結論から: 歯科医院の経営課題は「患者が減った」の一言で片付けられがちですが、実態を数字で見ると構造はもう少し複雑です。全国の歯科診療所は66,378施設(令和6年10月時点、厚生労働省)で、日本フランチャイズチェーン協会が集計する大手7社のコンビニエンスストア店舗数57,019店(令和5年度末時点)を上回る密度で存在しています。その一方で2024年は歯科医院の倒産27件・休廃業118件がともに過去最多を更新し、経営者の高齢化(70歳以上25.6%)、医療法人形態の低い損益率(5.3%)、デジタル化の保険適用拡大と現場浸透のギャップなど、複数の要因が同時進行しています。本記事では歯科医院に特有の経営課題を6パターンに整理し、商談前リサーチでどこに着目すればよいかを出典付きで解説します。

歯科医院の経営課題を、なぜ他業種と分けて見る必要があるのか

中小企業に共通する経営課題の型(人手不足・後継者不在・DXの遅れなど)は経営課題の見つけ方|中小企業10パターンで整理した通りです。ただし歯科医院は、施設数そのものが依然として非常に多く供給過剰の指摘が根強い点、診療報酬という公定価格に収益が縛られる点、個人開業医と医療法人で損益の見え方が大きく異なる点など、他の医療機関とも異なる力学が働く業種です。診療所・クリニックの経営課題6選で扱った一般診療所(医科)と歯科診療所は、厚生労働省の医療施設調査でも別区分として集計されており、施設数の増減トレンドも対照的な動きを見せています。

歯科医院の全体像を数字で見る

個別の課題に入る前に、歯科医院の施設数と収益構造がどう変化してきたかを確認します。厚生労働省「令和6(2024)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況」によると、令和6年10月1日現在の全国の歯科診療所数は66,378施設で、前年に比べ440施設減少(前年比0.7%減)しました。一方、同時点の一般診療所は105,207施設で313施設増加(同0.3%増)、病院は8,060施設で62施設減少(同0.8%減)しており、歯科診療所だけが減少している点が特徴的です(出典)。それでもなお、歯科診療所66,378施設は、日本フランチャイズチェーン協会が集計する大手7社(セブン-イレブン・ファミリーマート・ローソン等)のコンビニエンスストア店舗数57,019店(令和5年度末時点)を上回る規模であり(出典)、依然として供給過剰と言われる水準にあることがうかがえます。帝国データバンクの分析によると、2014年からの10年間で歯科医院は2,116施設減少しているのに対し、一般診療所(医科)は4,594施設増加しており、医療機関全体で見ても歯科は数少ない「減っている」業態です(出典)。

歯科医院の経営課題、主要な6パターン

ここからは、歯科医院に特有の経営課題を6パターンに整理します。それぞれ、公開情報のどこにサインが出やすいかもあわせて紹介します。

①施設数の絶対的な多さによる過当競争

前述の通り、全国の歯科診療所数は66,378施設(令和6年10月時点)で、減少傾向にあるとはいえ、大手コンビニチェーン7社の店舗数を上回る密度で存在しています(出典)。医療機関の中でも歯科は開業のハードルが相対的に低いことなどを背景に施設数が積み上がってきた経緯があり、地域や立地によっては患者の奪い合いが日常化しているケースが少なくありません。求人票や採用ページで「新患獲得」「地域一番」といった訴求が目立つ医院は、競争環境の厳しさを推測する手がかりになります。

②倒産・休廃業ともに過去最多を更新

帝国データバンク「医療機関の倒産・休廃業解散動向調査(2024年)」によると、2024年の歯科医院の倒産は27件で過去最多を更新し、負債総額は63億1,800万円(平均負債額2億3,400万円)でした。倒産主因を医療機関全体(64件)で見ると「収入の減少(販売不振)」が41件で64.1%を占めています(出典)。倒産以上に急増しているのが休廃業・解散で、2024年の歯科医院の休廃業・解散は118件となり、これも過去最多を更新、倒産件数(27件)の4.4倍に上ります(出典)。法的整理に至らずとも、事業継続を静かに諦める医院が倒産の何倍も存在するという構図は、決算書の読み方は決算書の読み方|営業が5分で掴む3指標でも触れている「表に出にくい経営難」の典型例と言えます。

