開情報

倉庫業の企業をリサーチする際は、中小企業に共通する求人票・決算・ニュースリリースに加えて、次のような業種特有の情報源も確認しておくと、経営課題の当たりをつけやすくなります。

  • 倉庫業登録の有無: 国土交通省への倉庫業登録を行っている正規の事業者かどうかは、業際問題(登録なしでの類似サービス提供)を踏まえると確認しておきたい基本情報。
  • 倉庫の種別・立地: 自社倉庫か賃借倉庫か、都心近郊か圏央道エリア等の郊外幹線沿いかによって、物流不動産の需給変化(空室率・賃料動向)の影響度が異なる。
  • 荷主との契約期間・取引構造: 荷主から直接受託しているか元請け物流企業の下請けか、契約期間が長期か短期かは、DX投資の採算性や価格転嫁の交渉力に直結する。
  • マテハン機器・WMS(倉庫管理システム)の導入状況: 自社サイトや求人票での自動化設備・システム導入実績の紹介の有無は、DX対応状況を推測する材料になる。
  • 民間物資拠点としての登録・自治体との災害協定: 日本倉庫協会によると全国1,816拠点が民間物資拠点として登録され(令和6年3月現在)、47都道府県が地区倉庫協会と災害協定を締結している(出典)。該当する倉庫は地域における社会インフラとしての役割を担っている可能性がある。

これらを一件ずつ手作業で調べるとかなりの時間がかかりますが、会社名を入力するだけで公開情報を横断し、経営課題・提案システム・ROI・想定反論まで出典付きで自動リサーチできるZEROSYSリサーチのようなツールを使えば、当たりをつける作業そのものを効率化できます。倉庫業の経営課題は運送業の経営課題|2024年問題・ドライバー不足を出典付きで整理で扱ったトラック輸送の課題や、建設業の経営課題6選|2024年問題・重層下請け・DX遅れを数字で読み解くで扱った建設コスト上昇の課題とも重なる部分が多く、あわせて比較すると仮説の精度が上がります。具体的な質問への落とし込み方は初回商談の質問リスト30選【業種別】で、仮説の立て方は仮説営業とは|仮説構築の4ステップと立て方で解説していますので、あわせて活用してください。決算書から利益率の傾向を掴む視点は決算書の読み方|営業が5分で掴む3指標を参照してください。

よくある質問

倉庫業界はどのくらいの規模の市場ですか

日本倉庫協会が整理した資料(2024年12月10日、国土交通省提出)によると、倉庫業の営業収入は2兆6,000億円で貨物運送関連8業種中3位、事業者数は6,582(同8業種中2位)、従業員数は13万2千人です。中小企業の割合は98.9%に達し、業界団体自身が「実態としての利益率が高くない業界」と総括しています。

倉庫業には運送業のような「標準的な運賃」制度はありますか

ありません。トラック運送業には国土交通省が告示する標準的な運賃制度や取引適正化を監視するトラックGメン制度がありますが、倉庫業(保管料)にはこうした法令上の制度は存在しません。日本倉庫協会は2024年11月に相談窓口を「トラック・物流Gメンよろず相談室」に改称し、情報収集を強化しています。

倉庫業の人手不足はどの程度深刻ですか

株式会社NX総合研究所の調査によると、職種計の現在の人員不足率は7.5%ですが、今後5年以内の離職予想を加味すると15.9%まで悪化すると試算されています。フォークマンや現場作業員では、不足率がおおむね2倍前後まで拡大する見込みです。なお倉庫業単体の全国有効求人倍率は一次情報で確認できていません。

物流施設の空室率は上がっていますか、下がっていますか

調査主体によって数値は異なりますが、方向性としては改善(低下)傾向にあります。CBREの調査では2025年第4四半期の首都圏空室率は9.8%、JLLのデータを引用した日本経済新聞の記事では2026年第2四半期に7.7%(4四半期連続の低下)と報じられています。ただし圏央道エリアなど一部立地では、供給過剰により空室率が相対的に高い水準にあるとの報道もあります。

まとめ

倉庫業の経営課題は、①価格転嫁の枠組みがない構造的な薄利体質②人手不足と高齢化の加速(5年以内離職予想を加味すると2倍以上に)③2024年問題への対応と荷主待ちの構造④DX・自動化投資のジレンマ⑤物流不動産の需給変化と老朽化倉庫の建て替え問題⑥労働安全衛生(荷役作業の労災リスク)、という6パターンに整理できます。中小企業の割合が98.9%に達する業界でありながら、保管料の価格転嫁を担保する制度が存在せず、人手不足も5年以内に倍増する見込みという構造は、他の物流関連業種以上に「制度のすき間」で経営体力が試されやすい業種だといえます。個社の状況を決めつけず、倉庫業登録の有無・立地・荷主との契約構造・DX投資の実績といった一次情報で仮説を検証しながら商談準備を進めることが、決裁者に届く提案につながります。