結論から: 旅行業の経営課題は「インバウンド回復」の一言では説明できません。日本政府観光局(JNTO)が2026年1月21日に発表した推計値によると、2025年の訪日外国人旅行者数は4,268万3,600人(前年比+15.8%)で過去最高を更新し、観光庁の確報値では訪日外国人旅行消費額も9兆4,549億円(同+16.4%)で過去最高でした。一方、観光庁が集計する主要旅行業者44社・グループの2025年度訪日インバウンド取扱額は2,501億8,725万円(前年度比+12.9%)にとどまり、算出方法の異なる単純計算の参考値では消費額全体の2.6%程度にすぎません。旅行業者数は9,958社(2023年、JATA調べ)にのぼり、その多くが中小・零細規模で、東京商工リサーチの調査(コロナ禍時点、2021年決算ベース)では回答企業の65.4%が最終赤字、従業員10人未満が75.6%という構造も確認されています。本記事では、市場拡大と業界構造の変化が同時進行する状況を6パターンに整理し、商談前リサーチでどこに着目すべきかを出典付きで解説します。

旅行業の経営課題を、なぜ「インバウンド回復」の一言で片付けてはいけないのか

中小企業に共通する経営課題の型(人手不足・後継者不在・DXの遅れなど)は経営課題の見つけ方|中小企業10パターンで整理した通りです。ただし旅行業は、訪日外国人旅行者数・旅行消費額のいずれも過去最高を更新し続ける拡大局面にありながら、その恩恵の多くが旅行会社の店頭・法人窓口を介さないOTA(オンライン旅行取引)や個人手配に流れている可能性が指摘され、業界内部では大手グループへの取扱額の集中と、9,958社に及ぶ中小・零細事業者への淘汰圧力が同時進行しているとみられる点に注意が必要です。市場全体が伸びているという表面の数字だけで「旅行会社は好調」と判断せず、相手企業がどの規模・登録区分・取引構造に位置するかを見極めることが、商談前リサーチの出発点になります。

旅行業の全体像を数字で見る

個別の課題に入る前に、業界の規模感を確認します。日本政府観光局(JNTO)が2026年1月21日に発表した推計値によると、2025年の訪日外国人旅行者数は4,268万3,600人で、前年(3,687万148人)を15.8%上回り、統計開始以来の過去最高を更新しました(出典)。観光庁が公表した「インバウンド消費動向調査」2025年年間値(確報)では、訪日外国人旅行消費額は9兆4,549億円(前年比+16.4%)で、こちらも過去最高です(出典)。国内旅行を含めた「旅行・観光消費動向調査」2025年年間値(確報)では、国内旅行消費額は37.6兆円(前年比約1割増)でした(出典)。政府は2026年3月に閣議決定した第5次観光立国推進基本計画で、2030年に訪日外国人旅行者数6,000万人・消費額15兆円という目標を据え置いています(出典)。一方、旅行業者そのものの数は、JATA「旅行年報2023」によると2023年時点で9,958社(前年9,991社から0.3%減)で、内訳は第1種627社・第2種3,054社(増)・第3種5,143社(減)・地域限定623社(増)・旅行業者代理業511社(減)です(出典)。市場規模の拡大と業者数の微減という一見矛盾した動きの背景を、次の6パターンで見ていきます。

旅行業の経営課題、主要な6パターン

ここからは、旅行業に特有の経営課題を6パターンに整理します。それぞれ、公開情報のどこにサインが出やすいかもあわせて紹介します。

①インバウンド急回復と供給制約のミスマッチ

前述の通り、2025年の訪日外国人旅行消費額は9兆4,549億円(前年比+16.4%)で過去最高を更新しました。一方、観光庁が集計する主要旅行業者44社・グループの2025年度(2025年4月〜2026年3月)訪日インバウンド取扱額は2,501億8,725万円(前年度比+12.9%)にとどまっています(出典)。この2つの数字は集計方法(消費額調査は旅行者本人への聞き取りベースの支出総額、旅行業者取扱額調査は旅行会社が計上した取扱高ベース)が異なるため単純比較はできませんが、単純に金額を割ると2,501億8,725万円は9兆4,549億円の2.6%程度にとどまり、伸び率も+12.9%と全体の+16.4%より緩やかです。インバウンド消費の急拡大の多くが、旅行会社の店頭・法人窓口を介さないOTA予約や個人手配で発生している可能性を示唆する参考値といえます。旅行業単体の有効求人倍率など、現場の人手不足を直接裏付ける統計は本記事執筆時点で一次情報での確認ができていません(要検証)。求人票での多言語対応・インバウンド担当者の募集状況は、この課題への対応度を推測する手がかりになります。

