結論から: 広告業(広告代理店)の経営課題は、「市場が縮小しているから苦しい」という単純な構図では説明できません。電通「2025年 日本の広告費」によれば、2025年の総広告費は8兆623億円(前年比105.1%)で4年連続過去最高を更新し、インターネット広告費は4兆459億円(同110.8%)と総広告費の50.2%を初めて占めました。市場全体は伸びているにもかかわらず、東京商工リサーチによると2025年度4〜1月の「アナログ広告」業界倒産は39件(前年同期比21.8%増)で過去最多ペース、2024年度の広告業の市場退出(休廃業・解散+倒産)は468社と過去10年間で最多です。同じ業界内で、売上高100億円以上の企業(構成比3.2%)が業界総売上高の65.1%を占める一方、5億円未満の企業(構成比69.7%)は総売上高のわずか4.2%という規模間格差も広がっています。電通グループが2025年12月期に海外事業ののれん減損で過去最大の最終赤字・上場以来初の無配に至った事例は、大手でも安泰ではないことを示しています。商談前リサーチでは、媒体構成(マス中心かデジタル比率が高いか)・決算やIR情報・生成AIツールの導入状況・売上規模帯に着目することが重要です。

広告業の経営課題を、なぜ「市場縮小」の枠組みで見てはいけないのか

中小企業に共通する経営課題の型(人手不足・後継者不在・DXの遅れなど)は経営課題の見つけ方|中小企業10パターンで整理した通りです。ただし広告業は、印刷業や一部の伝統的業種のように市場自体が縮小しているわけではありません。電通の集計では総広告費は4年連続で過去最高を更新中です。それにもかかわらず中小の倒産・休廃業は過去最多ペースで増えています。つまり広告業の経営課題の核心は「市場の縮小」ではなく、「成長している市場の中で、恩恵を受けられる企業と受けられない企業に分かれる二極化」にあります。この構造を理解しないまま「広告業=斜陽産業」と決めつけると、商談での見立てを誤ります。

広告業の全体像を数字で見る

個別の課題に入る前に、業界全体の規模感を確認します。電通「2025年 日本の広告費」(2026年3月5日発表)によると、2025年の日本の総広告費は8兆623億円で前年比105.1%となり、4年連続で過去最高を更新しました(出典)。媒体別では、インターネット広告費が4兆459億円(前年比110.8%)となり、総広告費に占める構成比が初めて50.2%と過半数を超えました(同出典)。一方、新聞・雑誌・ラジオ・テレビメディアからなるマスコミ四媒体広告費は2兆2,980億円(同98.4%)とほぼ横ばい〜微減で、内訳は新聞3,136億円(91.8%)、雑誌1,135億円(96.3%)、ラジオ1,153億円(99.2%)、テレビメディア1兆7,556億円(99.7%、うち地上波1兆6,333億円=99.9%)となっています(同出典)。市場全体は拡大しているものの、その成長のほぼすべてがインターネット広告に集中しているという構造が読み取れます。

広告業の経営課題、主要な6パターン

ここからは、広告業に特有の経営課題を6パターンに整理します。それぞれ、公開情報のどこにサインが出やすいかもあわせて紹介します。

①媒体構成の激変|マス横ばい〜微減とネット2桁成長の同時進行

前述の通り、2025年のマスコミ四媒体広告費は前年比98.4%とほぼ横ばい〜微減である一方、インターネット広告費は同110.8%と2桁成長を続けています(電通「2025年 日本の広告費」、出典)。マス広告の取次・制作を主業務としてきた代理店にとっては、市場全体が伸びているにもかかわらず自社の主戦場は横ばい〜微減という状況になり得ます。インターネット広告への対応力(運用型広告・SNS広告・動画広告等の内製化やノウハウ)を持つかどうかが、同じ「広告代理店」という括りの中でも成長率を大きく分ける要因になっています。得意媒体がマス中心かデジタル中心かは、決算資料や求人票の職種構成(運用型広告の専門職を募集しているか等)から推測できます。

②中小の倒産・休廃業の増加|10年で最多ペース

東京商工リサーチ「アナログ『広告』業界 倒産が10年間で最多ペース」(2026年2月24日発表)によると、2025年度4〜1月(10カ月)の「アナログ広告」業界倒産は39件で、前年同期比21.8%増となりました。原因の69.2%(27件)が「販売不振」で、このペースが続けば2017年度の過去最多48件を超える可能性があるとされています(出典)。また同社「『広告業』は上位3%の大手が、シェア6割超」(2025年9月1日発表)によると、2024年度(2024年4月〜2025年3月)の広告業の市場退出(休廃業・解散399社+倒産69社=計468社)は過去10年間で最多となりました。休廃業・解散は前年比6.4%増、倒産は前年比25.4%増です(出典)。市場全体が拡大するなかでの倒産増加は、後述する二極化(③)が背景にあると考えられます。決算書の売上高・利益率の推移を確認する視点は決算書の読み方|営業が5分で掴む3指標で解説しています。

