結論から: 不動産業は宅地建物取引業者数13万2,291業者(2025年3月末時点、前年度比1.3%増、11年連続の増加)と裾野が広がる一方、その8割超は従業者3名以内の零細事業者で、DX投資や後継者確保に体力を割きにくい構造を抱えています。IT重説・電子契約は制度上は整備済みでも、実際の利用率は1割に届かない水準にとどまっており、「制度先行・現場後追い」のギャップが続いています。本記事では不動産業に特有の経営課題を6パターンに整理し、商談前リサーチでどこに着目すればよいかを出典付きで解説します。

不動産業の経営課題を、なぜ他業種と分けて見る必要があるのか

中小企業に共通する経営課題の型(人手不足・後継者不在・DXの遅れなど)は経営課題の見つけ方|中小企業10パターンで整理した通りです。ただし不動産業は、宅地建物取引業法によって事務所ごとに専任の宅地建物取引士を置くことが義務付けられている規制産業であり、なおかつ全国の宅地建物取引業者数が13万2,291業者(2025年3月末時点、前年度比1.3%増、11年連続の増加)という裾野の広さを保ちながら、実際には従業者数名以下の零細事業者が大半を占めるという実態が併存する、独特の構造を持つ業種です(出典)。「業者数は増え続けているが、個々の事業者の体力は乏しい」というギャップが、他業種とは異なる経営課題の背景になっています。

不動産業の全体像を数字で見る

個別の課題に入る前に、不動産業(宅建業)の担い手構造を確認します。国土交通省のまとめによると、宅地建物取引業者数は2025年3月末時点で13万2,291業者となり、前年度比1.3%増、11年連続の増加となりました(出典)。ただしこの増加は主に開業のしやすさによるもので、事業規模の拡大を意味するわけではありません。全国宅地建物取引業保証協会(全宅連)が実施した令和2年度調査によると、宅建協会所属会員のうち従業者数1名の事業者が37.4%を占め、従業者3名以内の事業者は全体の8割超に上ります(出典)。業者数が増え続けているという事実と、その大半が零細事業者であるという実態は、あわせて見る必要があります。

不動産業の経営課題、主要な6パターン

ここからは、不動産業に特有の経営課題を6パターンに整理します。それぞれ、公開情報のどこにサインが出やすいかもあわせて紹介します。

①人手不足と宅建士等有資格者の確保難

宅地建物取引業者数は前述の通り13万2,291業者(2025年3月末、11年連続増)ですが、宅建業法では事務所ごとに従業者5人に1人以上の割合で専任の宅地建物取引士を置くことが義務付けられています。一方、不動産適正取引推進機構が公表した令和6年度宅地建物取引士資格試験の結果によると、合格率は18%台、合格者の平均年齢は35〜36歳にとどまっています(出典)。零細事業者ほど専任宅建士が1名という体制になりやすく、その1名の退職・独立が事業継続そのもののリスクに直結します。求人票で宅建士資格者を継続的に募集しているか、専任宅建士の設置人数に変化がないかは、この課題への対応状況を推測する手がかりになります。

②IT重説・電子契約のDX進捗と遅れている領域

2021年のデジタル改革関連法、2022年5月施行の宅建業法改正により、重要事項説明書等の電子交付・IT重説・押印省略が制度上は可能になりました。しかし実際の普及は途上で、賃貸借契約における電子サインの利用率は約5%、電子書面の利用率は約7%にとどまっているとの調査があります(今後の導入意向はいずれも20%前後、出典boxil)。全業種平均の電子契約普及率が約74%(JIPDEC調査2023年)という数値が引用されることもありますが、これは業種横断の参考値であり、不動産業界固有の数値ではない点に注意が必要です(出典)。制度は整っていても現場の実務が追いついていないという「制度先行・現場後追い」のギャップが、不動産業のDXでは特に目立ちます。

