卸売業の経営課題を、なぜ他業種と分けて見る必要があるのか
中小企業に共通する経営課題の型(人手不足・後継者不在・DXの遅れなど)は経営課題の見つけ方|中小企業10パターンで整理した通りです。ただし卸売業は、メーカー(仕入先)と小売・実需家(販売先)の間に立つ中間流通業という特有の立ち位置にあり、①取引先の力関係によって価格交渉力が左右されやすい、②物流機能を自社で抱える企業が多く運送コストの影響を直接受けやすい、③BtoB ECの進展によって流通構造そのものが変化しつつある、という他業種とは異なる力学が働きます。経済産業省が実施した「令和6年度電子商取引に関する市場調査」(2025年8月26日公表)によると、2024年の国内BtoB-EC市場規模は514.4兆円(前年比10.6%増)、EC化率は43.1%(前年比3.1ポイント増)に達しており、企業間取引の電子化は着実に進展しています(出典)。この流れが、卸売業という業態そのものにどう影響しているかを見ていきます。
卸売業の全体像を数字で見る
個別の課題に入る前に、卸売業の倒産動向を確認します。東京商工リサーチが2026年4月8日に公表した2025年度の全国企業倒産集計によると、全国の倒産件数は1万505件(前年度比3.5%増)でしたが、卸売業の倒産は1,147件(前年度比5.5%減)と4年ぶりに前年度を下回りました(出典)。倒産件数だけを見ると卸売業は他業種より落ち着いているようにも見えますが、これは業界全体が健全という意味ではなく、後述するBtoB EC化・物流コスト増・価格転嫁の遅れといった構造的な圧力が、企業ごとの対応力によって明暗を分けている可能性を示唆します。個社ごとの実態を公開情報から見立てる視点が欠かせません。
卸売業の経営課題、主要な6パターン
ここからは、卸売業に特有の経営課題を6パターンに整理します。それぞれ、公開情報のどこにサインが出やすいかもあわせて紹介します。
①BtoB EC化の進展と中間流通(中抜き)への圧力
経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査」によると、2024年の卸売業のBtoB-EC市場規模は128兆8,684億円で前年比6.3%増、EC化率は40.3%に拡大しました(出典)。数字だけを見るとBtoB EC化は卸売業においても着実に進んでいますが、これは同時に、メーカーが卸を介さず小売・実需家と直接電子取引を行う「中抜き」の技術的なハードルが下がっていることも意味します。EC化率40.3%という水準は、裏を返せば残り約6割の取引がいまだ電子化されていないということでもあり、EDI(電子データ交換)などの導入状況は企業ごとに差が大きい領域です。取引先とのEDI連携やECサイトの有無、独自の付加価値(在庫調整・与信管理・小口配送など)を打ち出せているかは、中間流通としての存在意義を左右する重要な視点です。
②物流の2024年問題によるコスト増加圧力
帝国データバンクが2023年12月18日〜2024年1月5日に実施した調査(有効回答11,407社)によると、卸売業の79.6%が物流の2024年問題によるマイナスの影響を見込んでいます。業種別の「物流コストの増加」見込みでは卸売業が79.2%と、製造業(80.4%)に次いで高い水準でした。対応策としての「運送費値上げの受け入れ」も卸売業で50.2%に上り、全体平均(43.3%)を上回っています(出典)。卸売業は自社で配送機能を持つ企業も多く、荷主・運送事業者双方の立場を兼ねるケースがあるため、2024年問題の影響を業界内でも特に強く受けやすい構造にあります。自社便を保有しているか、外部の運送事業者にどこまで依存しているかは、この課題への耐性を見立てる手がかりになります。
③価格転嫁の遅れ・薄利多売になりやすい商慣行
