結論から: 士業(税理士・公認会計士・社会保険労務士・弁護士など)の経営課題は「後継者がいない」「高齢化」の一言で片付けられがちですが、実態はもう少し複雑です。有資格者本人の高齢化、登録者数の伸び鈍化と事業承継リスク、個人(一人)事務所中心の構造による経営体力差、会計事務所のDX・IT化の遅れ、生成AI活用をめぐる期待と実装のギャップ、士業間・法人か個人かによる格差という複数の構造課題が同時進行しています。本記事では、士業に特有の経営課題を6パターンに整理し、それぞれ商談前リサーチでどこに着目すればよいかを出典付きで解説します。

士業の経営課題を、なぜ他業種と分けて見る必要があるのか

中小企業に共通する経営課題の型(人手不足・後継者不在・DXの遅れなど)は経営課題の見つけ方|中小企業10パターンで整理した通りです。ただし士業は、国家資格を持つ本人が経営者でありプレイヤーでもある「先生業」であることが多く、事業承継が単なる代表者交代ではなく「有資格者そのものの確保」を意味する点が、一般の中小企業と異なります。誰でも後を継げるわけではないという制約があるため、高齢化と後継者不在が直結しやすい業種だといえます。加えて、税務・労務・法務という中小企業の意思決定に直結する専門領域を担う立場であるため、士業自身のDXの遅れは、顧問先である中小企業全体の生産性にも波及しうる点も見逃せません。

士業全体の規模感を数字で見る

個別の課題に入る前に、代表的な士業の登録者数を確認します。日本税理士会連合会の集計によると、令和6年度末(2025年3月末)現在の税理士名簿登録者数は8万1,696人(うち女性1万3,034人)で、前年度から416人の増加でした(出典、出典元は日本税理士会連合会の機関紙「税理士界」掲載の令和5年度登録事務事績報告)。全国社会保険労務士会連合会が刊行した「社会保険労務士白書2024年版」によると、2024年3月31日現在の社会保険労務士登録者数は4万5,386人、平均年齢は56.27歳です(会員団体である東京都社会保険労務士会の公式発信による、出典)。日本弁護士連合会によると、2025年4月1日現在、全国52の弁護士会に4万6,974名が入会しています(出典)。合計すると17万人を超える有資格者が、中小企業の税務・労務・法務という意思決定の根幹を支えていることになります。

士業の経営課題、主要な6パターン

ここからは、士業に特有の経営課題を6パターンに整理します。それぞれ、公開情報のどこにサインが出やすいかもあわせて紹介します。

①有資格者本人の高齢化

日本税理士会連合会が令和6年4月に税理士会員・税理士法人会員を対象に実施した「第7回税理士実態調査」(回答3万8,607件、回答率44.8%、出典)の年齢構成データを紹介する複数の専門メディアの報道によると、税理士の年齢層は60歳代が25.7%で最多、次いで70歳代が22%となり、60歳以上の合計は53.6%に達しています。特に開業税理士(個人事務所の所長)に絞ると60歳以上が28.9%、70歳以上が27.0%で、60〜79歳の合計は55.9%に上る一方、税理士法人に所属する社員税理士は30歳代〜50歳代が53.5%を占め、相対的に若い層が中心です(出典)。社会保険労務士も平均年齢56.27歳、50歳代が31.1%で最多となっており(前述、社会保険労務士白書2024年版)、こちらも高齢化が進んでいます。一方、弁護士については日弁連の統計で年代別に40歳代が最多層とされていますが、詳細な年代別割合は本記事執筆時点で一次資料(PDF)から読み取れておらず要検証です。士業の中でも高齢化の進み方には差があり、法人化しているか個人事務所かによっても構成が変わる点には注意が必要です。事務所ホームページの「代表者紹介」に記載された資格取得年・経歴、スタッフ紹介ページの年齢層は、高齢化の度合いを推測する手がかりになります。

②登録者数の伸び鈍化と事業承継リスク

前述の通り、税理士登録者の令和6年度の純増数は416人にとどまり、年間500人を割り込んだのは平成28年度以来9年ぶりです(出典)。加えて、前述の第7回税理士実態調査では、20歳代・30歳代の税理士が占める割合が第5回調査の11.5%から第7回調査では6.6%へと、約半分に減少したことも報告されています(出典)。若手税理士の比率低下は、事業承継の担い手が先細りしていることを示す代理指標といえます。なお、事業全体の後継者不在率については、東京商工リサーチの2025年調査で62.60%(6年連続上昇、出典)、帝国データバンクの2025年調査で50.1%(7年連続改善、出典)と、調査会社によって算出方法が異なり数値が大きく割れています(諸説あり)。いずれの調査も「税理士事務所」「法律事務所」等を独立した業種区分として公表しておらず、士業単体の後継者不在率は本記事執筆時点で確認できる一次情報がなく要検証です。代表者の年齢、番頭格の有資格者の在籍有無、直近の有資格者採用の求人動向は、事業承継の緊急度を推測する材料になります。