③空き家・既存住宅流通の停滞

総務省「令和5年住宅・土地統計調査」の確報(2023年10月1日時点)によると、全国の空き家数は900万2,000戸、空き家率は13.8%で、いずれも過去最多を更新しました(出典)。既存住宅流通シェアは約14.5%(平成30年、国交省)にとどまり、米国81.0%・英国85.9%・フランス69.8%と比べて著しく低い水準です(出典)。こうした状況を受け、2024年7月には低廉な空き家等の流通を後押しする目的で、800万円以下の物件を対象とした仲介手数料の上限が19.8万円から33万円へ引き上げられました(出典)。空き家・既存住宅の取り扱い実績や、こうした低廉物件向け制度への対応状況は、地域の不動産業者の事業構造を見立てる材料になります。

④建築費・地価高騰と金利変動の影響

不動産経済研究所の調査によると、2025年の全国新築分譲マンション発売戸数は前年比0.8%増の5万9,940戸となり、4年ぶりの増加に転じました。平均価格は6,556万円、平方メートル単価は104.5万円で、上昇幅は再び拡大しています(出典)。一方、新設住宅着工戸数は2025年に約74万戸と、62年ぶりの低水準になる見通しが示されています(出典)。日銀の利上げ局面では、借換時の利払い負担増を懸念する声もあり、価格上昇と着工減少、金利変動が同時に進む状況が不動産業の経営環境に影響を与えています。

⑤中小仲介業者の廃業・後継者不足とM&A

前述の全宅連調査(令和2年度)が示す通り、宅建業者の8割超は従業者3名以内の零細事業者です。帝国データバンクによると、2024年の不動産業の休廃業・解散件数は1,867件で、前年比2.7%増となりました(出典)。一方、東京商工リサーチによると2024年の不動産業倒産件数は280件で前年比2.7%減、負債総額は807億円でした(出典)。倒産件数はやや減少傾向にある一方、休廃業・解散は増加基調が続いており、後継者不在を背景としたM&Aによる業界再編が進んでいます。宅建業免許番号の( )内の数字(更新回数)や代表者の年齢層、後継者の有無に関する発信は、事業承継リスクを見立てる手がかりになります。

⑥コンプライアンス強化への対応負担

宅地建物取引業者は犯罪収益移転防止法上の特定事業者に指定されており、取引時確認・確認記録の作成保存・疑わしい取引の届出という3つの義務を負っています。媒介業者として取引に関与する場合、原則として売主・買主双方の本人確認が必要です(出典)。加えて2024年7月の仲介手数料上限規制の見直し、2022年の重要事項説明書等の電子化対応など、宅建業法改正への対応が短いスパンで続いており、専任の法務・コンプライアンス担当を置きにくい中小事業者ほど、制度対応コストが相対的に重くのしかかります(出典)。

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個人経営(街の不動産屋)と法人・大手の違い

前述の全宅連調査が示す通り、宅建業者の8割超が従業者3名以内、4割弱が従業者1名という零細な事業構造です。街の不動産屋では、社長が宅建士・営業・事務を1人で兼ねる体制も珍しくなく、DX投資や人材育成に割ける体力が乏しい傾向があります。IT重説・電子契約といったDX投資は大手仲介やフランチャイズ本部が先行して導入するケースが多く、中小事業者は本部やREINS(不動産流通標準情報システム)に乗る形での間接的な対応にとどまりやすい構造です。犯罪収益移転防止法対応などの規制対応は事業規模を問わず一律に求められるため、専任担当を置けない個人経営ほど負担が相対的に重くなります。後継者不在は個人経営ほど廃業リスクに直結しやすく、M&Aや事業承継への統合が進む一因になっています。相手が個人経営の不動産屋か、複数店舗を持つ法人かによって、経営課題への向き合い方や意思決定のスピードは大きく異なります。仮説の立て方は仮説営業とは|仮説構築の4ステップと立て方で解説しています。

商談前に見ておきたい不動産業特有の公開情報

不動産業の経営体をリサーチする際は、中小企業に共通する求人票・決算・ニュースリリースに加えて、次のような業種特有の情報源も確認しておくと、経営課題の当たりをつけやすくなります。