経済産業省・中小企業庁が2025年11月28日に公表した「価格交渉促進月間(2025年9月)フォローアップ調査」(回答69,988社)によると、価格転嫁率は53.5%で、コスト要素別では原材料費55.0%・労務費50.0%・エネルギーコスト48.9%でした(出典)。ただしこの数値は中小企業全業種を対象とした全体値であり、卸売業単体の転嫁率がこのプレスリリースに個別に示されているわけではありません。卸売業は取引マージンそのものが薄く設定されやすい商慣行があるため、全業種平均と同水準の転嫁率であっても、絶対額でのインパクトはより大きくなりやすい業種です。決算書がある取引先であれば、売上高に対する売上総利益率(粗利率)の推移から、価格転嫁がどこまで進んでいるかを推測できる場合があります。決算書の読み方は決算書の読み方|営業が5分で掴む3指標で解説しています。
④DX・基幹システム/在庫管理のデジタル化の遅れ
東京商工会議所が2025年1月10日に公表した「中小企業のデジタルシフト・DX実態調査」(調査期間2024年10月15日〜11月15日、回答1,218社)によると、デジタルシフトのレベル別割合はレベル1(口頭連絡・電話・帳簿での業務が多い)17.7%、レベル2(紙や口頭でのやり取りをITに置き換えている)29.6%、レベル3(ITを活用して社内業務を効率化している)43.8%、レベル4(ITを差別化や競争力強化に積極的に活用している)8.9%でした。デジタルシフト・DXの課題としては「コスト負担」(31.9%)が最多で、前回調査から順位を3位から1位に上げています(出典)。この調査は中小企業全般を対象としたもので卸売業に特化した数値ではありませんが、卸売業は在庫管理・受発注・与信管理など基幹システムが業務の中核を占める業態であるため、レベル1〜2にとどまる企業では、①のBtoB EC化の波に乗り遅れるリスクが相対的に高いと考えられます。基幹システムが自社開発の古いものか、パッケージ・クラウド型に移行しているかは、求人票の職種や社内システム関連の発信から推測できることがあります。
⑤人手不足(倉庫・物流・営業の担い手確保)
帝国データバンクが2025年11月17日に公表した調査(2025年10月時点)によると、人手不足を感じている企業の割合は正社員51.6%・非正社員28.3%でした(全業種、出典)。また同社が2026年4月9日に公表した「人手不足倒産動向調査」(2025年度実績)によると、人手不足倒産は441件で前年度比約1.3倍に増加し、3年連続で過去最多を更新しました。業種別では建設業112件・道路貨物運送業55件が上位で、卸売業はこの上位業種には含まれていません(出典)。倒産に直結するほどの深刻さでは他業種に比べて相対的に低いものの、卸売業は倉庫内作業・配送・営業の各職種で人手を要するため、全業種平均並みの人手不足感自体は当然存在します。求人票で倉庫作業員・ドライバー・営業職のいずれを継続的に募集しているかは、どの機能に負荷がかかっているかを見立てる材料になります。
⑥後継者不在・事業承継
帝国データバンクが2025年11月21日に公表した「全国『後継者不在率』動向調査」によると、全国平均の後継者不在率は50.1%で7年連続で前年を下回りました。業種別では建設業が57.3%と最も高く、製造業が42.4%と最も低い水準で、主要8業種すべてが60%を下回ったのは調査開始以来初めてです(出典)。ただしこのレポートには卸売業単体の数値は掲載されておらず非公開です。卸売業は同族経営の中小企業が多い業態でもあるため、全国平均並みに後継者不在が課題となっている可能性は考えられますが、卸売業に特有の数値として断定はできません。代表者の年齢や就任年、後継者候補に関する公開情報の有無は、事業承継への準備状況を見立てる手がかりになります。
取引階層(元卸・二次卸)による差にも目を向ける
卸売業の経営課題は、メーカーから直接仕入れる元卸(一次卸)か、元卸から仕入れる二次卸・三次卸かによっても濃淡が異なります。取引階層が深くなるほど、価格交渉力は相対的に弱くなりやすく、前述の価格転嫁の遅れの影響も受けやすい傾向があります。実際、経済産業省・中小企業庁の価格交渉促進月間調査でも「受注企業の取引階層が深くなるにつれて価格転嫁の割合が低くなる傾向がみられる」と指摘されています(出典)。相手が元卸か二次卸以下かは、価格転嫁力・在庫リスクの負い方・BtoB EC化への投資余力を見立てるうえで欠かせない視点です。仮説の立て方は仮説営業とは|仮説構築の4ステップと立て方で解説しています。
商談前に見ておきたい卸売業特有の公開情報
