マンション管理業を不動産業・不動産鑑定士と分けて見る理由
中小企業に共通する経営課題の型(人手不足・後継者不在・DXの遅れなど)は経営課題の見つけ方|中小企業10パターンで整理した通りです。不動産業全体の宅建士確保難・IT重説普及率の低さ・零細事業者が8割という構造は不動産業の経営課題6選|零細8割の構造とIT重説普及率1割未満を数字で読み解くで扱っていますが、同記事が対象とする宅建業(仲介・売買)とマンション管理業(管理受託)はビジネスモデルが異なり、マンション管理業では管理組合との受託契約・修繕積立金の管理・管理業務主任者の設置義務といった、仲介業には無い固有の構造があります。同じく不動産に関わる業種でも、資産価値の評価を担う不動産鑑定士とは異なる立ち位置で、こちらは不動産鑑定士の経営課題で扱っている評価業務とも数値・課題の軸が異なります。マンション管理業は「建物という資産を長期にわたり維持管理する」という時間軸の長い受託業務特有の課題を抱えています。
マンション管理業界の全体像を数字で見る
個別の課題に入る前に、業界全体の構造を確認します。マンション管理業協会の「令和8年(2026年)マンション管理受託動向調査」(2026-09-11発表)によると、会員332社が管理組合105,442組合・124,769棟・6,653,680戸を受託しており、これは全国のマンションストックの91.6%に相当します(出典)。比較用に令和3年調査(2021年4月時点)を見ると、当時は353社が101,135組合・119,866棟・6,267,047戸(シェア92.5%)を受託していました(出典)。つまりこの間、会員数は減少しつつ受託組合数・棟数・戸数はいずれも増加してきましたが、令和8年調査では前年比で組合数▲717組合(▲0.7%)・棟数▲598棟(▲0.5%)と、調査開始以来初めて減少に転じています。一方で戸数は+15,498戸(+0.2%)増加しており、組合数・棟数の減少と戸数の増加が同時進行する、規模の大きい物件への集約が進んでいる可能性をうかがわせる非対称な変化が起きています。この「組合数は減るが戸数は増える」という構図が、後述する受託競争・大手集約の課題と直結します。
マンション管理業の経営課題、主要な6パターン
ここからは、マンション管理業に特有の経営課題を6パターンに整理します。それぞれ、公開情報のどこにサインが出やすいかもあわせて紹介します。
①築40年超ストック急増と大規模修繕・建替え対応負担
国土交通省の統計によると、築40年以上のマンションストックは2015年末53.3万戸から2025年末には158.8万戸へ増加しており、2035年末には313.1万戸(2025年末比約2.0倍)、2045年末には503.6万戸(約3.2倍)まで増える見通しです(出典)。築年数が古いマンションほど大規模修繕・設備更新・場合によっては建替えの検討が必要になりますが、対応には管理組合の合意形成と、管理会社側の技術的な提案力・工事発注のノウハウが求められます。大規模修繕・建替えの請負側の実務は建設業の経営課題、住宅リフォーム会社が発注先になるケースは住宅リフォーム業の経営課題とも接点があり、管理会社がこうした発注先とどのような連携体制を持っているかは、対応力を見立てる材料になります。
②区分所有者・理事会役員の高齢化と管理組合の担い手不足
国土交通省の令和5年度マンション総合調査(2024-06-21発表)によると、世帯主が70歳以上の割合は25.9%で、前回調査比+3.7ptとなっています。特に昭和59年以前に竣工した古いマンションでは、この割合が55.9%まで上がります(出典)。管理組合の意思決定は理事会役員による合議が基本ですが、役員の高齢化・担い手不足が進むと、大規模修繕や法改正対応といった重要な意思決定が停滞しやすくなります。管理会社にとっては、理事会運営の実務支援(議事進行・資料作成・合意形成のサポート)がこれまで以上に重要な役割になっていると考えられます。
③修繕積立金不足と値上げ交渉の難しさ
同じ令和5年度マンション総合調査では、修繕積立金が長期修繕計画に対して不足しているマンションが36.6%(前回調査比+1.8pt)にのぼる一方、長期修繕計画に基づいて積立額を設定しているマンションは59.8%(前回調査比+6.2pt)まで増えています(出典)。積立状況の見直し自体は進んでいるものの、不足しているマンションの割合も同時に増えているという点は見落とされがちです。積立金の不足は、値上げの合意形成という区分所有者間の利害調整を管理会社が支援する場面につながりやすく、対応には財務面の説明力と交渉力が求められます。
④管理業務主任者という有資格者の不足
マンション管理適正化法上、管理業者は事務所ごとに、受託している管理組合の数を30で除した数(端数切上げ)以上の専任の管理業務主任者を置く義務があります。つまり管理組合の受託数が増えるほど、有資格者の確保が経営上の制約になります。しかし令和7年度(2025年度)の管理業務主任者試験(2025年12月7日実施)は、申込者17,410人・受験者14,435人(受験率82.9%)に対し、合格者は2,832人・合格率19.6%(合格基準点36/50点)という難易度でした(出典)。合格率が2割前後という状況では、有資格者の新規確保・既存人材の定着が管理会社の受託拡大のボトルネックになりやすいと考えられます。対象事業者が管理業務主任者の採用・育成にどの程度力を入れているかは、求人票の記載内容からも見立てられます。
⑤2025年法改正への対応負担