③個人(一人)事務所中心の構造と法人化による体力差

全国社会保険労務士会連合会 社会保険労務士総合研究機構が実施した「2024年度社労士実態調査」の詳細版によると、社労士1人での事務所経営が5割強を占めることが報告されています(出典)。税理士業界でも、前述の第7回税理士実態調査が開業税理士・所属税理士・社員税理士・税理士法人をそれぞれ別冊で調査しているように、個人事務所と法人化した事務所とでは経営実態が大きく異なります。前述の通り、法人に所属する社員税理士は30〜50代中心で相対的に若い一方、開業税理士(個人事務所)は60〜79歳が55.9%を占めており、法人化が進んでいる事務所ほど採用力・世代交代の体力がある可能性がうかがえます(いずれも出典)。相手が個人事務所か、税理士法人・社労士法人・弁護士法人等の法人形態か、複数拠点を展開しているかは、投資余力や採用力を推測するうえで重要な視点です。

④会計事務所のDX・IT化の遅れ

株式会社ミロク情報サービス(MJS)が2025年7月に実施した「会計事務所白書2025」(企業・事業主686名、会計事務所職員212名の計898名が回答)によると、業務のデジタル化を「必要」と考える会計事務所は96%(「強く必要」53%+「必要」43%)に達する一方、実際の取組み状況は「できる範囲で取り組み」が60%、「積極的に取り組んでいる」は16%にとどまります。課題として最も多く挙げられたのは「コスト・時間の問題」で23%、具体的な取組み内容ではペーパーレス化が最多で、コミュニケーションツール、AI機能導入がこれに続きます。また、補助金制度の認知は64%に達する一方、実際に活用しているのは8%にとどまり、「制度は知っていても使えていない」実態も明らかになっています(出典)。認識と実装の間にギャップがある業種だといえます。クラウド会計ソフトの利用有無、電子申告(e-Tax/eLTAX)や電子契約の活用状況、ホームページでの「DX支援」訴求の有無は、取組み度を推測する手がかりになります。

⑤生成AI・省力化投資をめぐる期待と実装のギャップ

独立行政法人中小企業基盤整備機構が2026年2月に発表した「中小企業のDX推進に関する調査」(2025年12月5日〜18日実施、全国の中小企業1,000社が対象のWebアンケート)によると、DXに「既に取り組んでいる」「取組みを検討している」企業は39.1%で前回調査とほぼ横ばいでしたが、DXに取り組む企業のうちAIを活用していると回答した割合は28.4%で、前回調査から14.1ポイントの大幅増加となりました(出典、中小企業全般の調査であり士業単体の数値ではない点に留意)。前述の会計事務所白書2025でも、取組み内容としてペーパーレス化に次いでAI機能導入が上位に挙がっています(出典)。一方で士業は、法令改正への継続対応や税務判断・法律解釈といった専門判断の比重が大きく、定型業務の自動化と専門判断をどう切り分けるかが論点になりやすいとされます。ホームページやプレスリリースでの生成AI活用の訴求、電子契約サービスの導入状況、求人票での「AI活用」「業務効率化」への言及は、投資姿勢を測る手がかりになります。

⑥士業間・法人か個人かによる格差

前述の通り、税理士(60歳以上53.6%)・社会保険労務士(平均56.27歳)は高齢化が明確な一方、弁護士は40歳代が最多層とされ(出典、詳細な年代別割合は要検証)、士業の中でも高齢化の進み方には温度差があります。また、税理士事務所・会計事務所業界の動向を解説する日本M&Aセンターの記事では、登録者数全体は横ばい〜微増にとどまる一方、事業承継を目的とした大手税理士法人による中小事務所の統合・M&Aが増加傾向にあると紹介されています(出典、具体的な件数の一次統計は確認できておらず、業界動向として参考情報にとどめる必要があります)。業種(税理士/社労士/弁護士/司法書士/行政書士等)、法人か個人事務所か、大都市圏か地方かによって、経営課題の重心は変わってきます。商談前にはこれらの基本属性を確認しておきたいところです。

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規模・法人形態による差にも目を向ける

士業の経営課題は、法人化しているかどうかによって濃淡が出やすい点が他業種と異なる特徴です。前述の通り、税理士法人の社員税理士は30〜50代中心で相対的に若く、社労士も1人事務所経営が5割強を占めるなど(出典)、個人(一人)事務所と法人化した事務所とでは、採用力・投資余力・後継者確保のしやすさに明確な差が出やすい業界です。法人化が進んでいる事務所ほど、複数の有資格者を抱えることで属人化リスクを下げやすく、DXやAI活用への投資判断もしやすい傾向があると考えられます(定性的な傾向であり、法人化の有無と投資額の相関を示す一次統計は確認できておらず要検証)。相手の事務所が個人か法人か、所属する有資格者・スタッフの人数、対応業務の幅(税務顧問のみか、相続・M&A・国際税務等の専門特化があるか)は、商談前に確認しておきたい基本情報です。