②OTA台頭による構造変化と店舗型旅行会社の対応

①で見た「主要旅行業者のインバウンド取扱額が消費額全体に占める割合が小さい」という傾向は、海外OTAや航空券・宿泊施設への直接予約が、伝統的な店舗型・代理店型の旅行会社を介さずに拡大している構造を反映していると業界内で広く指摘されています。具体的な媒体別シェアの一次統計は本記事執筆時点で確認できていませんが(要検証)、店舗を構える旅行会社ほど、OTAとの価格競争にさらされない自社の強み(法人向け手配、造成型企画旅行、対面での提案力など)へどう転換しているかが経営の分かれ目になっているとみられます。自社サイトでのオンライン予約機能の有無、法人向け出張手配サービスの訴求の有無は、この課題への対応状況を推測する材料になります。旅行業に限らずDXの遅れている業種全般の傾向はDXが遅れている業界の特徴と共通課題で解説していますので、あわせて参考にしてください。

③大手寡占化と中小・零細事業者の淘汰圧力

観光庁の集計では、主要旅行業者44社・グループの2025年度総取扱額は3兆9,750億4,956万円(前年度比+5.3%)で過去最高を更新しました(出典、前掲)。ごく少数の大手グループがこれだけの取扱額を占める一方、JATA「旅行年報2023」によると旅行業者数は9,958社にのぼり、うち最多は地域密着型の第3種旅行業(5,143社)です(出典、前掲)。東京商工リサーチが2022年4月5日に発表した調査(2021年1〜12月期決算がベース、コロナ禍時点のデータである点に注意)によると、最終損益が判明した587社のうち65.4%(384社)が最終赤字、従業員10人未満が75.6%(840社)を占めており、業界の大半が小・零細規模の事業者であることがうかがえます(出典)。倒産動向を見ると、東京商工リサーチの集計で2021年(暦年)は31件(前年比+19.2%)で7年ぶりに30件を超え(出典)、2023年(暦年)は23件(2年ぶりの増加)、2023年度(2023年4月〜2024年3月)は25件(前年度から9件増)でした(出典出典)。同時に、東京商工リサーチの新設法人動向調査では2023年の旅行業の新設法人は520社で前年から倍増し、直近10年で最多を記録しています(出典)。倒産と新設が両方増えるという新陳代謝の激しさは、市場拡大の恩恵が均等に行き渡っていない可能性を示しています。相手企業の設立年・資本金・第何種の登録かは、この課題への耐性を見立てる基本情報になります。

④国内旅行・海外旅行・インバウンドの回復速度の格差

観光庁の集計による主要旅行業者44社・グループの2025年度取扱額を部門別に見ると、海外旅行が1兆4,309億1,160万円(前年度比+7.1%)、訪日インバウンドが2,501億8,725万円(同+12.9%)、国内旅行が2兆2,939億5,070万円(同+3.5%)で、絶対額では国内旅行が最大ながら伸び率は最も緩やかです(出典、前掲)。全体の消費額ベースでも、2025年の訪日外国人旅行消費額が前年比+16.4%だったのに対し、国内旅行消費額(37.6兆円)の伸びは前年比約1割にとどまりました(出典、前掲)。海外旅行・インバウンドという為替感応度の高い需要が国内旅行より速く回復している構造は、円安局面が続く限り追い風になる一方、為替動向が反転した場合の影響も海外旅行・インバウンド比率が高い事業者ほど大きく受けやすいと考えられます。相手企業が海外旅行・国内旅行・インバウンドのどの部門に強みを持つかは、決算書や自社サイトの取扱実績の記載から見立てられます。決算書から利益率の傾向を掴む視点は決算書の読み方|営業が5分で掴む3指標を参照してください。

