結論から: 葬祭業の経営課題は「死亡数が増えているから安泰」では片付きません。経済産業省「特定サービス産業動態統計調査 葬祭業」の長期時系列(2000〜2024年)を見ると、葬儀取扱件数は2000年比276.7%に増えた一方、事業所数はそれを上回る527.5%まで急増し、葬祭単価(売上高÷取扱件数)は83.8%まで下落しています。つまり「件数は増えるが競争が激化し、1件あたりの単価は下がる」という構造です。加えて2024年の休廃業・解散・倒産は東京商工リサーチ集計で計74件と2013年以降で最多を更新し、葬儀師・火葬係の有効求人倍率は7.59倍(全産業1.35倍)と深刻な人手不足も同時進行しています。本記事では葬祭業に特有の経営課題を6パターンに整理し、商談前リサーチでどこに着目すべきかを出典付きで解説します。

葬祭業の経営課題を、なぜ「多死社会だから安泰」で片付けてはいけないのか

中小企業に共通する経営課題の型(人手不足・後継者不在・DXの遅れなど)は経営課題の見つけ方|中小企業10パターンで整理した通りです。ただし葬祭業は、日本が年間死亡数160万人超という「多死社会」に入っているにもかかわらず、事業者間の競争激化と単価下落が同時に進んでいるという、一見矛盾した構造を持つ点で他業種と一線を画します。需要(死亡数)が増えても、それ以上のペースで事業所が増え、家族葬・直葬シフトで1件あたりの売上が下がり続ける――この「需要増と収益性低下の同時進行」こそが、この業種の経営課題を読み解く出発点です。

葬祭業の全体像を数字で見る

個別の課題に入る前に、業種全体の構造を確認します。経済産業省「特定サービス産業動態統計調査 葬祭業」の長期時系列データ(2000年を100とした指数、調査企業ベース)によると、2024年時点で売上高は232.0%、取扱件数は276.7%、事業所数は527.5%に伸びた一方、葬祭単価(売上高/取扱件数)は83.8%まで下落しました(出典)。実額では、2024年の売上高は6,108億9,900万円・取扱件数50万2,921件・調査対象事業所数3,006事業所・葬祭単価121.5万円です。なお、この調査は2024年12月分をもって終了し、2025年1月分からは総務省「サービス産業動態統計調査」に統合されています。

厚生労働省「令和6年(2024)人口動態統計(確定数)」によると、2024年の死亡数は160万5,298人(前年比+2万9,282人)、死亡率(人口千対)は13.3でした。国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」によると、死亡数は2040年に約168万人でピークを迎え、2015年比で約30.2%増加すると見込まれています(出典)。死亡数そのものは今後15年ほど増え続けますが、前述の通り事業所数の増加ペースがそれを上回っており、「需要は増えるが、1事業者あたりの取り分は目減りする」構造が続く可能性があります。

葬祭業の経営課題、主要な6パターン

①家族葬・直葬シフトによる葬祭単価の下落

経済産業省の長期統計で、葬祭単価が2000年比83.8%まで下落したことは前述の通りです。この背景を、株式会社鎌倉新書「【第6回】お葬式に関する全国調査(2024年)」(2024年3月実施、有効回答2,000件)で見ると、葬儀の種類別割合は家族葬50.0%・一般葬30.1%・一日葬10.2%・直葬9.6%で、費用は一般葬161.3万円・家族葬105.7万円・一日葬87.5万円・直葬42.8万円と、葬儀形態によって最大4倍近い開きがあります(出典)。すでに公正取引委員会「葬儀の取引に関する実態調査報告書」(2017年)の時点でも、年間取扱件数・売上高ともに「家族葬」が増加と回答した葬儀業者が50%を超え、「一般葬」は減少と回答した業者が70%近くに上っていました。相手の葬儀社が家族葬・直葬中心の低価格帯で件数を稼ぐ経営か、一般葬中心で単価を維持する経営かは、決算や求人票のプラン訴求から見立てられるポイントです。決算書の読み方は決算書の読み方|営業が5分で掴む3指標で解説しています。

②多死社会での需要増と、それを上回る事業者急増による競争激化

死亡数は2040年まで増加が続く見込みですが、経済産業省統計では葬儀事業所数が2000年から2024年で527.5%(約5.3倍)に急増しており、取扱件数の伸び(276.7%)を大きく上回っています。公正取引委員会の調査でも、葬儀業者の72.6%が「直近10事業年度において自社の営業地域内に新規参入があった」と回答しており、新規参入が業界内で常態化していることがうかがえます。需要の伸び以上に供給(事業所)が増えているため、1事業所あたりの取扱件数・売上高は頭打ちになりやすく、価格競争に巻き込まれやすい構造です。