  • 宅建業免許番号: ( )内の数字は更新回数(5年ごとに更新)を示し、業歴の目安になる。
  • 行政処分歴: 国土交通省「ネガティブ情報等検索システム」で確認できる。
  • 保証協会への加盟状況: 全国宅地建物取引業保証協会(全宅保証)や不動産保証協会への加盟の有無。
  • 専任宅建士の設置人数・求人状況: 有資格者の確保状況や採用への投資姿勢を推測できる。
  • REINS登録・取扱物件数とオンライン対応力: GBP(Googleビジネスプロフィール)の口コミ・投稿頻度も、デジタル対応力を推測する材料になる。
  • 決算公告・信用調査データ: 帝国データバンク(TDB)・東京商工リサーチ(TSR)のデータで財務状況を確認する。
  • 賃貸管理の兼業状況: 賃貸管理業を兼業している場合は、管理戸数の推移も収益構造を見立てる材料になる。

これらを一件ずつ手作業で調べるとかなりの時間がかかりますが、会社名を入力するだけで公開情報を横断し、経営課題・提案システム・ROI・想定反論まで出典付きで自動リサーチできるZEROSYSリサーチのようなツールを使えば、当たりをつける作業そのものを効率化できます。具体的な質問への落とし込み方は初回商談の質問リスト30選【業種別】で解説していますので、あわせて活用してください。

よくある質問

不動産業者数が11年連続で増えているのに、なぜ経営課題があるのですか

宅地建物取引業者数は2025年3月末時点で13万2,291業者と11年連続で増加していますが、これは主に開業のしやすさによるもので事業規模の拡大を意味しません。全宅連の調査では宅建協会所属会員のうち従業者数1名の事業者が37.4%、従業者3名以内が8割超を占めており、業者数の増加と個々の事業者の体力の乏しさが併存しています。

IT重説・電子契約は不動産業界でどこまで普及していますか

制度上は2022年5月施行の宅建業法改正でIT重説・電子交付・押印省略が可能になっていますが、実際の利用率は低く、賃貸借契約における電子サインの利用率は約5%、電子書面の利用率は約7%にとどまるという調査があります(導入意向はいずれも20%前後)。全業種平均の電子契約普及率74%(JIPDEC調査)が引用されることがありますが、これは業種横断の参考値であり不動産業界固有の数値ではありません。

個人経営の不動産屋と大手・法人では何が違いますか

宅建業者の8割超が従業者3名以内という零細な事業構造の中、街の不動産屋では社長が宅建士・営業・事務を1人で兼ねる体制も珍しくありません。IT重説・電子契約などのDX投資は大手仲介やフランチャイズ本部が先行して導入するケースが多く、中小事業者は本部やREINS(不動産流通標準情報システム)に乗る形での間接的な対応にとどまりやすい傾向があります。

不動産業の倒産・休廃業は増えているのですか

東京商工リサーチによると2024年の不動産業倒産件数は280件で前年比2.7%減とやや減少傾向にある一方、帝国データバンクによると2024年の休廃業・解散件数は1,867件で前年比2.7%増と増加基調が続いています。倒産は減っても休廃業・解散が増えているという点は、後継者不在を背景としたM&Aによる業界再編が進んでいることを示唆しています。

まとめ

不動産業の経営課題は、①人手不足と宅建士等有資格者の確保難②IT重説・電子契約のDX進捗と遅れている領域③空き家・既存住宅流通の停滞④建築費・地価高騰と金利変動の影響⑤中小仲介業者の廃業・後継者不足とM&A⑥コンプライアンス強化への対応負担という6パターンに整理すると、公開情報から当たりをつけやすくなります。宅建業者数は11年連続で増加している一方、その8割超は従業者3名以内の零細事業者であるという構造の上に、制度先行のDXギャップや空き家・既存住宅流通の停滞、建築費・金利変動といった外部環境の変化が重なっているのが実態です。個社の状況を決めつけず、経営形態や免許情報、決算情報といった一次情報で仮説を検証しながら商談準備を進めることが、決裁者に届く提案につながります。