⑤事業承継・後継者不在リスク

帝国データバンクが2025年11月21日に発表した全国「後継者不在率」動向調査によると、全業種平均の後継者不在率は50.1%で、前年から2.0ポイント低下し過去最低を更新しました(出典)。ただし、旅行業単体の後継者不在率を示す一次データは本記事執筆時点で確認できていません(要検証)。前述の通り、旅行業は従業員10人未満の事業者が75.6%を占める(コロナ禍時点調査)小・零細規模の業者が多い業界であり、一般に小規模事業者ほど後継者不在リスクが高い傾向が全業種横断の調査で指摘されていることを踏まえると、旅行業でも同様のリスクを抱える事業者が一定数存在する可能性は仮説として持っておく価値があります。自社サイトでの代表者の年齢層・就任年、後継者候補となる役員の有無は、この課題への当たりをつける手がかりになります。

⑥BtoB法人旅行(出張手配)領域のDX遅れ

経済産業省が2025年8月26日に公表した「令和6年度電子商取引に関する市場調査」によると、2024年のBtoC-EC(消費者向け電子商取引)市場規模のうち「旅行サービス」分野は3兆5,249億円でした(出典)。個人向け旅行予約のオンライン化はこの数字からも進んでいるとみられますが、法人向けの出張手配(BTM:ビジネス・トラベル・マネジメント)領域の市場規模やDX化率を示す一次データは、本記事執筆時点で確認できていません(要検証)。出張手配は個人旅行と異なり、経費精算システムとの連携や出張規程の遵守確認など法人固有の要件が伴うため、個人向けOTAの拡大がそのまま法人領域のDX化を意味するとは限らない点には注意が必要です。相手企業が法人向け出張手配サービスを主力事業として掲げているか、自社サイトでBTM・経費精算連携をうたっているかは、この領域への対応状況を推測する仮説的な手がかりにとどまります。

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旅行業登録種別・取引構造による差にも目を向ける

旅行業の経営課題は、旅行業登録の種別(第1種・第2種・第3種・地域限定・旅行業者代理業)によっても濃淡が異なります。観光庁「旅行業法概要」によると、第1種旅行業は国内・海外の募集型企画旅行を含む全ての旅行契約を取り扱える一方、第3種旅行業は国内の募集型企画旅行のうち営業所の所在する市町村およびその隣接市町村等に取扱地域が限定されます(出典)。第1種旅行業の登録行政庁は観光庁長官であるのに対し、第2種・第3種・地域限定・旅行業者代理業は主たる営業所を管轄する都道府県知事が登録行政庁となるため、事業の広がりを推測する材料にもなります。前述の通り、旅行業者数9,958社のうち第3種旅行業が5,143社と最多を占めており(出典、前掲)、地域密着型の中小事業者が業界の裾野を支えている構造です。相手企業がどの登録区分に属し、法人向け・海外パッケージ・地域着地型のいずれを主力としているかによって、抱えやすい経営課題の重心は変わります。

商談前に見ておきたい旅行業特有の公開情報

旅行業の企業をリサーチする際は、中小企業に共通する求人票・決算・ニュースリリースに加えて、次のような業種特有の情報源も確認しておくと、経営課題の当たりをつけやすくなります。

  • 旅行業登録種別: 第1種(観光庁長官登録)から旅行業者代理業まで5区分あり、取り扱える旅行契約の範囲・登録行政庁が異なる。事業規模・展開エリアを見立てる基本情報になる。
  • 観光庁・都道府県の行政処分公表: 観光庁「旅行業者等に対する行政処分情報」で、業務停止命令や登録取消等の処分情報が過去5年度分、一元的に公表されている(出典)。
  • JATA/ANTAの会員種別: 日本旅行業協会(JATA)は大手・中堅が中心、全国旅行業協会(ANTA)は中小規模の第2種・第3種旅行業者が中心とされる。どちらの会員か、あるいは非会員かは事業規模の目安になる(出典)。
  • 弁済業務保証金分担金・営業保証金の供託状況: 旅行業法上、旅行業者は取引額に応じた営業保証金の供託、またはJATA/ANTA等の保証社員となり弁済業務保証金分担金を納付することが義務付けられている(出典、前掲)。
  • 取扱実績・主力領域の記載: 自社サイトでの海外旅行・国内旅行・インバウンド・法人向け出張手配のうち、どの領域の取扱実績を紹介しているかは、事業の重心を見立てる材料になる。