商談前に見ておきたい士業特有の公開情報

士業の企業(事務所)をリサーチする際は、中小企業に共通する求人票・ニュースリリースに加えて、次のような業種特有の情報源も確認しておくと、経営課題の当たりをつけやすくなります。

  • 法人形態: 個人事務所か、税理士法人・社労士法人・弁護士法人・監査法人等の法人形態かによって、経営体力や意思決定のスピードが異なる。
  • 所属専門家の人数・年齢構成: ホームページの「スタッフ紹介」「所属税理士一覧」等から、後継候補となる若手・中堅の在籍有無を推測できる。
  • 対応業務の幅・専門特化領域: 記帳代行・税務顧問中心か、相続・事業承継・M&A・国際税務・労務トラブル対応等の専門特化を打ち出しているか。
  • IT投資の状況: クラウド会計・電子契約・チャットツール等の導入有無、ホームページでの「DX支援」「AI活用」への言及。
  • 代表者の経歴・資格取得年: 税務署OB出身か、資格取得からの年数、後継者候補(番頭格の有資格者)の在籍有無。

これらを一件ずつ手作業で調べるとかなりの時間がかかりますが、会社名を入力するだけで公開情報を横断し、経営課題・提案システム・ROI・想定反論まで出典付きで自動リサーチできるZEROSYSリサーチのようなツールを使えば、当たりをつける作業そのものを効率化できます。士業の経営課題は建設業の経営課題|2024年問題・重層下請け構造の6パターンで扱った、高齢化と後継者不在が同時進行する構図とも重なる部分があります。具体的な質問への落とし込み方は初回商談の質問リスト30選【業種別】で、仮説の立て方は仮説営業とは|仮説構築の4ステップと立て方で解説していますので、あわせて活用してください。決算書から利益率の傾向を掴む視点は決算書の読み方|営業が5分で掴む3指標を参照してください。

よくある質問

士業の経営課題はなぜ「高齢化」「後継者不在」の一言で片付けられないのですか

有資格者本人の高齢化に加え、登録者数の伸び鈍化と事業承継リスク、個人(一人)事務所中心の構造による経営体力差、会計事務所のDX・IT化の遅れ、生成AI活用をめぐる期待と実装のギャップ、士業間・法人か個人かによる格差という複数の構造課題が同時進行しているためです。事務所ごとに濃淡が異なるため、代表者の年齢や法人形態など個社の一次情報から仮説を検証する必要があります。

税理士の高齢化はどの程度進んでいますか

日本税理士会連合会の「第7回税理士実態調査」によると、税理士の60歳以上の合計は53.6%に達し、特に開業税理士(個人事務所の所長)に絞ると60〜79歳の合計が55.9%に上ります。一方、税理士法人に所属する社員税理士は30歳代〜50歳代が53.5%を占め、相対的に若い層が中心です。法人化の有無によって年齢構成が大きく異なる点が特徴です。

士業単体の後継者不在率のデータはありますか

本記事執筆時点の一次資料では確認できていません。事業全体の後継者不在率は東京商工リサーチの調査で62.60%、帝国データバンクの調査で50.1%と、調査会社によって算出方法が異なり数値が大きく割れています(諸説あり)。いずれの調査も税理士事務所・法律事務所等を独立した業種区分として公表しておらず、個社ごとの一次情報で確認することが望ましいといえます。

士業の経営課題を見立てる際、個人事務所か法人かの違いはなぜ重要ですか

全国社会保険労務士会連合会の調査では、社労士1人での事務所経営が5割強を占めることが報告されており、法人化しているかどうかで採用力・投資余力・後継者確保のしやすさに差が出やすい業種です。前述の通り、法人に所属する社員税理士は30〜50代中心で相対的に若い一方、開業税理士(個人事務所)は60〜79歳が55.9%を占めており、法人化が進んでいる事務所ほど採用力・世代交代の体力がある可能性がうかがえます。

まとめ

士業の経営課題は、①有資格者本人の高齢化②登録者数の伸び鈍化と事業承継リスク③個人(一人)事務所中心の構造と法人化による体力差④会計事務所のDX・IT化の遅れ⑤生成AI・省力化投資をめぐる期待と実装のギャップ⑥士業間・法人か個人かによる格差、という6パターンに整理すると、公開情報から当たりをつけやすくなります。税理士の60歳以上が53.6%を占め、20〜30代の比率が11.5%から6.6%へ半減しているように、担い手の世代交代は他業種以上に切実な課題になりつつあります。一方で、後継者不在率のような業界横断の統計は士業単体では公表されておらず、法人化の有無・所属専門家の人数・IT投資状況といった一次情報から個社ごとに仮説を検証する姿勢が欠かせません。決めつけずに求人票・ホームページ・登記情報を確認しながら商談準備を進めることが、決裁者に届く提案につながります。