鍼灸院・あん摩マッサージ指圧院を「サービス業一般」の型で見ない理由
中小企業に共通する経営課題の型(人手不足・後継者不在・DXの遅れなど)は経営課題の見つけ方|中小企業10パターンで整理した通りです。そのうえで鍼灸院やあん摩マッサージ指圧院は、リラクゼーションやフィットネスの延長で見られがちですが、制度の置かれ方が異なります。「あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律」(以下、あはき師法)第1条は、医師以外の人がこれらを業とするには免許が必要だと定めています。免許を受けるには、第2条により、大学入学資格のある人が3年以上、認定された学校や養成施設で学び、国家試験に合格する必要があります。さらに第12条は、第1条に掲げるものを除いて医業類似行為を業とすることを禁じています(柔道整復は別法)。つまり、人の身体に触れる施術を有料で行う以上、免許・施術所の届出・広告の制限が事業の前提に組み込まれた業態です。柔道整復師の接骨院は接骨院・整骨院の経営課題で整理しており、本記事は、同じ統計の別区分であるあはきの施術所と施術者に絞って扱います。
業界の全体像を数字で見る
厚生労働省の「令和6年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」(令和7年7月29日公表、隔年報)に、就業者と施術所の推移が載っています。確認できた一次情報から、次の数字が分かります。
- 就業あん摩マッサージ指圧師: 平成26年113,215人、令和2年118,103人、令和4年118,913人、令和6年119,703人。令和4年から790人(0.7%)増、平成26年からは6,488人(約5.7%)増です(当社計算)。
- 就業はり師・きゅう師: はり師は平成26年108,537人から令和6年136,736人へ、きゅう師は106,642人から134,730人へ。前回(令和4年)比でそれぞれ5,250人(4.0%)、5,252人(4.1%)増で、10年間では約26%の増加です(当社計算)。
- あん摩マッサージ及び指圧のみを行う施術所: 平成26年19,271か所、令和4年18,017か所、令和6年17,531か所。令和4年から486か所(2.7%)減、平成26年からは1,740か所(約9.0%)減です(当社計算)。
- はり及びきゅうのみを行う施術所: 平成26年25,445か所、令和4年33,890か所、令和6年35,494か所。令和4年から1,604か所(4.7%)増、平成26年からは10,049か所(約39.5%)増です(当社計算)。
- あん摩マッサージ及び指圧、はり並びにきゅうを行う施術所: 平成26年37,682か所、令和6年38,595か所。令和4年から221か所(0.6%)増で、10年では約2.4%増にとどまります(当社計算)。
- 3区分の合計: 平成26年82,398か所、令和6年91,620か所で約11.2%増です。令和6年の構成は、はり及びきゅうのみ約38.7%、あん摩マッサージ及び指圧のみ約19.1%、併用約42.1%です(いずれも当社計算。資料に「その他の施術所」2,736か所の区分もありますが、定義が読み取れないため合計に含めていません)。
- 国家試験(第34回、令和8年2月実施): 受験者はあん摩マッサージ指圧師1,070人、はり師3,920人、きゅう師3,858人。合格者は910人、2,634人、2,720人で、合格率は85.0%、67.2%、70.5%でした。第33回(令和7年2月)は合格率が87.2%、73.9%、74.9%で、受験者は1,160人、4,150人、4,094人でした。
数字の読み方には注意が必要です。この統計は、施術所で従事している人、専ら出張のみで従事している人、届出区域外で滞在して施術する人に限った就業者数で、免許を持っていても別の仕事に就いている人は含まれません。資格ごとの数値のため、複数の免許を持つ人の重複の扱いは資料から確認できず、3資格の数を足し合わせることはしていません(要検証)。また、施術所数や就業者数の増減の理由を、この統計だけで説明することはできません。
鍼灸院・あん摩マッサージ指圧院の経営課題、主要な6パターン
ここからは、上の数字と法令・指針の定めを踏まえ、経営課題を整理します。施術所ごとの実際の状況は個別に確認が必要です。
①「はり・きゅう」に施術者と施術所が増え、競合環境が変わっている
就業はり師・きゅう師は10年で約26%増え、はり及びきゅうのみを行う施術所は約39.5%増えました。一方、あん摩マッサージ指圧師の就業者は約5.7%増と小幅で、あん摩マッサージ及び指圧のみの施術所は約9.0%減っています。施術者と拠点の増え方に区分で差があることは分かりますが、売上や患者数がどう動いたかは、この統計からは分かりません(要検証)。同じ地域の競合が「はり・きゅう主体」に偏っているのか、併用型が多いのかは、地域の届出状況で確認するのが妥当です。
②国家試験の受験者が減り、新規の施術者の入口が細くなる可能性
第34回(令和8年2月)の受験者は、あん摩マッサージ指圧師1,070人(前回比約7.8%減)、はり師3,920人(約5.5%減)、きゅう師3,858人(約5.8%減)でした(当社計算)。合格率はあん摩マッサージ指圧師85.0%、はり師67.2%、きゅう師70.5%で、前回のはり師73.9%、きゅう師74.9%から低下しています。合格者はそれぞれ910人、2,634人、2,720人です。ただし受験者減少の原因(養成施設の入学者数など)は今回確認した資料からは分からず、1回分の差で傾向を断定することもできません(要検証)。採用側から見れば、新卒の施術者を確保できるかどうかは、施術所の規模や立地によって影響が異なります。