③経営者の高齢化と後継者不在

帝国データバンクが全国の医療機関経営者(年齢の判明している1万836人)の年齢分布を調べたところ、歯科医院の経営者のうち70歳以上の割合は25.6%でした。これは診療所(医科)の70歳以上54.6%と比べれば低い水準ですが、それでも歯科医院経営者の4人に1人が70歳以上という計算になります(出典)。歯科医院は個人開業医の比率が高く、院長本人の診療技術に経営が依存しやすい業態であるため、後継者の有無や事業承継・M&Aへの準備状況が、経営の持続性を左右する重要な変数になります。院長の年齢や開業年、複数の歯科医師が在籍しているかどうかは、ホームページの医師紹介ページなどから確認できる場合があります。

④公定価格(診療報酬)に縛られた収益構造と、開設者別で異なる損益率

中央社会保険医療協議会「第24回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告-令和5年実施-」によると、歯科診療所の損益率(医業収益に対する損益差額の割合)は、個人立で前々年度26.4%から前年度25.6%へ、医療法人・その他で前々年度6.3%から前年度5.3%へ、全体では前々年度19.4%から前年度18.5%へと、いずれも低下傾向にあります(出典)。個人立の損益率が医療法人・その他より大幅に高く見える点には注意が必要です。同調査の注記によれば、個人立の損益差額には開設者(院長)本人の報酬に相当する部分が費用として含まれていないため、単純に「個人の方が儲かっている」とは言えません。医療法人は院長の給与を費用計上したうえでの利益率であるため、開設者形態が違えば決算書の数字の意味も変わってくる点は、商談前リサーチで特に注意したいポイントです。

⑤デジタル化(CAD/CAM・口腔内スキャナー)の保険適用拡大と現場浸透のギャップ

厚生労働省は診療報酬改定のたびに歯科のデジタル化を後押しする改定を重ねており、CAD/CAMインレーの製作時にデジタル印象採得装置(口腔内スキャナー)を用いた場合の保険点数上の評価などが順次拡大されています(出典)。ただし、こうした制度面の後押しが個々の医院の設備投資にどこまで結びついているかは医院ごとの差が大きいのが実態です。前述の通り医療法人の損益率が5.3%程度まで低下する中、口腔内スキャナーやCAD/CAM関連機器のような高額な設備投資に踏み切れる医院と、従来の印象採得(型取り)を続ける医院との間で二極化が進んでいる可能性があります。ホームページや求人票でのデジタル機器・自由診療メニューの訴求状況は、投資姿勢を推測する手がかりになります。

⑥8020運動の成果による患者構造の変化(治療中心から予防・メンテナンスへ)

厚生労働省「令和4年歯科疾患実態調査」(令和4年11月~12月実施)によると、80歳で20本以上自分の歯を有する人の割合(8020達成者率)は51.6%で、前回平成28年調査の51.2%とほぼ同水準でした。また、過去1年間に歯科検診を受診した人の割合は58.0%、4mm以上の歯周ポケットを持つ人の割合は47.9%でした(出典)。8020運動が始まった平成元年当時、達成者は10人に1人程度だったとされる中で5割を超える水準まで改善してきたということは、長期的にはむし歯治療を中心とした需要構造が変化し、予防・メンテナンス中心の来院サイクルへのシフトが進んでいることを示唆します(諸説あり、達成率の年次比較は調査対象年齢の推計方法にも影響されるため厳密な経年比較には注意が必要です)。従来型の「削って詰める」治療モデルに依存したままの医院は、患者構造の変化に収益モデルが追いついていない可能性があります。

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個人開業医と医療法人―経営形態による差にも目を向ける

歯科医院の経営課題は、個人開業医か、医療法人化している歯科医院かによっても濃淡が異なります。前述の医療経済実態調査が示すように、個人立と医療法人・その他とでは損益率の算出方法自体が異なり(院長報酬の扱いが違う)、単純な比較はできません。また、帝国データバンクの分析では、歯科医院経営者の70歳以上の割合は25.6%であり、個人開業医が高齢化した場合、後継者不在のまま休廃業に至るケースと、医療法人化してM&Aや分院展開によって事業を継続するケースとで、その後の展開が大きく分かれます。相手が個人開業医か医療法人かは、意思決定のスピードや投資判断の主体、事業承継への向き合い方を見立てるうえで欠かせない視点です。仮説の立て方は仮説営業とは|仮説構築の4ステップと立て方で解説しています。