③価格不透明性への行政的な是正圧力

国民生活センターは2026年6月3日、「依然として多い葬儀サービスの料金トラブル−『家族葬だから安い』と思っていませんか?−」を発表し、「家族葬50万円」という表示を見て依頼したところ、明細のない見積書のまま高額プランを案内され、追加費用も発生して総額200万円を超えたという事例を挙げ、相談件数が高止まりしていると注意喚起しています(出典)。さらに遡ると、公正取引委員会「葬儀の取引に関する実態調査報告書」(2017年)では、納入業者(仕出料理・花・返礼品等)の29.9%が葬儀業者から優越的地位の濫用規制上問題となり得る行為を受けたと回答し、特に仕出料理36.7%・花33.6%・返礼品/ギフト32.2%で高い割合が確認されました(出典)。この報告書自体は9年前と古いものの、より新しい国民生活センターの発表(2026年6月)でも消費者向けの価格不透明性は依然として課題であり続けていることが確認できます。相手企業のサイトで、追加費用の有無・明細を含めた見積り例が明示されているかは、コンプライアンス意識を推測する材料になります。

④異業種参入・オンライン仲介ポータルとの価格競争

公正取引委員会の調査(2017年)では、新規参入業者のうち「異業種から参入した葬儀業者」が24.1%に上り、農業協同組合事業・生花事業に加え、従前は少なかった鉄道事業からの参入も増えていると指摘されています。また「自らは葬儀業を営まず葬儀業者を紹介するサービスを営む事業者」の増加にも言及があります。実際、株式会社ユニクエストが運営する「小さなお葬式」は2009年10月のサービス開始から2026年3月末までの累計依頼件数が66万件に達したと公表しており(2026年4月自社調べ、出典)、イオングループのイオンライフ株式会社が運営する「イオンのお葬式」も含め、ネット集客型の仲介ポータルが価格比較・全国一律プランを軸に既存の地域密着型葬儀社と競合する構図が定着しています。相手企業がこうしたポータル経由の集客に依存しているか、独自集客を維持しているかは、価格交渉力や利益率に影響する要素です。

⑤業界再編・二極化(老舗ブランドと新興勢力)

東京商工リサーチの分析によると、2024年の葬儀業は売上高4,051億5,200万円(前期比4.6%増)・最終利益268億6,900万円(同21.6%増)と業績を伸ばす一方、休廃業・解散66件・倒産8件の合計74件で2013年以降最多を更新し、新設法人数105件(同8.6%減)が市場退出を上回る状況が続いています。同社は「老舗ブランドと新興勢力で二極化」と指摘し、業歴50年以上の老舗が全体の36.3%を占め、ブランド力の高い老舗企業を中心に売上高を堅調に伸ばしていると分析しています(出典)。帝国データバンクも2024年1〜11月の葬儀業の倒産・休廃業解散が計47件(前年から1.7倍ペース)に上り、2007年(42件)を超えて年間最多を更新したとしています(出典)。集計主体により件数は異なりますが、いずれも「市場退出の増加」という傾向は一致しています。公正取引委員会の調査でも「年間取扱件数の多い葬儀業者ほど増加傾向が高い」「大手はより事業拡大し、中小との二極化が進む可能性がある」と指摘されており、相手企業が拡大局面の大手・老舗か、縮小圧力を受けやすい中小かの見立てが重要です。

⑥葬儀ディレクター等の深刻な人手不足

日本経済新聞の報道(2025年6月24日、厚生労働省データに基づく)によると、2024年末時点の葬儀師・火葬係の有効求人倍率は7.59倍で、全産業平均の1.35倍を大きく上回っています(出典)。同記事では葬儀件数が2024年に50万2,921件(経済産業省の統計と一致)となり、この20年で8割増えたことが人手不足を深刻化させている背景として挙げられています。夜間対応・24時間365日体制が求められる業種特性上、採用難は現場のオペレーション逼迫に直結しやすく、求人票での採用条件・シフト体制の訴求内容は、この課題への切迫度を推測する手がかりになります。

商談前リサーチ、会社名だけで10分

会社名を入れるだけで、経営課題・提案システム・ROI・想定反論まで出典付きでAIが自動リサーチします。

1社無料でお試しする

個人経営・地域葬儀社と、大手・互助会系との差にも目を向ける

葬祭業の経営課題は、独立系の地域葬儀社か、大手ポータル系か、あるいは冠婚葬祭互助会系かによっても濃淡が異なります。互助会保証株式会社の公表データによると、2026年3月末時点で全国の互助会数は228社、加入契約数は推定2,060万件、前受金残高は推定2兆3,471億円です(出典)。1年前(2025年3月末時点、231社・推定2,095万件・推定2兆3,814億円)と比べると、いずれも緩やかな減少傾向にあります。互助会は会員から掛金を前受金として預かる特有の資金構造を持ち、規模の大きい互助会系企業は投資余力を持ちやすい一方、独立系の地域葬儀社は前述の単価下落・人手不足の影響をより直接的に受けやすい傾向があります。相手企業が互助会系か独立系かは、資金力や意思決定プロセスを見立てる際の視点として有効です。仮説の立て方は仮説営業とは|仮説構築の4ステップと立て方で解説しています。