2025年5月23日、区分所有法・マンション管理適正化法・建替え等円滑化法を一括改正する法律が成立しました(出典)。国土交通省の発表(2025-08-26)によると、2025年11月28日施行分では都道府県知事等の権限強化、マンション管理適正化支援法人の登録制度創設などが盛り込まれています(出典)。改正法の詳細な施行日は、原則として2026年4月1日施行、マンション管理計画認定関連は公布日から2年以内(2027年5月30日まで)とされていますが、条文レベルの個別確認は今回できていないため要検証としています。いずれにせよ、管理会社にとっては制度対応(社内規程の見直し、管理組合への説明)の負担が一時的に増える可能性があります。
⑥受託競争激化・大手集約という非対称な再編
前述の通り、マンション管理業協会の調査では会員332社の受託組合数・棟数が調査開始以来初めて減少に転じた一方、戸数は増加しています(出典)。組合数が減って戸数が増えるという構図は、小規模な管理組合の受託を失う一方で、大規模マンションの受託が相対的に増えている可能性を示唆しますが、個社レベルの入れ替わりの内訳までは今回のデータからは分かりません。マンション管理計画認定制度(2022年4月開始、出典)のように、管理組合の運営・管理規約・経理・長期修繕計画などを行政が評価する仕組みも整いつつあり、管理会社の対応力の差が管理組合からの評価・受託の継続にも影響しやすくなっていると考えられます。
商談前に見ておきたいマンション管理業特有の公開情報
マンション管理業をリサーチする際は、中小企業に共通する求人票・ニュースリリースに加えて、次のような業種特有の情報源も確認しておくと、経営課題の当たりをつけやすくなります。
- 受託組合数・棟数・戸数の推移: 増加基調か、それとも業界平均と同様に組合数の減少が始まっているか。
- 管理業務主任者の設置状況: 受託組合数に対して30組合ごとに1人以上の専任配置義務を満たせているか、有資格者の採用・育成に力を入れているか。
- マンション管理計画認定制度への対応支援実績: 管理組合の認定取得をどの程度支援できる体制か。
- 大規模修繕・建替え支援の実績: 建設会社・リフォーム会社との連携体制、技術提案力。
- 2025年法改正への対応状況: 社内規程の見直し、管理組合への説明資料の整備状況。
これらを一件ずつ手作業で調べるとかなりの時間がかかりますが、会社名を入力するだけで公開情報を横断し、経営課題・提案システム・ROI・想定反論まで出典付きで自動リサーチできるZEROSYSリサーチのようなツールを使えば、当たりをつける作業そのものを効率化できます。マンション管理業の経営課題は建設業の経営課題6選|2024年問題・重層下請け・DX遅れを数字で読み解くで扱った大規模修繕・建替えの請負側の課題、住宅リフォーム業の経営課題6選で扱った発注先の課題とも接点がありますが、管理組合との長期的な受託契約という管理会社側の視点からの課題です。具体的な質問への落とし込み方は初回商談の質問リスト30選【業種別】で解説していますので、あわせて活用してください。決算書から利益率の傾向を掴む視点は決算書の読み方|営業が5分で掴む3指標を参照してください。
よくある質問
マンション管理業は人手不足が深刻ですか?
マンション管理適正化法上、受託管理組合数を30で除した数以上の専任管理業務主任者を置く義務がありますが、令和7年度(2025年度)の試験合格率は19.6%と低く、有資格者の新規確保が難しい状況です。フロントマン1人あたりの担当組合数や離職率を示す定量的な一次統計は確認できていませんが、資格保有者の不足自体は試験結果から明らかです。
マンション管理業界は今後も成長しますか?
マンション管理業協会の調査では、受託戸数は増加が続いている一方、受託組合数・棟数は調査開始以来初めて前年比で減少しました。築40年以上のマンションストックが今後大幅に増える見通しである一方、事業者間の受託競争・大手集約も同時に進んでいる可能性があります。
2025年の法改正はマンション管理業にどう影響しますか?
2025年5月23日に区分所有法・マンション管理適正化法・建替え等円滑化法の一括改正法が成立し、2025年11月28日施行分では都道府県知事等の権限強化やマンション管理適正化支援法人の登録制度創設が盛り込まれました。詳細な施行日(認定関連の経過措置を含む)は条文レベルの個別確認が今回できていないため、要検証としています。
修繕積立金の不足はどのくらいの割合で起きていますか?
国土交通省の令和5年度マンション総合調査によると、修繕積立金が長期修繕計画に対して不足しているマンションは36.6%(前回調査比+1.8pt)でした。一方、長期修繕計画に基づいて積立額を設定しているマンションも59.8%(前回調査比+6.2pt)まで増えており、見直し自体は進んでいます。
まとめ
マンション管理業の経営課題は、①築40年超ストック急増と大規模修繕・建替え対応負担②区分所有者・理事会役員の高齢化と管理組合の担い手不足③修繕積立金不足と値上げ交渉の難しさ④管理業務主任者という有資格者の不足⑤2025年法改正への対応負担⑥受託競争激化・大手集約という非対称な再編、という6パターンに整理すると、公開情報から当たりをつけやすくなります。マンション管理業協会の調査で受託組合数・棟数が調査開始以来初めて減少に転じる一方、戸数は増加が続くという逆説的な状況にあり、業界全体の集約と個々の管理会社の対応力の差が同時に進行している点が特徴です。築40年以上のストックが2045年末には2025年末比約3.2倍に増える見通しの中、管理業務主任者の確保・修繕積立金の適正化・2025年法改正への対応力が、管理会社の受託継続・拡大を左右する分かれ目になりやすい業種です。決めつけずに受託組合数の推移・管理業務主任者の設置状況・法改正への対応状況といった一次情報を確認しながら商談準備を進めることが、決裁者に届く提案につながります。