商談前に見ておきたい歯科医院特有の公開情報

歯科医院をリサーチする際は、中小企業に共通する求人票・決算・ニュースリリースに加えて、次のような業種特有の情報源も確認しておくと、経営課題の当たりをつけやすくなります。

  • 開設者形態: 個人開業医か、医療法人(理事長)かによって、決算の見え方・意思決定のスピード・投資余力が異なる。
  • 院長・在籍歯科医師の年齢と人数: ホームページの医師紹介ページから、後継者の有無や世代交代の準備状況を推測する。
  • 自由診療メニューの充実度: インプラント・矯正・審美歯科など保険外診療のメニュー数から、収益源の多角化度合いを読み取る。
  • デジタル機器への言及: 口腔内スキャナー・CAD/CAM・デジタルレントゲン等への言及の有無から、設備投資への姿勢を推測する。
  • 分院展開の有無: 複数医院を展開しているかどうかで、規模の経済や経営体力の見立てが変わる。
  • 採用状況: 歯科衛生士・歯科技工士の求人が継続的に出ているかは、人手不足の深刻度のサインになる場合がある。

これらを一件ずつ手作業で調べるとかなりの時間がかかりますが、会社名を入力するだけで公開情報を横断し、経営課題・提案システム・ROI・想定反論まで出典付きで自動リサーチできるZEROSYSリサーチのようなツールを使えば、当たりをつける作業そのものを効率化できます。具体的な質問への落とし込み方は初回商談の質問リスト30選【業種別】で解説していますので、あわせて活用してください。

よくある質問

歯科医院の経営課題は患者数の減少だけですか

患者側の受診動向の変化(予防意識の向上など)は要因の一つですが、それだけではありません。厚生労働省の医療施設調査によると歯科診療所数自体が前年比0.7%減少しており、施設数の供給過剰と競争激化、倒産・休廃業の過去最多更新、経営者の高齢化、開設者形態による損益率の差など、複数の要因が絡み合っているのが実態です。

歯科医院はなぜコンビニより多いと言われるのですか

厚生労働省の医療施設調査によると、全国の歯科診療所数は66,378施設(令和6年10月時点)です。これは日本フランチャイズチェーン協会が集計する大手7社のコンビニエンスストア店舗数57,019店(令和5年度末時点)を上回る規模であり、この比較から「歯科医院はコンビニより多い」と言われることがあります。ただし歯科診療所数自体は近年減少傾向にある点には注意が必要です。

個人開業医と医療法人、歯科医院として業績が良いのはどちらですか

一律に判断はできません(諸説あり)。中央社会保険医療協議会の医療経済実態調査によると、個人立の損益率は前年度25.6%、医療法人・その他は前年度5.3%と、数字上は個人立の方が高く見えます。しかし個人立の損益差額には院長本人の報酬相当分が費用として含まれていないため、単純な比較はできません。開設者形態が違えば決算書の数字の意味も変わる点を踏まえたうえで、個社の状況を確認することをおすすめします。

まとめ

歯科医院の経営課題は、①施設数の絶対的な多さによる過当競争②倒産・休廃業ともに過去最多を更新③経営者の高齢化と後継者不在④公定価格に縛られた収益構造と開設者別で異なる損益率⑤デジタル化の保険適用拡大と現場浸透のギャップ⑥8020運動の成果による患者構造の変化という6パターンに整理すると、公開情報から当たりをつけやすくなります。歯科診療所数は66,378施設と依然として多い一方、2024年の倒産・休廃業はともに過去最多を更新しており、供給過剰と経営難が同時進行する構図が見えてきます。個社の状況を決めつけず、開設者形態や院長の年齢、決算情報といった一次情報で仮説を検証しながら商談準備を進めることが、決裁者に届く提案につながります。