商談前に見ておきたい葬祭業特有の公開情報

葬祭業の企業をリサーチする際は、中小企業に共通する求人票・決算・ニュースリリースに加えて、次のような業種特有の情報源も確認しておくと、経営課題の当たりをつけやすくなります。

  • 葬儀形態の訴求内容: 自社サイト・広告で「家族葬〇〇万円〜」等の低価格プランを前面に出しているか、一般葬中心のブランディングかで、単価戦略・利益構造が異なる。
  • 互助会加入の有無: 冠婚葬祭互助会系列か独立系かで、資金力(前受金)と意思決定の主体が異なる。
  • 見積り・料金体系の透明性: 追加費用の有無や明細を含む見積り例が自社サイトに明示されているかは、消費者トラブルへの対応姿勢・コンプライアンス意識のサイン。
  • オンライン仲介ポータルとの関係: 「小さなお葬式」「イオンのお葬式」等の紹介経由での集客に依存しているか、自社集客中心かで、価格交渉力・利益率が変わる。
  • 求人票の採用条件・シフト体制: 24時間対応が前提の業種のため、採用難への対応状況(待遇・シフト柔軟性の訴求)から人手不足の切迫度を推測できる。
  • 葬儀施設(式場)の保有状況: 施設を自社保有しているか、貸し式場を都度利用しているかは、投資余力・事業規模の目安になる。

これらを一件ずつ手作業で調べるとかなりの時間がかかりますが、会社名を入力するだけで公開情報を横断し、経営課題・提案システム・ROI・想定反論まで出典付きで自動リサーチできるZEROSYSリサーチのようなツールを使えば、当たりをつける作業そのものを効率化できます。具体的な質問への落とし込み方は初回商談の質問リスト30選【業種別】で解説していますので、あわせて活用してください。

よくある質問

葬祭業は死亡数が増えているのに、なぜ経営が厳しいと言われるのですか。

経済産業省の長期統計によると、2000年から2024年にかけて葬儀取扱件数は276.7%に増加した一方、事業所数はそれを上回る527.5%まで急増し、葬祭単価は83.8%まで下落しました。需要(死亡数)は増えていますが、それ以上のペースで事業者間の競争が激化し、1件あたりの単価が下がり続けているため、件数増加が必ずしも収益増加につながらない構造になっています。

家族葬が増えると葬儀社の売上はどのくらい下がりますか。

一律には言えません。鎌倉新書の調査(2024年3月実施)では、一般葬161.3万円に対し家族葬105.7万円、直葬42.8万円と、葬儀形態により費用は大きく異なります。ただし件数自体は増加傾向にあるため、家族葬・直葬中心にシフトした葬儀社が件数を増やして単価下落を補っているか、一般葬中心を維持して単価を守っているかは、個社の決算・広告訴求から確認する必要があります。

葬儀業界の倒産・休廃業は本当に増えていますか。

増加傾向にあります。東京商工リサーチの集計では2024年の休廃業・解散66件・倒産8件の合計74件で2013年以降最多、帝国データバンクの集計では2024年1〜11月の倒産・休廃業解散が計47件で前年から1.7倍ペースとしています。集計対象・期間が異なるため具体的な件数は集計主体により異なりますが(諸説あり)、いずれも「市場退出が過去最多ペース」という傾向は一致しています。

商談前に確認すべき葬儀会社特有の公開情報はありますか。

互助会加入の有無(資金力・前受金の指標)、見積り・料金体系の透明性(自社サイトでの明細開示状況)、オンライン仲介ポータルへの依存度の3つが、商談前リサーチで特に確認しておきたい業種特有の情報です。

まとめ

葬祭業の経営課題は、①家族葬・直葬シフトによる葬祭単価の下落②多死社会での需要増を上回る事業者急増による競争激化③価格不透明性への行政的な是正圧力④異業種参入・オンライン仲介ポータルとの価格競争⑤業界再編・二極化(老舗ブランドと新興勢力)⑥葬儀ディレクター等の深刻な人手不足、という6パターンに整理できます。経済産業省の長期統計が示すように、この業種は「需要(死亡数)は2040年まで増え続けるが、単価は下がり、事業所は乱立し、人手は足りない」という一見矛盾した構造を抱えています。個社の状況を決めつけず、葬儀形態の訴求内容・互助会加入の有無・料金の透明性・ポータル依存度といった一次情報で仮説を検証しながら商談準備を進めることが、決裁者に届く提案につながります。