これらを一件ずつ手作業で調べるとかなりの時間がかかりますが、会社名を入力するだけで公開情報を横断し、経営課題・提案システム・ROI・想定反論まで出典付きで自動リサーチできるZEROSYSリサーチのようなツールを使えば、当たりをつける作業そのものを効率化できます。旅行業の経営課題は宿泊業の経営課題6選|インバウンド依存・客室稼働率・人手不足を数字で読み解くで扱った宿泊業の課題とも重なる部分が多く、あわせて比較すると仮説の精度が上がります。具体的な質問への落とし込み方は初回商談の質問リスト30選【業種別】で、仮説の立て方は仮説営業とは|仮説構築の4ステップと立て方で解説していますので、あわせて活用してください。

よくある質問

旅行業界はどのくらいの規模の市場ですか

JNTOの推計値によると2025年の訪日外国人旅行者数は4,268万3,600人(前年比+15.8%)、観光庁の確報値による訪日外国人旅行消費額は9兆4,549億円(同+16.4%)でいずれも過去最高です。国内旅行消費額も37.6兆円(前年比約1割増)でした。一方で旅行業者そのものの数は9,958社(2023年、JATA調べ)です。

旅行業界は今どんな経営課題を抱えていますか

訪日外国人旅行者数・消費額が過去最高を更新する一方、主要旅行業者44社・グループの訪日インバウンド取扱額は消費額全体の一部にとどまるとみられ、OTA・個人手配へのシフトが指摘されています。あわせて業者数9,958社の多くが中小・零細規模で、東京商工リサーチの調査(コロナ禍時点)では回答企業の65.4%が最終赤字という構造も確認されています。

旅行業とOTA(オンライン旅行取引)はどう違いますか

旅行業は旅行業法に基づく登録(第1種〜代理業の5区分)を受けた事業者で、企画旅行の造成や手配、対面・電話での相談対応を担います。OTAは主にオンライン上で宿泊・航空券等の予約を仲介するプラットフォームです。観光庁の集計では、主要旅行業者44社・グループの訪日インバウンド取扱額(2,501億8,725万円)は訪日外国人旅行消費額全体(9兆4,549億円)の一部にとどまっており(算出方法の異なる単純計算の参考値で2.6%程度)、OTA・個人手配経由の需要が相当規模にのぼっている可能性を示唆しています。

商談前に確認すべき旅行会社特有の公開情報はありますか

旅行業登録の種別(第1種〜代理業、取扱地域や登録行政庁が異なる)と、観光庁が一元公表している「旅行業者等に対する行政処分情報」(過去5年度分)の2つが、商談前リサーチで確認しておきたい基本情報です。JATA・ANTAいずれの会員か、あるいは非会員かも事業規模の目安になります。

まとめ

旅行業の経営課題は、①インバウンド急回復と供給制約のミスマッチ②OTA台頭による構造変化と店舗型旅行会社の対応③大手寡占化と中小・零細事業者の淘汰圧力④国内旅行・海外旅行・インバウンドの回復速度の格差⑤事業承継・後継者不在リスク⑥BtoB法人旅行(出張手配)領域のDX遅れ、という6パターンに整理できます。訪日外国人旅行者数・消費額がいずれも過去最高を更新する拡大局面にありながら、その恩恵の多くが旅行会社を介さない経路に流れている可能性がある点、そして9,958社の多くが中小・零細規模である点は、他業種以上に「市場全体の好調さ」と「個社の経営体力」が一致しない業種だといえます。個社の状況を決めつけず、旅行業登録の種別・行政処分の有無・海外/国内/インバウンド/法人向けのどこに強みを持つかといった一次情報で仮説を検証しながら商談準備を進めることが、決裁者に届く提案につながります。