③施術所の「開設届」と「構造設備・衛生措置」を維持する運営
あはき師法第9条の2は、施術所を開設した人に、開設後10日以内に開設の場所や従事する施術者の氏名などを施術所の所在地の都道府県知事へ届け出ることを求めています。届出事項に変更があったとき、休止・廃止したとき、休止後に再開したときも、それぞれ10日以内の届出です。第9条の5は構造設備の基準と衛生上の措置を、第10条は都道府県知事による報告の提出と臨検検査を、第11条は基準に適合しない場合の使用制限や改善命令を定めています。専ら出張のみで施術する人は第9条の3、住所地の区域外に滞在して施術するときは第9条の4の届出が別に必要です。出張施術や複数拠点の運営では、届出の抜け漏れ管理が実務上の論点になります。
④広告は「法定事項のみ」。名称・体験談・ウェブサイトの境界を誤らない
第7条は、あん摩業・マッサージ業・指圧業・はり業・きゅう業・施術所について、施術者である旨と氏名・住所、業務の種類、施術所の名称・電話番号・所在地、施術日・時間、厚生労働大臣が指定する事項以外は広告してはならず、技能・施術方法・経歴にわたってはならないと定めています。違反は第13条の8により30万円以下の罰金の対象です。厚生労働省の「あはき・柔整広告ガイドライン」(令和7年2月18日)は、広告の判断を誘引性・特定性・認知性の3要件で示しています。
- 名称・資格表示: 整体・カイロ・漢方・伝統鍼灸などの業務の種類や民間資格の表記は広告できない例として挙げられています。
- 体験談: 利用者が自発的に書いたものは広告に当たりませんが、施術所の依頼や謝礼がある場合は広告として扱い、体験談は広告可能な事項ではありません。
- ウェブサイト: 原則として施術所自身のウェブサイトは、あはき師法の広告規制の対象外とされています。ただしバナー広告、検索連動のスポンサー表示、リスティング広告、動画広告、掲載料を払う口コミ・ランキング型の紹介サイトなどは、3要件を満たせば広告として扱われ、リンク先のサイトも一体として扱われます。広告に当たらないウェブサイトにも、加工した施術前後の写真、満足度や改善率の数値、最上級表現を避けるなどの考え方が示されています。
- 医療保険療養費: 申請ができる旨は、医師の同意が必要な旨を明示する場合に限って広告可能とされています。
集客のためのコンテンツ、MEO、リスティングなどをどこまで広告として扱うかは、指針と自治体の運用で確認が必要です。個別の可否は保健所や都道府県の担当課に確認するのが確実です。
⑤業務の範囲と安全管理(外科手術・薬品の禁止、骨折・脱臼、消毒)
第4条は、施術者が外科手術を行ったり、薬品を投与したり指示したりすることを禁じています。第5条は、あん摩マッサージ指圧師が医師の同意を得た場合のほか、脱臼や骨折の患部に施術してはならないと定め、第6条ははり師に、はり、手指、施術の局部の消毒を義務づけています。第5条と第6条の違反は、第13条の8により30万円以下の罰金の対象です。自費施術のメニュー設計や、院内の手順書・同意の記録といった安全管理の仕組みは、施術所の信頼性の土台になりますが、事故の件数や内容は今回確認した資料から把握できず、要検証です。
⑥免許・名簿・取消しなど、個人の資格に結びつく事業の脆さ
免許は厚生労働省のあん摩マッサージ指圧師名簿・はり師名簿・きゅう師名簿への登録によって行われます(第3条の2、第3条の3)。第3条の事由(心身の障害で業務を適正に行えない人、麻薬等の中毒者、罰金以上の刑に処せられた人など)に該当すると、免許を与えないことがあり、第9条は免許を取得した後に該当した場合の業務停止や免許の取消しを定めています。無免許で業とした場合は第13条の7により50万円以下の罰金です。施術所の事業は、特定の施術者の免許と信頼に大きく依存するため、後継者がいない場合や施術者が退職した場合の事業継続は、個人事業の施術所にとって現実的な論点です。廃業率や施術者の年齢構成は今回確認した資料から取得できておらず、要検証です。
商談前に見ておきたい鍼灸院・あん摩マッサージ指圧院特有の公開情報
施術所に営業やヒアリングを行う前に、次のような公開情報を確認しておくと、論点を絞りやすくなります。
- 施術所の区分と地域の施術所数: あん摩マッサージ及び指圧のみ、はり及びきゅうのみ、併用のどれを軸にしているか。都道府県別の施術所数は、同じ衛生行政報告例の統計表で確認できる場合があります。
- 公式サイト・Googleマップの記載: 名称、免許の表記、予約方法、保険診療(療養費)の取扱いの記載。広告として扱われうる表現が使われていないかは、運営側が自ら点検するべき論点です。
- 求人の内容: 施術者(はり師・きゅう師・あん摩マッサージ指圧師)の募集の有無、資格要件、業務委託か雇用か。
- 予約・カルテ・同意の記録のデジタル化: 予約システムの有無、カルテの電子化、訪問施術の記録や移動の管理。
- 訪問・出張施術の有無: 第9条の3の出張届出が必要か、訪問看護ステーションや介護事業所との連携の有無。
これらを一件ずつ手作業で調べるとかなりの時間がかかりますが、会社名を入力するだけで公開情報を横断し、経営課題・提案システム・ROI・想定反論まで出典付きで調べられるZEROSYSリサーチのようなツールを使えば、当たりをつける作業そのものを効率化できます。隣接する分野の接骨院・整骨院、医療・診療所、訪問看護ステーションの記事もあわせてご覧ください。
よくある質問
鍼灸師は全国にどれくらいいますか?