卸売業の経営体をリサーチする際は、中小企業に共通する求人票・決算・ニュースリリースに加えて、次のような業種特有の情報源も確認しておくと、経営課題の当たりをつけやすくなります。
- 取引階層: メーカーから直接仕入れる元卸か、元卸から仕入れる二次卸以下かで、価格交渉力や意思決定のスピードが異なる。
- 取扱品目・業界: 食品・機械・医薬品・建材など取扱品目によって、BtoB EC化の進み方や物流コストの負担度合いが異なる。
- 物流機能の内製度合い: 自社便を保有しているか、外部の運送事業者に委託しているかで、2024年問題の影響の受け方が変わる。
- ECサイト・EDI連携の有無: 自社ECサイトや取引先とのEDI連携に関する発信があるかは、BtoB EC化への対応状況を推測する材料になる。
- 倉庫・物流拠点の稼働状況: 新設・統廃合のプレスリリースがあれば、物流コスト増への対応や事業規模の変化を推測できる。
これらを一件ずつ手作業で調べるとかなりの時間がかかりますが、会社名を入力するだけで公開情報を横断し、経営課題・提案システム・ROI・想定反論まで出典付きで自動リサーチできるZEROSYSリサーチのようなツールを使えば、当たりをつける作業そのものを効率化できます。具体的な質問への落とし込み方は初回商談の質問リスト30選【業種別】で解説していますので、あわせて活用してください。
よくある質問
卸売業の経営課題は「中抜き」という言葉で語られがちですが、実態はどうですか
数字で見るとBtoB EC化そのものは着実に進んでいます。経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査」によると、卸売業のBtoB-EC市場規模は128兆8,684億円(前年比6.3%増)、EC化率は40.3%に拡大しました。ただしこれは同時に、メーカーが卸を介さず小売・実需家と直接電子取引を行う「中抜き」の技術的なハードルが下がっていることも意味しており、中間流通としての存在意義が問われる局面でもあります。
卸売業は物流の2024年問題の影響をどの程度受けていますか
帝国データバンクの調査によると、卸売業の79.6%が物流の2024年問題によるマイナスの影響を見込んでいます。物流コストの増加見込みは79.2%と製造業(80.4%)に次いで高く、対応策としての運送費値上げの受け入れも50.2%と全体平均(43.3%)を上回っています。卸売業は自社で配送機能を持つ企業も多く、荷主・運送事業者双方の立場を兼ねるケースがあるため、影響を特に受けやすい構造にあります。
卸売業単体の後継者不在率や価格転嫁率のデータはありますか
本記事執筆時点の一次資料では、卸売業単体の数値は確認できていません。後継者不在率(帝国データバンク調査、全国平均50.1%)や価格転嫁率(経済産業省・中小企業庁調査、53.5%)はいずれも全業種・全国平均の数値であり、卸売業に断定的に当てはめず、個社ごとの一次情報で確認することが望ましいといえます。
卸売業の経営課題を見立てる際、取引階層(元卸・二次卸)の違いはなぜ重要ですか
取引階層が深くなるほど価格交渉力が相対的に弱くなりやすく、価格転嫁の遅れの影響も受けやすい傾向があります。経済産業省・中小企業庁の調査でも「受注企業の取引階層が深くなるにつれて価格転嫁の割合が低くなる傾向がみられる」と指摘されており、相手が元卸か二次卸以下かは、価格転嫁力・在庫リスクの負い方・BtoB EC化への投資余力を見立てるうえで欠かせない視点です。
まとめ
卸売業の経営課題は、①BtoB EC化の進展と中間流通(中抜き)への圧力②物流の2024年問題によるコスト増加圧力③価格転嫁の遅れ・薄利多売になりやすい商慣行④DX・基幹システム/在庫管理のデジタル化の遅れ⑤人手不足(倉庫・物流・営業の担い手確保)⑥後継者不在・事業承継という6パターンに整理すると、公開情報から当たりをつけやすくなります。経済産業省の調査が示すように、卸売業のBtoB EC化そのものは着実に進んでいますが、それは同時に中間流通としての存在意義が問われる局面でもあります。取引階層や取扱品目、物流機能の持ち方によって課題の濃淡は大きく異なるため、個社の状況を決めつけず、決算情報や求人票といった一次情報で仮説を検証しながら商談準備を進めることが、決裁者に届く提案につながります。