③売上規模の二極化|上位3.2%が売上の65.1%を占有

東京商工リサーチの同レポート(調査対象1,823社)によると、売上高100億円以上の企業はわずか59社(構成比3.2%)ながら、業界総売上高3兆7,604億円のうち65.1%(2兆4,487億円)を占めています。一方、売上高5億円未満の企業は1,271社(構成比69.7%)と数のうえでは多数派ですが、業界総売上高に占める割合はわずか4.2%(1,609億円)にとどまります(出典)。同レポートでは黒字企業が1,449社(79.4%)、増収増益企業が510社(27.9%)と業界全体としては好調な様子もうかがえますが、これは大手の業績が牽引している可能性があり、個社の状況は決算書で個別に確認する必要があります。企業数の約7割を占める中小企業が売上のわずか4.2%を分け合う構造は、広告業における規模の経済(媒体との取引条件・人材採用力・DX投資余力)が特に強く働いていることを示唆します。

④大手も安泰ではないリスク|電通の過去最大赤字と博報堂DYの堅調

売上規模だけで「大手なら安心」とは言えない点にも注意が必要です。電通グループの2025年12月期決算は、売上収益1兆4,352億4,500万円(前年同期比1.7%増)、売上総利益1兆1,975億3,000万円(粗利率83.4%)と表面上は堅調でしたが、米州・EMEA事業ののれん減損(10-12月期だけで3,101億円、年間合計約4,000億円)を計上した結果、親会社株主帰属当期純利益は3,276億円の赤字となりました。これは過去最大の赤字であり3期連続の最終赤字、さらに上場以来初めての通期無配となっています(日本経済新聞、出典出典)。一方、博報堂DYホールディングスの2025年3月期は連結収益9,533億1,600万円(前期比0.7%増)、営業利益375億8,100万円(同9.6%増)、経常利益426億6,000万円(同12.8%増)と、国内基盤を中心に堅調な決算でした(同社決算短信)。同じ大手2社でも、海外M&Aで拡大してきた企業と国内基盤中心の企業とで、決算への影響の出方が大きく異なる事例です。海外展開の有無・のれんの計上状況は、大手クライアント企業の取引先選定において確認しておきたい情報の一つです。

⑤生成AI・DX対応の格差

広告業単独の生成AI・DX活用状況を示す定量データは確認できていません(要検証)。ただし、大手代理店が独自の生成AI関連ツール(電通の「∞AI Ads」、博報堂の「バーチャル生活者」等、各社公表情報より)を開発・展開している一方、中小の広告代理店には同水準の研究開発投資を行う体力差があるとみられます。広告制作・媒体プランニング・効果測定の各工程でどこまでツール化・自動化が進んでいるかは、求人票の職種構成(データ分析・運用型広告の専門職の有無)や、自社サイトでのサービス紹介から間接的に読み取れる範囲にとどまります。DXの遅れている業種全般の傾向はDXが遅れている業界の特徴と共通課題で解説していますので、あわせて参考にしてください。

⑥景品表示法・ステマ規制への対応

2023年10月1日、景品表示法の告示(2023年3月28日内閣府告示)に基づき、ステルスマーケティング(ステマ)が「不当表示」として正式に規制対象に追加されました。事業者が広告であることを明示せずインフルエンサー等に発信させる行為が対象で、違反時は措置命令の対象となります。広告主とインフルエンサー・メディアの間に立つ広告代理店にとっては、案件設計・審査体制の見直しが求められる規制強化であり、対応体制の有無はコンプライアンス面でのリスク管理能力を測る材料になります。

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規模・取引構造による差にも目を向ける

広告業の経営課題は、企業規模や得意媒体によっても濃淡が大きく異なります。売上高100億円以上のわずか3.2%の企業が業界売上の65.1%を占める一方、5億円未満の69.7%の企業は売上の4.2%しか占めていないという事実は、規模が小さい代理店ほど媒体との取引条件・人材採用・DX投資の面で不利な立場に置かれやすいことを示唆します。同時に、電通の事例が示すように、規模の大きさが必ずしも業績の安定を保証するわけではなく、海外M&A・のれん計上の状況によっては大手でも大きな損失リスクを抱えることがあります。相手企業がマス広告中心かデジタル広告中心か、自社制作型か媒体取次中心か、売上規模帯はどの程度かは、商談前に確認しておきたい基本情報です。