厚生労働省の令和6年衛生行政報告例(令和6年末現在、隔年報)では、就業はり師は136,736人、就業きゅう師は134,730人、就業あん摩マッサージ指圧師は119,703人でした。この統計は、施術所で従事している人、専ら出張のみの人、届出区域外で滞在して施術する人に限った集計で、免許を持つ人全員の数ではありません。複数免許を持つ人の重複の扱いは資料から確認できていません。
鍼灸院やあん摩マッサージ指圧の施術所は増えていますか?
同統計では、はり及びきゅうのみを行う施術所は平成26年の25,445か所から令和6年の35,494か所へ約39.5%増えています。あん摩マッサージ及び指圧のみを行う施術所は19,271か所から17,531か所へ約9.0%減っています。併用の施術所は37,682か所から38,595か所で約2.4%増です(増減率は当社計算)。
はり師・きゅう師・あん摩マッサージ指圧師の国家試験の合格率は?
厚生労働省の合格発表では、第34回(令和8年2月21日・22日実施)の合格率は、あん摩マッサージ指圧師85.0%、はり師67.2%、きゅう師70.5%でした。第33回(令和7年2月)は87.2%、73.9%、74.9%です。合格基準は、あん摩マッサージ指圧師が160点中96点以上、はり師・きゅう師が各170点中102点以上です。
施術所を開設するときの届出はどうなっていますか?
あはき師法第9条の2により、開設後10日以内に、開設の場所や従事する施術者の氏名などを施術所の所在地の都道府県知事に届け出る必要があります(保健所を設置する市・特別区の場合は、その市長・区長が窓口になります)。変更、休止、廃止、再開の際も10日以内の届出です。構造設備や衛生措置の基準は第9条の5と厚生労働省令で定められているため、具体的な手続や様式は所在地の保健所や自治体の案内をご確認ください。
鍼灸院のウェブサイトに書いてよい内容は?
厚生労働省のあはき・柔整広告ガイドライン(令和7年2月18日)は、原則として施術所自身のウェブサイトはあはき師法の広告規制の対象外としつつ、バナー広告、検索連動のスポンサー表示、リスティング広告、動画広告、掲載料を払う紹介サイトなどは3要件を満たせば広告として扱うとしています。広告に当たらない場合でも、虚偽・誇大な内容や、加工した施術前後の写真、体験談の強調などを避けるよう示されています。個別の可否は、所在地の自治体の担当課に確認してください。
まとめ
鍼灸院・あん摩マッサージ指圧院の経営課題は、①「はり・きゅう」に施術者と施術所が増え競合環境が変わっている②国家試験の受験者が減り新規の施術者の入口が細くなる可能性③施術所の開設届と構造設備・衛生措置を維持する運営④広告は法定事項のみで、名称・体験談・ウェブサイトの境界を誤らない⑤業務の範囲と安全管理⑥免許・名簿・取消しなど個人の資格に結びつく事業の脆さ、の6パターンに整理すると、公開情報から当たりをつけやすくなります。厚生労働省の令和6年衛生行政報告例では、就業はり師は136,736人、きゅう師は134,730人、あん摩マッサージ指圧師は119,703人でした。施術所の売上・客単価・療養費の請求・廃業率・就業者の年齢構成は、今回確認した範囲では公開情報から把握できず、要検証です。個別の施術所に提案する際は、施術所の区分、公式サイトとGoogleマップの記載、求人の内容といった一次情報から仮説を立て、ヒアリングで確かめる進め方が現実的です。