商談前に見ておきたい広告業特有の公開情報

広告業の企業をリサーチする際は、中小企業に共通する求人票・決算・ニュースリリースに加えて、次のような業種特有の情報源も確認しておくと、経営課題の当たりをつけやすくなります。

  • 広告種別の構成: マス広告(新聞・雑誌・ラジオ・テレビ)中心か、インターネット広告(運用型広告・SNS広告・動画広告等)の比率が高いか。自社サイトの実績紹介・サービスメニューから推測できる。
  • 決算・IR情報: 上場企業であれば有価証券報告書・決算短信でのれんの計上状況や海外事業比率を確認できる。非上場でも官報公告等で概況を確認できる場合がある。
  • 生成AIツール・データ分析基盤の導入有無: 求人票での専門職(データアナリスト・運用型広告専門職)の募集状況や、自社サイトでのAI活用の言及から間接的に推測する。
  • ステマ規制・コンプライアンス対応体制: インフルエンサーマーケティング等を扱う場合、2023年10月施行の景品表示法告示への対応体制(広告表記のガイドライン整備等)の有無。
  • 売上規模帯と主要取引先: 売上高5億円未満か100億円以上かで、直面しやすい経営課題の質(採用力・DX投資余力・媒体との交渉力)が異なる。
  • 代表者・役員の年齢構成、登記の動き: 事業承継が近い時期に来ているかどうかの手がかりになる。

これらを一件ずつ手作業で調べるとかなりの時間がかかりますが、会社名を入力するだけで公開情報を横断し、経営課題・提案システム・ROI・想定反論まで出典付きで自動リサーチできるZEROSYSリサーチのようなツールを使えば、当たりをつける作業そのものを効率化できます。具体的な質問への落とし込み方は初回商談の質問リスト30選【業種別】で、仮説の立て方は仮説営業とは|仮説構築の4ステップと立て方で解説していますので、あわせて活用してください。

よくある質問

広告業の市場規模はどれくらいですか

電通「2025年 日本の広告費」によると、2025年の総広告費は8兆623億円(前年比105.1%)で4年連続過去最高を更新しました。うちインターネット広告費は4兆459億円(前年比110.8%)で、総広告費に占める構成比が初めて50.2%と過半数を超えています。

広告業の倒産・休廃業は増えていますか

東京商工リサーチによると、2025年度4〜1月(10カ月)の「アナログ広告」業界倒産は39件(前年同期比21.8%増)で過去最多ペースです。また2024年度の広告業の市場退出(休廃業・解散399社+倒産69社=計468社)は過去10年間で最多となりました。

市場が拡大しているのに、なぜ倒産が増えているのですか

市場全体は拡大していますが、その成長のほぼすべてがインターネット広告に集中しており、マス広告中心の企業は恩恵を受けにくい構造があります。加えて東京商工リサーチの集計では、売上高100億円以上の企業(構成比3.2%)が業界総売上高の65.1%を占める一方、5億円未満の企業(構成比69.7%)は総売上高の4.2%にとどまるという規模間格差があり、市場拡大の恩恵が一部の大手に偏りやすい構造になっています。

2023年のステマ規制で広告代理店にとって何が変わりましたか

2023年10月1日、景品表示法の告示に基づき、ステルスマーケティング(ステマ)が「不当表示」として正式に規制対象に追加されました。事業者が広告であることを明示せずインフルエンサー等に発信させる行為が対象で、違反時は措置命令の対象となるため、広告主・インフルエンサーとの間に立つ広告代理店には案件設計・審査体制の見直しが求められています。

まとめ

広告業(広告代理店)の経営課題は、①媒体構成の激変(マス横ばい〜微減とネット2桁成長の同時進行)②中小の倒産・休廃業の増加(10年で最多ペース)③売上規模の二極化(上位3.2%が売上65.1%を占有)④大手も安泰ではないリスク(電通ののれん減損・過去最大赤字の事例)⑤生成AI・DX対応の格差⑥景品表示法・ステマ規制への対応、という6パターンに整理できます。総広告費が4年連続で過去最高を更新する成長市場でありながら、中小の倒産・休廃業が過去最多ペースで増えているという一見矛盾した現象の背景には、インターネット広告への構造シフトと、それに対応できる企業とできない企業の間の二極化があります。個社の状況を決めつけず、媒体構成・決算やIR情報・DX対応の体制といった一次情報で仮説を検証しながら商談準備を進めることが、決裁者に届く提案につながります。